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赫月の奇夜   作者: 蒼山 太一
平穏に潜む魔
3/7

呪いの予感

 /03


 1998年12月25日午前--時--分。


 ドカドカと登ってくる音が聴こえる。意識が徐々に戻っているが瞼が重くて開かない。

 意識が現実と夢へとの綱引き状態が続くがまたそれが居心地が良い。しかし夢でもいいからまた彼女に会いたいと思う甘い考えからこのまま夢の世界に戻ろうとした時。

「お......ぅご」

 む?なんだ?

「お...ろ......うご!」

 声が聞こえた。

 誰だろう?叫び?いや、呼ばれている様な気がする。でもなんか怒ってる様な?

「起きろ!瞳護(とうご)!時間大丈夫なのか?!」

 目を開けると義父もとい親父である黎領(れいりょう)和夫(かずお)(しか)めっ面がヌッとゼロ距離にあった。

「うわっびっくりした!朝っぱらからなんだよ親父!」

 と疑問を口にした途端、嫌な予感が寝起きの頭を冴えさせる。

 いやいや口数の少ない親父が態々起こしに来てくれるか?そんな親切な人だっけ?いや、ありえねぇ。何か緊急事態ってことか??

 ......薄々気付いてはいるが、見たくもない目覚まし時計くんが示している針を確認する。

 ────8時12分。

「ぁが......」

 硬直する俺を横切りため息をつきながらスタスタと部屋を出る親父。

 布団から飛び起き、クローゼットに掛けてある学ランを着込んで急いで仕度を済ます。

 玄関に向かうため、再び階段をドタドタ下るあまりギシシッ!ギシシッ!と階段の悲鳴音が広がる。

 親父は和室のテーブルに腰を下ろし、テレビの報道番組を観ながらコーヒーを飲んでいた。そんな余裕があるならもっと早く起こしてくれたっていいじゃないか。......いいえ嘘です。100%起きれなかった自分が悪いです。

「朝飯はどうする?」

「ごめん!冷蔵庫に入れておいて!帰ったら食べる!」

 急いで見れなかったが、目玉焼きと味噌汁の匂いがした。

 朝食を食べられなかった悔しさを糧に、自転車の鍵を取り。スニーカーを迅速に履いた。

 障害物リレーの様に骨董品を退け玄関に辿り着き、ドアノブに手を添えその勢いのまま「行ってきます!」と親父に聞こえている事を祈り玄関の扉を開く。

 ドアベルのカラコロンと奏でる音が耳から入った矢先、扉の風圧が一気に流れ込む。

「寒っっ!!」

 まだ雪が溶けきっていない地面を目の当たりにする。体全体が身震いするほど鳥肌が立つ。手袋持ってくればよかったかな。と少し後悔した。家に戻るつもりはない、戻ってしまったら、遅刻が確定してまう。

 家の駐車場に停めてある自転車を引っ張り出し、学校に向かう。

 いつも自転車で20分ほど掛かるが、全速力で行けば10分で着けるだろうと謎の余裕と自信があった。


 しばらく全速力で自転車を漕いでいるが、中々どうして進まない。

 理由は明白だった。地面が凍っているため滑る。

 バランスを取りながら自転車漕いでいたらいつもの倍以上掛かっている。

 こうなるから自転車は諦めて歩いて行けばよかったと後悔している。

 「遅刻も確定だし、のんびり行くか」

 どうやら雪の日は頭の回転が悪くなるらしい。

 こんなこと昨日もあったなと反省しつつ自転車から降り、サドルを手で押しながら進むことにした。


 道中、裏幽坂(うらいざか)が見えた。

 あそこで昨日あの子に会ったんだよな。と感情に浸っている中、一つ疑問が脳裏によぎった。


 しかし、あの時間に女の子ひとりで何をしていたのだろうか。

 素朴な疑問か、はたまた未練か。彼女が立っていた場所まで手押しで自転車を進ませた。

 電柱の下に人生に置いて、見覚えのない“モノ”が視えた。

 脳内はその“何か”を理解するためにフル回転しているが答えは出ない。

 近づくに連れ、その“モノ”が視界にくっきりと写る。

 一言で言うならばそれは異様だった。

「なんだこれ......」

 彼女が立っていたであろう場所に、3cm程の赤黒い粘土の塊の様なモノが二つ落ちていた。


 時が止まった様に感じた。その“モノ”に意識が持っていかれる。目が離さない。

 足が自然と一歩二歩と“それ”に近づく。


 ────。

 そこから先は無意識だった。

 手を伸ばし“それら”二つを拾い上げ、学ランの内ポケットに仕まう。

「?」

 分かっている。分かっているさ。自分がしていることが異様であることは十分承知の上でやっている。

 普通なら“それ”を視えた時点で見て見ぬふりするだろう。しかし何故だろうか“不気味”よりも“放っておけない気持ち”が先走ったのだ。

 暫く、時が止まった様にその場で立ち尽くしていたが、不意に意識が戻る。

「やばっ!こんなことしてる場合じゃない遅刻する!」

 自転車の所まで走り、急いで学校に向う。風に煽られながら頭に思索が広がる。


 何故、放っておけないと“想った”のだろうか?

 何故、これらを“視つける”ことができたのだろうか?

 何故、彼女にまた会える“予感”がしたのだろうか?

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