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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
第三章:デジットハーブ
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カリンの戦い

 ライガが戦いに赴いた地点から時は遡りパドが大魔法を放った辺り。所変わって焼け焦げた瓦礫の中。


「あ"ぁ……全然上手くやれない。」


 乙女らしからぬ声を出してカリンは仰向けの状態で己の不出来を嘆いた。

 実はつい先ほど町を破壊する巨大な砂の手を焼き尽くしたカリンだったが、その際彼女は自身の身体に変な感触を覚えていた。


「なんか炎が出難いし……もお!!」


 普段というかこの町に来る前なら、何も意識しなくとも魔法は勝手に出てくれていたのだ。

 先程もいつもと同じように剣に炎を纏わせて、砂の腕を焼き切ろうとした。

 しかし、魔法を繰り出す瞬間身体のどこかが詰まるような感覚を覚えた。そしてぷすんと変な音が聞こえたかと思えば、剣に炎を纏わせるという細かな操作が利かなくなった。

 慌てたカリンは急いで炎をただ噴き出す事で難を逃れたが、その後も依然として魔法の操作が利きにくい。

 普段出来た事が出来ない苛立ちから、カリンは手元の瓦礫を叩き割った。


「腹立つ……ちょっと!!そんなとこでゆらゆらするな!!やるなら早く来い!!燃やすから!!」


 瓦礫を壊しても苛立ちが収まらなかったカリンは、視界の端の元砂の手に怒りをぶつけた。

 しかし、腕に耳は付いて居ないので、カリンの声は届いていないようだった。


「っとにもお!!人を馬鹿にするのもいい加減に……」


 突然言葉を切ったカリン。彼女が見つめる先はもちろん目障りな砂の腕、その焼け跡部分だった。

 よく見れば、カリンの炎で焼け尽くされなかった腕の残り部分に何やら透明な膜の様な物体が見える。


「なにあれ……。」


 カリンは怪訝そうな顔で見つめるがそれが何なのか検討も付かなかった。流石に自分の炎が原因だとは気づいていたが。

 実を言えば、それは砂の中に混じった珪砂の様な物質が炎によって溶かされ、ガラス状の膜の様に広がり固まった物だった。

 その答えにカリンが辿り着くことは無かったが、カリンはただその透明な膜を眺め続けていた。何か思うところでもあるのだろうか。


「綺麗ね。」


 違った。ただガラスに見惚れていただけだった。

 確かにカリンの炎によって不純物が焼き飛ばされたガラスは非常に透き通り、少し加工を施せばクリスタルに成るだろう美しさの原石を秘めていた。

 そうして見つめる事十数秒……


「はっ!!そんな場合じゃなかった!!早く二人を援護しなきゃ!!」


 すべき事を思い出したカリンは重い体を持ち上げて、烈火を向けるべき敵へと視線を移した。

 ジェイルマンの失われた頭は八割程の再生を既に遂げており、周りを飛び回る二人にやけに翻弄されているように見えた。


「よし!!あたし……も……?」


 飛び立とうと大きく翼を広げたカリンだったが、再び思う所があったのか首を傾げる。

 そしてジェイルマンの顔と腕を交互に見比べた。何度も首を振り、カリンは頭に湧いたものを言葉にした。


「何で後に壊れた方が再生していて、あたしが焼いた方は何も変わっていないの?」


 確かに。ジェイルマンの頭よりも腕の方が先にダメージを負っていた筈だ。

 しかし、先に再生を終えるのは頭だ。腕では無い。そこには明確な異常があるとカリンは睨んだ。


「同時に再生出来ないとか?いやさっきは出来てたわよね。なら頭を優先させたかったとか?無くは無いけど、そんなにパドの攻撃が厳しかったのかしら?でも最初の腕は直ぐに戻ったわよね……。」


 考察を続けるカリン。彼女は直ぐに答えに辿り着く。


「……あの膜か。」


 どうなっているのか知らないが、きっとあのガラスの膜が再生の阻害をしているのだろう。そうカリンは考えた。


「……やってみる価値はあるわよね。」


 そう呟いてカリンはガラスの膜に覆われた腕の断片へと近づいて行く。

 腕はよく見ればカリンを弾き飛ばそうと左右に動いている。自分の腕が無くなっている事に気が付いて居ないのだろうか。

 カリンは片手に剣を持ち、炎は纏わせずにゆっくりと構えた。


「アンタ、あたしを殺りたいみたいだけど、正直……でかくなった今の方が怖くないのよ!!」


 カリンはそう叫びながらガラスに向かって剣を振るった。

 当然付く傷跡。ガラスが砕けて中のうねる砂粒が露わになった。

 砂粒共は意思を持つかのように開いた隙間から飛び出した。

 元の腕を形成しようと形を変えるが、元の腕との間のガラスに阻まれて上手く結合する事が出来ない様子。


「これではっきりしたわね。はあ!!」


 カリンは原因を突き止めて好い気に成りながら、炎を噴出させた。

 炎は再びジェイルマンの砂の腕を焼き尽くした。再生しかけの状態だった腕が元の状態、ガラスの膜に覆われた状態に逆戻りしてしまった。


「じゃ、これを三人に伝えに行きましょ。きっと有益な筈ね。」


 腕が元の状態に戻った事を確認したカリンは、一先ずライガに会って二人にも伝えようと思った。

 だから町に向かって飛び立とうと砂の腕に背を向けたその時、


「ひっ!!!!」


悪寒がカリンの身体を通り抜けた。

 堪らず振り向いたカリン。彼女は奇妙なものを目撃した。


「うわっ触手っ!!気持ち悪っ!!!!」


 そう叫んでしまう程不気味な触手達が砂の中から生え伸びていたのだ。

 悪寒は触手から発している。よく見ればリードの身体を修復していた不気味な赤黒い触手と、大きささえ違えどよく似た容姿をしている。


「これ……もしかして砂そのものが本体という訳じゃない?」


 カリンは明らかに内側から伸びる触手に自分達が大きな思い違いをしていたのでは無いかと思い至った。

 触手はガラスの膜を包み、飲み込むと、徐々に腕の形を創り出していく。

 そして触手の表面からぱらぱらと砂粒が零れ落ち始めた。


「……あ、今やんないと。」


 カリンは目の前で悠長に再生を始めた触手へふと思い立ち、炎を飛ばしてみることにした。


「-----!!!!」


 炎は見事に着弾。触手は悶え苦しみ、うねうねと暴れ出した。


「あれ?……なんか……。」


 リードとの戦いに比べて隙だらけ、理知的な外殻に比べて機械的な中身の動きだ。

 カリンはリードとの戦いを踏まえた上で、目の前の砂の獣に対してこう思った。


「なんか、コイツ馬鹿じゃない?」


 カリンは触手の動きに知性を感じなかった。張り詰めていた緊張感が少しだけ解れた。


「こんな馬鹿そうな奴に踊らされているなんて屈辱の極みね、これは。」


 苦しそうな動きを見せていた触手はそれを忘れたかの様に再生の続きをし始めた。


「はぁ……。」


 カリンは呆れたように炎を飛ばす。燃え広がって悶えるその光景は焼き直しに過ぎなかった。


「さて、こいつが馬鹿だと分かった上で何をすべきか。」 

(でも、どんなに馬鹿らしい存在でもこいつは……アイツと同じ存在。慎重に事は進めないと。)


 カリンは深追いし攻撃を続けるかどうか迷っていたが、再生能力を持つ以上苦しみ以外のダメージは与えられないと考え、三人への情報伝達が先だと結論付けた。


「やっぱりアイツ等に、」


 うぉん……

 カリンの耳元に青色の魔方陣が突如発生した。


『レイン、カリン聞こえるか?』


 魔方陣からライガの声が聞こえた。通信の魔法を使用したようだ。


「ライガ?丁度良かった!!」

『こっちも丁度いいタイミングだ。』

『なんだ。二人とも


 カリンは三人に話したい事があった為丁度良いと表現したが、なんとレイン側も話したいことがあった様だ。なんと絶好なタイミングだろうか。


「あたし!!あたしが話す!!」

『んん……まあ良いぞ。こっちは結構余裕があるからな。』

『俺も良いぜ。』


 そうしてカリンは砂の手を焼き払ってからリードの物によく似た触手が非常に頭が悪い事まで話し切った。

 それを相槌混じりに聞いていた二人はまるで違った真逆の反応を見せた。


『だからか!!』


 この強い反応はレインの発言。カリンの取った行動に対して何か思い当たる出来事でもあったのだろうか。


『そうなのか。』


 この落ち着いた反応はライガの発言。ライガの戦場には何も影響が無かったようだ。


「だからかって、何かあったの?」

『ああ、ある時から急に動きが鈍くなったんだ。大体奴の頭がつぶれた時からだな。その後も何度か、あ!!カリン今やったろ!!こいつの動きが鈍ったぞ。」


 カリンは確かに蠢き出した触手に火を放った。上空から見えはするだろうが、冗談を言う時間では無い事はレインも分かっているだろう。


「じゃあ本当にこの触手が本体みたいなものって事?」

『そうらしいな。兎に角カリンはそこでその触手を抑えて置いてくれ。』


 分かったとカリンは炎を飛ばした。


『じゃあ次、俺からも良いか?少し前、これも奴の頭が潰れた時点からなんだが。町中に奴の分体と思わしき存在が発生した。数は数百と言った所だ。』

「え!?」


 ライガからの報告に驚き、一際大きな炎を生み出してしまうカリン。もったいないので未だ悶える触手にぶつける。


『大丈夫なのか?』

『ブラグドッグやグリーニヤの助けもあって今は安定している状況だ。それでも力足りず一般人にも幾らか被害は出てしまったが。』


 悔しそうに話すライガ。


『そうか……ん?何々……カリンの行動の影響がライガの方には出ていない事を考えると、もしかしたらその分体は本体とは切り離されているかもしれない。最初に動きが鈍ったのは分体を創り出したからだってパドが言っている。』


 レインを背負っているパドにも話が通じているようだ。


「なるほど。あたしが攻撃する前から弱ってたって言ってたもんね。」

『だとすると、敵の砂場生成や再生、分体作成の能力は元を辿れば魔成素の様な一つの力の源って事にならねえか?』

『……分体を創り出して動きが鈍り、再生を阻害して動きが鈍る。もしそれが正解なら奴に動させれば、』



 オマエ!!ダマシタナッ!!

 ……おいおい、人聞きの悪い事言うなよ。お前らのやり方が下手なんだ。目の前の敵放って置いて回復するとかやっぱり素人だな。


 激高する意識達は冷静な指摘も聞き入れない。百年の信頼は死の嘶きによって簡単に崩壊した。


 グウウウウ!!!!モウイイッ!!ジブンデヤルッ!!

 ……お前等にはさ、覚悟が足りねえんだよ。今まで全部俺に押し付けて、甘い汁だけ啜って来たよな。

 ダカラナンダ!!

 ……ちょっとはよ、生にしがみ付くの止めても良いんじゃないか?それ位じゃなきゃ勝てねえぞ。ま、そもそもお前等に残った生なんか鼠の爪垢すら残ってねえけどなあ!!!!

 ギャアアアアア!!!!コロスッ!!!!アイツラモ!!!!オマエモオオオオ!!!!

 ……馬鹿が。


 かくして戦いは最終段階に突入する。

 煽りにまんまと乗せられた意識達は自分の行き先が詰みとは知らず、真っ直ぐと進んで行く。

 しかし、もうどうなってもいい。そう覚悟した者の為す事は非常に恐ろしい。

 未だ絶大な被害無しのレイン達。運命の神はそれで終わらせてくれる程甘くは無い。



「あれ?アイツ等どこに……」


 カリンの視界から触手が消え失せた。


『何!?目を離したのか?』

「違う!!炎で見えなくなった瞬間にどこかに居なくなったの!!」


 あの巨大な触手が消えるような時間は無かった筈だ。まさか死んだのか、そうカリンの脳に浮かんだ時、


『こっちも分体が綺麗さっぱり消え去った!!ほんの一秒前には居た筈なのに!!」


ライガの方からも異常が報告された。一体ジェイルマンに何が。


『は?おい、なんで触手がこんな所に……!!』


 薄っすらとパドの声が聞こえる。もしやレイン達の方へ移動してしまったのか、カリンはそう考え見上げるが位置的に影になって丁度見えない。

 カリンは急いで走って飛んで空を駆けて、影から脱したカリンが見たものは紛れも無くあの触手。


「何あの……数。」


 ジェイルマンの異形の口から伸び出たそれは、優に千を超えるだろう。

 その一本一本が意思を持ち、うねりながら目の前に浮かぶ二つの命に呪毒を浴びせんと奮い立つ。

 この国に張り付けられた最悪の呪の一端、その真にして全霊の力が解き放たれようとしていた。

ご閲覧いただきありがとうございます!!

次回の更新は9月13日の12時頃です。

評価と感想をお待ちしております。

ツイッターでも更新の告知をしているのでフォローお願いします。(最近はさぼりがちですが)

https://twitter.com/sskfuruse

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