表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
触れられるたび、月は満ちる。 神であることは、拒めないということだった。  作者: Carrie
西月編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/22

第9話 休息の場所で

午前中。

昼食にはまだ少し早い時間。


二度目の儀式を終えたあと、

陽奈は寝台に座ったまま、深く息を吐いた。


身体は、相変わらず軽い。

むしろ調子は上向いている。


けれど、

頭の奥がじわりと疲れている。


――少しでいいから、一人になりたい。


言葉にするほどでもない感情。

ただ、誰の視線もない場所が欲しかった。


白衡に告げることなく、

庭園へ出る。


前に来たことのある、

東屋。


石の床に腰を下ろすと、

風が静かに吹き抜けた。


さきほど寝台で聞いた、

西月の国の話を思い出す。


乾いた土地。

計算された水路。

無駄を嫌う暮らし。


そこから、

自然と前の世界へ思考が移る。


スマートフォン。

通知音。

指先ひとつで繋がっていた日常。


今も、

これが現実なのかどうか、判断はつかない。


夢だとしても、

覚める兆しはない。


比較してみても、

どちらが良いとも言い切れない。


ぼんやりと座っていると、

足音が聞こえた。


顔を上げると、

白衡が立っている。


見つかったことに、

小さく落胆する。


「……どうして、ここが」


「分かる」


短い答え。


「力の流れで」


感覚で把握しているらしい。


次の儀式を告げられるかと思ったが、

白衡はそうしなかった。


「戻って、食事を」


「今?」


「体調管理も、仕事のうちだ」


淡々とした口調。


合理的で、

それ以上でも以下でもない。


――なのに。


自分の態度に、

何かを感じ取っていたのかもしれない。


宮に戻り、

昼食をとる。


空腹は確かにあった。


食後、

白衡は風呂場へ向かった。


「露天が気に入った」


そう言い残して。


一時間ほど経っても、

戻ってこない。


少しだけ、不安になる。


様子を見に行くと、

白衡は普通に湯に浸かっていた。


昼間の光の中で見る姿に、

思った以上に気恥ずかしさを覚える。


引き返そうとすると、

声をかけられた。


「入らないのか」


断る理由も見つからず、

流れで湯に入る。


会話は、ない。


ただ、

ふと腕の紋章が目に入る。


色を確かめるように、

そっと触れる。


白衡は、特に反応を示さない。


撫でるように、

しばらく指を滑らせる。


「……そろそろ出る」


そう告げると、

白衡も立ち上がった。


脱衣所で服を整えていると、

背後から、静かに抱き寄せられる。


言葉はない。


それが合図だと、

もう理解していた。


三度目の儀式は、

短く、確実に行われた。


終わると、

陽奈は再び風呂へ戻る。


白衡は、別の方向へ歩いていった。


湯に身を沈めながら、

今日残っている回数を思う。


あと、二回。


それを考えただけで、

胸の奥が少し重くなった。


――明日は、どうなるのだろう。


答えは、

まだ、湯気の向こうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ