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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
第三章:デジットハーブ
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目的

「はっ!!」


 目覚めたレイン。視界に入るのは知らない……いや知っている天井だ。


「起きたか。」


 隣からパドの声が聞こえた。天井は訓練場のもの、聞こえる声はパド、ハニープラムに向かっていた筈なのに何故だろうかとレインは考えたが、あの厄介な女のせいだろうと他の考えを切り捨てた。


「あぁ悪い、ちょっと眠ってた……」


 身体を起こし、パドに目を向けたレインは絶句した。


「どうしたその傷。」


 パドの顔が包帯でぐるぐる巻きにされていた。よく見れば手や首元など肌の見える箇所にも湿布や生傷が存在した。


「誰にやられた!?」


 まさかあの男と既に交戦をしたのかと焦るレイン。

 するとパドは何も言わずに顎でレインの背後を指し示した。


「え?後ろ?……はぁ。」


 傷だらけのカリンが居た。パドに促されるまま振り向いたレインはそれを見て、反射的に溜息が付いて出た。


「何よ。」


 不機嫌なカリン。レインが意識を手放す前はそこそこ機嫌は良かった筈なのだが。


「何があった?」


 そうレインが尋ねると、パドとカリンはお互いの顔を指差してこう言った。


「こいつが屋敷の魔法を壊しやがった。」

「コイツがいきなり喧嘩を吹っかけて来たのよ!!」


 二人は立ち上がり睨み合う。その様子からレインはおおよそ何があったかを理解した。


「つまり俺が寝ている間に、カリンがこの屋敷の幻惑魔法を破壊して中に入ったと。で、それが原因で怒ったパドとカリンが喧嘩になった訳だな?」

「そうよ!!あんな魔法があったんじゃ入れないから仕方なく壊したの。ねっ?アイツが悪いでしょ?」


 ごんと鈍い音が響いた。


「痛ぁい!!何も殴らなくても良いじゃない!!」


 レインの拳骨がカリンの脳天に撃ち落とされた。カリンは涙目で頭を抑えた。


「こんな奴だとは思わなかった。」


 カリンの余りの図太さに幻滅しきったパド。心なしか目元が青白く見える。


「悪かったなパド。悪気は無い筈だ。多分。」

「無しでこれか。一番厄介な人種だな。」


 二人はただただ呆れるばかりだった。


「こぶになったらどうするのよ!!もう……それはさて置きレイン、コイツなんか良いんじゃないの?」


 カリンが話を急に変えだした。


「何が良いんだ?」

「そりゃさっき言ってた話に決まってるでしょ!!こんだけ強いなら協力して貰えばって言ってるのよ。」


 何の話かと思えば、パドがこれから起こるだろう戦いの協力者に相応しいのではと言う事らしい。

 確かにパドの強さは本物だ。カリンと対等に戦い合えるほどの戦闘能力は少なくともあるのだから。

 しかし、彼の身体に未だ残る呪いの様な祝福の反動を思うと、そんなに簡単に戦闘に参加させて良いのかと一抹の不安もあった。

 それに、こんな大事に無関係の者を巻き込んで良いのか、そもそもそんな話を真に受けてくれるのかと言う葛藤もあった。


「お前達が何を企んでるのかは知らんが、一先ずいつものを始めないか。」

「ああ、そうだな。じゃあ用意するから待っててくれ。」


 レインは荷物袋からいつもの魔方陣を取り出すと地面に広げていった。少しだけ血のにじんだ布を離れた位置から眺めるカリンとパド。


「あんたは何が悪いの?」


 カリンがそんな事を尋ねた。


「まだ言うのか。正義は俺にあっただろう。」

「違うわよ。体質の事よ。」


 そっちか、と納得したパドの眉間の皺が薄れた。


「あたしも天才性と引き換えに魔法が長く使えなかったんだけどさ、アンタは何が悪いの?」

「……魔法を使うと腕が破裂する。」

「はぁ、どおりでアンタと会った後のレインの顔色が悪いわけだ。」


 カリンは何かが腑に落ちたようだ。


「驚かないな。普通の奴なら大抵距離を置くものだからな。」

「へぇ、だから見た上で協力的だったレインに懐いたわけね。睨んでも何も出ないわよ。ま、あたしも驚きはしないわ。そういう制約もあるだろうし、それにアンタもその類だろうけど……魔法自体が普通に使えるだけマシじゃない?」


 パドはその言葉を聞いてにやりと笑った。


「当然だ。どれだけ身体が傷つこうが些事に過ぎん。力が無くては為すべきことも為せんからな。」

「やっぱりアンタはそうよね。あたしと似てるもの。」


 カリンは誇りに思えとばかりにそう発言したが、言われたパド本人は渋そうに顔を顰めた。


「やっぱり、大事な時に動けないよりも血反吐を吐いてでも戦える方が良いわよね。」


 昔を想起するカリンの目は遠い。


「……全くだ。」


 同意するパドにもあるのだろう。戦えなかった記憶が。


「パド、準備できたぞ!!」


 準備が終わったとレインがパドを呼んでいる。パドは何も言わず、いつも通りに魔方陣の円の中心に立った。


「そのままじっとして居ろよ。」


 レインが魔方陣に手を触れると、魔方陣から白い光が飛び出した。


「へぇ、凄いじゃない。アンタ前よりも腕上がったんじゃないの?」


 パドを覆う魔法の光。二人は見慣れてしまったが、始めて見るカリンは素直な感想を漏らした。


「そんなに褒めるなよ。さ、後は待つだけだ。」


 やる事を終えたレインがその場に腰かけたので、カリンもその隣に腰を下ろした。

 暫し黙る。訓練場に人の声が無い。外から聞こえる風の音が苦し気に耳に障る。


「……」

「……」

「……っ!!」


 パドは余り自分から話し始めるタイプじゃない。レインも用が無ければ積極的に話し始めはしない質だ。いつもは余計な邪魔が有れど、二人の空間はただそこに居るだけで完成していた。

 しかし、今回の邪魔は質が悪かった。なにせ勝手に自分の世界を作り出し、それを他に押し付けるタイプだったからだ。


「パド達も奴隷問題の解決を手伝ってくれない?」


……


「は?」

「はぁ!?」


 カリンがとんでもないタイミングで凄い話を切り出した。二人は数秒の硬直の後、大爆発を起こす。

「はぁああああ……」

「え?なんで?何でいきなり?」


 パドは地面に穴が開くほど深い溜息を付き、レインは疑問符を語尾に携えながらカリンに詰め寄った。


「何で勝手に話し始めたの?」

「だって話は早い方が良いじゃない。」

「何だコイツ……!!」


 レインは崩れ落ちた。カリンの余りの身勝手さに、許容量を超えてしまったのだ。


「はぁ……マジかお前等……」


 パドが呆れ果てたように、絞り出す様に声を出した。


「あ、いや、これはその……」


 そんな反応をしてしまえばカリンの世迷言の様な言葉を肯定するようなものだが、混乱するレインは気が付かなかった。


「はぁあああ……カリンの話を問い詰める前にレイン、お前達が何の用でこの町に来たのかお前自身の口で語ってくれ。俺に会う目的以外をな。」

「それは絶対にか?」

「俺に協力を求めるのならな。」


 パドは鋭い目つきでレインに命令を下した。

 レインは彼の部下では無い。彼の命令を全て鵜呑みにする必要は無かったのだが、それを交渉材料に使われてはレインも観念するしかなかった。


「……分かった話すよ。俺達はアウスレイから……」


 話す事数分後。


「つまりお前達はこの町から始まっている奴隷貿易を終わらせる為、アウスレイからはるばるやって来たと言う事だな。そして、その首謀者と思わしき男と昨夜接触したと。」

「そうだ。要約ありがとう。これらを踏まえてお前に頼みがある。」


 レインは本題を切り出そうとした。自分達と共に戦ってはくれないかと。


「待て、その前に俺からも幾つか話して置きたいことがある。」


 パドは魔方陣の中、直立したままこう切り出した。


「ライガが町の酒場で聞き込みを行っていたと調査員から報告を受けている。やるならもう少し隠す努力をしろと言っておけ。」

「え?ライガ?」

「そしてお前達。特にレイン、お前がグリーニヤと懇意なのは既に把握している。奴は善人だが吐く言葉には注意しろよ。各国の調査員がこの町に居るだの、反乱軍だの、あの狸商人は俺達が明かしていない、誰も把握していない事実を何処かから仕入れてきやがる。何が間違っているか誰も正常な判断が出来んからな。」

「その言い分……もしかして俺達の話を聞いていたのか?」


 グリーニヤと四人、宿で話した内容までパドが把握していると気が付いたレインの肌は少し肌寒い。


「お前達の話を直接聞いていた訳じゃ無い。この町に張り巡らせた耳の網が偶々お前達の話を拾っただけだ。取り合えずこれで俺が何を言いたいか分かっただろう?」

「ああ、パドも同じ目的でこの町に来ていたと言う事だな?」

「え!?そう言う事だったの!?」


 辺りに流れていたシリアスな雰囲気が、何も理解していなかったカリンのせいでたちまちに消え去った。


「……同じ目的だったと言う事だな?」

「ねえレイン無視しないでよ!!」

「ああ、そしてお前達の目的も早い段階から把握済みだった。」

「パドまで!!」


 二人は話を理解しないカリンは無視すると暗黙の了解を交わした。


「同じ目的を持って動く以上、最低でも障害にはならないと思っていたが、先に解決の糸口を見つけられるとはまさに嬉しい誤算だった。」

「パド……」

「これで長引いていた問題に一つ片が付きそうだ。」


 パドは少しだけ、ほんの少しだけ口角を緩めた。


「ブラグドッグの責任者として礼を言わせて欲しい。ありがとう。」


 レインは初めてパドの純粋な笑顔を見た。まだ若い彼の眉間には皺が刻み込まれていたが、彼の笑顔は本物だとレインは信じた。


「いや俺はそんなに……ん?」


 照れるレインだったが、一瞬の違和感に気付く。


「ブラグ……ドッグ?」

「どこかで聞いたような……」


……


「「あああああ!!反乱軍!!?」」


 二人の絶叫と共にパドを覆う光が消失した。パドが魔方陣の外に歩き出す。

 反乱軍ブラグドッグはその名と構成員の凶暴性から通称エストの狂犬と恐れ、敬われる最凶の集団。自らその長を名乗ったパドは何を語るのか。


「は?今更?」

ご閲覧いただきありがとうございます!!

次回の更新は8月18日12時頃です。

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