朝起きたら隣に妻である王妃がいなかった。
「…………ん?」
このときは、花を摘みにでも行っているのかと思った。
朝方に目が覚めると、隣に妻である王妃がいなかった。
無意識に妻が寝ていたはずの場所を触ると、ひんやりとしていた。それから二時間ほどして戻ったようだが、半分寝ていたので正確な時間はわからない。正直、クッソ長いなとは思ったが、常日頃から便秘気味だから、そこまで気にしていなかった。
その翌日も、そのまた翌日も……そしてとうとう一週間と続いて、流石に何かがおかしいと思うようになった――――。
日中の妻は、いたって普通だ。
王妃として執務や公務をこなし、来客はもちろん臣下や使用人たちとも笑顔で話し、城内の様子観察や采配も忘れない。
幼い頃からの付き合いだが、二十年経ってもずっとずぅーっと完璧な女なのだ。
わりかしずぼらで、その場の勢いに任せて色々とやらかす私をしっかりと制御してもくれる。
「……なぁ」
「はい? なんですか?」
少し前に二人並んでベッドに入ったが、妻は本を開いて読みふけっていた。
私的にはちょっとイチャコラしたいのだが。その気分じゃないのなら諦める…………が、夜中にどこに行っているのかは知りたい。だが、面と向かって聞いて、墓穴を掘ることになったらどうしようか。
――――やっぱ、無理っ!
「なんでもない」
「そうですか。明日は朝一番で謁見がありますから、そろそろ休みましょうか」
ランプを消そうとする妻の手をパシリと掴んで止めた。というか、止めてしまって今パニックだ。私が。
どうしたのか、様子が変だ、と言われても何も答えることができない。モゴついていると、腹が痛いのかと聞かれた。
私だって、色々と考えたり悩んだりして、頭が痛くなることだってある。稀にだが、ある! なのになぜそう思われるんだ。
「夕食後にアイスをあんなにおかわりするからですよ」
「そんなに食べてない」
「三杯は十分に多いです」
「……腹を撫でてくれ」
「はいはい」
よしよしと撫で擦てもらえたのがあまりにも気持ちよく、不覚にもそのまま瞬殺で寝てしまった。そして気付けばもうすぐ朝日が昇る頃。
隣を見ると、やはり妻がいない――――。
半月が経ち、流石に看過できないというか、問い詰めたい衝動が抑えられなくなっている。
ここ最近の妻は、妙に顔色が悪いし食が細いし、なんだかふらふらとしている。絶対に寝不足だろうな。
まったく、夜中にベッドを抜け出すから、そんなことになるんだ! 今日の夕食時に話すぞ! と意気込んでいたが、まさかの食事はいらないと妻が言い出した。
「顔色が悪いな。痩せたんじゃないか? 食事はちゃんと取れ」
「…………」
ベッドに横たわる妻の側に座り、額に手を当て熱がないか確認した。熱はないようだが、物凄くだるそうにしている。
「侍医を呼ぶ。少し待――――」
「必要ありません」
「そんな青い顔でなにを……。じい――――」
「いりません!」
妻は寝ていれば治ると言う。そりゃまぁ、寝不足での体調不良なら寝ていれば治るだろうな。とは思ったが、ここで我慢の限界が訪れ、イラッとしてしまった。この、瞬間的に沸騰してしまう性格をどうにかしろと言われていたのにだ。
「それなら、ベッドを抜け出して夜遊びなどするな!」
「え……」
「毎日毎日、抜け出して…………相手は誰なんだ……」
「待ってください、気付かれていたんですか? いつから?」
「当たり前だろうが! 今月の頭からだ」
気付いていたのになぜ黙っていたのか、と聞かれた。
愛しい妻がベッドから抜け出して、誰かのところへ通っているなど、信じたくもなかった。超絶便秘だと思うことにしていた。
「……妬いているんですか?」
「悪いか」
「っ…………いえ」
真っ青な顔から一転、妻の頬は桃色に染まっていた。
「文句があるなら言え。直せるかは知らんが、聞き入れる」
「ふふっ。貴方はそのままでいてください」
「…………それならばなぜ夜中に抜け出して浮気など」
そう言うと、妻はちょっと怒った顔をした。
「そういう直情かつ短絡的なところは、私の前だけにしておいてくださいね? 普通なら離縁されますので」
――――え?
離縁と言う言葉に、肝が冷えた。国王と王妃が離縁など出来るはずもない。だからこそ、一ミリも考えていなかったが、妻にそう思われるのは酷く恐ろしかった。
「ふふっ。そうやって顔に出るところは可愛いんですよね」
「可愛いとか言うな」
ちょっとモヤッとしつつ文句を言うと、妻が子供のようにキラキラとした笑顔で笑い声をあげた。
「そういう顔は、久しぶりに見たな。エレオノーラのほうが断然可愛い――――」
ゆっくりと妻に覆いかぶさるようにして、キスをしようとした。が、顔面を鷲掴みにされた。
「お待ちを」
「……いまそういう空気だったろ? 流石に泣くぞ?」
「国王が簡単に泣かないでください。理由がございますので」
それならば理由を言え! 納得はしないがな! と詰め寄ると、なぜかため息を吐かれた。
「貴方はすぐ言いふらすから」
「何だそれは。今回のことは誰にも言いふらしてないだろ。夜中の便所が長いとかも言ってない!」
「もし言っていたら、本気で離縁するために行動してましたよ」
「ぐっ……」
――――危なっ!
「妊娠したんですよ」
「は? 誰が?」
「私がですよ」
「……は? どうやって?」
「馬鹿ですか?」
三十目前、結婚して十年。仲睦まじくしていても、子どもは授かれなかった。側妃も勧められたが、そんなものは要らんと無視し続けていた。
子どもは天からの贈り物だから、授かれなかったのなら仕方ない、妻と二人で構わない。次期国王は弟とかでいいだろう。私より俄然優秀だし。そう、思っていた。
「っ……………………そう、か」
「国王が簡単に泣かないでください」
「……いまは、こくおう、ちがう」
「あらあら。もう。体調不良の妻に覆い被さらないでくださいよ」
「ん、ごめん。ありがとう」
「気が早いです」
「ん」
朝起きたら隣に妻である王妃がいなかったが、妊娠に伴うつわりを隠すためだった。私が執務を疎かにしそうだという理由で。
そんなことは当たり前だろう。そう思うのだが、スパルタ気味の妻は執務を優先しろという。こんな時だ、国民たちも許してくれるだろうに。そうだろ?
―― fin ――
こちらのタイトルは、秋色maiさん(https://mypage.syosetu.com/mypage/novellist/userid/1812281/)からいただきました!
萌えるカップリング作りに燃え、大量生産力のあるmaiさんでございます(。’-')(。,_,)ウンウン
タイトル、ありあとー!
なんかまた楽しい事やってたのね、頑張れー。くらいの軽い気持ちで、ブクマとか評価とかしてくださると、大喜びしますヽ(=´▽`=)ノ
今週からちょいちょい、長編化させたかったやつとか始めたり、年末に向けて便所ちゃんも再開させて行く予定です…………予定……です!!!!!←