表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷獄の一蓮花‐承‐  作者: 浅倉由依
プロローグ『序章』
1/9

0.歴史の幕開け

 その日、長きに渡る一つの大戦が、終わりを迎えた。


 戦場であった遥か大地の下空から、流れる大きな光線がその証であり、誰もがこの瞬間を待ち望んでいたのは確かだった。それでも勝利の咆哮ひとつないのは、きっと、代償たるその犠牲があまりにも多かったからだろう。

 弧を描き、夜空を駆けるその光は、やがて二手に分かれた。地の底で行く末を見届ける二つの赤い瞳は、ただ息を潜めて動かない。

 一つ呼吸をすれば、口から白い息が漏れた。極寒の凍てつくような寒さだが、少年は気にも留める様子もないようだ。鼻を赤くして、空から目を離そうとしない。

 しかしほどなくして、それらは一瞬の強い光を放ち、瞬きの間に跡形もなく霧散した。なんだかあっけないなと少し期待外れだったようにも思う。ようやく大きく息を吸い込んだところで、自分は短い時間、呼吸を忘れていたのかと理解する。暗闇の広がる空に、まだあの光の温度を覚えていた。

 背後から雪を踏みつける重い足音を聞きつけ、信頼足る部下の接近を悟る。


「ご報告申し上げます。初代、そして二代目様の消滅が確認されました。閻魔大王より、現時刻をもって、若様が三代目八凍(やとう)家当主として、これからの任に励むようにと」


 大方想像はついていたが、改めてそう言われても実感はなかった。これも全て、あの男の予想通りなのだろうかと、嫌味な薄ら笑いが脳裏を過ぎる。

 感情に共鳴するかのように、空の模様は徐々に曇りはじめ、そして吹雪始める。

 風に煽られ、隊服を覆うその羽織が揺れる。透き通るような半透明の素材が靡くたびに、少年にとってはそれが鬱陶しいようで、眉を寄せていた。


「そうか」


 抑揚のない返事に、背後の部下はやはり心配が隠しきれていない様子だった。

 踵を返し、次にかける言葉を絞り出そうと唸る彼女の真横を通り過ぎる。

 目にかかるほどの長い前髪を揺らしながら、その奥にある鋭い赤眼光の決意は固く、進む足が止まることはない。


「行こう。任務を遂行する」


 置いていかれそうな様子に彼女は、「待ってくださいい」と情けない声をあげながら、その小さな背中を追いかける。


 この世界で、また新たな歴史がひとつ、幕を開けた瞬間だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ