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5話『手術』

 目が覚めて、母親を起こさないようにそっと起き上がってトイレに向かう。



「ふぅ……」



 お世辞にも綺麗とは言えないトイレの扉を閉めて、鍵を閉めて、少しばかり安心の息を漏らす。


 オシッコが終わったら母親が起きないことを祈って、さっさとパンを食べて外に出ないと。服は……昨日は曇りだったからまだ乾いてないかな。今日は金曜日だし服探ししないとだ。はあ、憂鬱だなぁ。



「ふ…………い゛っ!!?!?」



 ガタンガタン!!!

 家で絶対鳴らさないほどの大きな音を立てながらトイレの前で倒れる。


 なんだ、今の? オシッコを出そうとした瞬間、ちんこから今まで感じたことなかった痛みがして全身さぶいぼが立つ。倒れた今でもお腹の奥がズキズキ痛くて、熱くなる感覚とオシッコではない液体で太ももがヌルヌルする感触に襲われる。



「……理仁?」


「あっ」



 トイレの外から母親の声がした。急いでトイレを流して出なきゃなのに、お腹が痛すぎて上手く立ち上がれない。



「理仁? 何してるの、大丈夫?」


「だ、大丈夫だよ! ごめんねうるさかったよね、すぐ出るかっ、う゛うぅっ!!?!?」



 無理やりズボンを掴んで引き上げたらさっきと似たような激痛がして扉に思い切り頭をぶつけた。

 様子がおかしいと思ったのか、母親がトイレのドアノブをガチャガチャと回し始める。



「理仁、そこで何してるの。開けて」


「ま、待って! すぐ開けるねごめんなさい! 今開ける、から゛ぁっ!?」


「ちょっと! なに暴れてるの? 中で何してるの、鍵開けなさい!」


「ゔ、いだぃ……って……まって……まって、まって……開ける、まってて……」



 駄目だ。立ち上がりたいのに足が震えて立ち上がれない。痛みで背中が勝手にビクビク動く。立つのを諦めてドアにもたれかかりながら鍵に手を伸ばす。



「理仁、もしかして泣いてるの? お母さん言ったよね、もう泣くような事は何も無いんだから家で泣かないでって。……お母さんを責めてるの?」


「ゔゔううぅぅぅっ!」


「……そうやってまた私を悪者にしたいの。ねえ、朝一番に何のつもりなのかな。変な夢でも見たの? もうお父さんはいな…………理仁!?」



 恨み辛みを吐き出す母親の声が途中で驚きに変わる。鍵が開いた瞬間、ドアにもたれかかってた俺がトイレから倒れ込みながら現れたからびっくりしたんだろう。


 うつ伏せになると痛みがとても強い。何も考えられなくなるくらい痛い。痛すぎる。俺は身をよじって一生懸命体の向きを変え、なんとか仰向けになって涙が止まらない目元に手を置いて必死に口を動かす。



「ごめん、なざい……っ、泣がないからっ……!」


「り、理仁!? あんたこれどうなってるの!? その血、なによ!?」



 血……?

 母親は俺の頭の上で怪我がどうとか言っているが、お腹のズキズキが痛すぎて何を言ってるのか理解出来なかった。慌てた様子で母親は俺の肩に触れて体を揺らしたあと、よく分からない叫び声を上げて少し遠くに行った。……誰かと電話してる?




 そこから先のことはよく覚えてない。痛みで気絶するようなことはなかったけど、それでも痛みが強すぎて他の情報が一切頭に入ってこなかったから自分の身に何が起きてどうなってるのかとか何一つ理解することができなかった。


 しばらく痛みで唸っていたら大人の人数人に声を掛けられて、体を持ち上げられて、変なものに乗せられて揺らされた。

 救急車のサイレンみたいな音がして、車の揺れを感じて、少し乱暴に車から降ろされて、人の声が多いところのベッドで寝かされた。それから……腕の内側にチクッとした痛みがして、中が冷たくなったと思ったらすぐに痛みよりも眠気が強くなって。





「……あれ」



 次を目を開けた時、白くてポコポコと穴の空いた天井が最初に目に映った。



「どこ、ここ」



 俺は知らないベッドに寝かされていた。ベッドの周りにはカーテンがあって、窓の外からは知らない建物が見える。学校に置いてある物より綺麗な木の机が横にあって、見たことないリモコンと棚の上にテレビも置いてある。



「なにここ。どこ? ……ひっ!?」



 体を起こして腕を見たら、腕の中に向かって変な管が伸びていた。ぶっ刺さってる、腕の内側に。それだけじゃない。お腹の方にも何かが伸びていて、直に見てないけどこの管っぽいものもお腹をぶち破って体内に伸びている実感があった。



「なにこれ、なにこれ!? ひぃっ!? いっ……痛い、痛い! 痛い!!!」



 気持ち悪くなって管を強引に引き抜こうとしたら体の中からビリッと痛みが走る。冷たい風みたいなのが背中を伝って嫌な汗が流れる。すぐに管から手を離し、俺はそっとベッドの上に寝直した。



「最悪最悪最悪最悪最悪!!! なんだよこれどうなってんの俺どうなって……っ!?」



 ただ寝てるだけなのに不快感で足の先がソワソワするから首から上だけ動かして何とか今俺が置かれている上京を把握しようとしてみる。


 机の上にはカレンダーがあった。……11月? おかしい、今はまだ7月のはずなのにカレンダーは11月の所まで捲られている。



「……え。理仁君!?」


「誰!?」



 カレンダーの謎と自分の身に起きているとんでもない拷問に頭を悩ませていたらスライド式のドアが開く音がして間もなく、ナースさんみたいな格好をした女の人がカーテンの向こうから現れて俺の名を呼んだ。


 ……みたいな、というかどう見ても本物のナースさんだ。ってことはここって病院? え、もしかして俺、入院してるの!? なんで!?



「理仁君いつ起きたの!? 痛い所はない? 気持ち悪さとか」



 ナースさんが口早に質問を投げてきたと思ったら急に「あっ!」と声を上げて体の向きを変えた。パタパタというスリッパの足音が遠のいていき、少し経って複数人のパタパタ音が近付いてきた。



「良かった。意識が戻ったんだね、瑠璃川理仁君」



 今度は少し太り気味な体型の白衣を着たおじさんが俺に声を掛けてきた。




 どうやら俺は本当に四ヶ月近く入院していたらしい。その四ヶ月の間、一度も目を覚まさず母親は何度もお医者さんに「人殺し」と言いに来ていたとも聞いた。起き抜けなのにいきなり最悪な気分になる話だった。


 なんでそんな長い間寝ていた(昏睡状態?)だったかって言う話はされなかった。大きな手術をした後だったからもしかしたらよくある話なのかもしれない。



「男から、女に……?」


「そう。信じられないと思うけど、今の君は女の子の体なんだ」



 なんで大手術をしたのかっていう質問をした所、お医者さんは子供の俺にも分かりやすいように説明してくれた。


 お医者さんによると、俺は遺伝子の病気のせいで男として生まれた後に女になっちゃう病気にかかってしまったらしい。

 人間は成長の途中で自然に性別が変わることなんてない。そういう風に設計されてない。なのに男の肉体の内側から女の肉体が形成されて、元あった男の肉体は俺自身からすると不純物? 邪魔者? みたいになっちゃって、そのままにしておくと細胞がそれを排除しようとしたり、内臓が壊れて出血したりしちゃう、みたいな。


 俺が納得いった説明で言うと、無理に男と女の両方のパーツが一つの体に出来ちゃってお互いを壊し合うって感じらしい。そんな病気聞いた事ないけど、ここ数年間少しだけだけど似たような症状を出してる人達もいるんだとか。


 で、その余分なパーツを排除するために全身を手術する必要があって、その負荷が大きかったから俺は長い間眠っていたとの事だった。



「女に……だから胸が大きくなったりしたんだ……」


「過去似たような症状が出た子は早期に入院してるから比較的手術の負荷も小さかったんだけど、君はある程度症状を放置した後に入院したからね。まったく、体が変だなって思ったらちゃんと病院に来なきゃダメだよ?」



 そんな事言われても、人から言われないと自分の体がおかしいだなんて分からないじゃん。中には胸が大きくなる男の人だっているって思うじゃんか。



「え。じゃあ手術も終わって俺も目が覚めたんで今日から退院ですか?」


「申し訳ないけどそれは出来ないよ。体をよく見てご覧、全身包帯でぐるぐる巻きだろう君」


「うん。ミイラみたい」


「それ、まだ完全に組織が定着していないからそうしているんだよ」


「はあ」


「首から上、髪や眼球はもうしっかり定着してるけど、その下は無理に動いたら大変なことになっちゃう状態なんだ。今日退院して外を歩きでもしたらびっくり、君の体はバラバラになっちゃうぞ」


「そうなの!? やだー!!!! グロい!!!!」


「先生……」


「うんごめん。バラバラになるは流石に嘘だけど、そうでないにしても危険だからね。もうしばらくは入院してもらうことになるかな」


「もうしばらくってどれくらい?」


「来年の春頃までは様子見かな」



 えー。来年の春? 長すぎるよ、と思いはしたが相手はお医者さんなので言うのを我慢した。



「場合によってはそれより早く退院する事も出来るかもしれないから、そこは理仁君の頑張り次第かな」


「むむむ……。ちなみに、退院するまでこの変なビロビロは刺さったままなの?」


「点滴のことかい? そうだね、退院するまでそのままだよ」


「やだーーーー!!!!!?!?」



 正直自分の体がどうなっているかについてはあんまり分かってないからどうでもいいんだけど、それよりこの管が繋がってるのが一番嫌だ! 気持ち悪すぎる!!! せめてこれを外してほしいのになんでずっとつけっぱなしなんだよー!



「こんなの着いたまんまどうやってトイレ行くんですかあ!!」



 お医者さんは無言で棚の下の方に手を伸ばし、透明なジョウロのような物を取り出した。



「小はここに」


「やだやだやだやだやだやだ」


「仕方ないんだよ。君のためだから」


「絶対やだー!!!!! てかうんこは!? うんこはそこに入らないですよね!?」


「看護師さんに任せなさい」


「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!!!!!!」


「理仁君、あんまり頭を振らないで。危ないでしょ」



 わがままを言ってもどうにもならないことは理解してるけど絶対に嫌な事しか言ってこないので怒られるまでわがままを言いまくった。

 怒られた。

 怒られた結果、ナースさんがついてる状態ならトイレまで行ってもいい事になった。トイレに行く間も点滴ってやつは刺したままらしいけど。

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