幕間2
幕間 二
雑然とした場末の酒場で身長が二メートルを超える漆黒のローブを纏った男が目立たない端の席で一人酒を煽っていた。
豪奢な装飾のなされた魔法剣は腰から外され今は円卓に立てかけられている。
薄暗い店の隅の更に薄暗い円卓に座るのは男だけではなく、もう一人の同席者が居た。 同じく黒いローブを纏った長身の女だ。フードは被っておらず、それでも薄暗い店の中でその顔を詳しく伺い知る事は出来ない。
特徴としては長い金髪を頭の高い位置でくくり、長い前髪は心中線で分けられている。耳は鋭く尖る二等辺三角形、エルフの物だ。 女の隣にはその身長を軽く凌駕する艶やかな黒染めの杖が立てかけてあった。杖の末尾には大きな黒く輝く宝石が埋め込まれている。魔術師が用いる魔力を増幅させる為の魔術長杖だ。
女の目の前にも酒のグラスが置かれているが、それには手をつけられた気配は無い。なみなみと適当に注がれた安酒が所在なさげにゆれている。
「まだなの?」
ガラスの鈴を控えめに打ち鳴らしたかのように、涼やかな声が響いた。耳が痛い程騒がしい酒場の中であってもその声は嫌に鮮明に響く。
「そろそろだろう。時は満ちた」
「満ちたら物は欠ける運命にあるのよ。欠ける前に決着をつけないと、次に満ちるのはいつになるかさえ分からないのに」
女はどこかいらついているようで細くしなやかな手に机の上でタップダンスを踊らせる。長い爪が刻むリズムは速く、神経質なテンポで響く。
その時、酒場の扉が控えめに開かれた。客達は誰もその事に気づかず入り口を見ようともしない。
ただ、この二人を除いて。
新たな客は背の低い小柄なヒトの男だった。どこにでも居そうな平凡な顔つきで、特徴と言えば燃えるような赤毛と左目の下に刻み込まれた大きな古傷程度の物だ。
小柄な男も例に漏れず黒いローブを纏っている。いや、それはローブと言うよりも合成繊維で編まれたポンチョのような物だ、フードは無い。
男は迷う事無くその席に歩を進め、空いている席に腰を降ろした。そして自分の獲物をポンチョの下から取りだし同じく机に立てかけた。
一メートル程の大きさの黒く細長い筒。大半がつや消しのマッドブラックに塗られた強化プラスチックで構成されるそれは先端部にスライドポンプを備えている。
女はぐるりと周囲に視線を巡らせた後で小さく口を開いた。
「消えろ」
ふっと、その場から全ての音が消え去った。グラスが打ち合わされる音、がさつな笑い声、酒場の喧噪全てが彼女の声に合わせて全て消え去ったのだ。
それでも彼等はそのことに気づいたような様子はなく、享楽のままに騒いでいる。正確に言えばこの円卓についている三人が喧噪から切り離されたようなものであるので当たり前だが。
「さて、時も人も揃ったな」
「あの子はどうしたのよ?」
「私が書状を送った」と長身の男。赤毛の男は腰のホルスターに収まっていた物をテーブルの上に出しつつ首を捻った。どうやら色々と収まりが悪かったらしい。
「こっちも根回しは完璧だ、いつでも潜れるぜ」
「そうか、ならば宴は近いな、乾杯といこう」
長身の男と金髪の女はそれぞれ卓上のグラスを手に取り、赤毛の男はポンチョの中から銀色に光るスキットルを取りだし酒杯の代わりに掲げる。
「輝ける日々に」
「失せた思い出に」
「消え去った時間に」
乾杯。唱和と共に三つの酒杯がかち合わされ、それぞれの喉を酒精が降る。酒が尽きると三人は己の獲物を手に席を立ち、酒場を後にした。
目的を果たし、因縁を断ち切り、仇の血を全身に浴びる為に………
一月以上ぶりの更新です。遅い上に短い………
見ていてくれている方がいるのならしばしお待ちを、今現在必死に書きためております故。色々忙しいんです受験とかで。
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