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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
第一章:ミッシュ
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ミッシュでの日々

 その夜、食事の席での事。


「あんたの店、全然客居なかったじゃないの。ぷぷっ」


 カリンがバカにするように笑い出した。レインは何故知っているんだと驚き、席から立ち上がった。レインが慌てる様子を見てカリンはより一層笑った。


「昨日の夜言っていた場所に今日見に行ったのよ。飛んでいたから気づかなかったと思うけど。」


 レインは額を押さえて天を仰いだ。


(不覚だった。)


 そんなレインの様子を見て更に更に大きく笑ったカリンを女将は軽く諫めた。はぁ、とレインは溜息を一つ付き話し始めた。


「店の方は最初はいつもあんな感じだからそれは別にいいんだよ。ただ、お前に知られると面倒な事になると思ったら案の定だよ。」


 項垂れるレインに、笑いすぎて涙まで滲んでいるカリンが向き直る。


「それで、明日以降は大丈夫なの?売れなきゃ困るでしょアンタ。」

「ああ、商品には自信があるからな。多分明日明後日には客が来始める。」


 そう言って、レインは匙を手に持った。


「そう、なら良いわ。とりあえず今日は笑わせてもらうわ。あはははは!」


 カリンは再び笑い始めた。レインは苦い顔をしながらも、食事を続けていた。


「ねえ、兄ちゃん!昨日の続き話してよ!」


 カリンが笑いつかれて息を荒くして机に突っ伏した頃、既に食事を終えていたシンが話をねだり始めた。良いぞと了承しつつ、レインは食べ終わった食器を流しにいる女将へと持って行った。


「女将さん、ご馳走様でした。あと、フーコの世話、ありがとうございました。」

「お粗末様。全然良いのよ。フーコちゃんも静かであまり手間も掛からなかったし。」


 食器を渡したレインは自分の部屋に戻ろうと台所を出ようとした時、ふとある事を思い出した。


「そうだ、女将さん。」

「なあに?」

「公園をずっと行った所の大きな古いお屋敷があるじゃないですか。あの裏に山がある。冊子にも書いて無かったんですが、あれは」


 そこまで言った所でレインは女将の顔色が変なのに気が付いた。


「女将さん?」

「…?」

「遠目で見ただけですけど、もしかして近付いちゃ駄目な場所ですか?」


 遠目で見ただけ。そのレインの言葉でほっとしたように女将は話し始めた。


「何で忘れてたのかしら。もっと早く言うべきだったのに。あのお屋敷や周辺は立ち入り禁止なのよ。あのお屋敷は何十年も前から放置されていてね、祖父の代にはまだ使われていたそうだけど、父が生まれた頃にはすでにあの状態だったそうよ。」


 その話を聞いてレインは疑問に思ったことを口にした。


「あれほど大きな屋敷なら他の使い道があるんじゃないですか?屋敷が老朽化して使い物にならないなら土地とか。」


 それを聞いた女将は何かを思い出そうと頭に手を当てた。


「え、と確か、あのお屋敷で事件が起こったんだったかな?ちょっと記憶が曖昧で。」

「いえ、いいんです。ちょっと気になったくらいですから。」


 そう言ってレインは食堂を後にした。



「店主さん、昨日の道具まだ売っているかしら?」


 翌日、レインの元に昨日魔道具を買って行った婦人が大急ぎでやってきた。周りには人がちらほらと居るくらいだったが、婦人の勢いのせいかレインの店に注目が集まっていた。


「ええ、ありますよ。お幾つお買いになりますか?」

「幾つあるのかしら?あるだけ欲しいのだけれど。」


 レインは袋の中からどこに入っていたのかと思う程の量、同じ商品を取り出した。机の上が同じ商品で埋まり、婦人も目を丸くしていた。


「こ、こんなにあるんですか。ちょ、ちょっと待っていてください。代金はお先にお支払いしますから。」


 婦人は大量の札束をレインに手渡し、元来た道を走り去って行った。

 レインが代金を計算してお釣りを用意し終わった頃、婦人と共に一人の男性がリヤカーを引いて戻ってきた。


「お待たせしました。」

「いえいえ、こちらお釣りです。」


 男性とレインが商品を荷台に乗せ終わると、婦人は礼をして去って行った。

 すると周りで見ていた人々が近づいてくる。


「おい、あんた。あのセレイト夫人があれだけ買うとは、いったいなに売ってんだ?」


 一人が不思議そうに尋ねた。


「自作の魔道具です。あの方に売ったのは掃除用ですが、あいにく売り切れでして。他の魔道具ならまだまだ残っていますよ。」


 レインがそう答えると、群衆は次々に商品を手に取りだした。


「これは何?穴がいっぱい空いているけど。」

「このティーポットは?」

「このブラシは?」

「これは?」……


 人々の質問に丁寧に答えていくレイン。すると、一人が気に入った魔道具を購入すると言った。


「よし、こいつをくれ兄ちゃん。いくらだ?」

「こちらは340ドラです。」

「よし買った!」


 それを皮切りに人々は魔道具を次々と購入しだした。山の様にあった在庫が見る見るうちに減って行く。

 そうして時間が経ち、日も赤くなった頃、


「完売でーす!」


レインが大声で完売だと宣言した。


「次は一週間後に開きまーす!」


 レインの言葉を聴いて人々は散り散りになっていった。レインは一息つくためにその場に座り込んだ。


「お疲れ。これ飲むか?お代は要らないからよ。」


 レインが落ち着いたのを見計らってか、隣の飲料屋の店主がレインに声を掛けた。


「ありがとうございます。」


 レインは差し出された飲み物を受け取った。


「いやあ、あんたの店が繁盛してくれた御陰でこっちも儲かっちゃったよ。ありがとな兄ちゃん。」

「いえ、そんな大したことじゃないですよ。」


 店主がレインに感謝を伝えた。レインは相槌を打ちつつ、舌鼓を打っていた。


「そうだ、これから飲みにでも行かないか?もちろん俺の奢りでな。」

ご閲覧ありがとうございます。

次回の更新は22年2月10日0時です。

追記:一部改稿しました

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