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第五話 怪物との戦い

 砲弾のように跳ね飛んだのはシリルだった。

 見敵必殺。出方が分からない相手にはなにはともあれとりあえず突っ込むのがシリルのやり方である。

 どう考えてもリスクしかない戦法だが今までずっとシリルはこうやってきたのだから仕方がない。

 いつも通りシリルは真っ正面から怪物に斬りかかった。

 法術で強化された脚力の勢いそのままにロングソードを宙に立つ怪物に叩きつける。

「品のないやつじゃ」

 しかし、その切っ先は怪物には届かなかった。怪物は受け止めてさえいなかった。

 ロングソードの刀身は怪物の目の前、空中に壁でもあるかのように止まったのだ。

「ぐぎぎ.....なんだこりゃ」

「落ちろ」

 怪物が言うと同時にシリルはなにかを上からぶつけられ、そのまま地面まで落下した。

「ぎゃぶ!!」

 シリルはうめき声を上げるがすぐさま起き上がる。

 見あげた怪物の表情には揺らぎひとつない。ただ超然とした雰囲気でシリルを見下ろしている。

「くそっ。一筋縄じゃ行かねぇな」

「一目散に飛び込まないでください! いつになったら直してくれるんですかそのクセは!」

「死んでないんだから良いだろうが!」

 叫ぶエリザにシリルはわめき返す。

 そして、再び怪物に突っ込んでいく。しかし、シリルの剣は怪物には届かない。

「私は嘆き、私は平伏し、私は仰ぐ。縛法の陣の四『アナヘル』」

 光の筋が怪物に降り注ぐがそれは怪物の頭上でぐにゃりと歪んでしまった。

「この怪物はなんなんですか?」

 エリザは青年に聞く。

 その横でシリルが再び吹っ飛ばされて転がってくる。

「知らない。ただ、ずっと追われてる。こいつのせいで僕とシャーリーは故郷から出るハメになったんだ」

 シャーリーというのは傍らの少女の名前らしかった。

 2人はこの怪物に追い立てられるようにこのアルデバランに逃げてきたということなのか。

「そりゃとんだ災難に見舞われたもんだ。こいつの弱点かなんか分からないのか?」

「分からない。ただ、主に夜にしか現れない。それぐらいだ」

「ほとんど分からんってことか」

 青年はやっとかっとといった調子でシリルたちに情報を伝えると呻きながら脇腹を押さえる。話すのもやっとかっとらしい。

「これを。応急処置にはなります」

 エリザはそう言って治癒の薬瓶を青年の足下に投げた。

「ありがたい」

 青年はそれのフタを取り脇腹にかけた。それでもしばらくは動けないだろう。しかし、これで失血死するということもないだろう。

「さて、エリザ。どうすりゃ良いと思う」

「どうしたものですかね。討伐は恐らく不可能でしょう。龍や神霊と戦うようなものです」

「なるほど、じゃあ最終目標はほどほどにお帰りいただくってとこか」

「そうなるでしょう。どうしたら帰ってくれるのか良く分かりませんが」

「とりあえず、今のところ勝てる感じは全然しねぇな。なにがどうなってあいつに剣が届かないのかも分からん。というかそもそもなんであいつ空中に立ってんだ。いちいち跳び上がるのがダルすぎる」

「足場は作りましょう」

「お、頼んだぜ」

 エリザが写書を開く。

「私は俯き、私は掲げ、私は踏みしめる。護法の陣の六『ルミアル』」

 すると、空中に光の板が、足場がいくつも怪物を取り囲むように発生した。

 シリルはそこに飛び上がり、そのまま立つ。

「なんじゃ、噂に聞く聖典教騎士団とやらもこの程度か。バカのひとつ覚えのように突っ込んできよって」

「楽しみたいならハンデくれよ。そのわけの分からん見えない壁無くすとかよ」

 そう言いながらシリルはまた突っ込む、さきほどから正面、上、右左、下。そして横薙ぎ、縦切り、突き、と色々試して攻撃したがどれもさっぱりだった。

 全てあの見えない壁によって阻まれてしまう。

 次はシリルは飛び上がり、落下も利用して兜割を食らわす。

 しかし、これもまた怪物に届くことはなかった。

 あと少しのところで刃が止まってしまう。

 そして、またシリルを見えない大鎚のような衝撃が襲い、地面に跳ね返されてしまった。

「くっそぉ。らちが開かねぇ。あいつ魔術かなんか使ってるのか?」

「そんな様子は見られませんけど。周囲の魔力が濃すぎていまいち確信はありませんが」

「どうすりゃ撃退出来るんだかな。傷1つ付けられないんじゃどうしようもねぇな」

 今のところシリルの様子見の攻撃で怪物に傷が付くことはなかった。怪物自体も微動だにしない。怪物の方もシリルとエリザを試しているのか今のところ殺意はなかった。それも不気味だ。

 今のところ、この怪物を撃退する有効な手段は2人には思いつかなかった。

 分かるのはこの怪物が未だ全容すら分からないほどの化け物だということだけだ。

「余を立ち去らせたいのか? ならば話は単純じゃ。その小娘を余に渡せ」

「はぁ?」

 怪物の指は有角人種の青年の隣で青年の肩を支えている少女に向けられていた。少女は恐怖なのかキャスケット帽をより目深にして視線を隠す。

「その小娘の持つ『栄華の瞳』を渡せ。それは余のものなのだから」

 怪物は言った。

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