2、あ、これって物理武器じゃないんだ
一日の仕事が終わった。
「づ、づがれだ……」
いつものように家でぐでっとするタイミングで指パッチンをする。
火が指に灯る。
あ、大丈夫。疲れてても魔法は発動できるんだ。
それにしても、疲れた。
「ビビ!ビビ!」
「あなた、消えました!」
「よかった。でも、こうなった以上は、村長の家に相談に行くしかない」
「あ、うん?」
「お、起きたのか!」
目が覚めると、心配そうな両親が顔を見つめている。
何がそんなに心配することがあるのだろうか?
そう考えた私は、家の中を見ると……黒くなっている場所があった。匂いからしても燃えていたんだろうなと考えたところで、一気に目が覚める。
もしかしなくても、これは私の魔法の不始末が原因だ。
火を指に灯したまま寝てしまったらしく、それが家の床を少し燃やしてしまったのだろうということは見てわかる。
不可抗力とはいえ……これが、寝たばこならぬ、寝魔法か……
思わずそんなバカな考えが頭をよぎったほどである。
とはいえ、さすがに心配そうに見つめる両親に嘘はつけない。
「ごめんなさい!」
「いいんだ、魔法が暴走したんだな……」
「昨日の時点で、村長に相談しなかったお母さんたちが悪いのよ」
「ああ、そうだな」
あっれー、おかしいね。寝魔法が原因だというのに、両親は私の魔法が暴走したことが原因だと思っているらしい。
そうだろう?
そんなことを言わんばかりの表情で両親に見つめられた私は、頷いてしまう。
「やっぱりそうだ」
「火は消えましたから、今から行ってください、あなた。お母さんは料理の用意をしておきます」
「そうだな」
寝ていたから時間に気付いていなかったけれど、すでに夕方になりつつある。
そんな中で父親に抱っこされながら村長の家まで連れていかれる私というのは、目立っていた。
多くない村なので余計になのかもしれない。
「村長!村長!」
「どうした?」
村の中では一番大きな家にたどり着くと、父親は家の扉をノックする。
すぐに気づいたようで、返事とともに家の扉が開く。
抱っこされたビビの存在を見た村長は驚きながらも、言う。
「もしかして、魔法のことか?」
「ええ、そうなんです。娘のビビが魔法を使えるようになりまして……どうして知っているのでしょうか?」
「わが娘から聞いてな」
言われて奥からノノが出てくる。
「お父様にはあたくしから、話をしておきました」
「では、その……ビビに魔法を教えてやってくれませんか?」
「いいだろう」
「ありがとうございます」
「では、明日から昼間の草引きではなく、ノノと勉強するがよい」
「わかりました。ありがとうございます」
村長の家から出た父親は、嬉しそうな笑顔を作っている。
その表情を見た私は、なんとなく照れくさくて顔をそらしてしまうのだった。
次の日から、朝の少しだけ草引きをするとノノが迎えにきた。
「さあ、行きますわよ」
「オッケー」
「オッケーではなく、はいですわ」
「はーい」
「あなたは本当に、もう!」
いつものように軽口をたたきながらも、ノノについていく。
でも、嬉しいのに変わりはない。
だって、草引きから解放されるから!そこだけは、魔法バンザイって感じだよね!
「今、よからぬことを考えませんでしたか?」
「そんなことないよー。ほら、勉強しにいくよ」
「まあいいですけど」
さすがは長年一緒にいるだけはあるなあ。私のことをよくわかってる。
でも、余計なことを言ってしまうとここからお説教というものが長くなってしまうことも私は知っていた。
草引きよりは意味があるのか、わからない勉強をしてみますか……
そうして、村長の家へと二人で戻ってきた。
魔法の本をノノは慣れた手つきで持つ。
「えー、重そう……」
「そうでしょうか?これくらいは、すぐ読めますわよ」
ノノが簡単に言ってしまうが、魔法が書かれている本は私が一度も経験したことがないほどの大きさだ。
大丈夫。魔法が書かれているなら、少しは興味がでるはず……
自分に言い聞かせながら、魔法で失敗してもいいようにと、家から少し離れた開いている場所へと二人はやってきた。
その間もノノが簡単に魔法の本をもっている。
「では、まずは読みますわよ」
「いや、今置いたときにドスンて音したよね」
「そうでしょうか?普通ですわよ」
「いつも持っているから感覚がマヒしてやがるな……」
「どうかなさいましたか?」
「べっつにー」
分厚い魔法の本を簡単に持てるくらいであれば、むしろ物理攻撃のほうが強いのでは?
そんなことを思ってしまったが、言うことはない。
まずは、魔法の本を読まないといけない。
そう考えて、私は読んでいく。
内容はこうだ。
魔法とは……魔法とは、世界に干渉する能力である。世界の理というものを理解することで、魔法は扱うことができる。そう、まずは自然と一体化することから始める。すると、世界にはいくつもの自然というものが……
「中二病か、こいつは!」
「ど、どうかしましたの?」
「えっと、つい……」
書かれている内容を読んだ私は、ツッコまないといけなかった。それほどまでに、内容というのは恥ずかしいものだったからだ。
さすがに物語の中の主人公というものに憧れた私でさえ、ここまで恥ずかしいことは書かない……はずだ。
そもそも、魔法を使うというのに、詠唱とかではなく、自然と一体化するというのはどういう意味だろうか?わけがわからない。
「そういえば、ビビは文字は」
「書けるし読めるよ、それくらいは、任せてよ」
「それならば、大丈夫ですわね。内容は理解したかしら?」
「恥ずかしいって思うくらいにはね」
「恥ずかしいですか……」
私の言葉を聞いたノノは考えこんでしまう。
ええ、こんな自然と一体化するとか、私からすれば恥ずかしいのに違うの?まあ、ノノは小さい子だから憧れる気持ちはわかるけど……恥ずかしい大人になるよ?
ノノにそのことを言いたいものの、さすがに言うことはできない。
なんでって?私が過去にそう思っていたことがバレてしまうからだよ。
あー、私だってね。昔は恥ずかしいことも考えてたよ。でも、今はちゃんとしてるんだよ。
どう伝えたら、この考えが恥ずかしいものになるのかを教えられるのか、それを考えていたが、良い言葉がみつからない。
「何か言いたいですの?」
「ナンニモナイヨ」
「どうして抑揚がない言い方ですのよ……」
ノノにいつものように詰め寄られるが、顔をそらす。
「まあ、いいですわ」
諦めてくれたらしい。
よかったと思っていると、ノノは右手を前に出す。
「何をしてんの?」
「あたくしの魔法を見せようと思いまして」
「ええー、見せてくれんの、楽しみ」
「言い方は気に入りませんが、いいでしょう。見せてあげますわ」
ノノはそう宣言すると、集中している。
すると、地面からゆっくりと水が溢れ出てくると、ノノの手の上へと集まってくる。
「おおー」
「どうです?これがあたくしが使える水魔法ですわよ」
うん、しょぼい。
本当にしょぼくない?大丈夫?
魔法が使える世界だよね。確かに、モンスターみたいな異世界にありがちな要素がないよ。でも、もう少しあるよね、こう格好いい感じの……
「これが魔法とか嫌なんだけど……」
思わず口に出てしまうほど、魔法というものに期待はできないのかもしれない。
分厚い本を見て、そう考えてしまうのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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