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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
第三章:デジットハーブ
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祝福の感覚

 翌朝。物置部屋に押し入った二人に昨夜の事を問い詰められるレイン。


「レイン、あの魔方陣の束は何?」

「ああ、見たのか。パド用の魔方陣が完成したんだ。本当はもっとコンパクトに纏められれば良かったんだけどな。」


 やはり大量の魔方陣は完成したものだったようだ。しかし、答えたレインには悪いがカリンの求める答えでは無かった。


「そうじゃない。あたしが聞いてるのは何で完成してるのって事。作れないんじゃ無かったの?あたしに……嘘ついたの?」


 カリンの目が怖い。まるで獲物を狙う鷹の眼差し。レインは彼女の鋭い眼差しの中に確かな怒りを感じた。


「な、なにをそんなに怒って……」

「カリンはきっと不安だったんだよ。また身体を壊すまで魔道具を作り続けるんじゃねえかって。その上、聞いていた話と違った。嘘を付かれた。信用されていなかったって思ったんじゃねえか?」


 ライガは冷静じゃないカリンの気持ちの代弁をしてくれる。本当はちょっとだけニュアンスが違ったが、それでも今のカリンよりはレインに真意を伝えられたようだ。


「……ごめん。でもあの時は間違いなく無理だと思ったんだ。」


 それを聞いたカリンの目が細く、より鋭く睨む。


「じゃあ何、やってみると思ったより簡単だったって言うの?心配させといてそれならそれでムカつく。」


 レインはバツが悪そうに困り眉で頬を掻く。


「いや、正直全然簡単なんかじゃ無かったよ。この魔方陣、今でも自分が何で作れたのか分からないくらい難解で、一部なら俺でも理解できていない所があるくらいだよ。」


 レインがおかしなことを言い出した。カリンとライガは思わずお互いの顔を見合った。何方も怪訝な表情をしていた事から、二人共聞き間違いではないと確信したようだ。


「どう言う事だ?自分で理解も出来ない難解な魔方陣を作るなんて、現実的に有り得ないと思うんだが。」


 もっとも過ぎるライガの指摘はレインも分かっていたようで、同意するように頷いている。


「そうなんだよ。変なんだよ、俺の頭の中……最初は頭に血が昇ってたからただがむしゃらに魔方陣と向き合い続けるだけだったんだけど、煮える頭が冷めて来た頃、急に頭が透き通るように冴えて来た。次にどんな線を引けば良いのか分かったんだ。二人に魔方陣を刻んだ時と同じ様な感覚だった。」

「「!?」」


 自分の手を見つめるレイン。その不思議な感覚を思い起こしていた。

 一方、初耳の事実に驚きを隠せない二人。カリンは背中に手を触れ、ライガは右手の平に刻まれた魔方陣に目をやった。

 自分達の身体に刻み込まれたこの魔方陣にもレインの不思議パワーが織り込まれているらしい。

 カリンはそれを知っても昨日見た魔方陣の様に恐怖を覚える事は無かった。レインへの疑念が少し薄れ、代わりに魔方陣を通じてレインと繋がっているような……初めての感覚が沸き起こっていた。

 意識を始めた魔方陣から熱を感じる。傷跡の様な激しくも悲しい痛みの熱を。


「っ!!……はぁ。もう良いわ。」


 カリンはレインに背を向けた。


(まあこんな話信用できないよな……)


 レインは既に諦め気味だった。自分でもよく分からない自分の事を他人に理解されようなんて都合の良い話は無いと思っていたからだ。


「どうせそれも祝福のお陰とかそんなもんでしょ。考えるだけ無駄だわ。早く朝ご飯食べちゃって、さっさとパドの所に行きましょ。」


 それでも彼女は向き合ってくれるらしい。理解はしないのだろうが、突き放しもしなかった。


「そうだな。そんな事考え続けてもしょうがねえんだから、さっさと他の事で埋めちまおうぜ。後、まだ用意してねえぞ。」

「えぇ!!なんでよ!!」


 二人はいつも通りに、でも少し無理をしながら物置部屋を出て行った。

 レインはやっぱり自分の中に何かがあると感じていたが、カリンとライガの上辺だけの楽観に当てられた。


「……はは、じゃあ早く作ってくれよ。」

「じゃあ簡単なトーストで良いか?」

「えぇ……もうちょっと凝ってってば!!」


 レインは二人の後に続く。暗い物置部屋から出たレインの肌に清々しい朝の陽射しが降り注ぐ。

 デジットハーブの朝は早い。とある宿の一室の窓からは朝から朗らかな声が漏れだしている。

 ああ、なんて素晴らしい朝だろうか。鳥の囀りもこの素晴らしき日を祝福しているに違いない。

 しかし、まだまだ始まったばかりだ。彼の待ちわびた人生最高の一日が。デジットハーブが滅ぶ悪夢の一日が。



 朝食を食べ終えたレインはカリンに連れられて林の中の屋敷へと向かっていた。

 風に揺られる中、レインは今朝のライガの言葉を思い出していた。


「俺は仕事だから行けねえが、パドの奴にしっかり言っとけよ。次、無理難題押し付けるようだったら……その首噛み千切ってやるってな。」


 そう言って爪を立てる仕草をするライガは言っちゃ悪いが猫の様なくすぐったさがあった。怒るだろうから本人には言えないが。


「っくく……!!」


 虎だと怒るライガの姿を想像すると笑いが込み上げて来た。あの姿が見たくてわざと猫と言う節がレインにはあった。


「何笑ってんの?」

「いや、何でもない。それより前を見て無いと鳥にでもぶつかるぞ。」

「そんなへましないわよ。それよりそろそろ降りるからしっかり捕まってなさい。」

「むしろお前が気を付けてくれ……」


 レインの忠告通りにカリンはゆっくりと降り立った。

 林の中、レインは硬い地面を踏みしめた。弱そうな見た目の地面とは似つかぬこの感触は覚えがあった。レインには周りが只の林に見えているが、きっとここは彼らの屋敷の敷地内。


ピィィィィ……


 レインは口笛を一吹き。彼らに合図を送る為、遠くまで響く甲高い音を鳴らした。

 すると、夢から覚めたかの様に周りの景色が変貌していく。薄暗い雑木林が一転、拓けた土地と大きな屋敷が出現した。


「おお!!凄い凄い!!普通に入るとこんな感じになってるんだ!!」


 カリンのテンションが上がるのも無理はない。始めて見た時はレインも叫びたい位には興奮した。


「レインさん!!お久し振りっスね!!それにカリンさんも!!」

「パド様は自室にいるっす。」


 魔法を解いて早々双子が二人の傍に寄って来た。


「久しぶり。今日は大事な用事があるんだ。訓練場、開けておいてくれるか?」

「分かったっす。それと、オッドさんとシーラさんには出来るだけ会わない方が良いっすよ。」


 レインが訓練場を使用したい旨を伝えると、アルネが了承と共に謎の忠告を伝えて来た。


「忠告助かるが、もう手遅れみたいだ。」


 レインの目線の先には二人並んでこちらへ向かい来るオッドとシーラの姿があった。不気味ににやつく二人の顔が妙に腹立たしい。


「ようレインさん。」

「ご無沙汰です。」


 面倒くさい。レインは本気でそう思った。


「誰こいつら。」


 カリンがレインに耳打ちをしてきた。


「オッドとシーラだ。この前言った馬鹿で面倒な奴らだ。」

「ああ、こいつらがその……」


 カリンは二人を舐め回すように見定める。


「レインさん……この前は……」


 オッドが何かを言い始めた。


(この前は……何だ?この前はよくもやってくれたな、か?今こいつらに構ってる暇は無いってのに。)


 レインは嫌な想像しか出来なかった。粗暴な彼らの事だ、また戦えとでも言いだすのではと内心辟易していた。


「この前は……」


 もうカリンにこいつ等をとっちめて貰おうか、そうレインが考えた瞬間、二人揃って頭を思いっ切り振り下ろした。


「「ほんっとうにすみませんでした!!!!」」

「……は?」


 二人の渾身の謝罪にレインは固まってしまった。


「我を忘れてパド様の友人を危うく殺しかけるなんて」

「我々、深く深く反省致しました!!」


 二人の謝罪を見つめるレインにアルネが耳打ちを始めた。


「あの後パド様にこっぴどく叱られたんすよ。二人は全く覚えていなかった見たいすけど、叱られる理由を聞いてレインさんを格上だと認めたんじゃないっすか。あの二人野生に生きてるんで。」


 なるほど。野生に生きているから強者には逆らわないと言う事か。馬鹿馬鹿しい事実をレインはあの二人だからと言う理由ですんなりと受け入れた。

 アルネの話に聞き耳を立てていたカリンは満足そうに頷くと、


「そう言う事なら大丈夫そうね。ほらアンタ達、もう馬鹿な事しないで仲良くやんなさい。」


さらっと禁句を口にした。


「「「あ……」」」


 仲良くしろ。その言葉を聞いた瞬間、頭を下げる二人から怒髪のオーラが立ち昇った。

 近くで見ていた反乱軍の団員達は散り散りに逃げ惑った。普段から慣れているのか彼等の行動はとても迅速な物だった。


「か、カリンさんその言葉は……」


 怯えるアルネとアルン。可哀そうに逃げ遅れてしまったらしい。


「何よ。あたしそんな変な事言った?」

「カリンは悪くないさ。こいつらは、」

「「今仲良くって言ったかあぁぁ!!?」」


 二人が吠えだした。また以前の様に喧嘩が始まる、レインも双子も遠くで様子を伺う団員達も全員がそう思っていた。


「「なら仲良くしてやらあああああ!!!!ぐべえぇええ!!!!」」


 暴れる寸前まで燃え上がった二人の脳天にカリンの拳骨が刺さる。その威力は凄まじく、二人の足首が地面に埋まる程だった。


「「「え……?」」」


 皆の間抜けな声が聞こえる。カリンの強さを知っているレインと、オッドとシーラの強さを知っている団員達は決着の呆気無さに戸惑いを見せた。


「さ、行きましょ。こんなのに構ってる暇ないんだから。」


 そう言ってカリンは屋敷の中に入って行ってしまった。


「あ、おい!!どこの部屋に行けば良いか分からないのに先に行くなよ!!」


 一足先に我に返ったレインがカリンを追いかけて屋敷の中へと走って行く。


「ねえアルネ。」

「どうしたアルン。」


 またもや失神をしたオッドとシーラを見ながらアルンがアルンにこう切り出した。


「カリンさん、めっちゃクールだね。」


 倒れ二人を早く医務室に運ばなければならないと言うのにアルンは何を言い出すのか。アルネははぁと溜息を付き一言。


「いや、むしろホットだろ。」

ご閲覧いただきありがとうございます!!

次回の更新は8月22日12時頃です。

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