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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
第三章:デジットハーブ
87/119

「目的地に到着たぜ。」


 耳に手を当て、ライガが空に向かって声を発した。


「……分かった。伝えて置く。二人共、グリーニヤも準備は出来たらしい。」


 そう言って振り返ったライガの耳元に小さな魔方陣が浮かんでいる。魔方陣は蒼く点滅しながら、その存在を薄めて行く。


「へぇ、本当にグリーニヤと話せてるんだ。つくづく魔道具ってのは不思議ね。」


 カリンは不思議そうにライガの耳、と言うよりも耳に装着されたピアス型の魔道具を観察している。

 実はこの魔道具、グリーニヤが元々間諜との報告に使っていた文字起こし魔道具をレインが改造したものであった。

 一般的な文字起こし魔道具は雷魔法を原動力とするように改造を施す事で遠く離れた位置でも会話が出来る、今回の場合三人が居る埠頭の灯台から山近くのジョー・ホルターの庭に待機しているグリーニヤまで魔法が届く代物へと生まれ変わった。

 原動力が雷魔法である為ライガ以外は起動が出来ない使用となっているが、三人の内で最も疾く洞察力にも優れたライガがこれを持つ事に意味があった。


「戦いの前にもう一度各々の動きを振り返っておこう。」


 内容はこうだ。主な戦闘役のカリン、サポート役のレイン、速度による攪乱と状況を把握した指示、場合に応じて戦闘もこなすライガの三人が前線に立つ。町をブラグドッグが警備、住人の避難を行う。グリーニヤは遠くの高台から戦場を俯瞰で監視し、ライガに状況を伝える。

 万全とは言い難い即席の作戦ではあったが、対リードの時に二人が苦しんだ人員不足と状況把握の限界を解消した、ある意味では最善の作戦であるとも言えた。

 もう腹を括ってジェイルマンと対峙するしかない。どれだけ凶悪で神秘を孕んだ敵だとしても。

 しかし、そんな状況に立たされた彼等にも一つ懸念点が残されていた。


「これで全部だが……レイン、行けるか?」


 そう言ってライガはレインに目をやった。暗い。レインの周りが黒く塗りつぶされたように暗かった。


「……当然だ。あいつが俺を呼んでる。なら、行かない理由は無い。……ぶっ!!」


 思い詰めたように語るレインの顔をカリンの両手が挟み込んだ。


「あにすうんだよ。」


 何する、と突き出た唇で喋るレイン。間抜けなその顔ではまともに発言も出来ない。


「アンタ、自分のせいって気に病んでるんじゃないでしょうね?」

「……そんな事無い。そもそも何が俺のせいになるって言うんだ。」


 全然分からないと、そんな振りでレインははぐらかす。それをカリンはあっそと一蹴し、


「言っとくけどアンタみたいな雑魚は、不都合なことがあったら武器のせいにでもしておけばいいのよ。鈍らなこの剣のせいだってね。」


と言い放ったのだった。


「誰が雑魚だよ。……そんな事言っても俺は曲げないからな。あいつには聞いておきたい事があるんだ。」


 レインはそれが何に向けてのアドバイスなのか分からなかった。ただ、きっとこの心優しい鳥女は自分を気遣って言ったのだろう、そう思う事にした。


「じゃあさっさとジェイルマンを倒しちゃいましょ。早く次の町へ向かいたいもの。」


 カリンは一人勝手に灯台に向かって歩いて行く。二人もその後に続いて行く。

 時刻は午後九時ジャスト、約束の時間だ。



「ジェイルマン……来たぞ。」


 真夜中の埠頭に腰を掛け、墨色のさざ波を静かに見つめる大地に縛られた男が一人。

 ライガの声でジェイルマンは振り返らない。静かに煙を吐きだすと、赤熱した灰殻で紅い放物線を描くだけ。


「聞きたい事がある。」


 ぽちゃんと酷く弱い水落音をレインの震えを押し留めた窮屈な声が塗りつぶした。


「俺あよ……海が好きなんだ。」


 ジェイルマンが口を開く。昼間に会った時とは別人に思える程重く厚い声色だった。


「昔っから海を見るとよ……弱っちく臆病な本音の欠片がその時だけは広い海の様な大皿に焼き直された様な、そんな気がしてよ。」


 お道化た、癪に障る話し方ではない。きっとジェイルマンは今、本心を話している。


「好きな子に告白する時、軍の試験を受けた時、戦争の前日、背中を押して欲しい時には必ず海に足を運んだのさ。……あの時もそうだ。俺は糞ったれな現実から逃げ出したくて、まだ何も無かったこの場所に逃げ込んだのさ。」


 ジェイルマンは近くに転がっていた煙草の空箱を片手で弄り回して海に放る。海を神聖視しているという内容の話とは似つかぬ行為を繰り返す。


「でも海は俺の苦しみ何か分かっちゃくれなかった。俺が一人で救われた気になってただけなんだって、気付かなけりゃ……俺は外道に堕ちる覚悟何かしないで済んだのになぁ。」


 ジェイルマンが立ち上がった。カリンとライガがレインの一歩、二歩、三歩前で立ち塞ぐ。


「リードの事を知っているのか?」


 レインはジェイルマンに最も聞きたかった、謎多き男リード・ジストロックについて切り出した。

 すると、ジェイルマンはにやりと笑う。三人には背を向けていた為本当に笑っているかどうか定かでは無かったが、雰囲気が三人の知っている道化のものへと早変わりした事でいつものジェイルマンに戻った気配を感じたのだ。彼の言葉で言うならば臆病な本音を包み隠した状態と言うべきか。


「リードさんは何て言ってたんだ?」


 始めてこちらの言葉に耳を貸した。しかし、レインの質問を上書きするかのようにジェイルマンは新たな質問で答えた。


「こっちが聞いてるんだ。」


 負けじと返すレインだったが、


「リードさんは、何て言ってたんだって……聞こえてるか?」


 ジェイルマンから強い圧を感じる。早く話を進めろ、と言ってはいない言葉が聞こえてくるようだった。


「……奴の隊長とやらの伝言だよ。」


 圧されたレインは簡潔に、リードから受け取った伝言の概要を答えた。すると、


「……ぶわっはははははは!!!!」


ジェイルマンが急な爆笑を始めた。張り詰めた空気に異様な笑い声が広がって行く。


「何だ?何が可笑しい!!」

「いやぁ……あんな鋼鉄を人型にしたような御人でもイカレちまったかぁ。今世紀でいっちばん笑える事実だな。」


 ジェイルマンはひとしきり笑うと振り返り、その真っ黒な眼でレインを見つめてこう言った。


「良い事教えてやるよ。リードさんが言う隊長ってのは……今の国王の事さ。」

「は!?」


 想定外の答え、予想外の大物に言葉を失ったレイン。前に立つ二人も息を飲む。


「間違いない。時代に捕らわれたあの人が隊長と呼ぶのは全世界を探しても只一人、我らの親玉、停滞のマギドラ国王其の人だけさ。」


 ジェイルマンの飄々とした言葉は軽く浮ついている。本気にも冗談にも聞こえるその言葉はレインを酷く迷わせた。


「な、なんだってそんな人が俺に……そもそも俺はこの国の出身でも育ちでも無いんだぞ!!冗談を聞いている暇は無いんだ!!」

「おうおう、昼間に比べて随分と元気になったじゃねえか。でもなぁ、冗談じゃ無えんだわ。俺達は百ね……ん……」


 急にジェイルマンの歯切れが悪くなった。先程まで快活に語っていたというのに。


「……何だ?」

「あー……そういやあんまし喋んなって言われてた気がするな……ま、ちょっと位なら良いだろ!!」


 そう言ってジェイルマンは暗い地面から浮き出た何かに腰を掛けた。


「お前等もどうだ?ちょっと長話になるぞ。」


 気づけば三人の足元から細長い影が伸び始めていた。


「危ないっ!!」


 それをカリンの炎の一太刀が両断。煌めく断面を残して動かなくなった影は崩れ、地面に溶けて行った。


「あーあ、せっかく用意してやったのに。もったいない。」


 ジェイルマンはお道化ているが、この一件で三人の警戒が強まったのは言う間でも無いだろう。


「このまま聞く。余計な事はするな。」

「仕方ねえなあ……お前達は本当の地獄を見たことがあるかい?俺達はあるんだ、百年前にな。」


 ジェイルマンは胸ポケットに指を入れる。空っぽのポケットには愛する煙草の一本も入っていない。


(百年前……リードがミッシュに遣わされた時期と同時期だ……)

「地獄っつっても色々あるさ。地獄の熱さ、地獄の訓練、戦争を地獄と評する奴だっている。確かにあれも地獄だった、間違いなくな。でも俺らが見たのはそんなチープなもんじゃねえ。」


 ジェイルマンは深く項垂れる。見えぬ表情は何を想っているのか。


「……罪なき人々が死を超える苦しみに呻き、泣き叫ぶ。これを平気な俺達は見ている事しか出来ない。それ以上の地獄があると思うか?無いね。経験した俺が言うんだから間違い何か無えよ。ははっ!!」


 苦しく笑うジェイルマン。一瞬垣間見える人間性。


「……俺達は運が悪かったんだよ。偶々巻き込まれなかった哀れな犠牲者さ。巻き込まれた方が幸せとは言わねえ。こいつらは今も俺の中で絶望を吐き続けているからな。それが幸せでは無い事位理解はしてるさ。ただ、永劫に苦しみ続ける位ならあの時、発狂していた方が幾分かは人間で居られたのになと思う訳よ。」


 ジェイルマンは三人に伝わるように話さない。ただ己の弱さ、不甲斐なさを懺悔しているだけ。彼は百年、縛られたままだった。


「俺もリードさんも、あいつ等もきっと他者を苦しめ、殺し、啜っているんだろうなぁ。でも俺達はそうでなきゃ生きられない。そうしなければ満たされないのさ。そういう罰を受けているんだ。人を捨てても俺達はそうして生きていくしか出来ないんだよ。」


 彼の顔に張り付いた不遜な笑みは彼の本心を隠そうとする。臆病な本性はずっとそれに隠れたまま、何かに縋らなければ生存できないのだ。


「お前達覚えておけ、この世で一番恐ろしいのは邪悪な心を持った悪魔の罠じゃない。自分を邪悪と思っていない無垢なる神による些細な悪戯なんだよ。」


 ジェルマンの話が途切れた。きっと話したい事を一気に話し終えたのだろう。

 三人は彼の話を聞いてどう思ったのだろうか。

 カリンはは難しく不透明な今の話理解しきれず、ただジェイルマンの動向を警戒するばかり。

 ライガは人々が苦しむそのくだりを想像してしまい、心が澱んだ。

 そしてレインは……ふつふつと、ぐつぐつと煮えくり返す腹の奥底を押し留められなかった。


「お前達……リードとお前は自分だけが救われる、快楽を得る為だけに人を殺したのか?」


 レインの口から飛び出した言葉はジェイルマンに突き刺さる。張り付いた笑顔のポスターが言葉のナイフで歪む。


「……そう言っただろ。世の中綺麗事だけじゃ回らねえんだよ。必ず切り捨てられる人間が出てくるのさ。」


 怒りの感情を乗せて、嫌な指摘を受けたジェイルマンが言葉を発する。何千の視線に晒されたような、針の筵に立たされているような感覚をレインは味わう。


(苦しい、逃げ出したい!!でも、でも……)


 しかし、レインは自分の正しい心に嘘を付けなかった。


「切り捨てるだと?ふざけるなよ!!殺された人達だけじゃない。ミッシュでは家族、友人、恋人、百人の被害者の倍どころか十倍以上の人間がもう帰って来ない者を想い、悲しみに暮れていた。彼等の心をお前達は踏みにじったんだ!!切り捨てるなどと言う体のいい言葉で濁すな。お前達がやった事は、」

「おい、なんつった今?」


 レインの必死の思いを、忌まわしき呪人との決別を、正しいと信じた決断をジェイルマンは只の問い一つで遮った。


「……っ!!」


 その声は飄々とした軽いものでも、本音を語るような重厚なものでも無かった。

 憎悪。

 憤怒。

 落胆。

 しわがれ、聞き取り難いその小声には様々な負の感情が込められていた。

 不思議と三人はその声に、今まで感じていた存在的な恐怖は感じなかった。代わりに感じたのは、例えば盗賊に襲われた時の様な、例えば野獣に襲われた時の様な生物的な恐怖だった。


「聞き間違いだよなぁ……。百っつったか?」


 身震いする三人へジェイルマンがにじり寄る。


「来るな!!近づくな!!」


 すぐにカリンとライガは剣を突き出した。

 しかし、ジェイルマンはそんな玩具など相手にはしなかった。


「やっぱり……化け物!!!!」


 巨体の胸に二本の刃がずぶりと突き刺さった。呻きも上げず、血の一滴も落ちない。肉を裂くような抵抗もない。

 カリンとライガはまるで霞に剣を立てていると、そう錯覚するほどジェイルマンの身体は存在が希薄に思えた。


「百って事は……百人がリードさんに喰われたって事だろ?あの人は確かそういうのだったもんなぁ……」


 ジェイルマンは何事も無いかのように話し続ける。


「そ、そうだ!!あいつは百人もの罪なき人々を、」

「たった百人程度じゃ、一月も生きられやしねえよ!!!!」


 ジェイルマンの怒号が夜の海に轟いた。


「殺……え?たった、百人?」


 たったでは無いだろう。言葉を再び遮られ、言葉の行き場を無くしたレインの心中はそればかりだった。


「百人なんかじゃ……満足しねえんだ!!こいつらはよぉ!!!!死んだ方がマシなくらい恨んで、蔑んで、呪って、そうやって俺を食い破って……なあ分かるか?わかんねえよな!?こいつらが出てきちまうと、俺が俺じゃ無くなるんだよぉ!!!!」


 もう抑えきれない程に膨らんだ感情がジェイルマンの身体を支配する。

 興奮した肉体が二人の全力の静止を力押し、胸に突き刺さった刃が背を飛び出そうとも関係ない。

 二人の足が徐々に後退し、ジェイルマンの苦痛の顔がレインを見上げるその場所まで押し出された。


「何で、なんで、ナンデそんな数なんかでこの苦痛から…………いや、やるわ……あのイカレ爆弾野郎なら……自分が苦しんでも……我慢するわな……」


 ジェイルマンは唐突に何かに気が付き、納得したように呟くとレインの上で項垂れた。

 レインが見上げた彼の顔は生気が無かった。物理的にも、精神的にも彼は死んでいたのだろう。


「そうだ……こんな雑魚共がリードの野郎に勝てる訳無えだろうが……死にかけに止めを刺しただけだったんだ……そうだ、そうに決まってる……なんで期待しちまったんだ……」


 ジェイルマンはぼんやりと、レインの事なんか視界にも入っていない様子で嘆きを吐き続けた。

 それを見上げるレイン。だんだんと目の前の存在が憐れに思えてきた。

 吐き出す言葉の内容は全く理解できないが、勝手に自分に期待をしておいて勝手に失望した様子だけは分かった。


ずぶり……


「…………あ?」


 ジェイルマンの胸に突き立てられた新たな刃。その傷口からどす黒い血液が流れていく。


「訂正しろ。奴は、リードは強かった。」


 刀を抜いたレインの目に恐れは無かった。怯えていた数秒前が嘘のように力強くジェイルマンにそう言い放った。


「…………」

「今のお前の様に、救いを待つだけの愚者では無かった。人を捨てていても、人を喰らっても、奴の心は気高いものだった。」

「…………そうか。」


 憐れなジェイルマン。ただ悲しそうに溜息を吐くと、拙い足取りで後ろへと下がっていった。

 抜けた三本の剣先には赤い血と細かな粒子が見える。それをぴっと払う頃、ジェイルマンは埠頭の先、今にも海に落ちそうな程ぎりぎりを立っていた。


「…………なあレイン、俺を殺してくれるかい?」


 俯いたままジェイルマンはそう問いかけた。


「殺す。世界のためにも……お前の為にも。」


 ジェイルマンのマントが風に揺れる。

 まるで亡霊の様な佇まいで立ち尽くしていたジェイルマンだったが、ゆっくりと両の腕を広げ始めた。

 それを合図したのか、彼の背後の海に突如として巨大な船が、闇夜の海霧の底から浮かび上がった。


「いつの間にあんな船が!?」

「やっぱり船も普通の代物じゃ無えみたいだな。」


 おどろおどろしく汽笛が轟くと、船のライトがばっと照らされ、ジェイルマンの姿が怪しく浮かび上がった。


「…………そうか。」


 ジェルマンが顔を上げた。その顔は絶望半分、希望半分と言った所だろうか。

 相反する二つの感情が複雑に、単純に鬩ぎ合うと、ジェイルマンの悲愴に満ちたその顔が痛ましくもいつものにやけ顔へと戻っていった。


「じゃあ、頼むわ!!」


ばさっ……


 ジェイルマンの肉が崩れ落ちた。


「何だ!?……砂?」


 さらさらと溶け崩れていくジェイルマンの肉体。それはまるで砂の様に一粒一粒の繋がりが無く、只箱庭世界の引力に為されるがまま、海風に吹かれるまま形を失っていった。

 背後に佇む巨大な船もジェイルマンと共に崩れ、海の藻屑となっていく。

 照らすライトも無くなり、辺りは再び闇の中。

 後に残されたのはジェイルマンの核、黒色呪詛混じりの白骨死体のみだった。


「……死んだのか?」


 殺してくれと懇願していたくせに、レインが一瞬そう思った瞬間だった。


(目が合った!?)


 頭骨の双窪、そこには何も浮かんでいないというのに、レインは何かの視線と目が合った。


「……二人とも、離れるぞ。」

「え?」

「いいから早く!!!!」


 支えの無い白骨死体がバランスを崩し、ばらばらに千切れながら黒の海へと落ちていく。

 そして……


「ひっ!!!!」


 膨れ上がる熱量、常々感じていた呪縛による根源的な恐怖が辺りに広がった。

 レインとカリンはこの様子に既視感があった。


(まるで……)

(リードの変貌!!)


 リードが人の姿を捨て、悪夢の獣と化したあの時も感じた膨れ上がる絶望感。人ならざる者の気配が周囲を埋め尽くす。


「逃げるぞ!!」


 レインの声でカリンは飛び立ち、放心状態だったライガはレインに手を引かれてその場を後にする。

 レイン達が気配を感じてほんの十と数秒後の事、


「……何だ、あれは……」


 高台から覗くグリーニヤは思わず声を漏らす。

 昏い深淵の海から突き出た背骨は大樹の様に太く、傍らに聳え立つ灯台のなんと華奢なことだろうか。

 覆う肋骨は城壁と見紛うばかりに厚く、全てに対する拒絶の意思が見て取れた。

 双腕骨は荒い。全てを破壊せんと蠢くその手とって石を積んだだけの灯台など海辺の砂城に過ぎず、いとも容易く握り砕いた。

 そして頭部。頭骨は人の過去を捨てた。人間特有の丸みを帯びた形状の跡は見られず、草食動物の様に細長い鼻口と肉食動物の様に鋭く尖る歯の一本一本がうねる羊角と相まって、邪悪さと神聖さを見る者に見出させる。

 ここまでを聞いて、彼の骨格に大げさすぎる表現を付け加えただけの様にも思えるかもしれない。しかし、現実は非常に残酷なものだった。

 グリーニヤが見ていたのは海から背骨を生やし、強固な肋骨と双腕骨を携え、頭は山羊か羊かイライリネス経典で悪魔とされたその容姿に非常に酷似した、背の丈二百メートルを遥かに超える黄土色の死骸の巨人へと変貌したジェイルマンが町のシンボルを握りつぶすその瞬間だった。

ご閲覧いただきありがとうございます!!

次回の更新は9月5日の12時頃です。

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