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4話『変な奴』

 卜部と遊ぶ仲になった。といっても慎也は卜部のことをいじめてるし俺もそのいじめに加担してるから、学校でその関係性を大っぴらにすることはないけど。



 関わる人間が増えた所で慎也との関係性は特に変わらなかった。卜部は俺との関係性を何一つ他の人に漏らしていないらしい。


 意外だ。学校の外で遊ぶようになった分、学校で俺から酷いことされたら余計に卜部は俺のこと恨むんじゃないかって思っていたのに。



 卜部は変な奴だ。学校では距離を置くのに家に遊びに行くと俺に普通に話しかけてくる。何度やってもゲームの腕は上達しない、同じことの繰り返しなのに。よくある動画で簡単に泣いたりする。自分が酷いことをされても一切涙を流さないのに。



 良い奴か悪い奴かで言えば良い奴。でもなんか、好きにはなれなさそうな奴。



 なんでいじめに反抗しないのか聞いた時があった。その時卜部は「誰かを嫌うのは変なことじゃないし」と返してきた。

 そういうことを聞きたいんじゃない。確かに人が人を嫌うのは何も変じゃない、自然なことだと思う。だからといってじゃあ"自分は嫌われてるから"で何されてもやり返さないのは違うでしょ。


 やり返せないのなら逃げればいい。クラスが変わるまで休んでればいい。それも出来ないなら好かれるようにすればいい。慎也に気持ち悪がられてる性格を直して、それか別の友達でも作ってひっそりしていればいい。


 なのにそうしない。何も変えようとせず、いつまでもヘラヘラ笑ってるだけ。意味が分からない。


 物事の好き嫌いを変えれないのは分かる。俺だって興味無いことに関してはどれだけ長くやらされようと一生興味を抱けないもん。でも楽しんでるフリくらいは出来る、誰かの悪口を言う時とかまさしくそんな感じだし。





「瑠璃川ってゲーム上手いよね」


「卜部が下手なだけだよ」


「親が厳しいからそんなに練習出来ないんだよ! 瑠璃川は一日何時間くらいゲームするの?」


「家ではゲームしない」


「え? またまたぁ〜」



 冗談で言ったつもりじゃないのに卜部が肩をぶつけてきた。操作で勝てないからって番外戦術で妨害するつもりか。無駄なあがきだ。



「あんなにずっと学校で話すくらいゲームが好きなのに家でやらないことある?」


「別にゲーム好きじゃないし」


「ずっと鰐淵くんと喋ってない?」


「喋りかけてくるからね。アイツが好きなんだよ、ちっちゃい頃からゲームっ子だから」


「付き合ってやってるだけなんだ」


「そう」


「楽しいの? それ」


「楽しくはない」


「えぇ? 楽しくないのに付き合うの? なんで?」


「楽しくないってだけで付き合わない理由にはならなくない。俺に話しかけてくる理由がそれなんだから付き合うのが自然じゃないの」



 思ってることを答えたら微妙な顔をされた。



「人が言ってきたこと、なんでも受け入れるの?」


「なんでもは受け入れないよ。死ねって言われても死なない」


「そうなんだ。でも好きでもない話には付き合うんだよね。それはなんで?」


「わざわざ人の事イラつかせたくない。だから話を合わせてる」


「そこまでして合わせる必要あるの?」


「そこまでしないからいじめられてんじゃないの。お前」


「……誰も俺になんか話振ってこないし」


「ふーん」



 そりゃそうか。いじめられっ子なんだもんな、こいつ。わざわざそんな奴に自分から話しかけに行くやついるわけもない。関わるだけ厄介って思われてそうだし。



「瑠璃川はさ、なんであいつと仲良く出来るの」



 卜部の声が少しだけ低くなる。俺は特に何も考えないまま「慎也のこと?」と問うと卜部は頷いた。



「昔っからあんな風なんでしょ、あいつ。馬鹿に出来そうな奴がいたらすぐちょっかいかけて周りにもいじるのを強制してるって」


「そうだね」


「……そんな奴とよく仲良くできるね。瑠璃川自体は別に人を馬鹿にしたいとか思わないんでしょ」


「ノリノリで馬鹿に出来るやつを探したりはしないけど、見るからにキモい奴を見たら馬鹿にはするよ。そういうもんじゃないの」


「……」


「それと俺、あいつと幼馴染だし。卜部が俺の事どう思ってるのかは分かんないけど、多分俺と慎也は似たようなもんだと思うよ。お前が慎也のこと嫌な奴って思うなら、俺も普通に嫌な奴だよ」


「……それは違うだろ」



 ボソッと卜部が何か言っていたが聞き取れなかった。

 卜部がコントローラーを置いたので俺も机に置く。



「思い出したんだけどさ。お前がいじめられるようになったのって、前いじめられてた奴を庇ったのが原因だったんじゃないの?」


「……小野田(おのだ)くんのこと?」


「そんな名前だったんだあの人」


「同じクラスだったよね……?」


「あんま話さない人の名前とか覚えらんない。けどなんでイジメられてたかは覚えてる。アイツ、とにかく不潔なんだよな。フケめっちゃ出るし、口の周りカピカピだし、喋り方変だし。その癖めっちゃ人のこと触ってくるし。とにかく最悪だったって印象」


「……」


「障がい者なんだろ? 今年からそういうクラスに行ったって聞いた。そんな奴放っておけばいいのに。変に庇ったりするから身代わりにされるんじゃん」


「……人が頭から墨汁かけられてるの見て放っておけるかよ」


「放っておけるだろ。自分がされてるわけでもあるまいし」


「自分がって、同情したりしないの?」


「同情はするよ。けど助けようとまでは思わない。助けてって言われたなら考えるけど、そうでもないなら余計なお世話でしょ」


「……」


「だし、助けたいからって普通いきなり人を突き飛ばしたりする? そっちの方が危ないじゃん。あの時のこと、一回でも謝ったの?」


「謝ってない。アイツが小野田くんに謝らないなら俺も謝らない」


「変な意地。じゃあずっといじめ続くよ」


「……ちょっかいかけられはするけど、小野田くんの時ほど酷い目に遭ってないから別にいいよ」


「ふーん」



 なるほど。卜部が何をされても文句言わない理由が少し分かった気がする。こいつ、意外と意地っ張りなんだな。文句言ったり泣いたりしたら自分の負けだと思ってるタイプの人か。だから我慢してると。


 よく分かんない価値観だ。何されても我慢し続けたら勝ち、ともなんなんだろそれ。他人から舐められてる時点で負けなんじゃないの、庇うまでは良かったけどそこから巻き返せてないんだから意地を張っても無意味でしょ。


 自分が酷い目に遭ってるなら一度くらい誰かに助けを求めればいいのに。まあ、それで助けてもらえる可能性なんてほぼ0に近いんだけど、にしてもだろ。



「……俺がちょっかいかけられてる間は、他のみんなには何もしてないみたいだし。変な意地だって言うけど、そういう事情もあるから俺は今のままでいいよ」


「ん……ん? どういう意味?」


「分からないならいい」


「他の人が標的にならないよう一人で我慢してるの? なにそれかっこつけ?」


「かっこつけではないだろ!」


「違うんだ。へぇ〜、やっぱ変わってるね卜部って。わかんねー」



 感想を述べたらムッとした顔で顔を見られた。こわっ。顔をふいっと逸らして目線から逃れる。


 ……。


 ずっと見られてる。なんなんだ、言いたいことがあれば言えばいいのになんで黙って睨んでくる。怖いよ。



 どうしよう、気まずい。別の話題を振ろう。といっても俺の方から話を振ることなんてあまりないし困ったな……。



「……えいっ」



 ふにっと。急に指かなにかで胸を横からつつかれる感触がした。



「え、なに、こわっ。どういうこと???」


「あのさ、瑠璃川ってなんか最近胸大きくなってない? 気のせい?」


「胸???」



 ふむ……。てっきりずっと顔を睨まれてるのかと思いきや胸を見られていたのか。なるほどね。



「卜部。俺、男だからね? てか一緒に風呂入ったよね?」


「入ったね。確かに男だった。いやしかしこれは……」


「なんだよ? ……なんだよっ!?」




 再び胸を触られた。しかし今度は指先でつつくのではなく、思い切り片手で片胸を鷲掴みにされた。



「ちょっ! まじでなに!? キモいって! てか痛いっつったじゃんやめろ!!!」


「前は軽く当たっただけで飛び跳ねてたよね、痛いって叫びながら。今はそんなでもないの?」


「そんなではないけど痛いには痛いから! 離せ!!!」


「ぐはっ!?」



 自分から手を離す前に卜部の腹を蹴って強引に距離を離す。びっくりした、いきなり男の胸を揉むとか何なのこいつ!? そういうのは女子にやれよ! いやそれも駄目だけどさ!!!



「いてて。いきなり蹴るなんて酷いぞ! 学校に居る時でもこんな事してこないだろお前!」


「キモい手つきで体を触ってくるからだろ!」


「だってさ!? 周りも言ってたけど最近の瑠璃川ってなんか変だぞ!」


「何がだよ!」


「体がなんか女っぽくなってる!」


「はあ!? ……はあ? 俺が? なんで?」


「いや知らんけど。胸とかさ……」



 胸……? 胸……。



「言われてみると確かに。自分の体だから気付かなかったけど、そういえば膨らんでる……」


「だろ? どうしたの、それ」


「俺が知るか。知ってたら今こんな反応してないよ」


「太ったとか?」


「太ったなら先にお腹が膨らむんじゃないのか? なんで胸から膨らむんだよ」


「それもそうか。あと胸だけじゃなく他の体もさ、背は伸びてるけど男っぽくないんだよね」


「はあ?」


「顔とか特に。髪伸ばしたら本当に女の子みたいになりそうだし」


「……はあ?」



 一度スマホを出して自分の顔を映す。……うーん? どうなんだろう、女っぽい顔なんてしてるか? 顔つきは昔に比べたら変わってる気はするけど、ただ成長しただけって気もする。



「瑠璃川って本当に男?」


「以前風呂場でお前が見た俺のちんこが幻だったのなら女の可能性もあるけども」


「今も生えてる?」


「生えてるよ! 取れないだろこれ!」


「もしかしたらないのかもしれない」


「あるよ!!! 毎日お風呂の時見てるしトイレの時も見てるから! てかそんなさ、ちんこがなくなるなんて大事件起きたら学校来ないよ!!!」


「怪しいな……」


「怪しいな!? な、なんだよ! 来るな! あだ名変態にするぞお前!!!」



 両手をワキワキと動かしながら卜部がにじり寄ってくる。話には聞いたことあるが、こいつっていわゆる"ソッチ系の趣味"を持ってたりするのか!? 現実にいるだなんて思ってなかった!!! 怖い!!!


 襲われる前に俺は急いで自分のランドセルを掴み、玄関の方に体を向けてから「今日帰るからばいばい!!」と叫んでダッシュで家の外に出る。


 せっかく時間を潰せるんだから出来るだけ家に帰らずにいようと思ったのに最悪だ! 丁度居心地の良かった場所が身の危険を感じる場所になってしまった!


 くそー! 今日はもう神様にお祈りしながら部屋にこもるしかないなー最悪だなぁ!!!

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