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◯出席番号27番 ②

 学生生活は行事が多くて充実している。

 そのためか時間があっという間に過ぎていく気がする。


 そして、わたし達ももうすぐ三年生になる。でもその前にやらなくてはいけないことがある。

 今はその大事なイベントを成功させるために、他のクラスの学級委員達と一緒になってアイディアを出し合い、この間から準備を進めているところだ。

 

 今日もわたしの家に集まってその続きをしていた。


「なんか、今ひとつなんだよなー」


 そう言うのは大塚君だ。

 仕事ができないわけではないが、どこかやる気がない彼もこの実行委員メンバーに入ってしまっている。


「なんていうか……パッとしないっていうの? とにかくありきたりって感じじゃない?」


 そう思うなら、具体的なアイディアを出して欲しい。

 目でそれを訴えるがそれに気づくような人ではない。

 わざわざ放課後に集まって、みんな準備をしているのだ。そんなことを言ったら他のメンバーからどう思われるのか、わかっていないのだろう。

 ちなみに、わたしは既に彼のことは全く頼りにしていない。


「……じゃあ、どうしたらいいと思う?」


 隣のクラスの学級委員の男子が訊いた。いろいろ言いたいことを我慢して言っているのがわかる。


「いや……それはほら、みんなでさ、出し合おうよ」


 その場にいた大塚君以外の怒りのボルテージが上がっていく。

 ああ、このままではまずい。特にわたしが。

 ここは一度冷静になろう。

 

「一旦、休憩しない? ジュースのお代わり持ってくる」

「ありがと」

「うんそうだな、ちょっと頭冷やそう」

「あ、わたしも手伝うね」


 全員争いは好まない性格でよかった。すぐに空気が変わる。


「しょっぱいのないー? ポテチでもいいからさ」

「はぁ?」


 その瞬間、わたしは大塚君に向かって思わずコップを投げつけようとする。

 ……が、周りのみんなが必死にそれを止めてくれた。


「気持ちはわかるが、落ち着け!」

「ユイちゃん、ここは我慢して!」


 コップの中身はとっくに飲み干していたため、大塚君にジュースをかけることはできなかった。

 ホッとしている彼の顔がなんとも腹立たしい。


「ほら、行こ!」








 

 無理やり部屋から出されたわたしは、渋々キッチンへと向かった。

 

 彼のオーダーを無視して甘いクッキーやチョコを大皿に出し、おかわりのジュースも用意する。

 家に睡眠薬がなかったか探そうとしたが、運ぶのを手伝いに来てくれた子を待たせるのも申し訳なかったため、仕方なくすぐに部屋に戻った。







 


「っ!?」


 ドアを開けると、なんと大塚君が土下座をして待っていた。

 いや、正確に言うとふたりがかりで床に押さえつけられているようにも見える。


「……どうも、すみませんでした」

「こいつも反省してるからさ、渋谷さん、許してあげて?」


 反省? 台詞が棒読みですけど?

 でも、確かに今喧嘩したところで作業が捗るとは思えない。むしろマイナスだ。

 ここは広い心を持ち、彼がいないものとして進めるしかない。


「あーもう、わかったから。ほら、一旦休憩! 十分後再開ね」


 全員わたしの言葉に安堵した。






 休憩後、作業が再開した。

 だが、みんな思っている。


 確かに大塚君の言うように、もう一捻りが欲しいとーー。


「あのさ」


 ひとりの男子が声を発する。よかった、大塚君じゃない。


「他の奴にも訊いてみない? どうせ後でみんなにも協力してもらう予定だったし」


 サプライズだから、あまり大人数で準備しては本人にバレるかもしれないからと、それぞれのクラスの学級委員だけでまずは計画を練ることになった。何をするか、何が必要か、役割分担まで全て決まってから学年全体に伝えるつもりだった。

 

 だが、もう限界かもしれない。でも頼るとしたら誰に? 口が固いのは絶対条件だよね。


「カズヤ君は? 彼、みんなから頼りにされてるし」

「確かに。このチームに入ってくれたらすごく助かるなー。渋谷さん、同じクラスでしょ?」


 女子達が横目でわたしを見る。

 うん、わかる。彼はきっと役に立つと思うよ。大塚君よりずっと。

 でもね、彼に声をかけたことがバレたら他の女子が黙っていない。

 きっと「わたしも入れて」と、役に立つわけでもないのに関わろうとするだろう。

 ただでさえあまり時間がないのに、そんな子達をまとめる余裕はない。それか、もしかすると彼女達から嫌がらせをされるかも。どっちにしても苦労しそうだ。

 

 わたしの意見を伝えると、「そうだね」「女子が恐いもんね」と諦めてくれた。さすが物分かりがいい。


 じゃあ、誰が……。

 

 あっ! いるじゃん。わたしが手放しで尊敬できる子が。


「はい! わたし推薦したい子います!」

「え、誰?」

「うちのクラスのーー」

「……」


 わたしがあの子の名前を出すと、みんな何とも言えない顔をする。まるで、関わりたくないと言っているかのように。

 話してみれば、このメンバーならわかってくれると思うんだけどな。


「いいんじゃね」

「え?」


 まさかの賛成してくれたのは、あの大塚君だった。


「え、何で? 接点あったっけ? 話してるの見たことないんだけど」

「話したことならあるよ。朝の読書の時間にさ、読む本忘れて困ってたら貸してくれたんだ。もう一冊あるからって。推理小説だったんだけど、それがめちゃくちゃ面白くてすっかりハマっちゃったんだよね」

「そ、そうだったんだ」


 こんな奴にも優しいんだな。

 そうか、推理小説が好きなんだ。


 思いがけず、彼女のことをまた知ることができた。


「周りをよく見ているから良いアイディアを出してくれそうだし、大人しいから口も固いっしょ」

「それなら……」

「うん、頼んでみる?」


 他のみんなも大塚君の話を聞いて賛同してくれた。

 ならわたしのやることは決まっている。彼女を説得することだ。

 




 



「急に呼び出してごめんね」

「ううん。大丈夫」


 昼休み、わたしは彼女と校舎裏に来ていた。あのことを話すためだ。


「あのね、お願いがあるんだけどいいかな?」

「……内容によるかな」

「そうだよね。じゃ、とりあえず聞いてもらえる?」


 他に誰もいないか確かめてから、わたしは話を続けた。









 

 二年の学級委員が集まって準備していることーーそれは今年度で定年退職する新橋先生へのサプライズだ。

 この二年間、親よりも年上の先生はまるでおじいちゃんのような眼差しでわたし達を見守ってくれた。そんな先生に、お疲れ様と感謝の気持ちを込めたプレゼントをしたいと考えたのだ。

 

 既に決まっていることはふたつ。

 まず、ひとりひとりからのメッセージを集めた色紙作り。

 これはだいぶ準備はできている。メッセージカードは画用紙から切り分けて人数分揃えてあるし、それを貼る台紙も用意してある。

 あとは絵が得意なトウマにお願いするだけだ。

 

 次に歌のプレゼント。曲は先生の好きな『翼をください』。

 伴奏はナツコに頼んである。

 合唱コンがあんな感じになってしまったから、ここでナツコの自信を取り戻して欲しいと、わたしがお願いした。

 この曲なら小学校の時に弾いたことがあるし、みんなも歌えるから練習も苦労しないだろう。


「あと、何をしたらいいかな? 急に言われても困ると思うんだけど、わたし達も行き詰まってて……」

「……うん……ちょっと待って」


 すると彼女は目線を少し下げて考え始めた。時折手を口の近くに持ってきたり、指を動かしたりしている。

 三分程そうしていると、徐に顔を上げた。


「……私の兄の代も、先生にお世話になってるの」

「へー、そうなんだ」


 お兄さん、いたんだ。

 知らなかった。


「三つ上にお兄さんかお姉さんがいる人って多いでしょ。あの代の人達に協力してもらうのはどうかな? 卒業まで近くで見ていた生徒と久しぶりに会えたら、きっと嬉しいはず。可能なら当日来てもらうのもアリかも。無理なら動画か直筆のメッセージでもいいし。辿れるところまで新橋先生に関係のある人にお願いできるといいよね。……あ、剣道部の人ならもっと人脈がありそう」

「そっか、剣道部の顧問だもんね。他には?」

「色紙はいいと思うけど、写真や動画もあった方がいいかな。先生パソコン苦手だけどDVDなら問題ないと思う。卒業アルバムみたいな感じじゃなくて、もっと普段に近い生徒の様子がわかるようなものがいいかな」

「……なるほど」

「あとは、生徒だけじゃなくて後進の指導も気にしているようだから、他の先生に出し物をお願いしてみるのは? 凝ったものじゃなくていいと思うんだけど、若い先生も頑張っている姿を見せた方がもっと喜ぶと思うよ」

「……」


 ほんの数分でよくここまでアイディアが出てくるものだ。


 彼女に訊いといて本当によかった。

 ただただ感心しているとチャイムが聞こえる。


「使えそうな案ないかもしれないけど、パッと思いついたのはこれくらいかな。……チャイム鳴ったし、もう教室戻ろっか」

「ありがと、本当に本当に助かった!」


 彼女の両手を力強く取りながら伝えると凄く驚いた表情をされたが、わたしは感謝の気持ちでいっぱいだ。


「……役に立ったのならよかった」

「うん、とっても!」

「……そっか」


 そう言って笑った彼女の背景に、フワッとたくさんの花々が舞う風景が見えたような気がした。


「ん?」

「どうかした?」

「え、あー、いや、何でもないよ」








 

 何だったんだろ? 一瞬だけ見えたあれは。

 教室に戻りながらも、先程のことが気になる。彼女クラスになると、笑うとバックに花畑が見えるようになるのかな? って、わたし何言ってんだろ。







 


 あ、そういえば、あの課題はどうしよう。わたしから見たあの子はーー。






『いつも周りを見ていて気配りができる、とても頼りになる存在』

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