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泥虎の後悔◇狂気の新人冒険者

 『新人(ルーキー)、初めて降り立った地下迷宮(ダンジョン)はどうだ?』

 『....。仄暗くて...どこか冷たい印象を受けます__ただ、』


 オルロス地下大迷宮__第一層。


 昼夜問わず仄かな蒼光に包まれている。何の変哲もない岩と蒼光の元たる魔鉱石のみで組成された無機質な階層は洞窟のようで見る者に何処か冷た印象を与えた。


 実際、肌に伝わって来る外気が冷えているというのもあるのだろう。それでも頻繁に冒険者の往来のある一層は喧騒が絶えることも少なく、たかが一層に__冷たい印象を払拭できない内はまだまだ青臭い新人だとオルロスでは揶揄される。


 自分達が若輩の頃、惨めな思いをしてきたからこそ結成した泥虎(デイトラ)はダンジョン初心者にいち早くダンジョンに慣れて貰うための、差し詰め案内人と言ったところだろうか。新人の成長の一助を主な目的とする優良パーティは冒険者ギルド公認でもあるように自負もあった。


 主に一層で活動し新人の力量に合わせて助力し、時に静観し、また必要とあらば魔物を倒す、手伝いをした。新人に地下迷宮のイロハを教える活動のみに舵を切ってここ数年。金銭面では、魔核換金の成果は雀の涙程だったが、ギルドからそれなりの報酬を貰っていた為、不満を漏らす者は無かった。


 地下迷宮に憧れを抱き一括千金を夢見た若かりし頃....ある時、現実を悟った泥虎の面々は多くを望まなくなり、行き着いた現状が心地よかった。


 巣立った新人に感謝され、ギルド職員にも感謝される日々。何もかも順調で上手くいっていた。これまで一度の問題も起こることなく未来ある新人の背を押し続け、その中には若くして第三級冒険者まで至った者まであって鼻が高かった。


 更に意欲を掻き立てられ積極的に新人を受け入れ続け、今朝もまた才能の原石を見つけた。.....だがオーク(イレギュラー)を前に一撃で伏せた半人前を...ダンジョン初心者を見捨て...俺は...俺たちは自分の身可愛さに逃げ帰ってしまった....


 「....」


 せめてもの救いは、置き去りにした新人と荷物持ち(サポーター)はどうにか窮地を乗り越え、ギルドの呼びかけの下に集った冒険者達__即席討伐隊に保護され命に別状はないという。


 明日...アサシノ シノと素性の知れない荷物持ち(サポーター)を見かけたら、謝ろう。誠心誠意を持って謝罪しよう....


 エールが並々入った木製のジョッキ片手に、新人冒険者の希望に満ちた顔を思い出す、ガウラ=ダスマガス__泥虎のリーダーは決意した。だが、すぐに頭を振って払い除けると一気に煽った。


 ダン!と打ち鳴らす卓上には既に空ジョッキが複数。同じようにテーブルを囲む旧知の面々の前にもズラリと空のジョッキが無秩序に置かれていた。


 賑わいを見せる酒場は冒険を終えた冒険者達が集い、とにかく騒がしかった。外野とは正反対な辛気臭いパーティーメンバーを前にして、何時までもリーダーがこのままではいられないと終わりを告げる。


 「柄にもなく俺もお前達も飲み過ぎた。今日はお開きにしよう」


 手を打って促すと早々に席を立つガウラ、その袖を摘む者があった。


 「でも〜でも〜ガウラちゃ〜ん,@¥$#☆×$%」


 呂律の回らない、ミリア=ステットは卓に突っ伏したままぼんやりガウラを映し何かを訴えかけている。他の面々からの視線も同意で、堪らず音を上げた。


 「お前達の気持ちは分かるが、幸い死者が出たわけじゃない。明日あの二人を見つけ出し謝罪する、それでいいだろう」


 「ガウラちゃ〜ん!.....ZZZZ」


 「....。40近いおっさんにちゃん付けはよしてくれ。...アベット、ガルス。誰でもいい、ミリアを宿まで送り届けてやってくれ」


 二流冒険者達の集い、泥虎(デイトラ)は今日一日の反省会を終え、明日に備え、各々帰路へつく。


 ◇


 夜も深い時間帯。冒険者達が地下迷宮からこぞって姿を消す時間帯は束の間の平穏が訪れていた。


 冒険者の手から逃れた魔物は地べたに横たわり静かに寝息を立て身を休め。ダンジョンは狩られた分を補完するように、ビキッ...ビキッ...壁面が割れ産まれ出る小鬼(ゴブリン)は小さな産声を上げていた。


 今日は一層多くの魔物が狩られたからだろうか....ダンジョン壁面が罅割れ崩れる、ビキッビキッピキピキと合わせて不気味な耳障りな異形の産声が絶え間ない。この時間にして珍しい熱量は、ある種のイレギュラーでもあった。


 ダンジョンの法則と言ったか...


 瞬時にとはいかないがダンジョンは修復能力を有し元の状態に戻ろうとする。人知の及ばない謎の力が働き、戦闘の余波でダンジョンの地形が変わったとしても、軽度のものなら数日も経てば元通りになるように、ダンジョンは魔物が一定数に達するまで産み出し続けるという。


 迷宮都市オルロスは発足からダンジョンと共にあり続けているが原因究明は出来ていないとか....そもそもダンジョンが何なのかも分かっていないという。


 ただ、分かっていることは、階層を移るごとに内観が様変わりするダンジョンは深度が深くなればなるほど広大に、複雑になってゆく。より凶悪で狡猾な魔物が蔓延っているという。人類最低到達階層は29、未だ最深部へは至っていないとされている。


 ダンジョン最前線なんて夢のまた夢。

 少なくとも駆け出しの僕には関係ない...


 地上と地下迷宮を繋ぐ長い螺旋階段を下りる一人の足音。

 ダンジョンが奏でる異音と子鬼(ゴブリン)の産声を聞きながら、僕は深呼吸をしていた。

 

 オルロス地下大迷宮__一層に降り立った、黒髪の新人冒険者、アサシノ シノは殺気を覚え、腰元から()()()()()を抜き放った。


 ◇


 「_クソ...クソ...クソ..クソ.クソクソクソクソ__」

 

 殺伐とした空間に突如鳴り響くは少年の慌ただしい跫音(きょうおん)、慟哭。

 怒りのまま振るわれた短刀に切り裂かれ、穿たれた 小鬼(ゴブリン)の呻き声。

 「ギャアアアア!アアアァァァ...ァ...」

 ワナワナと身を捩った魔物が絶命すると手応えが失せ、サァーッ...と塵と化す。

 飛びかかって来る次なるゴブリンにはカウンターを当て、喉を掻っ捌くと、また次に応戦する。

 斬って斬って斬って斬って、腕を爪で咲かれて、斬って斬って、頬を裂かれて、斬って斬って__

 

 「__はぁ...はぁ...はぁ...はぁ...」


 __十数匹の群れを仕留め終える頃に漸く聞こえた。

 カラン...カラン、カランと地面を跳ねた小物の魔核と転がってる魔核を映し、口を真一文字に結んで我に返っていた。

 

 魔物と呼称される異形の生物から取れる〈魔核〉。魔核と呼ばれるエネルギー資源を求め、僕達冒険者は地下迷宮(ダンジョン)に潜り魔物を狩る。持ち帰った魔核はギルド直営の換金所でお金に変えてもらえる。魔核の使い道はいろいろあるらしいが、この世界に来たばかりの僕は何一つ知らない。ただ、換金所に全ての成果を提出しなかった場合、重い罰則があるということは知らされている。


 「あ....」


 稀に倒した魔物からドロップする牙や爪も提出は義務付けられているが、売る売らないの判断は冒険者に委ねられる。今倒したゴブリンの魔核よりもゴブリンが落とした爪や牙の方が価値高いことから、冒険者にはドロップアイテムの方が好まれる。


 ドロップアイテムは武器や防具をはじめその他アイテムに加工出来るものもあるため、困窮していない限り売らない者、パーティーも多いという。


 僕は黙々と蒼色の〈ゴブリンの魔核〉14個と〈ゴブリンの爪〉、〈ゴブリンの牙〉を拾い上げ、腰元の巾着に入れた。少し歩くだけでジャラジャラジャラジャラ鬱陶しい...まるで魔物呼びの鈴だ...


 「「「「「ギャア!ギャギャ!」」」」」


 反響する音に振り返れば、ゴブリンどもの姿はまだない。まるで...今日の出来事を繰り返しているようだった..


 「はぁ...」


 思わぬドロップアイテム(成果)で懐が少し潤ったのは嬉しいが...全然足りない...まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ__


 「今は無理でも...お前らみんな__ぶっ殺してやるからな?...覚悟しろよ、オーク(イレギュラー)...」


 アサシノ シノは目前の子鬼(ゴブリン)を睨み付け__正確には先の二層__そのまた下層に潜るオーク(イレギュラー)を想い_渾身の力で地を蹴って、両の手に握られた短刀を振り上げた。


 でも今は...ありったけの魔核とドロップアイテムをよこしやがれ子鬼共!

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