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◯出席番号10番

 今日も部活で汗を流したオレは、急いでカノジョの元へ走った。


「お待たせ!」

「お疲れ様、モリオ!」


 はぁー。本当に幸せだ。

 カノジョができてまだ二ヶ月。オレの頭の中はこの子でいっぱいだ。

 

 チビで勉強もできないし、運動は得意だけど野球部ではレギュラーに入れず。でも顔はカズヤ程ではないが、かなりイケてると思う。そんなオレに訪れた春。

 一年生の時に同じクラスになって、会った時から可愛いと思っていた。勇気を出して告白してよかった!

 クラスが分かれてしまったが、こうして毎日一緒に帰る時間が幸せで仕方がない。


「どう? 新しいクラス」

「どうって……普通だよ、普通。学級委員がうるさいこと以外は特に問題なし」


 責任感が強過ぎる奴って、オレに合うはずないよな。もっと余裕を持って欲しいものだ。


「そっかぁ。でもカズヤくんと一緒なんて羨ましいな。マジイケメンだもん。……あ、そういえば、あの子も同じクラスなんでしょ? ほら、あの真面目な子」

「ん? あー、もしかしてアイツ?」


 なんかさらっと他の男の名前が出てきた気がするけど、オレはスルーする。ま、あのカズヤだしな。

 

 そしてオレは教室の端の方にいる、まだ話したことのないあの大人しいクラスメイトを思い出す。

 オレと違って頭もいいみたいだし、いかにも優等生って感じで何か近寄りがたい雰囲気があるんだよな。まあ、美人だとは思う。


「あの子ね、小学校同じだったんだよね。それでさ、やっぱ今でも変わってるのかなって思って」

「変わってる……? んー、まー、そうかも。なんか不思議なオーラっていうの? そういうのがある気がするっていうか……」

「あ、そうなんだー! そうだよね。ほんとっ、何考えてるかわかんないんだよねー、あの子。気味が悪い。モリオ、気をつけた方がいいよー」

「おーう」


 そんな話の後も、今度の休みにどこに行きたいだとか、カノジョの部活の愚痴を聞いたりだとか、オレ達の会話が尽きることはなかった。






 

 ヤバい……。マジでどうしよう……。

 オレの前には派手に割れた窓ガラスがある。そしてオレの腕からは真っ赤な血が流れている。


「うっ!」


 こんなにもガラスの破片って痛かったのかと、深く後悔する。時間が経つにつれて周りがザワザワとしてくるが誰も近寄ってこない。確かにこの惨劇に関わりたい物好きはいないだろう。

 

 すると前からアイツが慌てて走って来る。


「上の階から見えて……。怪我は腕だけ? あっ、触んない方がいいよ。細かい破片が傷口に入るといけないから」


 「どうしてここに?」とか訊く暇もなく、手際よくガラスの落ちていない安全な所まで誘導してくれる。腕から滴る血でだんだん彼女の制服や上履きが汚れていく。

 

 初めて見る血の多さに次第にクラクラしてきたオレは、体中から脂汗をかくと同時に、視界が白くなっていった。






 目が覚めると、目の前に白い天井が見える。

 どうやら保健室のようだ。

 

「モリオ! ねぇ、わかる? 大丈夫?」


 心配そうな顔で、可愛いカノジョがオレを見つめる。

 さっきオレに駆け寄ってきたアイツはいない。

 腕には包帯が巻かれており、もう赤い血は見えない。


「何があったのか聞かせてくれるな?」


 保健室の先生の横から、担任の大橋が声をかけてきた。


「……はい」







 

 「最近のお前は、気合いが足りない!」と監督から言われたオレは、ひとり校舎裏でバットを手に素振りをしていた。校舎の窓ガラスに映る姿を見てフォームの確認をしてから練習に戻るように言われたのだ。

 

 別にレギュラーとかオレはどうでもいい。部活なんて程よく頑張ればいいと思っている。何でガチの野球部なんて入ってしまったんだか。少年野球はこんなんじゃなかったし、そもそもオレはやるならピッチャーが良かったのに……。

 

 初めこそはちゃんとバットを握って真面目に振っていたが、だんだん適当になって好きな洋楽も口遊み始める。

 

 そして……。

 

 バットを放り出して、オレは側に落ちていた丁度ボールサイズの石を見つけると、エースピッチャーになったつもりで構えた。

 もちろん手から石は離さずにフォームだけ……のつもりが振りかぶった瞬間に「何やってるんだー!」という監督の声が聞こえて、びっくりしたオレは体勢を崩して石を離してしまう。


「っ!?」


 気づいた時にはもう遅く、自分の拳ごと窓へ突っ込み派手な音を立てて窓ガラスが割れた。しかも破片がオレの腕に、鋭い傷をつける。





 


 監督はよく怒鳴る。あの時の声も、オレじゃなくて他の部員に対してのものだったようだ。

 まあオレが一番怒られるから、つい自分のことだと思ってしまった。ツイてないよな。

 唯一よかったことは、そんなに深くは切れていなかったことだ。その割に血はめっちゃ出てたけど。傷は残るかもしれないが、それ以外に影響は出ないだろうと言われた。

 

 はぁー。監督にこのことを言うのが一番恐いな。部活にすぐ復帰できると言われても、正直嬉しくない。


「もー、心配したんだからね!」


 頬を膨らませてそう言うカノジョに癒してもらおう。






 


 オレを保健室に運んだのは用務員のおっちゃんとアイツだそうだ。

 

 派手な音に気づいた野次馬は校舎の窓から覗き込んだり、遠くから見ているだけだったようだが、アイツは上履きのまま外に出てきた。

 制服にオレの血がつくのも気にすることは一切なかった。

 校舎に入る際、廊下が汚れないように血のついた上履きを脱いで靴下のまま保健室まで運び終えると、その足で担任とカノジョの元へと走ったようだ。

 ふたりに伝えた後、血で汚れた制服を洗いたいからと、オレの目が覚めるのを待つことなく帰っていったと大橋が教えてくれた。


「明日、ちゃんとお礼しろよ」

「わかってるよ」


 お礼って、なんかお菓子とか持っていった方がいいのかな。よくわかんないし、カノジョにも訊こう。それより受け取ってくれるか? アイツ「別にいいのに」とか言いそうだな。

 話しかけたことないから、明日はちょっと緊張するかも。

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