Case40.突入、秘密基地!
北米大陸東部海上。水没して群島となったその地域には、かつては第一文明復刻遺産として有名な自由の女神がそびえたっていたという。
現在、島の多くは緑に覆われ、鳥と虫が梢に遊ぶ楽園となっている。
航空機を失った人類の海上移動は、のんびりとした船旅が主体だ。
「このあたりは海が綺麗ね。“砂潮”にやられてない」
砂潮は地球が砂嵐に包まれていた時代の負の遺産だ。保温性の高い粒子が懐中を漂っているため、海洋環境は非常に不安定となる。
甲板で潮風を受けてローズアッシュを乱す黒ドレスの彼女。これから敵地に潜入するというのを微塵も感じさせない。
しかし、その余裕の裏では電波の網を張りめぐらせ続けている。
海域でもはぐれ自律兵器の災害は起こってきた。
戦艦を沈めるために作られた多脚自爆兵器の“オクトパス”や、ステルス破りの探索機“ドルフィン”などが船舶の航行の邪魔をする。
今回も差し向けられてきているようだが、当艦は電子の娘の手により安泰。
同様に、格好の的のはずのこの軍艦の上に黒鳥が飛ばないのも、同娘の功績だ。
要するに、「この先はノマド抜きではお断り」とフロイデンが言っているわけで、「それなりのイベント」が用意されているはずだ。
くだらないゲームに冷めていたぼくですら、嫌が応にも緊張が高まる。
「イヤー。戦艦の上は日焼けに持ってこいアル」
エセ中華文化女はデッキチェアを持ちこんで、ほとんど紐のような水着姿でバカンス状態だ。軍規も緊張も何もあったもんじゃない。
「カミヤ少佐、作戦の再確認をしたいのだが……」
デッキにあがってきたのは、プフィル中佐だ。もちろん黒のサイバースーツ姿。彼女はフージャオの痴態を見つけると、耳までまっかにしながら叱りつけた。それから、そんな水着娘の「護衛」を主張するスケベ少佐の腕を引っぱって退場していった。
わずかだが、軍医として基地に詰めていたころを思い出して頬がほころぶ。
今回は欧州都市軍から多少の人員と軍艦を一隻借り受けている。
貸主はハンス・シュティール大将。彼はフロイデンが反旗を翻したのちに総司令官の座に就いた。
カミヤ少佐がいうには、シュティールはフロイデンが尻尾を出す以前から失脚を狙っており、裏であれこれと手を回していたという。
フロイデンはチップの強化や否定を特に公言していなかったが、人間とマイドの和解が最終目的にあったのなら、否定派に有利な行動をとっていたと考えられる。
いっぽうで、シュティールは人体のサイボーグ化に関して肯定的で、否決されたもののサイバネティクス手術を軍人に適応する要請をおこなった経歴があった。
個人的には、彼がクスティナにスパイ疑惑を掛けて処刑に導いたと疑っているため、今回は味方とはいえ複雑な心境だ。
「オヨ? 何やら気配がするネ?」
やおらにフージャオが立ち上がり、船の端まで行って海面を見下ろした。
「アイヤー! でっかいタコがくっついてるネー!」
ぼくは慌ててレーダー役の妹を見やる。
「見落としは無いはずよ。生きてる兵器は周辺海域にゼロ」
ノマドは動く様子がないどころか、通信で水着のサンプルデータをぼくの脳裏に送りつけてきた。さまざまな水着姿の彼女がくっきりと浮かぶ。
『どれがいいかしら? 彼女みたいな下品なのはナシで』
『そんなことより、本当に自爆兵器が貼りついてる可能性は無いだろうな?』
ぼくは頭に水着シーンをこびりつかせたまま艦の端へと向かった。
「アイヤー! スタコラサッサアルー!」
フージャオが慌てて駆けてくる。それを追うように艦の下からにょきりと、巨大な赤黒い物体が現れ、長い触手らしきもので彼女を捕獲してしまった。
「タコだ!」「イヤーン、ぬるぬるネー!」
自律兵器ではない。生き物のオクトパスだ。だが、これは普通じゃない。
頭の直径だけでも十メートルはありそうだ。脚に至っては甲板の中ほどまでに届いているうえに、数も八本じゃきかない。
「どおりでわたしが見つけられないわけね。面白いことに、そのタコは図鑑にもデータが無いわよ。未確認生物みたいね」
ロマ少年に見せたら喜びそうだが、そんなことを言っている場合じゃない。
ぼくは仲間を捕縛している脚に向かってこぶしを打ちこんだ。ところが、ぬるりと滑って衝撃をほとんど逃がされてしまった。
「ダメだ。ノマド、なんとかしてくれ」
「いやよ、キモい」
彼女はそう言うと艦内へと引っこんでいった。しかも、せっせと水着リストの送信を続けたまま……。
けっきょく、巨大タコはカミヤ少佐の隊にレーザーで焼いてもらった。保護区の生物ではあるが仕方がない。それにしても驚いた。保護し過ぎると極端なかたよりや進化も起こるのだろうか?
などと考えながら、タコの残骸を海に捨てていると、遠方の海面にこれまた巨大な何かが見えた。シルエットは水面に浮かぶ白鳥といったところだが、ぼくははっきりと見てしまった。
「首長竜だ……」
そんなバカな。映画じゃあるまいし。作業をしていた隊員たちに訴えかけるも、彼らは見ていなかったらしく、首をかしげられた。
ノマドに飛んで確認してきてくれと頼んだが断られ、「またアニメ趣味をやる気になった?」なんて笑われた。
間違いなく恐竜だったと思うのだが……。
ちょっとしたハプニングはあったものの、艦は無事にプラントのある島へと到着。
そこでさっそく戦闘イベントだ。大戦時に使われていた揚陸艦が停泊しており、プラントから運び出した自律兵器の積載をおこなっている最中だったのだ。
作業員は少数のフロイデン派だけらしく、カミヤ少佐たちが速攻で制圧、自律兵器もメカニックお手製のウイルスをノマドに送りこんでもらい、一斉に機能不全へと陥れられた。ちなみに、このフロイデン派には人間だけでなく、森組のマイドたちも含まれていた。
「あとはプラントを制圧したら終わりか?」
「そうなんだけど……。イヤなヤツ。“わたし対策”をしてるわ」
プラント内には電子的に切り離されたオールドな仕掛けを主体とした設備が多くあるという。
「しかも、監視カメラがうるさいほどにアピールしてるわ」
侵入者を監視している、というよりは「見せつけるため」だろう。
送信して貰ったデータには「緑の液体に満たされたカプセルに浮かぶ異形の生物」だの「廊下を徘徊する機械と肉のつぎはぎ動物」だの「大量破壊兵器の代表」だのの映像が並んでいた。
「要するに、バンネッドテクノロジーのオンパレードということか」
ノマドいわく、この「ゲーム」ではプラントの地下に隠されたバイオ技術の秘密研究所に侵入し、バケモノ退治をしながらその奥底に用意された核ミサイルの発射装置にたどり着き、発射を阻止しなければならないのだとか。
ミサイルの威力は小さな都市区画を消し飛ばすほどもあるようだが、フロイデンとしては「必要な犠牲」と位置づけている可能性があるため、ぼくも焦りを感じた。
施設に入り、発見した資料に目を通すと、ここでは人間の遺伝子改造よりも、動植物の改変や旧時代の生物の復元などの研究がなされていたことが分かった。
先ほどの恐竜らしきものや巨大タコに関連したデータもある。
どうやらここは、フロイデンがタッチする以前から秘密裏に稼働していた施設らしく、核ミサイルも攻撃ではなく証拠隠滅が本来の目的だったようだ。
しかし、今は改造されて北米都市の破壊を目標とさだめている。
道中の仕掛けには電子的と原始的の複合。現れる「モンスター」も施設の広さやミサイルへの被害を想定すると難敵に値するものが多かった。
オオカミやトラのサイボーグは狭い通路にてレーザーを封じられた隊員たちを翻弄したし、大部屋のカプセルから目覚めた狂暴な改造ゴリラはぼくの筋肉を喜ばせ、ノマドを爆笑させた。
ふざけたステージだが、ぼくとノマドだけでは攻略は難しかっただろう。部屋数も多く、複数人の手が必須だ。
とはいえ、お約束のオンパレードと過剰演出に呆れてため息が出たのも事実だ。
……だが、ミサイルの制御部屋の手前で現れた当ダンジョンの「ボス」は、ぼくを含めたかつて第一基地のメンツのこぶしを強く握らせるに値する相手だったのだ。
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