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触れられるたび、月は満ちる。 神であることは、拒めないということだった。  作者: Carrie
東月編

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第14話 逃げ場のない庭

朝の光で目が覚めた。


薄いカーテン越しに、

天窓から柔らかな白が落ちてくる。


――朝だ。


身体は、驚くほど軽い。

筋肉痛も、倦怠感もない。


なのに、

頭の奥が、微妙に重たい。


昨日のことを思い返そうとして、

途中でやめた。


回数。


……六回?

七回?


途中から、数えるのを放棄した気がする。

というより、頭が拒否した。


過去最多だ。

間違いなく。


「……これ、十回超える前に紋章戻るよね」


横を見ると、

ユエリはまだ眠っている。


寝顔は無防備で、

昨日あれだけの勢いだったとは思えない。


――いや。


この月の神、

国のためというより。


「……初めての刺激に狂った高校生だな」


小さく呟いて、

すぐに自分でツッコミを入れる。


実際、そのくらいの年齢か。

この世界では成人だけど。


「でも、こっちはそんな年齢じゃないんだよな……」


体力的には問題ない。

むしろ、調子はいい。


ただ。


汗をかく。

服を着直す。

呼吸を整える。


そういう細かいことが、

地味に、面倒だ。


それと――

休息。


一人になる時間。


数時間でいい。

ほんの少しでいいから。


「……今なら、いけるかも」


ユエリは、まだ熟睡している。


そっと寝台を抜け出し、

上着を羽織る。


よし。


外に出よう。


庭園へ。



この世界に、時計はない。


太陽の国だけは、

太陽そのものが時間になる。


今の位置なら……

朝七時くらいだろうか。


適当だけど。


庭に出ると、

空気がひんやりしていて気持ちいい。


よし。

ふらふらしよう。


できるだけ、宮から離れて。


庭園とはいえ、

さすがに限界はあるだろう。


一周すれば、

一時間くらいは稼げるはず。


元々、一人の時間を大切にするタイプだ。


「……ちょっと、きついよな」


自分に言い聞かせるように呟いて、

歩き出した。


特に目的はない。

気になった方向へ、ただ進む。


しばらく歩いて、

ふと振り返る。


宮の上に立つ、

塔のような建物。


ミラの上に立つそれは、

どこからでも見える目印だ。


あれが見える限り、

迷子にはならない。


だから、

安心して歩ける。


……はずだった。


二十分。

三十分。


まだ、終わりが見えない。


「……え?」


庭園、広すぎない?


さらに歩く。


四十分ほど経ったあたりで、

ようやく、不安が頭をもたげた。


「……これ、帰りどうするんだっけ」


来た道を、

同じだけ戻る。


その事実に、

今さら気づく。


「……いや、無理でしょ」


くるりと方向を変え、

引き返す。


戻り道。


思った以上に、長い。


三十分以上歩いて、

ようやく宮が近づいてきた。


「……疲れた」


汗が滲む。


帰ったら、風呂だな。

そんなことをぼんやり考えながら、

扉を開けた。


その瞬間。


――ドドドドドッ!


床が揺れる勢いで、

足音が迫ってきた。


「ひっ……」


次の瞬間、

ユエリが飛び込んできた。


「どこに行ってたんですか!」


泣きそうな顔。


いや、

半分、泣いている。


「いなくなってて……

 もう戻らないのかと……!」


「ちょ、落ち着いて」


肩を掴まれ、

必死に訴えられる。


「庭を散歩してただけ」


「……本当に?」


「本当に」


なんとか宥めるが、

不安は消えないらしい。


「……残りの滞在期間、

 必ず目の届く範囲で行動してください」


「え」


「約束です」


即決だった。


「……はいはい」


渋々頷くと、

ようやく表情が和らぐ。


「それと」


間を置かず、

続く言葉。


「これから、儀式です」


――ああ、そう来る。


そのあと、三回。


さらに、

風呂場で一回。


合計、四回。


終わったあと、

身体はやっぱり軽かった。


軽いけど。


「……逃げ場、ないな」


ぽつりと漏らした言葉を、

ユエリは聞かなかったふりをした。

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