キルイルで出会った胡散臭い奴
ぷおおおおん!!
「長旅ご苦労様ですぅ。ただいま到着しましたぁキルイル東ぃ、キルイル東ぃ。観光案内・ブランターヌ行き馬車乗り場は左手側ぁ、繁華街・宿屋街は右手側にございまぁす。御降りの際は足元に十分な注意を払ってくださぁい。」
……
「着いたぁ!!!!もう体がかちこち!!」
アナウンスの指示には一切従わずに馬車から飛び降りたカリンが目一杯の伸びをした。
「邪魔だぞ。早く横に逸れろ。」
「分かったわよ。もう、しょうがないわね。」
カリンは仕方なさそうに馬車の入り口から退けた。後ろからレインが馬車を降りるとそれに続いてプルディラ、ロビー、ライガの順に馬車を降りて行った。
「ご乗車ありがとうございまぁす。」
間の抜けた声のアナウンスが流れると馬車はそそくさと走り去っていった。
「ああ~!!やっと着きましたね。結構な長旅でしたね!!」
「ああ、疲れも案外……実感できるもんだな。なあレイン、それぞれ動くのは後にして近くの食堂で休憩でもしないか?」
三日も馬車に揺られっぱなしで、プルディラ以外は疲れが顔に滲み出る程疲れ切っていた。そんな中、ライガからのこの提案である。乗らないわけには行かなかった。
「そうしよう。近くにそれらしい店は……。」
「あの店なんか良いじゃない!!」
そう言ってカリンが指差したのは一軒の小さいレストランだった。お昼時には少し早い時間にも関わらず店の前には数人の客が並んでいた。
「ええ……良いけどさ。どうせなら並ばなくても良い店にしないか?」
「おいレイン。よく見りゃ近くの店は全部行列が出来てるぞ!!」
ライガが何かに気づいたようにレインの肩を叩いた。レインが辺りを見渡すと、辺りの飲食店の入り口から伸びる行列の長さが目に入った。
「うわっ!!何だこの賑わい。祭りでも始まるのか?」
レインも思わず声を立てる程の賑わいだ。一店舗なら兎も角、ここら一帯がこんな様子なら町そのものが賑わっているのだとレインは憶測を立てた。
「でも御者さんは何も言っていませんでしたよね?」
「確かにな。……ま、考えても分からないものは分からないな。この中で比較的ましなのは……最初にカリンが言った店だな。」
辺りの店の殆どは十数人、下手をすれば二十を超える人が並ぶ店もある程の繁盛を見せるが、カリンが選んだ店の行列はたったの五人だけ、いや今三人に減った所だった。
「でしょぉ?こういうのは変に考えずに直感に従った方が良いわよ。」
そう言って目的の店へと駆け出していくカリン。
「ま、待て!!この状況でも人が少ないってことは!?」
……
「……。」
三十分後、スプーンを咥えるカリンの顔は青白く渋み、見るからに元気を失くしていた。
「まz……美味しくない。」
「だから言ったろ?この状況で人が少ないって事は何か問題があるって。」
気を落とすカリンにレインは小声で話を聞かなかった事を諫めた。
「うっさい。……アンタの作るご飯よりはましよ。」
悪態を付きながらカリンは二口目を運んだ。やはりその味は強烈で、濃すぎる舌触りにカリンは身震いを一つ。
「うううう……これ凄ぉ。濃すぎるソースが甘いスープとあまりにも合わな過ぎて、無理矢理かっ込んでぐちゃぐちゃに噛み混ぜた口の中みたいな味がする。」
「止めろよ。食事中だぞ。」
「嫌な表現ですね。ずずず……あっ、何か分かるかも。」
食欲が減衰するカリンの表現にロビー以外の匙を持つ手が止まった。何故ロビーだけ一定の理解を示せるのかレインが疑問に思っていると、隣のテーブルに座っていた無精髭の男が声を掛けて来た。
「よう姉ちゃん達。この店は楽しんでるかい?」
「はあ?何アンタ、楽しめる訳ないでしょこんな料理で。」
カリンが蛆虫を見るような目で男を睨みつけた。すると男はぶふぅと肺の空気を噴き出した。
「ぶわっはっはっは!!!!だろうな!!その料理死ぬほどまじぃもんな!!」
「ちょ、誰か知らないけど大声でそんな事を言うのは流石に失礼じゃねえか?」
男のあまりな言い方にライガは我慢しきれなかった。テーブルを挟んで向かいに座る男に睨みを効かせた。
「おおっとっとお!!そんなに気張るなって。悪い言い方はしたけど、実際そうだろ?大丈夫、ここのばあちゃんは耳が遠いからよ。聞こえちゃいないって。」
そういう問題では無かったのだが、悪びれない男の様子に不愉快になりつつも、ライガはこれ以上事は荒立てるまいと怒気を収めた。
「あ、分かってくれたか。そんなら不愉快にさせちまった詫びに一つ良い事を教えてやる。……この店はほぼ全部まじいが、スープ麺だけは美味いぜ。」
そう言ってけらけらと笑う男だったが、目の前に料理がある為レイン達は何も良い事には感じなかった。
「はぁ……分かったよ。またいつか機会があったらな。」
「機会っつっても年に一回くらいはこの町に来る事もあるだろ。お宅等もあれを目当てにブランターヌに行くんだろ?じゃあ来年だって機会くらいあるさ。」
レイン達の事情を見透かしているかの様な口振りで話す男だったが、レイン達には目当てと言われて思い当たる節がまるで無い。
「あれと言われても……何の事だ?あ、分かったぞ。そうやって知ってる振りをしてすり寄って来る詐欺の手口だろ。」
レインはそんな詐欺の手口があったと思い出し、それに酷似したこの状況をそう分析した。
レインの冷ややかな眼差しに男は一瞬ぽかんと口を開けて呆けた。直後、慌てふためき首と手をぶんぶんと振り回して強い否定の意思を示した。
「いやいやいやいや!!!!違う、違うから!!!!てっきり俺はあんたらも魔術師の眼月を見に来たんだとばかり!!」
「どうだかな。」
「いやいや、本当だって!!今この町に来る奴らの大半はブランターヌの月目当てに来てんだよ。な、お前等?」
男は周りの顔色の悪い客達に同意を求めた。彼等は具合の悪そうな顔を縦に振る。つまり同意を得たと言う事だ。
「な?な?言ったろ?嘘は言わねえんだって俺は。」
「確かに嘘は言ってないみたいだが……だからと言って詐欺じゃないという訳ではないだろ。」
「……そ、そうだ、知らねえみたいだからよ魔術師の眼月について……いや、ブランターヌについて教えてやるよ。これから行くんだろ?なら知っておいて損はねえだろ。……いやあなんて優しい男なんだ俺は。こんな男が詐欺師な訳ねえよなぁ!!」
レインからの鋭い指摘を受けた男はむしろ怪しい取り繕い方を始めた。
「あんたなぁ……まあその話は興味があるな。嘘じゃなければ。」
十分な用意も無いままブランターヌに向かうことになったレイン達にとって、怪しさに目を瞑りさえすれば願っても無い提案だった。
「嘘じゃねえって!!……じゃあ何から話すか。はなっから眼月について話しても理解できねえだろうから、先ずはこの辺りの文化的なものから教えてやるよ。お前さん達はどっからきたんだ?」
「クーティからだ。」
レインがクーティの名前を出すと男はああ!!と大きな反応を見せた。
「クーティか!!あそこは良い所だよな。俺も時々団長と行くぜ。風呂は入ったか?あの湯は何でも、」
「話が逸れているぞ。俺達がクーティから来たから何だって言うんだ?」
軽快に話を脱線しようとした男にレインが注意を入れた。
「おっと悪い悪い。悪いとは思っているから睨むのは止めてくれよお嬢さん。……クーティから来たって事は龍神渓谷は渡って来ただろ?どうだったあの絶景!!俺みたいな馬鹿もんでも見惚れる位だ。お前さん達ならさぞ心奪われて、心と体で分裂でもしちまったんじゃないか?」
「おい、いい加減にしろよ。話す気が無いのなら俺達はもう帰るぞ!!」
再び逸れ始めた話にレインは多少苛立ちを見せ、席から立ちあがった。すると男はレインの鼻元にごつごつと強張った人差し指を差し出した。
「な、なんだよ。」
「でもな、綺麗なだけじゃないんだ。龍神渓谷にはバケモンみたいな連中が住み着いているのさ。あそこから一歩でも外に出れば辺りがざわめく様な連中がな。」
話を続ける男。その内容は昨日読んだ観光冊子の内容を思い返し、男が嘘を言っていない事を認識した。
「……。」
「お、聞く気になったかい。でだ、そんな連中が住み着く渓谷が周りを囲んでいるもんだからこの辺りの町々は気が気じゃねえわけよ。そこでこの町々、主にブランターヌ、キルイル、ベイリンの三つが主導してある制度を作った。」
制度とは何か、考えるレインの顔を見ながら男はにやりと笑ってこう言った。
「傭兵ギルド制度。またの名を……危ないお友達お助け制度さ。」
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次回の更新は1月4日です。今話が遅れたので明日です。すみません!!
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