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赫月の奇夜   作者: 蒼山 太一
平穏に潜む魔
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新雪の足跡

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 1998年12月24日、地面に足跡が残る程の雪が降り積もる寒い夜の日。

 麦神市(ばかんし)の都心からやや離れた高層建築の街並みを進むと俺が通っている学習塾があり、今はその帰り道だ。

 マフラーに顎から顔半分まで埋めるようにして、いつもなら家から自転車で通学する道をザクザクと雪で積もった舗道を歩く。バスで行くことも視野に入れていたのだけれど、歩いたほうが早いだろうと今思えば浅はかな考えだった。

 .......あの時の自分を殴りたい気持ちでいっぱいだ。

「はぁ」とため息混じりの息を吐けば白い息が冷たく漂う。蒸気機関車みたいで面白いなぁと頭の中で笑いながら足を家の方向へ進めた。

 今歩いている歩道を西に進むと裏幽坂(うらいざか)という巷では修行道と呼ばれる程の登るのがとてもしんどい坂道がある。

 階段があると言えど、体感90度くらいあるのではないかと言わんばかりの斜め具合と更に60メートル程の高さの坂を登る。

 この地獄道を登る理由は勿論ある。頂上まで行くと見下ろせる、この街が月灯りと住宅街の灯りだけが夜中を照らす見晴らしは正に絶景。これを観るためにはパンパンに膨れ上がった両足の代償も元が取れると云ったものだ。

 ここを通る時は必ず足を止めて景色を楽しむのが個人的な決まりにしている。

 行楽している中、ふと隣側の舗道を見ると一人の女の子がぽつりと立っていた。暗がりの中でもはっきりわかる程の顔立ちは凛々しく、静かに沈んだ美しい黒い瞳と透きとおるような白い肌、黄金色(こがねいろ)の長い髪の毛は風が(なび)く度に頬を撫でる。

 その姿は、一言で言うなら「●●」であった。

 不思議と俺は。

「こんな所で何をしているの?」と声をかけていた。

 自分でも驚いた。無意識に声が出てしまった。話掛けていたのだ。俗に言うナンパというものなのかも知れないけど、どうしても声を掛けたかった。

 すると女の子は少しびっくりした表情を浮かべた後に、ニコリと笑みを浮かべ、軽く会釈をしてくれた。

 右足から順に、ひたひたとまだ誰も跡を付けていない真っ平らな新雪の表面に足跡を付けながら此方(こちら)に近付いてきた。暗がりの闇から街灯に照らされた彼女の姿がはっきりと目に映る。

 透き通る程の白い肌とともに制服を着こなした形はこの雪景色によく似合っていた。

「この街の……空を見ていたの……」

 彼女は婉然(えんぜん)と微笑みながら横目を逸らし、坂道の(ふもと)である麦神市全体の街を見下ろす。

「空を?どうして?」

彼女はふふ、と左手で口元を隠しながら笑った後に話を続けてくれた。

「この街の空は少し特別でね、私を閉じ込めているの......でも、もう少しで、やっと自由になれるんだ」


 これが俺と彼女の出会いであった。


 後から知ったことだが、彼女の名前は物部(もののべ) 陽下(ようか)


 彼女は「咒」そのものである。

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