狂気の新人冒険者②◇換金所→
「はぁ......はぁ......はぁ..........はぁ...........」
どれほどの時間...魔物を殺し続けているのかわからない....
いつしか防御も回避もかなぐり捨てて、血眼になって相対する子鬼や頭犬鬼に短刀を振るっていた。
夥しい量の青い返り血を浴びながらも一切気にする素振りを見せず、一心不乱に殲滅することだけに囚われていたシノは自身の現状を顧みることもなく、それでもふとした拍子に魔核やドロップアイテムを回収すると地下迷宮を進み続けた。
まだだ....まだ行ける....
自分の限界は来ていない。
遭遇する魔物全てを狩って、狩って、狩って、狩って__十数匹を一度に相手取り殺し合えば、防御力のない衣服は容易く切り裂かれ、浅くはない引っかき傷を負った。全身のあちこちから赤い鮮血が零れ、滴り落ちていた。魔物の青いものと合わさり知らぬ間に全身体液でぐっしょり濡れていた。
....
地下迷宮の空気は容赦なく熱と体力を奪い、シノを蝕む。
合わせて、今日二度目の地下迷宮。前半でオークとの衝突。後半は捨て身の戦法で連戦に次ぐ連戦に、遂に精魂尽きかけていた。
裂かれたところが脈に合わせてズキズキ痛む..
手足は鉛のように重いし、目が霞む。
短刀を握っていることすらも億劫に感じてしまう....それでも魔物は立ちはだかる...
魔物が...魔物等が...ユスタリカさんを...
自らを奮い立たせると、ダンジョンの修復能力が追いつかないぐらいのスピードでシノは魔物を屠り続け__件の場所__ユスタリカと連携をとった死地に及ぶ直前に、魔核とドロップアイテムがパンパンに詰まっている巾着に気がついた。
「....。これ以上の成果は見込めない...帰ろう..」
短刀に付着した魔物の血を振り払うと、二刀を収めた。
項垂れトボトボと帰路につくシノの前に幸運にも魔物一匹現れることはなかった。
◇
眠気と疲労と出血で...フラフラフラフラ揺れ歩くシノは螺旋階段を登りきり地上へ出たことで、気持ちを入れ直し、なんとか立て直していた。
まだ日が昇らない時間帯、オルロスは街明かり__照明で照らされていた。
バケツいっぱいに入った水を頭から浴びたように、全身血濡れた僕は傍から見れば...見なくても異常に映るだろうし生臭いだろう...。それでも騒ぎになったりしないのは、時間が良かっただけに過ぎないのだろう。幸か不幸か人通りは、まばらでこちらに意識を向ける者はいなそうだ。
地下迷宮への入口を前に座りこむ門番さんも眠りこけていたから...誰にも見られていないはず...
「....」
こんな時間に風が吹けば、地下迷宮とはまた違う涼しさに身を震わせながら、少しだけ急ぎ足で換金所へ赴いた。
ギルド直営の換金所は24時間いつでも開いている。
ダンジョン遠征に行ったパーティーの帰還が夜間の可能性もあるからだ。
但し、夜間は美人なお姉さんではなく強面のマッチョがカウンターの向こうに待ち構えている。...セキュリティ面は万全ということだろう。
一応、あの人も...ギルド職員なのだろう...
少し...緊張してきた...
僕は血濡れた状態だが、規則は規則。ダンジョンでの成果はいの一番に報告が義務付けられている。だから...僕は悪くない...何も間違ってない...筈だ...
換金所に寄る前に、ふぅー...と気持ちを整えて、ゆっくり扉を開けた。
「夜分すみません、換金の方お願いします」
カランカランとドアベルが鳴り、男がゆっくり視線を向けた。
「ほぉ...こんな時間に珍しいお客さ__」
赤、青、紫に彩られた僕を出迎えた厳ついスキンヘッドはバーテンダーのような白黒の服に身を包んでいた。あまりにも窮屈そうに見えたシャツからはピン!ボタンが飛んでいた...
「あの...言いたいことはわかりますが....換金を」
「そんなことより...血まみれじゃーないか...」
「そんなことより...早く換金を...」
「そんなことより、血塗れじゃーないか!」
やかましい相手の相手をするのもだんだんと辛くなってきた僕は、腰元に結わえていた巾着を取り、ドシャ!っとカウンターに置いた。
「....お願いします」
「「.....」」
両者一歩も引かず睨み合うも、スキンヘッドは折れた。巾着に手を伸ばし紐を解き、中を見た。
「......。お前...これ全部一人で」
訝しげな視線に声のトーンが一際下がったが、僕は虚ろな目で頷いた。そろそろ...限界だ....
「....。うーん...これだけあると査定にはかなりの時間を要しそうだなぁ。....うーん...悪いが.....これでも飲んで、それからそこの奥で湯を浴びれるから浴びて待っててくれ。子鬼臭くて叶わん...」
コクリと頷く僕はスキンヘッドから手渡された飲み物を躊躇なく飲み干し、指さされた方へフラフラと進んだ。指示通りシャワーを浴びるもぼんやりしたまま、その後、置いてあったタオルを勝手に使い全身をくまなく拭いて、置いてあった衣服を自然に纏い、待合室の長椅子に勝手に横になって寝てしまった...
カランカランと鳴ったドアベルが、僕の目覚ましとなった。
「し..しまった!お金!」
ばっ!と身を起こすと毛布が捲れ、一枚の紙切れがひらひらと舞った。
『少年よ、体の傷は大方治ってるかい?そうかい、そうかいそれは良かった。私の配合したポーションの効き目はなかなかだろう?あー....急な仕事で早々に帰ってしまってすまない。君の大切なお金とドロップアイテムなら私が責任を持って懐で温めているから安心してくれ。ふっふっふ....君に益々興味が湧いた。今晩もここで落ち会おう。追伸__今日一日しっかり身体を休めるように....君にそれを言っても無駄な気もするが....それならせめて、くれぐれも死なないように』
神出鬼没なスキンヘッドより__そう締めくくられていた書き置きを衝動的にグシャリと鷲掴み、換金所を後にする。
カランカラン...
刺すような陽光がオルロスに朝の訪れを伝える中、僕は駆けて古宿を目指す。活気が出てきた街並みには目を向けず、耳を閉ざして大切な人が眠る場所へと急いだ。




