◯兄
「そっかぁー。新橋先生、定年かぁー」
「うん。じゃそういうことで、にぃに、よろしくね」
「よし、任された」
夕食後、リビングでテレビを観ている最中に三つ下の妹に頼まれごとをされた俺は、中学時代の友人達へメッセージを送り始めた。
「えっと、『久しぶり!突然で悪いんだけどお願いがあって送っています。中学の時お世話になった新橋先生が今年度で定年退職されるらしいので、みんなで集まってサプライズをしませんか? 詳細はーー』こんな感じか?」
「うん。いいと思う」
高校生になってからはなかなか連絡できなかったが、こうして久々の連絡にもすぐに返信してくれる仲間がいるのは、とても幸せなことだと思う。
もちろん今の友達も大事だし仲は凄くいい。でも、幼稚園の頃から知る同級生はやはり特別である。
それにしても……まさか妹がこういうイベントに関わるとは。
いや、確かに兄である俺から見ても妹は思いやりのある優しい子だから、困った人をほっとけないのは知っている。でも……。
数年前、同級生に言われたことがある。
「お前の妹、なんか変わってるよな」
初めは……というか、今でも理解できない。
妹は「普通」だ。
家ではよく笑うし、俺とよく冗談も言うような子だ。そして家族みんな、絵に描いたような仲の良さだと思う。
その妹が「変わっている」だと?
「は? それ、どういう意味?」
「え……」
怒りを隠すことなく発せられた言葉に、友人は少し戸惑いつつも続けた。
「えっと、お前の妹と同学年に俺の妹がいてさ、それで聞いたんだよ。『変わってる同級生がいる』って」
「直接話したこともないのに、それを鵜呑みにするのか?」
「えっ……と……話したことはないけど、見かけたことならあるよ。なんか……近づきにくいオーラがあるなって」
「……」
「……怒った?」
「……ちょっと。……アイツは全然普通だから、そういうのやめてくれる?」
「……ごめん」
幸い、その友人とはその後仲直りし気まずくなることはなかったが、悲しいことに似たようなことが何度かあった。
「兄のお前はいい奴なのに、妹はアレだよな」
これも実際に言われたことだ。
「アレ」ってなんだよ!
こういうことがある度に、俺は全力で妹を必死に庇った。それは兄として当然のことである。
そんな妹が、こうして他の生徒と関わることをするとは……。
なんだか嬉しいようで寂しいような。同時に不安も襲ってくる。
「なぁ、これってお前が考えた企画?」
隣で寛ぐ妹に話しかける。
「アイディアを求められて仕方なくだよ。でも、学級委員の子がいい子でね、断れなかった。にぃに、ごめんね」
「俺は全然! 負担に思ってないから別にいいんだけど。それより、学校、上手くいってる?」
「……」
俺の考えていることが伝わったらしい。まぁ、兄妹だからな。
「……うん。大丈夫だよ」
「……ならよかった」
大丈夫……か。
それって「大丈夫」じゃない奴が言うんだって、わかってんのかな?
よし、とりあえずこの企画は俺が率先して関わろう。そしてなるべく妹を見てあげよう。
最近の忙しさを言い訳に兄妹の会話を減らすなんてあり得ない。俺がこの子を護るんだ。




