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復讐の牙  作者: Syurutu
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第一章 森の中の少女

 ひっそりと第一章。

 主に作者の趣味で構成されております。若干残酷やも。

「私は岩だ」

 私は無意識の内に呟いていた。仕事をするときのいつもの癖。いや、どちらかと言うと癖よりも習慣や願掛けに近いのかもしれない。この呟きを聞くと自然に体の感覚が消えて自分が一つの正確無比な機械になった気がしてくるのだ。

 こう言うのを確か自己暗示とかと言ったような気がする。先週読んだ週刊誌にそんな事が書いてあった。

 ここは森の中、よほどの物好きか密猟者、もしくは私のように仕事できた者しか訪れることの無いであろう最深部。直径が六mを軽く越えるような巨木が密生しているので一筋の光りすらも入らない“ノーチラス大陸”一の辺境。

 「岩は恐れない」

 ハンドルを引いて薬室を開放、腰の多目的ポーチから引っ張り出した巨大な黄金色に輝く弾丸を装填してハンドルを元の位置にまで戻す。

 重厚な金属音が耳朶に心地よく響く。この音を聞くと今から戦うのだという気分にさせられる。

 「岩は見つからない」

 今現在私は少々人から発見されにくい状態にある。地面を浅く掘ってそこに収まり、上にその辺の枯れ木や枯れ草を貼り付けた布を被っているからだ。

 なぜそんな珍妙な格好をしているかと問われれば無論仕事でだ、それ以外ではこんな蒸し風呂のような状態は願い下げだ。

 「岩は震えない」

 言葉通りに震えは無い。凄まじく重い、女である私が取り扱うには若干重すぎるくらいの長大な鋼の相棒は地面にバイポット(二脚)で固定されているからだ。無論相棒も背景にとけ込めるように私と同じく入念に偽装してある。

 「偉大なるクトゥルフよ我に力を… 」

 ノーチラス大陸で最も信者の多い宗教、クトゥルフ教の神に祈りを捧げる。別に信心深い訳じゃないが家族が熱心な信者でよく教え込まれたからこれも自然に口から出るようなっただけだ。

 因みにクトゥルフは“遺跡”から発掘された書物に記された神話で、一様に神様らしくない神を奉った奇異な宗教である。

 「大いなる全ての父アザトースよ私の弾に全てを打ち砕く力を…」

 相棒の上部マウントレールに据え付けられたテレスコープに仕事の標的が映し出されている。

 周囲の木々から対比して身長はおおよそで三m超。

 体そのものは辺りの一番太い木と比べても遜色のないほど太く、隆々とした筋肉に覆われている。

 腕一本とってもまるで丸太だ、軽く撫でられただけでも私なんか爪楊枝のようにぽっきりと折れてしまうだろう。

 形態は人型、力仕事に特化したのか右腕がやたらめったらと太く、その右手に倒木から削りだしたであろう棍棒を握り粗雑な獣皮のトーガをその巨体に纏っている。あのトーガを使えば軽く家一軒を覆えそうだ。

 スコープのおかげで姿は分かったが色は全く分からない、いかんせん暗いのでそればっかりは我慢するしかないだろう。この仕事で得た給金で暗視装置付のスコープでも買おうかしら。

 暗い森の中でもそれには一目でわかる目印が付いている。

 額から生えたうっすらと発光するまるで天に挑むかのような立派な“角”だ。

 「千の子を孕みし森の黒山羊よ、どうか慈悲をあたえたまえ…」

 相棒の安全装置は既に外してある、何時でも撃てる状態だ。

 スコープは風、湿度、距離を計算して修正済、計算はもう無意識にでも出来るレベルまで来ているし、まず間違う事はないはずだ。 そう思いたい。

 次の瞬間には、私は相棒の重いトリガーを引き絞っていた。

 相棒が森全体を震わせるかのような咆吼を上げてその口から鉄の猛威を吐き出しす。両サイドにある噴出口からガスと熱風が一気に噴出され私を覆い隠していた布を吹き飛ばしていった。

 スコープの中で目標の腹が文字通り“爆ぜた”。

 血煙が舞い上がり粘液にまみれたどす黒い腸が湯気を上げながら盛大ににまき散らされる、弾頭にしこまれている散弾が腹の中で炸裂したのだ。

 あまり見ていて気の良い光景ではない、むしろ気味の悪い光景だ。

 私はスコープから目を離し穴から起きあがる、着ていた装甲服が泥で酷く汚れてしまっていた。洗う手間を考えると酷く鬱だ。

 吹き飛ばされた布はすぐ隣に落ちている。

木っ端や枯れ葉を勢い良く振って振り払うときれいに全て取れた。

 布は艶がある黒でなかなか手触りが良い。

 二つ折りにして腰のベルトに止めて布を腰巻きにする、前は覆わず両腿までを隠すようにすると丁度良い具合になるのだ。

 因みにこれは本来このように使う物じゃない、ただ単に持ち運びを簡単にするためと自分の姿に威圧感をもたせるためだ。

 相棒を肩に担ぐ、かなり重いが苦痛でもなんでもない、むしろ逆にこの重さを感じていると妙な安心感を得られる程だ。

 「やったかな…」

 独り言て打ち抜いた標的の元へ走る、始末した証に両耳を持ち帰るためにだ。

 目標までは少し長く走らなければならないだろう、なにせ千五百mも離れていたのだから…



   


 





 おれは今地面に横渡っている、だからといって眠い訳でも疲れた訳でもない。

 食料を探しにでたらいきなり大きな音が響いておれの下半身がどっかにふっとんでしまったからだ。

 いや、ふっとんだのは下半身じゃなくて上半身か、おれの腰から下はまだもとの位置にたっている。大量の血を吹き出しながら。

 これじゃダメだ、早くなんとかしないと。おれが食料をとってこないとよめがうえてしまう…もうすぐ子供もできるってのに…

 這って下半身に行こうと思ったけど体が動かない…急に寒くなってきた…

 どれだけじかんがったったのかはわからない、すうふんか、すうじかんか…まあじかんがすぎたのはたしかだ。

 むこうからだれかくる…おんなだ、おれたちとはちがうしゅぞくの………だめだかんがえるのもおっくうになってきちまった。

 あれは…そうだ、くされエルフのめすだ。 めすはおおきなてつのかたまりをもっていた…なんだっけ………そうだ、たしかじゅうとかいうぶきだ。あれでおれをふっとばしやがったんだちくしょうめ。

 めすはくろいからだにそったかたちのふくをきている、むねやはらにはうすいぶんかつされたてつのいたがはってある…エルフどものよろいだ…

 「が…が…」

こえがでない、くそエルフめころしてやりたい。

 エルフのめすはわかかった、まだこどもだ。

 こども…そうだ…おれのこども…

 「まだ生きてる…凄まじい生命力…」

 エルフのめすがなにかいってるがきこえない…そんなことよりもよめとこどもが…

 エルフのめすがみぎかたのよろいをはいだ、どうなってるのかはわからないがくだもののかわをむくみたいにつるりとむけた。

 みぎかたはくろかった、ただくろかった。ふつうのうでじゃない、はがねでできてるみたいだ…

 それよりおれのこども………







 私は右腕に装甲服を纏い直して一息ついた。 目の前に横たわる巨体は巨鬼とよばれる亜人種の一つでひどく凶暴な性格をしており、何日か前に森を横切った商隊をおそってエルフの男女七人を殺し討伐目標にされた奴だ。 ノーチラスよりも未開大陸で殺し合っている方が似合う種族だが、いるとこにはいるものだ。  

私の巨鬼を見る視線にはきっと哀れむような色が含まれているのだろう。

 この巨鬼という生物はかつては巨大な脳でエルフにも負けない思考能力と“少し先の未来を読む”等という不可思議な力を持つ優良種の一つだったらしい。

 それは開拓歴より二千年も昔の創世歴の頃の話で、やはり今と同じくエルフとはいがみ合っていた。

 だが創世歴の半ばになろうという頃に、巨鬼にのみ感染する奇病がはやった。その病は脳を破壊し極端に思考能力を奪い知識を奪うものであったそうだ。

 病の遺伝子は巨鬼そのものの遺伝子に宿り今も彼等を蝕み続け、彼等を下等な生物に貶めている。

 かつてはエルフに並ぶ広大な版図を支配していた彼等も、今となっては片言の人語を操るくらいしか能のないヒトよりも下層に位置する害獣だ。

 そう思うと私は少し彼等を哀れに思ってしまう。もし病が巨鬼ではなくエルフを選んでいたらどうなっていたか…

 頭を振って思考を消し飛ばす、よけいな事を考えている余裕はない。私は腰から一振りのナイフを取り出した。

 ナイフはつや消し加工を施されたマッドブラックの子供の前腕部程の大きさを持つ軍用の物。便利なんだが少々私の手には余る代物だ。

 ナイフを硬質な鞘から引き抜くと、澄んだ音をたてて刀身が姿を現した。

 緩く弧を描く鞘と同じマッドブラックがだ妖しい艶のある刀身に私の顔が写る。あいかわらず無愛想で潰れた右目と、それをふさぐ金属片の目立つかわいげのない顔だ。

 ナイフの太いグリップを握り込むと、ナイフの刀身が浮き上がるような奇妙な音をたてて赤く赤熱しはじめた。

 このナイフは遺跡から掘り出された“遺品”のコピー品。たしか単分子カッターとかいうヒトが栄華をほこっていた時分の武器だ。

 高熱で振動する刃が分子レベルで物体を両断する優れものだそうだ。

 もっとも私は刀身の放つ熱を使って火をおこしたり大きな獲物を捌くのにしか使うこと以外はほとんど無いが………べつに下手なわけじゃない、狙撃手が好んで近接戦をするわけもないからだ。

 おおきな巨鬼の頭にナイフを寄せる、頭だけでも私の胸から上ほどある、大きさだけならお祭りで使われる魔術で肥大化させたカボチャ並だ。

 耳の付け根にナイフをあてがうと肉が焼ける気色の悪い臭いが辺りに立ちこめた、この臭いばっかりはどうにも好きになれそうないはない。

 ナイフはするりと刀身を埋めていき、とがった二等辺三角形の耳を見事に斬り落とした、他のナイフではこうはいかない、巨鬼の皮膚には金属が混ざっていて生半可なナイフや剣では刃を全て削り落とされて使い物にならなくなる。我々の先祖はコレをどうやって弓矢や槍で撃退したのだろうか。

 両耳とも斬り落としたら多目的ポーチに入れてきた保存ケースへしまう、ギルド(猟団)で配布される正式装備で凍結魔術が施されているらしくこのケースに入れた物は凍り付いて、腐る事無く持ち運ぶ事ができる、誰だって腐乱臭を漂わせながら街を歩くのは嫌な物だ。

 だが、その大きさは小さな文庫本サイズ、手のひら程ある耳を納めるには二つに折り曲げなければならなかった。

これで一応仕事はおしまい、街に帰りギルドに耳と報告書を提出すればしばらくは休暇だ、落ち着いて好きな事に取り組める時間は滅多にないので今から楽しみだ。

 一つ忘れていた、成体の巨鬼は必ずつがいで行動しオスは巣の近くで狩りをし家族を養う、成体のオスが単独で生活することはほとんど無い。

 つまりこの近くに巨鬼の巣があるはずだ。その巣も始末しないと仕事が完全に終わったとは言えない、このまま帰ったりしたら後々調査団が巣の存在に気づいた場合私は不始末で査問会にかけられ、下手をすると任務遂行能力の欠如でギルドから追い出される事にもなりかねない、そうなったら私の人生は控えめに言っても終わりだ。

 「焼夷テルミット(複数の金属を混ぜて起きる化学反応で発生する摂氏五千~七千度の熱で目標を殺傷する兵器)持って来ててよかった… 」

 溜め息をついて私は歩き出す、巨鬼の巣はそう遠くはないはずだ、この辺の五km以内に存在しているだろう。

 感想、ないしは誤字脱字指摘などお待ちしております。

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