Case23.捕虜
欧州第一部隊は帰還した。死者ゼロ名。負傷者数名。
ただし、ほかの部隊には殉職者が出ている。
カミヤ隊長が言うには、マイドたちは市民への攻撃は避けていたが、戦闘員には武器や魔法を向けてきたという。
だが、戦争をやるには連中の武装は貧弱過ぎた。
つるぎは本当にオールドな鋳造品で、ロングソードやレイピア、バスタードソードやクレイモアなどの古典的な有名どころが使用されていた。
対してこちらは、出力や照射時間次第では分厚いコンクリートをも溶断できるレーザー銃や、鉄板も斬れる電磁カッターが標準装備だ。
カミヤ隊長は「スコアランキングでトップを獲ったろうよ」と余裕の笑みだった。
いっぽうで「魔法」について。
これはランプ女史が怒ってた。あまりにも手抜きだって。
火炎魔法は可燃性物質を利用したものだし、電撃魔法を撃てる杖にはバッテリーが入っていて、貯水タンクを背負って水魔法を唱えていた者もいたらしい。
確かにがっかりだ。だが彼女は、マイドたちの残骸や、捕獲した個体はトップシークレット扱いで、それらを触らせてもらえないことのほうに特に怒っていた。
「んで、ランプのヤツがうるせえから一匹捕まえてきた」
欧州第一部隊基地食堂。
ぼくたちは作業用特殊ロープでぐるぐる巻きにされた一体のマイドを囲んでいた。
「少佐、バレたら軍法会議ものだぞ」
プフィル中佐はそう言いながらも、マイドの所持していた「黒い三角帽子」を覗きこんだりひっくり返したりしている。布製だそうだ。
「ゲームみたいなことになっちまってるってのに、上は満足に説明しやがらねえ。こいつらは侵略者だ。第三部隊にも死者が出た。弱ってた東欧都市軍や、北米都市のほうも酷くやられたって聞いた」
「あなたたちだって、私たちの仲間をたくさん殺したじゃない!」
反論したのは捕虜のマイドだ。
安物のスピーカー音のような響きだが、若い女性の声をしている。魔法使いの衣装を剥いで確認すれば、継ぎ目の見える白く滑らかな硬質のボディがあり、その胸部や腰のラインも性別を表していた。
「裸にして、酷い! 私をどうしようっていうの!?」
彼女は表情筋をぎこちなく動かすと、目から液体を流した。
「いっちょ前に泣いてやがる」
隊長は吐き捨てるように言った。
「脳だけ人間だったりはしないだろうか」
疑問を呈したのはクスティナだ。
「私たちは、機械の身体よ。頭脳も心臓も。あなたたちと同じなのはこころだけ! 今、あなたたちがやってることがどういう行為なのか、分かるでしょ!?」
「戦争だ。そっちの目的を吐け。誰に作られた?」
隊長は彼女の「髪」をつかんだ。痛い。悲鳴があがる。
誰も止めないようだ。ぼくはいたたまれなくなった。機械が相手だというのに。
ぼくは隊長を落ち着かせ、自分に対話を任せてくれないかと申し出た。
「カウンセラーのお手並み拝見だな」
隊長は吐き捨てるように言ったが、要求を呑んでくれた。
彼女の名前はティーン・ローリング。十八歳だそうだ。
侵攻部隊の志願班所属で、クラスは“ポーン”だといった。
先日のジャック映像通り、自然保護区のレッド・ラインの向こうの地下に築かれた、機械生命体のマイドたちの暮らす国からやってきたという。
目的も“キング”の言ったとおり。「人間を是正するため」に宣戦布告をした。
彼女たちは「脅威」に対してのみ条件付きで攻撃できるようにプログラムされており、決して民間人は傷つけないという。
「誰に作られたか」に関しては、ふたつの答えがあった。
ひとつは、「両親」が製造。もうひとつは、「人間」。彼女たちはもともと、人間のお手伝いロボットとして誕生した存在であり、人工知能技術の進歩により人格が生まれ、人権も認められて第二の人類となった存在だという。
「でも、地上に出たときにモメちゃったらしくって」
第二文明時代末期、ふたつの人類は環境を復活させるために砂嵐に挑んだ。
最終的に人類は地球を汚した贖罪を達成したが、意見の対立により人間とマイドは決別することとなった。
「人間は私たちのことを捨てたんだ。ずっと仲良くしてきたのに……痛い!」
唐突に彼女の髪がつかまれ、顔が引き上げられた。
「誰がおとぎ話を聞かせてくれなんて言った? そんな話、歴史にも残ってねえじゃねえか!」
「隊長、捕虜への暴行は文明人のすることじゃありません」
クスティナがたしなめ、ティーンを見下ろす。
「何か証拠はないのか? きみの身体に使われている技術が、今の人類の保持しているものを超えているのは分かるが」
「わざと忘れたのに証拠なんて。全部、あなたたちが処分しちゃったんだから」
「わざと忘れた? 僕らが?」
可哀想。ティーンが言った。忘れたことも忘れちゃったんだね。
「都合の悪いことを忘れさせてくれる魔法、あなたたちは持ってるでしょ?」
乱暴な音がした。隊長は両手をポケットに突っこみ、足を突っ張ってイスにふんぞり返っている。苦しそうな表情だ。
「エビングハウス回路のことを言ってんのか?」
彼はそう言うと、途端にうめいて後頭部を押さえ、床に転げ落ちた。
「びっくりした。正解だよ。規制が掛かってるから絶対に気づけないと思ったのに」
マイドの娘は目を丸くしている。
彼女いわく、エビングハウス回路は単なる記憶補助チップではないらしい。
むしろその逆。チップに頼るようになったから海馬が退化したという。
そしてチップを貼りつけるのを決めたのは人間で、マイドたちの存在を抹消するための機能も回路に搭載した。
「レッド・ラインを越えられないのも、飛行機が使えないのも、みんなチップのせいだよ」
彼女の頭へ、レーザーの銃口が向けられた。
「ならば、あの黒い戦闘機を作れるのは貴様らだけということになるな」
死神プフィル。彼女も後頭部を押さえ、怒りと苦悶をないまぜにした貌だ。
「う、撃たないで! 死にたくない! 地下にいるのに飛行機なんて使わないよ!」
「おまえの証言が事実とは限らない。技術的には可能なはずだ。おまえのせいで……」
今にも引き金を引きそうだ。
中佐はフージャオに取り押さえられた。
「乱暴はダメネー。隊長さんが何か言いたそうアルヨ」
フージャオがうながす。隊長はまだ頭を押さえ呼吸も荒く、酷い汗をかいていた。
「マイドの連中は自律兵器とも交戦してると聞いた。こいつの言ってることが正しいか、単に上に知らされてないだけだろう。俺たちみたいにな」
それから続ける。「おい嬢ちゃん、髪引っぱって悪かったな」。
「カウンセラー、おまえの意見も聞きたい」
中佐もまだ眉間にシワだ。ぼくは率直に答える。「こころは“ひと”だと思う」。
「おまえたちの意見は分かった。判断は保留とさせてもらおう」
彼女はテーブルの上でへたれた三角帽子を整えると、食堂をあとにした。
「フージャオ、櫛とか持ってねえか。俺は女にタッチはしても暴力は嫌いなんだ」
「セクハラもこころへの暴力ネー? ブラシとハサミあるヨー」
フージャオはどこからともなくヘアブラシと理容ハサミを取り出した。
「あ、あの。髪は植えこみなので切られると困る……」
「でも、毛先が焦げちゃってるネー?」
「わ、本当! 炎の魔法を使ったからかな……。さきっちょだけ切ってくれる?」
髪を気づかうマイドは、さも大変という表情をしていた。
「オッケーヨー。ワタシ、ヘアメイクも得意ヨー? お団子がいい? 辮髪がいい? それとも、チョ・ン・マ・ゲ?」
フージャオはハサミをちょきちょきとした。
「にゃーっ!? ちょっと整えるだけでお願いします!」
「そんなことより、服を着せてやったほうがいいんじゃ?」
クスティナが提案した。
それを聞いたティーンは、急に恥ずかしいだのなんだの言って、陸に揚がった魚のようにのたうった。
「ロープもほどいてやらないか? 彼女もひとなら、人権を尊重すべきだ」
彼はジャケットを掛けてやった。
「あ、ありがとうお兄さん……」
機械娘が青年を見上げる。
「そう、ロープをほどこう」
女性の声が割りこんだ。
「尋問が済んだんなら、もういいよね?」
自作のメカニカルグラスを掛けた、バイオレットのポニーテール。
天才メカニックがオールドな電動ドライバーをうならせた。
「にゃーっ!? 待って待って無理! そんなにおっきいの規格に合わないよ! っていうか、どうする気ーっ!?」
「解体するに決まってるさ。そのために、軍規を犯してまで持ちこんだんだ」
マイドの娘の表情がこわばる。感心するほどよくできている。
いっぽうでメカニックの女は目を見開き、鼻の穴を広げて呼吸も荒い。あっ、よだれまで。よくない。
ランプは隊員たちに取り押さえられてしまった。ぼくはなんとなく彼女が怖かったので、捕り物には加わらず、筋肉にステイを命じておいた。
「えーっと、私、どうしたらいいのかな?」
首をかしげるロボットの娘。
食堂にはほとんどの隊員とスタッフが集まっていた。
ぼくらは全員同罪。これから先、どうなるのだろうか。
だが、おとぎの国から来たあの子に服を持ち寄ったり、彼女の話を聞きたがったりするみんなの顔を見ていると、重い気持ちにはならなかった。
「あれ? 何かいいにおいがする」
ティーンが鼻を鳴らしている。嗅覚センサーとやらだろうか。
「広報部向けに開発してる新メニューだよ」
厨房に立っているのはコックのふとっちょパーシモンだ。
彼の料理が胃袋を鷲づかみにするのはもちろん、おいしい店にも詳しく、最近加わった女性陣にも高評価を得ている。
「いいなあ、食べてみたい」
ティーンは誘われるように厨房のカウンターへと近づいた。
「食べてみる? できたてが一番!」
太った男はにこやかに言った。
だけど、ティーンは「私たちって充電式だから」と首を振った。
「電動式なのに、いいにおいだって認識できるんだな」
「そうだよ、身体の大きなお兄さん」
ティーンはぼくのほうを見る。
「だって、私たちマイドは、人間に憧れるように作られてるからね!」
満面の笑顔だ。
どうしてだろうか。ぼくは、とても悲しくなった。
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