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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
第一章:ミッシュ
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ミッシュでの日々2

「おぉーい。かぁりーん」


 飲み屋街からシルク亭に向かう道の途中、カリンは背後から声を掛けられた。

 一瞬、暴漢かとも思ったが、明らかに聞いたことのある声だった。振り向くとそこには同じ宿に寝泊まりをしている男の姿があった。


「アンタ何やってんの?こんな所で…ってお酒臭!」

「ははははははっ!」


 レインは誰の目から見ても分かる程に酔っていた。呂律は回っておらず、顔は赤く色付き、身体から酒の匂いを放っていた。


「何笑ってんの。ちょっと近寄んないで、もたれ掛からないで!」

「うあー、かぁりん、おまえのな、おまえのぉ、つくってぇ」

「何!?何て!?」


 レインは何かを言っているようだが、何を言っているのかカリンには伝わっていなかった。


「だからあ…」

「だから何…って寝た!?嘘!?起きて、起きろってば!」


 夜の町にカリンの叫び声だけが響くのだった。



「本当に申し訳ございませんでした。」


 朝、人々が動き始める時間帯。一人の男が床に頭を付けて謝罪をしている。


「アンタ、昨日の夜の事覚えてるの?」

「…はい。」


 そんな男を見下ろす一人の女。男は昨日の夜の出来事を覚えているようで、女の問いかけに頷き、返事をした。


「アンタねぇ、お酒を飲むのは勝手だけど、人に迷惑かけたらダメでしょ。あたしだったから良いけど、他の人にやったら危険人物だからね。分かった?」

「はい。もうお酒は飲みません。」


 カリンの説教が終わり、レインが項垂れ続けていると、不安そうな顔をしたシンが恐る恐る扉を開いた。


「兄ちゃん、悪いことしたの?」

「ええ、とびっきりのバカな事をね。」


 シンに向かってとびっきりの笑顔でカリンはそう言った。


「と言うか、シン。アンタも昨日怒られてたよね。町の外に無断で出ようとしたとかで。」


 矛先が自分に向きそうなのが分かったのか、シンはそそくさと部屋を離れていった。


「まあ、昨日女将さんにこってり絞られてたから大丈夫だと思うけどね。さて…」


 カリンはレインの腕を掴み、無理矢理に立たせた。


「ほら立って。悪いと思ってるならちょっと付き合ってよ。」

「付き合ってって、どこに?」


 レインは思い当たる節が無いようだ。


「それはもちろん、ここに来る前に話してたところよ。」



 街から離れた郊外の丘の上に建てられた店、喫茶パロ。


「ほら、これも食べてみなさいよ。ほらほら。」

「だから、ローズベリーはそんなに好きじゃないんだって。ほら見ろよこのリップルの瑞々しいこと。」


 二人は馬車の中で話していた店へと赴いていた。結局、どちらの果物が美味しいかという不毛な争いは続けていたが、馬車の中での様に言い争いになる程では無かった。


「ねえ、レイン。」

「ん?なんだ?」


 カリンからレインに話しかけるが、カリンは悩んだような顔をするだけで話をしようとしない。


「カリン?」

「…あー、レインは何で旅をしてるの?」


 カリンは絞り出したように質問を投げかけた。


「別に、そうしないと生きていけないからだよ。」

「そう…」


 話がそれ以上続かない。その後も何度か質問を投げかけるカリン。


「店、あんな調子で大丈夫なの?」

「昨日は大繁盛だったよ。」

「何で民宿に泊まってるの?」

「なんか帰ってこれる場所、自分の家の様な気がして好きなんだ。」

「…趣味は?」

「もちろん魔道具を作る事。」


 色々質問をするが、レインにはどうも本題のようには思えなかった。


「…なあ、カリン。」


 コーヒーを一口飲み、レインが神妙な面持ちでカリンに話しかけた。


「何?どしたの?」

「何か話したいことがあるんじゃないのか?」

「…何で?」


 カリンは持っていたフォークを置いた。顔が少し強張っている。


「なんとなくだよ。なんとなく、俺に相談したいことがありそうだなって。」

「…そう。」


 カリンはジュースを一飲みした。話したく無いことなのか迷うような顔をしていた。


「アンタの言う通り。自分自身の事で相談したいことはある。多分アンタしか解決できないと思う。でも、まだ会って一月も経っていない人に相談するにはちょっと…」


 そう言ってカリンは再びジュースを一飲みした。


「言いにくいってことか?」


 カリンは深く頷いた。


「言いにくいなら無理には聞かない。でも、俺が解決できることなら協力したいよ。幸いな事に俺達は出会えたんだからさ、いつか俺を信用出来たら話してほしい。」


 俺からはそれだけだと言って、レインは残っていた菓子を頬張り、コーヒーを飲みつくした。辺りに気まずい雰囲気が流れる。


「…これ貰うぞ。」

「あっ!」


 レインはカリンが残していた一粒のローズベリーを口に入れた。


「それあたしの!」

「早く食べないからだ。…んん!ローズベリーも案外いけるな!」


 カリンは憤慨したが、レインの言葉を聞いて、


「でしょ?」


と微笑むのだった。

ご閲覧ありがとうございます。

次回の更新は22年2月12日0時です。

追記:一部改稿しました。

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