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truth〜6人とある少女の秘密の記録〜  作者: 尋木大樹


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17/20

◯同窓会 ②

「……」

「……」


 会場の端では、一組の男女が何も言葉を発さず隣合っている。

 

 大半の女性陣はその中の人気者に話しかけたくてウズウズしていたのだが、ふたりの異様な雰囲気に近づくことすらできなかった。

 受付後からずっとこの状態で、多くの者が視界にふたりを入れつつそれぞれの会話を楽しんだ。









 

 中学時代学校一の人気者だった上野カズヤは、同窓会の幹事のひとりである大塚に頼んで、事前に参加者のリストを見せてもらった。

 そこに求めていた人物の名前はなかったが、それは想定内だ。

 そしてカズヤは市が開催する『二十歳の集い』で、あることを実行することにした。









 

 演奏会等で利用される大きなホールで、カズヤ達は式に参加した。

 席は指定ではなく、みんな仲の良いグループで集まって座っている。

 カズヤもモリオや大塚といった友人達と一緒だったが、行く途中も式の最中も、ずっと周りをキョロキョロと見回した。


「どうした? 誰か探してんの?」

「……ん、まぁ」


 不思議そうに尋ねてきた大塚に、適当に返事をする。


「用事あるから、先出るわ。また、あとで」

「え? お、おい!」


 結局目当ての人物は見つからず、式が終わるとカズヤは急いでホールを出た。








 

 その年の二十歳になる市内の人間が集まっているため、外も多くの人で溢れていた。

 

 カズヤはその出口がよく見える場所を確保し、そこを通り過ぎる人物をひとりひとりチェックしていく。丁度柱でこちらが見えないのか、同級生に邪魔されることはなかった。

 

 やがて、ひとりの女性を見つけた。


「……いた」


 見失わないように、周りの人々を上手く避けながら走って彼女を追う。

 そして……。








 

「マコト!」

「っ!」


 その手を掴みその名を呼べば、ずっと会いたかった人が振り返る。

 久々に間近に見る彼女は、少女だった面影を残しつつもまた一段と大人の女性らしさがプラスされていた。

 赤を基調とした振袖は、黒をうまく取り入れて落ち着いた雰囲気を醸し出している。まとめ上げた髪のお陰か、綺麗な首が見えて色っぽさもある。メイクも品があり、彼女の素材の良さを活かしていた。

 その綺麗な姿をずっと見ていたい気持ちが強かったが、カズヤは頭を振ってその邪念を捨てた。


「来て!」

「え?」


 そのまま、わけのわからぬ状態の彼女の手を取って、カズヤは自宅へと急いだ。








 

 帰宅するとすぐに祖母と母親が現れた。カズヤの隣の人物にふたりとも初めは驚いていたが、すぐに彼女との再会を喜んだ。


「あらー! 綺麗になっちゃって、まぁー!」

「うふふ。綺麗よ。そうだ、写真。写真撮りましょう」

「そうね、カメラ取ってくるわ」


 そしてふたり並べさせられ、母親がカメラを構えた。

 「あとでこっそり現像しよう」と誓うカズヤの側で、彼女はいまだに状況が理解できていないようだった。


「あのさ」


 時計を確認してから、カズヤは盛り上がるふたりに声をかける。


「母さん、ドレス貸してやって。今日の同窓会用に」

「……ドレス? あぁ、いいわよ。うーん、何がいいかしら」

「それじゃあ、着替えるからこっちの和室にいらっしゃい。振袖はおばあちゃんに任せて。あら、この帯の結び方素敵ね」


 着替えをふたりに任せて、俺は幹事の大塚に連絡を入れる。


「これでよしっと」



 暫く待っていると、和室からドレス姿の彼女が出てきた。


「っ!」


 先程までとはまたガラリと変わり、今度は水色の爽やかなドレス姿になった。

 デザインはシンプルだが洗練されており、軽く巻いて下ろした髪型もとても似合っていた。


「どう? いい感じでしょ。まぁ、素がいいのもあるけどね。持ってる衣装の中で一番お気に入りのやつよ」

「もう……カズったら見惚れちゃって。ほら、また写真撮りましょう」


 そしてまたカメラを構え始める母親に押され、カズヤ達は再び横に並んだ。


「うん、いいわ! マコちゃん、お母さんにも見てほしいから、今日はそれ着て帰ってね」

「そうね、そうしなさい。この振袖はどこの?」

「あ、えっと、駅前の写真館で借りて……」

「あー、あそこね。あそこの奥さん、おばあちゃんの生徒よ。……そう、琴のね。だから今度のお教室の時に返しておくわ。これ、重いし家まで持って帰るのは大変でしょ。おばあちゃん、奥さんに電話しとくから。いいのよ、遠慮しないで」


 そんなやり取りをしているところを、カズヤはなんだか懐かしそうに眺めた。

 

 小さい頃から知っている彼女は、ふたりにとってもうひとりの孫や子供のようなもの。

 中学を卒業すると同時にピアノ教室を辞めてしまった彼女だが、こうしてまた昔のように可愛がれて相当嬉しかったに違いない。

 その後もふたりのテンションは高いままで、彼女もその空気を楽しんでいた。








 

 時間が迫っていたため、カズヤは再び彼女の手を取って外へ出る。すると、直前までとは打って変わり、彼女は怯えたような目でカズヤを見た。


「……どこ行くの?」

「どこって……同窓会に決まってるだろ」

「え? 私行かないよ? 欠席の連絡も入れてあるし」

「さっき大塚に言ったから問題ない」

「ちょっと、何で勝手にーー」

「俺が一緒に行きたかったから。だから……」

「……」







 

 会場に到着し中を除くと、まだ数人しか集まっていなかった。受付に見知った顔を見つけ、その前にふたりで立つ。


「あ、カズヤ君! 早いね……って、あれ?」

「コイツも参加するから。大塚には言ってあるんだけど、いいよね」

「え、も、もちろん!」


 対応してくれる元学級委員の隣では、他の幹事達がヒソヒソと話をしていた。


「何であの子が?」

「ねー。こういうの参加するなんて意外だね。ってそれより見て、あれ」

「え、うそ!」


 その視線は、カズヤと彼女の繋いだままの手に向いている。

 驚きの表情で見られていることに気づきつつも、カズヤはみんながいる中央ではなく会場の端の方へ彼女を引っ張っていった。







 


 それから同窓会がスタートし、「思い出のスライドショー」や「今だから話せるあんなこと」等、様々なコーナーが次々に行われた。

 それらをふたりはただ静かに観るだけで、自由歓談タイムに入ってからもカズヤ達の間には全く会話が生まれなかった。








 

「……」

「……」


やがて耐えきれなくなったカズヤが口を開いた。


「……何で、ピアノ辞めたの?」

「……別にプロになりたかったわけじゃないから。先生のレッスンもピアノも好きだけど」

「なら辞める必要ないじゃん。ばあちゃん達、めちゃくちゃ寂しがってたぞ」

「……」

「何で?」

「……」

「……俺だって……寂しかった」

「……カズのせいだよ」

「は?」

「カズの近くにいたら良くないから」

「え?」


 少しも思っていなかった答えが返ってきて、彼は混乱した。

 それを無視して彼女は続ける。


「ねー、カズ。他の子達のこと、ちゃんと考えたことある? 中途半端な態度で誤魔化してない? 今だってそう。この状況も、私にとっては苦痛でしかない。周りのみんな、カズと話したそうにしてるのが見えないの?」

「いや、俺はお前とさえいられればーー」

「私は違う。あの時言ったこと、覚えてる? ……さっきのだって、聞いてたでしょ。こういう場に来るだけで『意外だ』って言われるの。カズの家族は私も大好きだよ。でも、ごめん。私は……」

「……」

「……もう、行くね」

「おい!……っ!」


 その場から離れようとする彼女の手をきつく掴むカズヤだったが、その目に涙が溜まっているのに気づいて力が一瞬抜けてしまった。

 そのチャンスを見逃すはずはなく、彼女は急ぎ足で会場の外へ出ていってしまった。

 

 最後に目が合った時の彼女の悲しそうな顔が頭から離れず、カズヤはすぐに追いかけることができない。

 少しして会場を出た時にはもう既に遅く、追いつくことは叶わなかった。

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