4、失敗するとか、まじ?
「それで、何をしていますの?」
「土を分けてるの」
「土で何を作りますの?」
「入る、浴槽だよ」
「よくわかりませんわね」
だよねー。私だって、本当にできるのか自信はない。
目指すは、陶器のお風呂。
できなかったら、土鍋のお風呂だ。
よく、少しいいところで、一人でのんびり浸かるのに重宝していたのが、陶器のお風呂だった。
作り方は、たぶんにはなるけれど、鍋などと一緒で土を分けて、使えるものだけを捏ね上げて成形する。
「いい感じじゃない?」
「さすがですわね」
魔法によって地面の土を分けている私を見て、ノノも感心する。
いつもなら適当ではあるが、こう少しでも自分の欲しいものを作るとなれば、真剣にもなる。
そうして、土をある程度わけたところでペタペタと形を作っていく。
「どういうものを作るのかしら?」
「えっと、こういう形」
私は浴槽の形を地面に書く。
ノノはそれを見るとここに水を溜めますのね……と小さな声でブツブツと言っていたと思っていたら、手で静止させられる。
「お待ちなさい」
「えー……急になにさあ」
「なにじゃありませんわ。このお風呂とやらはどうやって温めますの?」
「それは下から直火で……あ!」
ノノに言われて、私はあることに気付いた。
「気づきましたわね」
「う、うん。ノノを巻き込んでよかった」
「今、巻き込んだといいましたかしら?」
「ええ、言ってないよお?」
いつものようにからかったとはいえ、さすがはノノだった。
完全に頭から抜け落ちていたことに、素早く気づいてくれたのはさすがだった。
作ろうとしていたのは、地面に着いたままの浴槽で、これを作ってしまえば、どこから火を当てるのかわからなかった。
初歩的なミスになるところだった……
こういうところに気付いてくれるのは、さすがだね。
「ちょっと、何をしていますの?」
「頭を撫でてる」
「その手は洗いましたの?」
「ちょっと土はついてるかな」
「てええい!」
せっかく頭を撫でていたのに、ノノに思い切り手を弾かれる。
「ええ?なにい、痛いんだけど」
「痛いじゃありませんわ。絶対にわざとやってるでしょ、あなた!」
「そんなことないんだけどなー」
そうは言ってみたものの、これ以上余計なことをしていては、完成するはずの浴槽も完成しなくなってしまう。
「よし、じゃあこれで!」
私は書き直した簡単な図を見せると、二人で作っていく。
黙々と作業をしていると、二時間ほどでなんとか形になった。
「初めてにしては上出来じゃない?」
「そ、そうですわね」
ノノが思わず口ごもってしまうところからわかる通り、初めて作ったものというのは、本当に初めてのクオリティだった。
人が入れるような形にはしたし、さらにいえばつなぎ目もない。
これによって、中に水などを入れてもこぼれることはない。
後は……
「こうしてっと……」
「火をつけるのではないのかしら?」
「え?さすがにこのままじゃ全く固まってないからね。まずは乾燥させるよ」
「なるほどですわね」
少し大きな火を手の上に作り出すと、浴槽に近づける。
火の魔法によって少しずつ浴槽が乾燥していくのがわかる。
「時間はかかるけど、これしか手はないよね」
「全部終わりますの?」
「今日すぐには、難しいかもね。でも、できるはず……」
そう信じてやった結果……
「まあ、どんまいですわ」
「うう……私のお風呂計画が」
見事に失敗してしまった。
乾燥させようとしたものの、火を使って無理やりやりすぎたせいで急激な温度変化に耐えることができずに割れてしまったのだ。
「せめて、真っ二つに割れなかったら、まだ望があったのに……」
「そういうこともありますわ」
「くう……ノノに励まされるときがくるなんて」
そう言葉にしながらも、それなりに落ち込んでいた。
魔法が使えるようになったおかげで、少しは見えてきた快適な暮らしだというのに、うまくいかないものだ。
初めてなので、失敗は覚悟の上ではあったものの、実際にそうなってしまうと落ち込まずにはいられない。
一日が無駄になってしまったことで、少しイラっとしていた私は自室に入ると、布団にしている布に顔をうずめて叫ぶ。
「おい、転生か記憶をもったままなのかは知らないけど。私にもっと優しい世界にしやがれってんだ!」
いるかもわからない神に向かって怒りをぶつけると、少しは怒りも収まってきた。
そうなると、余計に今日の失敗というものが悔しくなってくる。
どうして成功しなかったのかを考えようとしたけれど、慣れないことの疲れというものは、体にはそれなりに負担になっていたのか、気づけば寝ていた。
「今日は大人しく、勉強をしますわよ」
「しょうがないなあ」
「しょうがないではありませんわよ」
「また、休みのときには手伝ってもらうからいいよおだ」
ノノとそんなことを話しながら、私たちは魔法の練習で村の手伝いをこなしていく。
そして、この日はある場所に向かうことになった。
村の中で唯一の鍋などの焼き物と呼ばれるものを作っている人の元へだ。
「おい、こっちじゃ」
「ノームさん。ごきげんよう」
「おっす」
「ノノは毎回丁寧。ビビは元気がいいのお」
ノームと呼ばれている男は、気さくに返事を返す。
年齢とすれば、四十後半くらいだろうが、優しい雰囲気はいつも通りだ。
いつものように挨拶をすれば豪快にノームは笑うが横では相変わらず、「またそんな挨拶をして、もう」とノノが呟くのが聞こえる。
「最近はよく活躍しておると聞いているからのお、今回はこれを頼もうかと思うての」
「これって、なに?」
「ああ、そうじゃな。これを儂らは土の箱と呼んでるのお」
土の箱と呼ばれるものは、前の記憶でも、少し見たことがある。
これは確か、陶器だったりを焼くために使う場所だ。
でも、どういうわけか火もついていない。
「これを直してもらおうかとの」
「どうやって直すの?」
「土を上から盛り上げるのじゃ」
「盛り上げる?」
「そうじゃ、土の箱はの、しっかりと密閉が必要なのじゃ。火を安定させるためにはのお」
「でも、土ならいっぱいあるんじゃないの?」
「そうじゃな、これも作るものと同じで、なんでもよいというわけではないからのお」
「それで、私の出番ってわけね」
「よろしく頼めるかのお」
「仕事だしね、任せてよ」
それに、この土がどんなものなのかがわかれば、次のお風呂作りに役立つからね。
ニマニマと口元が笑っている私を見て、ノノがため息をついたのは言うまでもかった。
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