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Case21.俗にいう合コンだ

「だから言ったんだがな……」


 ぼくはため息をつく。宴会場は大爆笑だ。笑われているのはぼく。その「原因」は軍人たちの前でプリーツスカートをひらりとさせ、上機嫌だ。


 飲み会の呼び出しに邪魔をされたルネは、自分も行くと鼻息を荒くした。

 それはまあいい。だけど彼女は、着替えるのを面倒くさがって、ハイスクールの制服のままのこのことやってきたのだ。止めたぞ? ぼくは無事に犯罪者のレッテルを貼られた。


「ま、明日になったら忘れてるさ。俺たちは憶えてるがな」

 カミヤ部隊長がそう言うと、会場はまたも大爆笑だ。ぼくも忘れないんだが?


「ルネちゃん、こんな時間にそんなカッコしてたってことは、お楽しみ中だったネ?」

 妙な訛りのある女性だ。文化的中華衣装のチャイナ服にシニヨン。

 どこかで見たことのある体つきだが、思い出せない。


「お、お楽しみ……」

 ルネはいきなりの振りに対応できず、赤面して着席してしまった。

 そのリアクションはマズい。会場は、いっしゅん静まり返ったあと、みたびの爆笑。


「すまない、まさか恋人を伴ってやってくるとは思わなかったんだ」

 小声で謝ってきたのは連絡を入れた隊員で友人のクスティナだ。彼は物腰柔らかい青年で、普段から学問や思想についてよくディベートし合う仲だ。


「あとでフォローはしておくさ。それより、今日はなんの席なんだ?」


 いつもは十人以下で男ばかりが集まるのだが、今日は大会場を借りての大所帯となっている。男のほうは知った顔ばかり、基地に詰めている連中だ。女性のほうはチャイナ娘になんとなく見覚えがあるほかは、見たことのない人ばかりだ。


「その子って、アルツくんの言ってたフィアンセ?」


 見たことのある人がいた。バイオレットに染めた髪をポニーテールにして、自作のメカニカルグラスを掛けている女性。食事の席だというのに作業ツナギ姿。ランプ女史だ。彼女は機械技術研究部に所属しており、基地の機材や隊員の装備の世話を焼いてくれているメカニックだ。


 ランプが現れると、ルネは、ぱっと表情を明るくして彼女の手を取った。

 ランプはちょっとした有名人だ。幼いころより機械工学を始めとした各種学問にて才能を開花させており、本来は八年設けられるモラトリアム期を特例で半分で終え、軍に招かれた。そのうえ、各種学術データをインストールされたさい、そのデータのほとんどをすでに学習済みだったという挿話付きの大天才。


 ただし、見たことのない機械や仕掛けを見るとばらばらにする悪癖がある。


「フォロー役を取られてしまったようだね」

 クスティナが笑う。


「それにしても、カミヤ隊長はどういうつもりなんだ? 俗にいう合コンか?」

 女性陣も全員が軍部に所属している人間だという。


「合コンというか、慰問会だって話だ」

 この前の戦いでは女子部隊も大きな被害を出したと聞いた。


 ぼくは、ちらと隊長を見やった。

 彼は女性隊員に声を掛けては追っ払われてを繰り返している。


「カミヤさん、下心で呼んだに違いないネ」

 チャイナ娘が言う。ようやく彼女が誰か思い出した。

「どこかで見た筋肉だと思ったら、フージャオ少尉か」

 彼女は女子部隊所属の格闘術の教官で、ときおりうちの基地にも来る。

 とても強いうえに見てくれもいいので、男連中はよく鍛えられるわけだ。

「筋肉じゃなくて顔で憶えて欲しいネ。ゴリラ(・・・)さん」


 ある日のことだ。

 彼女が組手で男性隊員を全員のしたあと、ぼくがたまたま通りかかったのだが、現場勤めと勘違いされて組手に誘われてしまった。

 

 面白そうだったので受けた。

 技術や身のこなしでは圧倒されていたが、筋力が違い過ぎた。格闘のプロ相手にパワーの一本勝ち。

 それ以来、ぼくは「ゴリラ」と呼ばれるようになってしまった。


「ウホウホウホウホ」

 フージャオはドラミングをしている。はユーモアにも溢れている魅力的な女性だ。


「相変わらず残念な頭をしてるな。せっかくむちむちなボディをしてるってのによ」

 セクハラ隊長が戻ってきた。

 「首尾はどうでしたか」と訊ねると「スコアゼロどこかマイナスだ」と言った。


「ざまーみろネ」

 フージャオが笑うと、カミヤ隊長が彼女の服のスリットから腿へタッチした。

 それから隊長はぐるんと宙を一回転して、人や料理の無い床へと転がされた。

「K.O……」

 隊長がぼやき、男どもが笑った。


 いつもの光景だ。隊長は女性と見れば、だいたい声を掛ける。

 「いつ死ぬかも分からねえんだから、楽しんでおけ」が彼の口癖だ。

 食事処に行けば必ず従業員に声を掛けるのはもちろん、フージャオには「勝ったら付きあってあげるネ」と言われてぼこぼこにされたとか、あっちでうちの恋人と会話を弾ませている性別メカニックにスパナで殴られたという噂もある。

 だが、任務はしっかりとこなす。人間としてはともかく、上官としては慕われている。


 笑い声と食器の音の飛び交う会場。

 隊長はあの体たらくだが、中には会話が弾んでいる男女の姿もある。

 やっぱり、ただの合コンか。


 しかし、隊長の言うようにいつこんな日常が消えてしまうか分かったものじゃない。


 最近は自律兵器の災害の頻度が増加しているし、謎の黒い戦闘機が現れて街を破壊するケースも目立つようになってきた。ぼくらは対空の攻撃手段に乏しい。航空機も持ち合わせていない。対策は検討中で、やられっぱなしだ。


 それだけじゃない。武装した「人型のロボット」までが現れたという噂まである。軍部内ですら「噂」レベルのおとぎ話だが、開発された記録の無い戦闘機がいるのだから、もしかしたらそういうこともあるかも知れない。


 最初に科学文明が隆盛した第一文明時代は三千年も前だ。技術的には人型ロボットや無人戦闘機も実現可能だったらしいが、さすがにその時代の兵器は残っていないだろう。第二文明時代は地球は砂嵐に覆われていたし、この時代に主流だった素材は寿命が短く、発掘品は極端に少ない。


 天才メカニックは「上層部が何か隠しているに違いない」と言っていたが……。


「さてと!」

 隊長が手を打った。お開きだろうか、一同が注目する。

「おまえら、ちゃんと仲は深めておいたか? ここで重大発表がある」


 なんと、ここに招かれた女子部隊がこちらの基地へ居を移すという。

 関係者もほとんどが聞かされていなかったようで、会場はざわついた。


 部隊統合の理由はふたつ。

 人数が減ったために欧州第一女子部隊の基地は閉鎖されることとなった。

 この場に来ている二十人弱で全員だ。


 次に、広報部の都合。

 最近、保安状況が悪化してネガティブな空気が世界に蔓延し始めたため、エリートの多く集められる第一基地の隊員たちを使って、現場での活躍を撮影して勝利を派手に宣伝して、これを打破しようという企画が立ち上げられたんだとか。プロジェクトのためには男女入り混じったほうが何かと便利がいいということらしい。


「ゲームや映画みたいで面白いだろ? 恋愛シミュレーションは禁止だからな」

 遊び感覚で言った隊長は大ブーイングを受けた。

 ところが彼は、急にまじめくさった顔になって咳払いをした。

「プフィル中佐、ご挨拶をお願いします」

 隊長が横に座っていた制服姿の女性隊員に声を掛けた。

 ぼくはこのタイミングになって、彼女の制服に佐官であることを示す階級章がくっついていることに気がついて腹の底の温度を下げた。


「女子部隊長のヴァージニア・プフィル中佐だ。部隊統合により役職からは外れるが、基地内では女子部の寮長を務めさせてもらう。現場では階級を忘れて接して貰えるとありがたい」


 彼女は宴会中、ただ黙って食事をしていた。隊長が気に入って無理矢理呼んだものかと思っていたが、彼が一言も声を掛けないから妙だと思ったんだ。


 宴会場は水を打ったようになった。それも泥のような、血のような重い水だ。

 だがそれは、佐官が現場や職場を連れてやってきたからではない。


 プフィル中佐には不名誉なあだ名がある。


 死神。


 彼女の部下の第一女子部隊の大半が殉職してしまっていたから。

 男女の練度差は大きくない。壊滅に近い形になったのも、基地の立地が東欧の現場により近かったのが原因だろう。だが、彼女の指揮に問題があったせいだとまことしやかにささやかれている。


「死神プフィル」

 誰かが言った。女性の声だった。


「そうだ。私は死神だ。せんの作戦で大きな失態を犯したのは事実らしい。ゆえにカミヤ少佐に部隊を譲ることとなった。少佐も私の指揮下に入らずに済んで安心しただろう?」


 彼女はたんたんとしていた。


「へっ、ヴァージニア・プフィルなんか怖くねえな」

 軽口を言ったのは当のカミヤ少佐だ。


 プフィル中佐は片眉を上げ、瞳に憤怒を灯した。


 ところが……!


 ナンパオトコは彼女の手を取り、「あんたいくつだ? 悩みがあったらカウンセラーより、俺のところへ来いよ」などと口説き始めた。


 その場にいた全員が青くなったろう。


 ところがどっこい、プフィル中佐は顔を見る見るうちに赤く染めると、「け、検討しておく」と言った。それからすぐに「同じ現場隊長経験者だからだぞ」と付け加えた。

 そこにフージャオが「ジニーは箱入りで男に耐性がないネ!」とやり、「よ、余計なことを言うな! 私は浮気者は嫌いだ!」と中佐が慌てる。さらに予想外の返答に面食らっていた隊長が「善処する」なんて間抜けな顔で言ったものだから、場の空気がまたも笑いへと転じた。


 プフィル中佐はしばらくなんとも言えない表情で耐えていたが、急に立ち上がったかと思うと「やはり処罰しておくべきだ!」と隣の男を指差した。


 彼女がどのくらいまじめに行動を起こしたのかは分からない。

 けれども、「ちぇっ、憶えてろよ!」と誰かさんが芝居臭く言ったので、終わりまで宴会の灯が消えることはなかった。


 ダン・カミヤ少佐。いまどき創作物の中にしかいない軟派な男。

 だが彼はきっと、わざとやっているのだろう。

 ぼくは聞き逃さなかった。彼がからかいから解放されたのち、つぶやいた言葉を。


「そうだ。憶えてろよ。忘れるんじゃねえぞ。誰が死んでも」


 彼はもう一度「忘れるんじゃねえぞ」とひとりごちると、右腕の内側を掻きむしった。


 ルネも帰り道で「今夜のことは忘れない」と言っていた。

 それがぼくとのプライベートのことなのか、機密混じりの宴会のことなのかは言わなかった。翌日になってから訊ねると、「宴会、面白かったね」とだけ答えた。


 ぼくはそれ以上、聞けなかった。


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