7話『親子瓜二つ』
ヒソヒソと声がする。
新学期の春。ようやく俺は長い入院期間を終えて退院し、また登校出来るようになった。
もし退院の時期が今よりズレていたら、クラスメート同士の関わり方やグループが完成されて纏まりが出来た場所に横入りする事になる。俺は出来上がったグループに馴染むのとか、そういうのは得意じゃないからこの時期に復帰出来て本当に良かったと思った。
今まで関わってこなかった人達が入り交じった新学期初日。そこにしれっと"女子児童"として紛れ込み、男の頃の俺を知らない人達を中心に話す相手を作っていく。そうすればまあ、後から正体がバレてもどうにかなると思っていたから。
甘かった。
小学校に入ってずっと男として生きてきたのに途中で急に女になった。そんな奴が自然に溶け込めるわけがなかった。
『いつの間にか学校復帰した子が、男子から女子に変わっている』
登校復帰して1週間も経たないうちにそんな噂がクラスに出回った。そしていつの間にやらその噂の内容が『瑠璃川理仁が女になってる』というものに変わり、俺は悪い方での注目の的になったり
犯人はすぐに分かった。同じクラスになったことがある女子連中だ。
髪が伸びて、胸も少しだけ膨らんで、女子の服を着ている今の俺が知り合いに話しかけてもややこしい事になるに決まってる。だから今まで同じクラスだった人達には近寄らず、初対面の男女に『理子』って名前呼びさせて別人として馴染もうと頑張っていたのに。結局何の意味もなかった。
「あいつ生意気だな〜って思ってたけど瑠璃川なんだ。なんで女になってるの?」
「今までは男のフリしてたんでしょ。男好きなんだよ」
「だよね〜。私らを無視したのだってどうせそういう理由なんだし! 嫌な奴」
ヒソヒソ話す声に耳を澄ますと大体こういうセリフが聞こえてくる。俺は男好きって事にされてるらしい。男好きの性悪女、男と女で態度を変える嫌な女の子なんだって。
おかしな話だ。確かに一部の相手、体が男だった頃に話した事ある人の事は避けてたけど、それは女子に限った話じゃなく男子の事も避けてたのに。
まあ、その陰口が正しいかどうかなんてそいつらからしたらどうでもよくて、ただ単に俺から無視されたのがムカついたから悪いように言ってるだけなんだろうけど。
意外とみんなプライドが高いんだなあって思う。別に理由分からないままいきなり無視されたとしてもそこまで気にしなくてもいいのにって。
多くの人から無視されるのは寂しいだろうけど、誰か1人に無視されるくらいどうでもよくない?
「ていうかなにあいつ、急に髪なんか伸ばし始めて」
「前はずっと短かったのにね。胸を隠せなくなったから開き直ったんだろうね」
「スカートなんか履いちゃってさ。ずーっと男のフリしてたくせに。似合ってなーい」
「自分のこと可愛いと思って調子乗ってるのかなー? なーんか気持ち悪ーい」
「それなー」
無視されてムカついたのならほっとけばいいのに、なんで毎日毎日同じような陰口を聴こえるように叩くのか分からない。流石に飽きて反応返すのやめたら舌打ちされるし。
女子が俺の噂を流し出してから一気にクラス全体が俺を避ける空気になった。
病気のせいで男から女になった、そう正直に話せばもしかしたらこの状況も変わるかもしれない。でも今更になってみんなに話を聞いてもらう時間を作るのもバカバカしいし、直接的な酷い目に遭ってるわけでもないから説明する気も起きない。
こういうのって普通は病院か親から学校側に説明が行くものなんだろうけど、母親から『余計な事言っちゃダメだよ』って言われてるし、そこまで言うってことは学校側にも説明は行ってないんだろうな。
学校側も俺の事はきっと"男のフリをしていた女"と思ってるに違いないと。そりゃ担任も干渉してこないわ、明らかに俺が異常側なんだもん。はあ……しんどい。
「てかさてかさっ、昔あいつ男子と一緒に着替えてたりしてたよね。それってやばくない?」
「プールの時も水着も男物を着てたよね」
「うわ変態じゃんきもちわるっ!」
「男好きっていうか変態なんだ。そういえば授業参観の時とかに瑠璃川の親が来てるの見たことないよね?」
「見たことなーい。……あ、そういえば二年生の頃に親が離婚したんじゃなかったっけ。お父さんが出てったみたいな」
「そうなんだ。もしかして瑠璃川のお母さんってそういう仕事の人なんじゃない? 風俗とか」
「じゃあ瑠璃川の顔って整形なんじゃない? 風俗嬢って整形するじゃん!」
「絶対そうだ、うわー子供なのに整形とかだっさ。どんだけ必死なんだってのー。平気な顔して男に胸見せてたのも遺伝してるし、まっじで気持ち悪!」
「風俗してるから授業参観来れないんだ〜」
「さみし〜」
「きもー」
めちゃくちゃ言ってる。勝手に母親の事も風俗嬢扱いされてるし。
俺が文句を言った所で「なんの事〜?」「別にあんたの話なんかしてないし。てか人の話盗み聞くとかきもちわるっ」って返されるに決まってる。そう返せるようにわざわざ距離取って、微妙にコソコソ話じゃない大きさの声で陰口を言い合ってるんだもんな。
……俺も慎也と一緒に他人をいじめてたことあるから気持ちは分かるかもって思ってたんだけど、あんまり分からないや。他の人の気持ちは。
毎日決まった陰口を叩くのって楽しいのかな。どうせならもっと色んな種類の陰口を叩いた方が新鮮なリアクションも取れそうなのに。
それに、実際に見たものを陰口として言うなら気持ちも乗って楽しくなるのは分かるんだけど、俺に向けて言ってるのって大体が人から聞いた話や昔の話から出た妄想とか決めつけなんだよな。
折角悪口を言うなら、ちゃんと事実で悪口を言った方が楽しくない? 馬鹿じゃない人に馬鹿って言ったり、不細工じゃない人に不細工って言っても腹から笑えることはないじゃん。
コナンの話とかよくみんなしてるけど、本当にコナン好きなのかな。
事実か分からないことで陰口叩くのって、コナン風に言えば犯行の答え合わせをされないまま犯人も分からず迷宮入りするみたいなもんでしょ? モヤモヤするじゃんそんなの。
「うわっ、今こっち見た!」
「ブサイクに見られるとか最悪ー」
「小学生のくせにブラなんかつけてるし。今まで男のフリしてたくせに、嫌味で見せつけてきてさー」
「ねー。わざと透けさせて見せつけてくるのまじ死ねって感じー」
「事故にでも遭って死なないかなーあのブス豚」
……透けるのかよ、これ。俺だって着けたくないってこんなの。でも着けろって言われて嫌だって母親に言えるわけもないし、しょうがないじゃん。
なんだかなぁ。ここまで色んな人から陰口を叩かれた事が今までなかったせいで、我慢しなきゃなのに、イライラする。何も言えないってこんなに辛いんだ。
今の所、俺に陰口を叩いてめちゃくちゃ嫌ってきてるのは女子だけだ。男子は陰口を叩く奴らもいるにはいるけど全員じゃない。
殴られたり物を壊されたりしたら流石にやり返したくもなるけど、陰口に関しては実際ムカつくだけで困ることは無いんだし無視しておくのが1番良い。って頭では分かってるのに、拳に力が入る。
こんなの初めての感覚だ。こういう立場自体初めての経験だから当たり前なんだろうけど。
「……」
「お。今一瞬瑠璃川がお前のこと見てたぜ、慎也」
「……まじ?」
この気持ちに素直に従うなら俺も女子に対して『黙ってろブス!』って言ってやりたい所なんだけど、困った事に慎也が同じクラスにいるから目立つようなことはしたくない。
復帰した後に注意深く慎也を観察して分かった。やっぱり慎也は女を嫌ってる、結構しっかり。
最初は様子見して、頃合いを見て話しかけに行こうと思ったのに。女自体を嫌ってる慎也に関わりに行ったら逆に男子連中まで敵に回しそうだから話しかけられない。
……学校にいる時くらい、心穏やかに過ごしたいってのに。なんでここでも我慢を強いられなきゃいけないんだろう。
このまま座っていたら自分の机に拳をぶつけたくなる。なんか投げたくなる。それくらい気持ちが落ち着かない。
とりあえず今は冷静になるために教室を離れよう。そう思って勢いよく立ち上がる。
「わっ!?」
立ち上がった瞬間斜め前の方に居た奴に大声を出された。びっくりしてよろける。
下を向いてたから気付かなかったが、卜部が偶然俺の席の横を通りがかっていたらしい。
脅かされた恨みで睨みつけてやろうとしたら、先に卜部が開きかけた口を閉じて気まずそうに視線を横にズラしてきた。
「卜部?」
「……」
名前を呼んだのに、絶対聞こえる距離なのに、無視された。
……。
お前もそっち側なんだ? お前だって現在進行形でいじめられてる癖に? 何様のつもりだよ、俺の方が下だって言いたいのかよ。
目が合ってないからこっちの表情なんて卜部からは見えないだろう、そう分かった上で強く睨みつけてやる。でも何も言うことができず、俺は変な気持ちを抱いたまま自分の足元を見た。
よろけた拍子に踏み、壊してしまったペンに気が付く。
俺の赤ペンだ。いつの間に床に落としてたんだろう、でも丁度いい。
俺は割れたボールペンを拾いわざと手にインクをつけて、それを卜部に見せた。
「お前のせいで壊れ」
「もしかして今ので怪我した!?」
「は?」
卜部のせいで壊れたって因縁つけてやろうと思ったら、卜部は予想外のリアクションを取り始めた。
俺の事を無視したくせに、今になって慌てた様子で勝手に俺の手首を掴み、手のひらを見てこようとしてくる。
「ごめん瑠璃川! 俺絆創膏とか持ってなくて」
「いや違っ、ていうか痛いから!」
卜部の手を乱暴に払う。その時後ろから「瑠璃川」と俺の名を呼ぶ別の声が近付いてきてるのに気付いた。
声で分かる、近付いてきてるのは慎也だ。
今の俺は女だし、卜部は慎也にいじめられている。この状態で三人で話す流れになったらなんか、絶対面倒くさい話になる気しかしない。
手を払いのけたばかりだけど、俺は汚れた方とは逆の手で卜部の手首を掴み反応を待たずに「保健室!」とだけ言って引っ張る。卜部は困惑しながらも俺が怪我していると思い込んでいるからか、素直に後ろを着いてきてくれた。
教室を出ていく時、慎也は今まで見たことがない目で俺を見ていた。
怒りとかではない、けど不思議な目だった。感情があまり読み取れないタイプの。
やらかしたかもしれない。でも今は1秒でも早く教室から離れたい。
卜部を引っ張って階段まで来た。
なんか卜部、俺にされるがままで全然抵抗しないな? 痛くなるタイプの握り方してるのに文句ひとつ言ってこない、二人きりで遊んでる時と全然反応が違う。
「あれ、瑠璃川? 保健室は一階だろ、なんで上に行くんだ?」
「保健室なんか行かないし」
「え? さっき保健室って」
「保健室とは言ったけど、に行くとは言ってない」
「何言ってんの……?」
「保健室って言えばお前も着いてくるだろ。手、怪我してると思い込んでるっぽいし」
「怪我してるだろ。さっき血出てたじゃん、もう1回見せてみ」
「ん」
「めちゃくちゃ出てるじゃん!? 痛いだろこれ、保健室行くぞ!」
「血じゃなくてインクだよ。変な勘違いしやがって」
「インク? なんの」
「赤ペンの」
「……」
「勝手に勘違いして勝手に騒いでみんなの注目集めやがって。ばーか。まじお前さ、教室内を変な空気にするのやめろよ。たまには空気読めよばーか」
「う、うるさ……いやごめん」
「?」
二人きりの時は普通に『うるさいな』って言ってくるのに、なんで素直に謝るんだ? こいつと学校で直接話すことなんてないから知らなかった、性格違うんだ。多重人格ってやつ?
「とりあえず着いてきて」
「どこ行くの?」
「4階とか? この時間は誰も居ないだろうし」
「何するんだそんな場所で」
「手を洗うのと愚痴を言いたい」
「愚痴? あー……」
愚痴をぶつける相手に選ばれた事に気付いたのか、卜部は足を早めて俺の隣に肩を並べた。引っ張る必要が無くなったので卜部の腕を離す。
「なんかみんなに無視されてるもんな。瑠璃川って」
「お前にも無視されたし。お前への文句は言えるから言いまくってやる」
「俺への文句? ……俺なにもしてないだろ!」
「さっきお前、目を逸らした」
「いやあれは」
「いーさいーさ、別に。教室にいる時は無視すれば? 元はと言えば俺だってお前のこといじめてたし仕返しすればいいよ」
「仕返しって……」
「けどお前、俺の事普通に家に入れてくれるもんな。これからも入れてくれるんだよな? ……ピンポン押したら、ドア開けてくれるよな」
「そりゃもちろん」
「……っ」
「ん、何ニヤけてんの? 急に怖いな」
「ニヤけてねえよ」
卜部の背中を叩く。
「入れてくれるってならこれからも家に遊びに行くし、お前に仕返しされる度にお前ん家で仕返し×2をしてやるからな」
「なんだよ仕返しかけるにって。初めて聞いたんですけど」
「ゲームする度に理不尽コンボでハメ殺す。それを延々繰り返す」
「誰が楽しいそれは!? 瑠璃川だってゲームそんなに好きじゃないのに!?」
「最近気付いたんだけどね? 俺、お前を悔しがらせるのめっちゃ好きらしい。唯一の趣味と言っていいくらい」
「友達やめようかな……」
「えっ」
「え? なに?」
「……いや」
友達って。俺のこと友達って思ってたんだ、コイツ。
……。
4階に着いたので早足で水道まで近付き手を濡らしてからハンドソープを出す。……出ない、中身入ってないのかよこれ。
「なんだか、折角学校戻ってきたのにさみしいよね。瑠璃川からしたらさ」
「なにが?」
「や、みーんな瑠璃川のこと無視してるじゃん。前は結構色んな子と話してたのにさ。クラスが変わったっていうのもあるんだろうけど」
「はあ」
「まあ男から女に変わってたら驚くのも無理ないけどさー。てか瑠璃川、そこら辺の話は仲良かった人たちにしたの?」
「してない」
「しろよ。じゃないとみんな混乱するでしょ。今まで男のフリしてたのかよーって思われたら微妙じゃんか」
「思われたらってかとっくにそう言われてるし」
「そうなの?」
「そうだよ。クラスの女子どもが言ってんだろ毎日毎日毎日毎日。馬鹿みてぇに毎日似たようなこと。聴こえてねぇのかよ」
「お、俺に怒るなよ。……そうなんだ、ごめんけど知らなかった。多分瑠璃川には聴こえるように言ってるんだろうけど、それ以外には隠してるんじゃないか? そういう作戦でいじめるんだな、女子って」
「ふーん。……だから先生も何も言ってこないのかな」
「だと思うよ。俺が知らなかったくらいだもん、先生からはただの暗い女子だとしか思われてないんじゃないの? 瑠璃川って」
「ただの暗い女子……うわああぁ、分かってはいるけど女子扱いされるのやっぱりきちぃ。なんかモヤモヤする〜!」
「病気のことを誰にも話してないならただの女子としか思わないよ。当たり前だろ、髪伸ばしてるしスカート履いてるし、さ」
卜部が言葉を詰まらせる。コイツ今、俺の胸を見て気まずそうにしてたな。
「まさかチビのまんま胸だけで膨らむとはな。完全に栄養吸われたわ、たかが数ヶ月しか経ってないのに」
「胸自体は入院する前から膨らんでただろ。最初に会った時点で、まあ……ちょっとあったし」
「気まずそうにするのやめろよ。なんか、他の奴ならまだしもお前から女扱いされるのより一層気色悪いわ」
「そ、そうだよね」
そこで一旦会話が途切れる。
どうしたんだろう、卜部の家に居る時よりも会話が続かない。気を使われてる?
「てかやっぱ変だよな、この格好。気まずいとかは一旦置いといて、卜部からしたらかなーり妙ちくりんな姿だよな。今の俺って」
「え?」
「女みたいに髪伸ばして女の服着てさ。ブラジャーなんかも着けてるし下着だって女物だぜ? 結構な期間お前ん家に遊びに行ってたから見慣れないよな、こんなん」
「ま、まあ。結構な期間って言うけど、病院の服着たミイラになってる瑠璃川の印象がほとんどだけど……」
「なんでだよ。……いやそうか、入院期間中の方が二人きりで居る時間は長かったね。にしてもじゃない?」
「うーん、まあ。でも確かに、体は女になっちゃったとして、いきなりちゃんと女の子らしい見た目にしてるのには驚いたよ。なんでそんなしっかり可愛くして」
「は?」
聞き捨てならない言葉が聞こえてきたので言葉を遮って卜部を睨む。
「可愛くして、なに? 俺が自分の意思でこんな格好してると思ってんの?」
「ち、違うのか?」
「馬鹿じゃねえの。違うに決まってるじゃん。母親に言われなきゃこんな格好してないし。……まじふざけんな、次言ったら殴るから」
「……」
殴るからという脅しに対する返答は何もなかった。なんか言えよ、そう心の中で呟きながら睨むも卜部は困ったような顔をするだけで、無言で見ていたら目を逸らして逃げたので舌打ちして手元を見る。
不意に、鏡のようになった水面に自分の顔が映りこみ、今の自分自身と目を合わせてしまった。
「俺、この顔が嫌いなんだ」
「瑠璃川……?」
水面に映った女の顔がどんどん不愉快そうな表情に歪んでいく。俺のよく知る嫌いな顔に近づいていく。
その顔を見てると嫌な記憶が蘇ってきて、心臓が早くなって呼吸しづらくなる。
「別に、体が女になっちゃったのはいいよ。仕方ないよ、そういう病気だって言うのなら。でもさ……よりにもよって、それまで自分が使ってきた顔の皮をひっぺがして新しい顔が外に出てきた時にさ、自分が1番嫌いな顔がそこにくっついてたらどう思う」
「1番嫌いな顔……?」
「最悪じゃんそんなの。可愛いとか可愛くないとか、そんなのなんだっていい、関係ない。顔の事をとやかく言われること自体が不愉快なんだよ。忘れたいんだよ、今の自分の顔を。でもそういう話をされたら嫌でも意識しちゃうだろ」
流し台から水から流れて自分の顔が反射しなくなる。今までなら濡れた手なんて雑に服で拭き取って終わりだったけど、今じゃそんな事出来ないので母親に持たされたハンカチを出して水滴を拭き取り、強めにハンカチを握りしめた後に畳んでポケットに入れる。
「父親のことを忘れたくない」
「え?」
「でもこうなっちゃった。病気のせいで。分かる、俺めっちゃ可愛いよな。だと思う。母親はアイドルだったんだもん、有名じゃないし変な男に引っかかって一瞬でやめたけど」
「……分かった、ごめん。その、見た目の話するのはやめとくよ。瑠璃川にとってそういう話は傷付くんだよな?」
少し黙った後、振り向いて卜部の顔を一瞬見上げてから小さく頷く。
それから卜部は俺に詳しく話を聞くでもなく、それ以外の話をするでもなく「教室、戻ろうぜ」とだけ言って歩き出した。
次の授業時間まで時間なかったし、愚痴も少しだけ吐けたので一旦満足したことにして卜部の斜め後ろを歩く。
教室に入る直前、卜部は手前側のドアからは入らずわざわざ俺から離れて奥側のドアから教室に入った。クラス全体から避けられてる俺とはやはり人前で一緒に居たくないらしい。
自分も同じような事をしてたから文句は言えないけど。少しだけ、胸が痛くなった。




