ドリームチェイサー
宗谷「なんでよ! 今日、会えるって言ったよね?」
彼「いや、だから、今日は仕事で。急に仕事で、今日は無理だって、さっきから説明しているだろ?」
宗谷「はぁ?あのねぇ私、私、楽しみにしていたんだからね? それに合わせて会社だって、仕事、切り上げて出て来たのに。」
彼「だから、さっきから言ってるだろ?どうしても抜けられない仕事なんだって。・・・・ああ、そうか。そっちはそんな、急に仕事が入る事がないんだよな?楽でいいよな?」
宗谷「どういう事? 私の仕事が楽みたいな事、言った?」
彼「大事な仕事なんだ、わかれよ?」
宗谷「私より大事な仕事なの? 舐めてんの?」
彼「・・・・仕事の方が大事に決まってるだろ? 大きな仕事なんだ。チャンスなんだ。お前だってガキじゃないんだから、わかれよ、それくらい!」
宗谷「私は、あなたの事を優先して、」
彼「優先しなくていいよ、別に」
宗谷「・・・・本気で言ってんの?」
彼「あれだよな? ナオん所は、そういう融通が利く会社でいいなぁ。羨ましいよ。」
宗谷「あのねぇ、私がどれだけ今日の為に、仕事、調整してきたか知ってる?知らないで言わないでよ!」
彼「ああ、いい。もう、いい。水掛け論だ。ああ、俺、もう、仕事に戻らないと。会議なんだ、資料つくらないと。」
宗谷「だから、話はまだ終わって」ガチャ「な・・・・・・・・・」
ピコン!ピコン!
『帰ったらラインいれる』『怒鳴ってごめん』
宗谷「・・・・・・・・・・・・・・・・」
瀬能「今日は、賞味期限切れの缶詰しか、もらえませんでしたぁ。」
皇「お前なぁ、それだけもらっておいて何、文句言ってんだよ。炊き出しでもらえるだけ、ありがたいと思えよ?」
瀬能「せめてカレーが。カレーが欲しかったです。・・・・カレーが食べたい。」
皇「サバか?サバ缶だろ? サバ缶でカレー作ってやるから。」
瀬能「本当ですか! やったぁ! ラッキー!」
宗谷「・・・・・・・・・・・・・」
瀬能「じゃぁ、じゃぁ、大根だけ、大根だけ買って帰ります。」
皇「なんでだよ?ブリじゃねぇんだよ、サバだって言ってんだろ?」
瀬能「なんか最近スーパーもケチで、衛生上とかなんとか言って、キャベツの外の皮、あれ、くれないんですよ。みんな、捨てていくあれ。大根の葉っぱもそうですし。」
皇「だから衛生上の問題だって言ってんだろ。お前みたいなバカが、捨ててあるキャベツの葉っぱ、もらっていって、腹、壊して、保健所から言われるの、スーパーの方だからな。」
瀬能「知らないですもん、そんなもん。」
宗谷「・・・・・・・・ああいう風にはなりたくない。」
宗谷「ただいまぁ。疲れたぁ。・・・・・・・・・・・・・・・」
ピ
シャー
ジャバジャバ
宗谷「・・・・ご飯つくるの面倒くさい、化粧落とすの面倒くさい、寝たい、寝たい、寝たい、」
シーッ
ガサゴソ、ガサゴソ
シャー
宗谷「お風呂はいるの面倒くさい、・・・・・・・・寝たい、寝たい、寝たい、」
ピ! ピピピ! ガーガーガーガーガー チン!
宗谷「・・・・・・・・・・」
ピコン!ピコン!
宗谷「・・・・・・」
ピコン!ピコン!ピコン!
ティリティリティリ~ン! ティティティリティリ~ン! ティリティティ・・・・・・・
ガチャ
彼「おい!なんでライン、返さないんだ? ふざけんなよ!」
宗谷「・・・・・・なんのよう?」
彼「あぁ? 帰ったら、連絡するってライン入れておいたよなぁ? 見てないのかよ?既読なってるけど?」
宗谷「・・・・・・・・・なんで私が、いちいちトモヤの都合で動かないといけないわけ?」
彼「いや、だから、今日の穴埋めを、」
宗谷「穴埋め? ・・・・・・・ふざけないでよ! 仕事の方が大事なんでしょ? 私の会社は楽なんでしょ?」
彼「だから、悪かったって、悪かった。悪かった。・・・・・悪かった。ああ? なんで、俺がお前に謝らなくちゃいけないんだよ?俺だって、今の今まで仕事して、メシも食ってないし、お前に先に謝ろうと思って、ラインしたのに、なんだ?なんだ、その態度は?」
宗谷「仕事してたのも、ご飯たべてないのも、トモヤの勝手でしょ? あ、あと、お前って言わないで? お前じゃないから。私、名前、あるから」
彼「あのなぁ、今、そういう話、してないだろ!」
宗谷「ああ、もう、面倒臭い。」
ガチャ
ピコン!ピコン!ピコン!
ティリティティリ! ティリティリティ~ン! ティリティリ~!・・・・・・・
ピコン!ピコン!ピコン!
宗谷「・・・・・・・洗濯するのも、面倒くさい。」
瀬多「・・・・・加賀さんは、生野菜、食べていますか?」
加賀「え? ああ。ああ。そうだね。」
瀬多「食べていないんですね。食べないと体に良くないですよ?」
加賀「ああ、そうだね。・・・・・分かってはいるんだけど。ついつい。ね。」
瀬多「じゃぁ、買いましょう。」
加賀「あ、でも、うち、ドレッシングとか無いから。・・・・ああ、マヨネーズ、ああ、あったかなぁ。」
瀬多「ドレッシングなら、別に、家にある調味料で作れますよ? お酒とミリンと、しょう油と、」
加賀「ああ、ごめん、ごめん、瀬多さん。ああ、それも家にないんだ。」
瀬多「え?」
加賀「いやいやいやいや、そんな、驚かなくても」
瀬多「あの、どうやって生活しているんですか?」
加賀「買った弁当食べたり、」
瀬多「分かりました。私が、何か、作ってあげます。」
加賀「あ、悪いよ、瀬多さん。」
宗谷「・・・・・・・・・・・・・・」
同僚「宗谷さん。宗谷さん。」
宗谷「はい。」
同僚「この前の、請求書。送っておいてくれた?」
宗谷「ああ、ええ、送っておきましたけど。」
同僚「まだ、先方。請求書が届いてないって言うんだ。あちらさんも、お金、動かせないから困っているって、言われちゃってさぁ。」
宗谷「私、ちゃんと、総務に送っておきましたけど?」
同僚「総務に確認とった?」
宗谷「取ってないですけど?」
同僚「困るよ? えぇ? もう、早急に請求書、欲しいって言われているんだから。」
宗谷「私はちゃんと・・・・」
同僚「ああ、ああ、もう、いいよ。あとは、俺、自分で、確認するから。」
宗谷「・・・・・・・・・・」
同僚「どうしたの?」
宗谷「請求書が、先方に、届いてないって。」
同僚「どうせ、総務で止まっているんでしょ? あそこ、ろくに、仕事しないから。」
宗谷「・・・・・・」
同僚「こっちに迷惑、かけないで欲しいわよね?」
宗谷「・・・・そうだけど。」
同僚「蒼きさん。請求書だって、自分で出せばいいだけの話でしょ? こっちだってずっと内勤で座っているわけじゃないのに。女だからって、事務仕事、押し付けて。何様のつもり?」
宗谷「・・・・・・・・」
同僚「宗谷さんもハッキリ言ってやったら? 仕事手伝ってやって、文句、言われたら、私だったら、キレるわ」
宗谷「・・・・・・・あっ、」
同僚「なに?あ、ああ、もう、お昼、終わっちゃうじゃない。」
宗谷「・・・・・パン、買ってこようと思ってたのに。」
上司「宗谷さん、もう少し、時間、かかりそう?」
宗谷「あ、はい。すみません。」
上司「なるべく、勤務時間内で終わるように、がんばってね。」
宗谷「あ、はい。すみません。・・・・これが終わったら、帰りますので。」
上司「じゃよろしく。・・・・あと、先方へ、新商品へのプレゼン。簡単なのでいいから、それも頼むね。それじゃ。お疲れ様。」
宗谷「お疲れ様でした。・・・・・・・・・・・・・。」
ピンポーン
宗谷「はい?」
彼「・・・・俺」
宗谷「・・・・・・・」
ガチャ
宗谷「・・・・・・どう、ぞ。」
彼「あのさぁ、ラインくらい返してくれてもいいだろ?」
宗谷「べつに」
彼「別にって何だよ?」
宗谷「疲れてたから、後回しにしてただけ。」
彼「後回しって何だよ? 既読ついてたし。お前さぁ、自分だけ疲れていると思ってない?俺だって疲れてて。でもお前にラインしてたんだぞ?」
宗谷「・・・・・あ、そう。だから?」
彼「なんだよ、それ?」
宗谷「ちょ、ちょっと、・・・・・ちょっと待って、待ってよ、・・・・・待ってったら。」
彼「なんだよ?」
宗谷「今日はダメ。」
彼「はぁ?」
宗谷「疲れてんの。分かるでしょ?」
彼「・・・・・・・」
宗谷「それに今、生理中だし。」
彼「・・・・・・ッ」
宗谷「何もないけど。コーヒーくらい飲む?」
彼「・・・・・・・いいや。今日は帰る。」
宗谷「え?」
彼「気分が萎えた。いや、今日は帰る。」
宗谷「・・・・・・・・・・」
ガチャ バタン
同僚「あつぅ~い こんな炎天下の日に、女に、外回りさせるかね?うちの会社は。」
宗谷「そうですね。」
同僚「日焼け止め、塗っても塗っても落ちて来るわ。ああ、次、行ったら、どこか涼もう。」
子供「じゃぁ、次は、ママがドロボー」
ママ「え?」
子供「私が、おまわりさん。」
ママ「もう帰ろう。もうお昼よ?帰って、ご飯、食べよう?」
子供「嫌だ、嫌だ、もう一回、ドロボー、捕まえるの!」
ママ「ご飯食べてから遊びましょう。もう、お外で遊ぶと、焼けちゃうから。ね?」
子供「嫌だ、嫌!」
ママ「もう」
同僚「・・・・・・・」
宗谷「・・・・・」
同僚「私、子供、苦手なのよ? 宗谷さんは?」
宗谷「え? ええ。まぁ。嫌いではないです。」
同僚「へぇ。・・・宗谷さん、子供、嫌いだと思ってた。」
宗谷「え? ちょ、え、何でですか?」
同僚「え、だって、ほら。あんまり他人に興味なさそうだし。ま、私は、子供なんて煩わしいだけ。産むのも育てるのも、女じゃない? 生まれりゃ生まれたで、こんな公園に連れてこなくちゃでしょ? 一人の方がよっぽども楽よ。」
宗谷「・・・・私は、早く、結婚したいな、とは思っていますけど」
同僚「え? ええええ? 意外。宗谷さん、結婚願望なんて無いと思ってた。」
宗谷「・・・・・・・・」
同僚「ほら、なんか、男、優先?って感じがするじゃない、宗谷さんって。悪い意味じゃなくて。」
宗谷「・・・・・・そうですか」
同僚「私、ハナっから家庭もつ気ないからアレだけど、宗谷さんは、そういう家庭の臭いがしないタイプじゃない?」
宗谷「・・・・・・」
同僚「なんて言うの?ほら。結婚するような子ってさぁ、やっぱり、どっか、家庭的だったりするじゃない? うまく言えないけど。宗谷さん、そういうの、感じないんだよね。あれだよ、悪い意味じゃなくて。」
宗谷「ええ、別に。まぁ、自分でもそれは感じている所もあるんで。」
同僚「・・・・ほら、お弁当でもさぁ、自分で作ってきたりする子・・・・私なんか面倒だからそういうの最初からコンビニで買っちゃうけど。そういうの出来る子、やっぱり、結婚はやいよね。男ってさぁ、そういう所も、見てたり、するから。」
宗谷「でも、理想だけ求められても困るんですけど。」
同僚「ああ、それは分かる。女がぜんぶ、料理とか洗濯とか、出来ると思ったら大間違いだよね。でも男って、女に、そういうの、求めて来るから。てめぇのママじゃねぇんだよって話。・・・・・ずっと何年も前から言われてる話だけどさ。永遠のテーマよ。」
宗谷「結婚ってアレですよね。そういうの妥協するか、家事、育児、完全に分業できる相手を探すか、どっちかですよね。」
同僚「まぁねぇ。結婚っていうのは完全に、女に不利だから。子供、産まないんなら別だけど、産むんなら、相手が家事出来ないと、生活が破綻するからね。子供と旦那の子守り、両方は出来ないわよ。・・・・・・まぁさぁ、私らの親の世代は、まだ、専業主婦が当然だった時代だから、それも良かったかも知れないけど、それも無理ねぇ。」
宗谷「・・・・・結婚はしたいけど、なんかそういうんじゃないんですよねぇ。」
同僚「会社でもさ、結婚した子いるけど、結婚するってなった途端、生々しい話になるのよね。向こうの家族とか、結納とかさ、お金の事、家の事、・・・・・どうして二人だけで楽しく暮らしたいだけなのに。おかしな話が湧いて出てくるのかしらねぇ。」
宗谷「・・・・・・・・私も、そう、思います。
そこで遊んでいる子供。・・・・・・・・怪我でもしたら、母親の所為にされるんでしょうね。」
同僚「・・・・・・・・・宗谷さん?」
宗谷「いえ、何でもないです。谷口さん。次の営業先。行きましょう。行って、お昼にしましょう。」
同僚「ああ、ああ、うん。そうしましょう。」
ウィーン
店員「・・・・お客様、他のお客様もいるんで、スマホの音、下げてもらってもいいですか?」
野口「・・・・・・・」
店員「お客様?」
野口「・・・・・・聞こえてるよ!うるせぇなぁ、こっちは金、払って、メシ、食ってんだ、こっちの勝手だろ?」
宗谷「・・・・・」
谷口「なんかモメてる・・・・・どうする?違う所、行く?」
店員「だから迷惑だって、言ってるでしょ?」
野口「ああ゛?」
タムラマロ「・・・・・客と店員が揉めてる。こういうの、意外に、回るんだよね。」
ヒデヨシ「客が揉めてるのなんて、けっこう上がってきますよ?」
タムラマロ「店員も強気だよね?正義マン?」
店員「音、小さくしないんだったら、帰ってくれませんか? 迷惑なんで」
野口「あああああ? だからこっちの勝手だって言ってるだろぉおおおおおおお!」
店員「警察よびますよ?」
野口「呼んでみろよ?」
店員「・・・・・・・・・」
野口「・・・・・・・」
野口「どけぇ!邪魔だ!」
宗谷「え、」
ヒデヨシ「逃げた・・・・・」
店員「・・・・・・・え? あ! ああ、ああのう、その、迷惑な客が逃げました。 ええ。はい。逃げました。店の外に。ああ、あ、あ、はい。ああ、被害は特にないです。ええ。ああ、ああ、はい。」
ヒデヨシ「オジサン。逃げるなら、すぐに謝れば良かったのに。・・・・・動画、録れたんですか?」
タムラマロ「ああ。録れた、録れた。これで、1万くらい回ればいいんだけどなぁ。」
谷口「大丈夫だった、宗谷さん?」
宗谷「・・・・・・」
店員「なんなんだよ、あのクソ客はぁ! ああ、すみません、いらっしゃいませ。空いている、席、どうぞ?」
ヨシミツ「・・・・・・・」
彼「お前さぁ、ちょっと自意識過剰じゃないのか?」
宗谷「はぁ?」
彼「会社の同僚と、ちょっと飲みに行って何が悪いんだよ、頭、おかしいんじゃないのか?」
宗谷「私が言ってるのは、なんで、女と二人きりで行ったのか?って聞いてるのよ。」
彼「同僚に、男も女もないだろ。お前の会社、女だけなのかよ?」
宗谷「そういう事、言っているんじゃないじゃない! 女と二人だって事を言ってんのよ!」
彼「別に仕事の話してるんだから、関係ないだろ?」
宗谷「じゃぁ、なんで行くのよ! 行く方がおかしいでしょ!」
彼「雰囲気ってあるだろ?雰囲気って。仕事の流れで、そのまま、飲みに行くって。」
宗谷「仕事の話なら会社でだって出来るじゃない?なんでわざわざ飲みに行く必要があるの?」
彼「だから雰囲気だって言ってんだろ? 向こうにだって悪いし。俺が空気読めない奴みたいに思われても嫌だし。」
宗谷「だいたい、トモヤは、私に、男と二人っきりで遊びに行くなとか言っておいて、自分はそういう事、平気でするわけ? おかしいのは、トモヤの方でしょ?」
彼「何度も説明していだろ? なんにもないし、メシ、食って、帰って来ただけだし。それに、やましくないからお前に話、したんだろ?」
宗谷「たまたまそういう話になっただけじゃない? 聞かなかったら黙っていたくせに!」
彼「お前、本当、面倒臭い奴だな。」
宗谷「はぁ?」
彼「うちの会社でそんな奴いたら、仕事にならないし、シラケるし、二度と誘ってもらえなくなるわ!
だいたいなぁ、今日、仕事の相談してたのも俺の方からだし、相談しといて、自分から行かないとか、あり得ないだろ?
お前と違って、物凄い、頭のいい人なんだ、彼女は。」
宗谷「自分から誘ったんじゃない! なに、開き直ってんの? 頭、どうかしてるの?」
彼「お前はさぁ、ギャーギャー喚くだけ。 彼女は、仕事も出来るし、聞いたら何でも答えてくれるし。
俺も、お前なんかと一緒にいるんじゃなくて、ああいう、彼女と一緒に居たいって思うよ、わりと、まじで。」
宗谷「さっきから何言ってるか分かって言ってる?」
彼「お前さぁ、さっきから言ってるけど、俺、やましい所、ぜんぜんないし、疑われる方が心外なんだけど? それで何? 俺、責められてるし。
お前さぁ、いい加減にしろよ!」
宗谷「・・・・・・・トモヤと話す事、何もないわ。帰って。」
彼「ナオ、お前とは、話にならないな。・・・・・少し、頭、冷やした方がいいぞ?」
宗谷「・・・・・・・・・・・」
宗谷「どうして? どうして、どうして、上手くいかないの? 何一つ、上手くいかない。 どうして? どうして私だけ? どうして?」
女の子『・・・・・あなたは、私を幸せにしてくれた?』
男「あいつは、仕事の出来ない女だ」
女「あいつから、チャンスを奪ってやったわ」
女「あいつから、男を奪ってやった」
男「あいつは俺から自由を奪う。顔を見りゃぁギャーギャー、ギャーギャー、うるさいだけ。」
女「ちょっとスキを見せれば、男なんてすぐ尻尾を振る。」
女の子『私、結婚して、お嫁さんになりたいの。』
男「女なんて、メシつくって、洗濯して、家のことだけやってればいいんだよ」
女「馬鹿な男ほど、学歴にコンプレックス持って、自分より優れた学校を出た女に、露骨に嫌な態度を示す。本当、馬鹿みたい。」
男「女なんか、抱きたい時に抱けりゃぁそれでいいんだよ。」
女「子供なんか邪魔なだけ。産んで虐待するより、最初から産まない方が、お互いの為にいいわ」
女の子『大きくなったら、保育園の先生になるの。保育園の先生はみんな優しいから好き。だから保育園の先生になるの。』
先生「今の成績だと、志望校は難しいぞ。もっと本気で勉強しないと。」
母親「県内にその資格とる学校がないの?」
父親「・・・・一人暮らしかぁ。させてやりたいけど、うぅうん。家から通える学校はないのか?」
先生「以上のメンバーがスタメンだ。スタメンは別途、試合に向けたミーティングを行う。では解散。」
女「あのさぁ聞いた、あの子、この前、産婦人科から出て来たって。見たって話、聞いた?」
母親「あんた、髪の毛、洗ったら、ちゃんと流しておきなさいよ? 髪、詰まっちゃうから。いい?」
女「分かりやすいよね。彼氏持ちは全員、浴衣だってさ。バカじゃない?」
女「ごめん、ナプキン持ってたら貸して?お願い。急に始まっちゃって。」
父親「遅くなる時は連絡しろって言ったよな? いくらアルバイトでも、一回くらい電話、出来るだろ?」
女「あああ、私も、彼氏ほしぃ~」
男「ああ、悪い。ごめん、頼んじゃって。宗谷さん、彼女と友達なんだろ? 一回、セッティングしてくれない?頼む!頼むよ。」
女「あの二人、別れたってぇ。まぁ、別れると思ってたけどね。」
男「お前って、体はエロいよな。」
女の子『友達いっぱい出来た?』
女の子『優しくて、かっこいい、恋人は出来た?』
女の子『お勉強はどう?』
女の子『パパとママは優しい?』
女の子『お嫁さんになれた?』
女の子『大きくて、お城みたいなお家に住んでる?』
女の子『お料理は得意?』
就職希望先「今回はご縁がなかったようで。あなたのこれからのご活躍を期待しております。」
彼氏「今回はご縁がなかったようで。あなたのこれからのご活躍を期待しております。」
女友達「今回はご縁がなかったようで。あなたのこれからのご活躍を期待しております。」
父親「今回はご縁がなかったようで。あなたのこれからのご活躍を期待しております。」
母親「今回はご縁がなかったようで。あなたのこれからのご活躍を期待しております。」
女の子『今回はご縁がなかったようで。あなたのこれからのご活躍を期待しております。』
宗谷「・・・・・・・・・」
宗谷「なにも上手くいかない。なにひとつ、上手くいかない。みんな、みんな、私の足をひっぱる。私の邪魔をする。だから私だけ幸せになれない。
私は幸せになりたいだけなのに。」
女の子『シンデレラは幸せになれたのかな?』
宗谷「なれる訳ないじゃない。お姫様なんてただのお飾りよ。いきなり一国のお姫様になったとしても、何の権限もない。王子の隣でニコニコしていればいいだけ。社交界は王族貴族の世界。一般市民のただの女が、そこで、戦えると思う?無理よ、無理。いずれ王子も愛想をつかすわ。無知で教養の無い女なんて、ただのお飾りよ。」
女の子『しらゆき姫は幸せになれたのかな?』
宗谷「なれる訳ないじゃない。顔がいいだけの女よ。顔だけで選ばれた女。だいたいその顔が原因で人から恨まれるなんて、顔が良いのも考えものよ。でもどうせ、歳をその自慢のお顔も台無し。その時、王子はどう思うのかしら?」
女の子『じゃぁ人魚姫は?かぐや姫は? おやゆび姫は?』
宗谷「みんなみんな不幸になるの。誰一人、幸せになれやしない。お姫様なんて幻想よ。結婚なんて幻想よ。・・・・・生まれてこなければ良かったのよ。」
宗谷「私は幸せになりたい。幸せになりたい。幸せになりたいだけなのに。」
宗谷「生まれた時は宝物のように扱ってくれた両親も、私がいると仕事が出来ないって言って、保育園に預けた。
残業があるとか、買い物があるとか言って、保育園に迎えに来るのは、だいたい、いつも最後。
私が熱を出しても、なかなか迎えに来なかった。
保育園の先生は遠回しに、両親の事を悪く言う。言葉の意味は分からなかったけど、たぶん、そう、言っていた。
制服に着替えるのが遅かったり、食べるのが遅かったりすると、すぐ、怒鳴なれた。
パパもママも休みの日はぐったりしていて、どこにも、遊びに連れて行ってくれなかった。
小学校は、男子女子、分け隔てなく接する、八方美人がチヤホヤされた。
大きい声の女子に引き込まれ、何時の間にか、仲良しグループに入れられていた。
誕生日会のプレゼントは、目立ち過ぎず地味過ぎず、そういうものを選んだ。
私の誕生日会は出来なかった。ママが家が狭いと言うし、パパは家に人を上げたくないと言う。たしかそんな理由からだった。
中学校は、表立って男子と会話すると他の女子の目の敵にされるから、最低限の接触だけで済ました。
そういう女子こそ、裏でコソコソ、男子と交際していた。
地味にテストで順位をつけられ、自分の頭の出来を再確認させられた。
生理がつらい。ニキビが痛い。
いくらテスト勉強をしたところで、成績は上がらない。自分の裁量を改めて知った。
高校は、入れた高校のレベルで、たかが知れているから、行ける大学も自ずと決まってくると、悟った。
知らないうちに人生のレールが敷かれて、その上を走っている事に気づかされた。
レールから脱線しようものなら、二度と、そこから這い上がれないだろうと恐怖した。
義務教育が終われば、その後は、自由だから、行きたい道に進めるように思われたが、親の資本力に左右される事を知った。
クレスメートの何人かは、恋人が出来たようだが、男子とろくにしゃべった事がない私には、そんな事は不可能だった。
何時の間にか冴えない女同士で固まっていた。それを友達とか仲間とか呼ぶには抵抗があった。
アルバイトをした。そして怒られた。人に頭をさげてまでお金を稼ぐ必要があるのかと疑問に思った。
学校の授業程度しか勉強していないから、頭が良くなりようがない。
予備校は費用が高く、親が素直に、出してくれなかった。
予備校に行ったところで、授業の内容がまるで、理解できなかった。
勉強しか取り柄がなさそうな地味な女に、彼氏がいて、心底、ヘドが出た。
相変わらず男子は、グラビアモデルを見ては、セックスがしたいとのたまわっていた。
女子は女子で、男性アイドルを見ては、興奮していた。男も女も猿ばかりだ。
自分が行ける大学は、学力ではなく、親の資本力で決まる事を、決定事項とされた。
高校を退学した同級生が、充実してそうな顔をしていて、無性に腹が立った。
生理がつらい。
ムダ毛の処理とか、時間がかかる上にたまに切ると痛いし、素のままで生きられないのか疑問に思った。
養殖の女がモテた。天然の女はモテない。肌身に染みた。
大学の学費は、親からプレッシャーをかけられた。冗談でも退学は出来ないと思った。
留年できるだけの資本力が親にないから、死ぬ気で、勉強をした。
日本は学校の入学より、卒業に重きを置いているから、卒業しなかったら意味がない。例え東大京大でもだ。
いくら大学の学食が安いとはいえ、毎日、そこでご飯を食べていれば、破産してしまう。
学部の先生は、点数をつけるだけで、学生の就職活動にまるで興味がない。
就職先は、大学が斡旋してくれるのかと思えば、自分で見つけなければならない。アルバイト情報誌と変わらない。
コネも何もなければ、アルバイト探しと何も変わらない。
大学の授業より、就職活動が優先されるのは当然だと思った。
冴えない私に、冴えない男が、話しかけてきた。冴えないなりに優しかった。
女慣れした男は、私には、近づいて来ない。
絵本に出てくる物語の王子様と出会う事は叶わなかった。自分の顔を鏡で見れば、それに釣りあう、どこか顔のぼやけた男と付き合うようになった。
それは結局、合わせ鏡で、自分自身なのだと思った。
男と女の交際なんて、我慢比べだ。本音を言えば喧嘩になる。喧嘩になればこの関係は終わる。
他人は私を理解できないし、私も他人を理解できない。また、私は私を理解できない。
人を好きになった事がないからその感情が分からない。
頭を撫でられたり、キスをされたりすることが、愛されているという事なのだろうか?
愛してるとか、好きとか、言われた事がないから、どういう気持ちなのか到底分からない。
だから、幸せが分からない。
幸せがどんなものなのか、分からないから、探しようがない。
追いかけたくても、分からないから、追いかけられない。
誰か、幸せを、教えて。
私に、幸せを、教えて。」
女の子『私は将来、幸せになっていますか?』
宗谷「幸せが分からないんだから、幸せになっているわけ、ないじゃない。」
瀬能「あ、どうも。こんばんは。」
宗谷「・・・・・・・」
瀬能「あのぉ、ゴミ捨ては一応、朝から、八時までとなっておりまして。・・・・・・私が言うのもなんですけど、はい。」
宗谷「すみません。朝、会社で忙しくて、・・・・・・・こんな時間にすみません。」
瀬能「いや別にいいんです、別に。私も、ゴミの清掃当番、朝、起きれないから、こんな日付が変わる時間にやっているだけで。ま、この辺。ジジババが多いから、夜、寝ている人が多いんですけどね。その分、朝に早いっていうか。」
宗谷「ああ。」
瀬能「じゃ、どうぞ。置いておいて下さい。」
宗谷「じゃ、すみません。よろしくお願いします。」
瀬能「あ」
宗谷「 」
瀬能「あ、あ、あ、あああああ、あの、お姉さん、ちょっと。」
宗谷「はい?」
瀬能「あの、これ。サランラップの芯。これ、燃えるゴミで。燃えなくないんで、燃えるゴミの日に、出してもらっても、よろしいですか?」
宗谷「・・・・・えぇ?」
瀬能「ですから、サランラップの芯は、紙なので、燃えるゴミなんです。」
宗谷「知らないですけど」
瀬能「我が自治会ではそういう風に決まっておりまして。ゴミ出しのしおりにも、ちゃんと、書いてありますから。・・・・・時間は、穏便に済ますとしても、分別はしっかりやってもらわないと。」
宗谷「・・・・・・・なにか困るんですか? サランラップの芯が燃えないゴミの日に出すと何か困るんですか?」
瀬能「いや、あの、そういう話じゃなくて、ですね。あの、ルールで。ゴミ出しのルールで決まっている事ですから。」
宗谷「なんなんですか!あなた! 人のゴミを勝手に見てぇ!」
瀬能「いや、あの、ちょっと。ちょっと声が大きい。声が大きい、今、夜ですから。トーン、抑えて・・・・・」
宗谷「別にあなたが困る話じゃないでしょう?サランラップの芯くらいでぇ! なに、いきがってるんですか?」
瀬能「分別のルールぐらい守りましょ、って話をしているだけで。」
宗谷「ルール、ルール、うるさいわねぇ! はぁぁぁああ? 困らないルールなんだから好きに捨てさせなさいよぉおおおおおおおおお!」
ワン! ワンワン! ウゥゥゥゥゥゥウ! ワンワン!
宗谷「ルール、ルール、うるさい、うるさい!
ルール守って、会社に行って、トモヤと約束したら、仕事がんばって、時間で終わらせたのに。
ルール守ってるの、私の方なのに。
トモヤは約束を守らない。
会社の同僚は、他部署のミスを私の所為にする。
トモヤは他の女に浮気する。
女は、トモヤに色目を使う。
ルールを守っているのは私じゃない。
正しいのは私じゃない。
なのに、
ちょっと仕事が遅れてただけで、残業をするなと言う。
ちょっとゴミの分別を間違えただけで、それを持って帰れと言う。
おかしいじゃない。
ルールを守っているのに、少しだけ、遅れたら、首を取ったように私を責める。
ルールを守っているのに、少しだけ、違えたら、人生を否定するように私を責める。
私が何をしたの?私が悪いの?
私だけルールを違えちゃいけないの?みんな、ルールを守らない人ばかりなのに。
どうして、私だけ? なぜ、私だけ?
おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、
私はただ、幸せになりたいだけなのに。
私はただ、幸せになりたいだけなのに。」
女の子『ねぇ? 私は幸せになれた?』
宗谷「なれるわけないじゃない!」
女の子『ねぇ? 私は幸せ?』
宗谷「幸せなわけ、ないじゃない!」
女の子『ねぇ? ねぇ? ねぇ?』
宗谷「うるさい! うるさい! うるさい! うるさい!」
女の子『ねぇ? 幸せになれないの?』
宗谷「あんたがろくでもなかったから、今の私が、幸せになれないのよ! みんな、みんな、みんな、あんたの所為よ!」
女の子『私の所為?』
宗谷「そうよ! あんたが失敗したから、今、幸せじゃないのよ! 私の所為にしないでよぉおおおぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉ!」
女の子『私の所為なんだ。私の所為で幸せになれないんだ。』
宗谷「そうだって言ってんでしょ!」
女の子『幸せになれないんじゃぁ、何のために、生きてるの? 生きている意味、あるの? 幸せになれないのに。』
宗谷「・・・・・・・・・・・・」
女の子『ねぇ?』
宗谷「・・・・やめてぇぇええ! やめてぇぇぇええ!」
女の子『ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇってばぁぁぁぁぁ』
・・・・・
火野「あんた、大変だったんだってぇ?」
瀬能「あれなんですよ、夜、ゴミ捨て場の掃除をやってたら、錯乱した女に、襲われました。」
火野「なんでまた夜にそんな事、やってんのよ? まぁ、無事で良かったけど。」
瀬能「自治会長さんにも言われました。当番をやってくれるのはありがたいけど、常識的な時間にやってくれって。」
火野「まぁ、そう、そうだわねぇ。」
瀬能「殴りかかられたんですけど、騒ぎを聞きつけた自治会長さんが、助けてくれて。」
皇「自治会長さんもおちおち寝てられねぇなぁ」
瀬能「いやぁまったくです。そのおかげで助かったんですけど。」
火野「その、女? 犯人の女? なんだったわけ?」
瀬能「近所の人、らしいんですけど。・・・・・・ノイローゼだか、ストレスだかで、家中、ゴミが散乱していたそうですよ。」
皇「お前んちと変わらねぇじゃねぇか。」
瀬能「いや、ちょっと待って下さい。これ、ゴミじゃないです。資産です。どこに何があるか、ちゃんと、私、把握しているんで、ゴミじゃありませんから。その、女の家は、・・・・・ちょっと違っていて、もう、悪臭が酷くて、ハエとかウジとか、ネズミとか、そういのがいて、とても、中に入れるような状況じゃなかったそうです。」
火野「うわぁぁ。えぇぇぇ?」
瀬能「血のかたまりがあって、死体かと思ったら、・・・・・ナプキンが無造作に捨てられていて、生臭くて、食べ物が腐った臭いをしていた、って自治会長さんが。」
皇「凄惨だなぁ。」
火野「なんなの、その人? 大丈夫なの?」
瀬能「一応、警察に保護されましたけど」
火野「保護なの? 逮捕じゃないの?」
瀬能「状況が状況だから、保護らしいです。」
皇「精神的な問題が出てくると、まぁ、そうなるわな。お前、良かったな。一歩間違えてれば、命にかかわってたぞ?」
瀬能「自治会長さんに命を救われました。」
皇「これに懲りて、決められた時間に、当番、するんだな。」
瀬能「ええ。次からはそうします。・・・・・たぶん。」
火野「あんた、・・・・絶対、守らないでしょ?」
・・・・・
女の子『幸せがどういうものか分からないから、幸せになれなかった。じゃぁ幸せが何なのか、分かれば、幸せになれるのね?
私は、お嫁さんになって、幸せになるの。お嫁さんになれば、幸せになれるの。
ねぇ? 幸せになれるのよ。』
宗谷「トモヤ・・・・トモヤ・・・・トモヤ・・・・・トモヤ、結婚しよう、トモヤ、結婚しよう、トモヤ、トモヤ、トモヤ、お嫁さんにして。トモヤ、トモヤ、トモヤ、トモヤ、結婚して。結婚しよう。お嫁さんにしてぇぇぇぇぇえ、トモヤ、トモヤ、トモヤ・・・・・・・・・・・・・・・・」
看護師「いない?」
遠野「・・・・・・え?ナオ?」
宗谷「ねぇ? 私は幸せ?」
※全編会話劇




