カリンの華麗なる一日
投稿遅れてすみません!!
朝日が部屋に差し込む。カーテンは閉めたままだと言うのに何故光は彼女の瞼を透かすのか。
「おはようカリン。もう朝だぞ。」
それはこの魔法狂いの同居人が部屋の扉を開けているからだろう。光がうざったらしくてカリンは布団を被って丸くなった。
「布団の中に入ってたら起きれないだろ……まったく。俺は今日から暫く外で研究してるから。飯はライガが作ってくれたサンドイッチが冷凍箱に入ってるからそれを食べてくれ。」
寝ぼけ眼のカリンが布団から顔を出した。
「どこいくの?」
「仲良くなった魔法道具屋の所だよ。そうだ、これ渡しておくから何かあったらそこに来てくれ。」
レインはカリンのベッド脇の机に一枚の地図を置いた。
「じゃ、行って来るから。」
布団の隙間から手を振るカリンを残し、レインは宿を出て行くのだった。
踊り子カリンの朝は今日も……遅い。
午前九時。熱で火照る身体を持ち上げ、カリンはベッドから這い出た。
慣れきってしまった重い体で部屋のカーテンを開ける。昇りきったお日さまがカリンの朝を迎えた。
「ふあぁ……」
日の光で頭は起こし切れなかったが、これ以上寝るのも良くないと感じたカリンはリビングへの扉を開けた。
「うおん!!うおん!!」
「おはよう、フーコ。」
元気一杯のフーコがカリンに飛びついた。カリンは彼を優しく受け止めると、近くのソファに座った。
最近のフーコは日中の間カリンと戯れ、過ごすことが多い。レインが魔法の研究で忙しくて構ってくれないからか、それとも熱に侵されるカリンを想ってだろうか。何にせよ留守番組の仲は良好なようだ。
カリンがふこーとじゃれていると、ぐぅとカリンの腹から小さな嘶きが。
「フーコはご飯食べた?そう。じゃああたしはちょっとご飯食べちゃうわね。」
カリンは太腿の上のフーコを退かすと、宿備え付けの冷蔵箱を開けた。中には食材の他に二つの器が入っていた。
「多分こっちが朝ご飯ね。」
カリンはサンドイッチが乗った器を取り出すと、素手でサンドイッチを掴み、立ったまま食べだした。
「うん、冷えてる。……はあ、冷やす魔道具はあるのに、温める魔道具は何で少ないのかしら。このコップみたいに。」
カリンは手に着いたパンくずを舐めとると、台所に置いてあった木製のコップをその手で取った。このコップは昨日レインがカリンへの土産に買って来た魔道具のコップだ。程よく飲み物を温められる為、カリンは気に入ったようだ。
持っていた皿を流しに置くと、カリンは冷蔵箱から牛乳が入った瓶を取り出した。牛乳をコップに移し、魔成素を流し込むと、牛乳はあっと言う間にほかほかのホットミルクへと変化した。
「んん!!やっぱりミルクは温めて飲まなくちゃ。フーコもミルク飲む?」
ホットミルクを楽しむカリンの足元へフーコが寄り付く。カリンは皿を一枚取り出すと、そこへ並々に牛乳を注いだ。
「はいどうぞ。」
「うおん!!」
床へ皿を置くと、フーコは待ってましたとばかりに飛びついた。舌で器用に飲み進めるフーコだったが、並々に注がれた牛乳の滴が床へ跳ねる。そんな事カリンは気にしてはいないようだったが。
フーコが飲み終えた皿を流し台に放り込むと、フーコを抱えてまたソファへと戻って行った。
……
午前十一時。カリンは最近日課となった魔法の特訓を始めた。
手の平から炎を噴出させるこの特訓は、カリンの身体を魔法に慣らせて魔法酔いを鎮める為に重要な事だった。
アリアが言うには魔法酔いの影響が残っている間は一日一時間、治った後も一日十分はやるようにとの事。自分の健康に関わるとあっては、面倒くさがりでずぼらなカリンも真面目に継続しており、一週間経った今では数少ない習慣の一つとなっていた。
「……」
カリンは無言で炎を出し続ける。それは細く弱弱しい。一切訓練を行っていない一般人が出せる限界の炎と言った所だろうか。
何故カリンはそんな弱い炎で訓練を行っているのか。それはカリンの魔法を見たアリアの忠告から来るものだった。
診察の結果魔法酔いが原因だと突き止めたアリア。早速カリンの魔法の状態を観測したのだが、その火力は彼女の想定を遥かに上回った。
驚愕の表情を浮かべながらも、即座に原因がカリンの巨大すぎる炎魔法にあると推測を立てたアリア。カリンが今まで十分に魔法を使えていなかった事実も相まって推測は確信に変わった。
カリンは身体を魔法に慣らせる為、威力を弱めた炎魔法で訓練を始めるように言われたのだった。
「……」
カリンの顔には疲労が見て取れる。炎魔法のエキスパートであるカリンでも、必要以上に威力を弱めた魔法を一時間も出し続ける事は至難の業だった。
遠くからカリンを見つめるフーコ。炎が怖いのか距離を取っているが、カリンの邪魔をしないように身じろぎせずじっと見守っていた。
ヒマワリ時計の針がかちかちと音を立てる。時刻はもう十一時五十七、八、九……
ぽーん……
ヒマワリ時計から十二時を知らせる子気味良い音が響いた。するとカリンの手の平から噴き上がっていた炎が消え去った。
「んん……疲れたあ!」
じっとしていて固まり、凝った体を伸ばす。筋肉が引き延ばされる心地よさをカリンは感じた。
終わった事を確認したフーコがカリンの膝へ飛び乗った。
「今日も待っててくれたの?良い子ねアンタは。」
カリンがフーコの身体を撫で回す。金色の毛並みに手をうずめてわしゃわしゃと。フーコは腹を突き出してもっとやってとせがんでいる。
「もっとやれって?よくばりさんめ。ほれほれ!!」
……
午後一時。昼食を食べ終えたカリンは一冊の手帳を取り出した。
「次は何をテーマに踊ろうかな~。」
カリンは鼻歌を歌いながらペンで手帳の用紙を突いている。その手帳の表紙には拙い字で『踊り・表現・思い付き』と書かれていた。
「やっぱり~歴史を元にした方がいいかしら~受けも良いし~。」
カリンの日課の一つ、踊りの振り付けの考案を行っていたのだ。日々のまめな活動が彼女の天賦の才を更に引き立てていたのである。なお、彼女の日課は魔法の特訓を含めて二つのみである。
「でも、偶にはオリジナルもいいかしら~。ねえフーコはどう思う?」
カリンはフーコの脇を抱え上げた。カリンはフーコに問いかけるが、フーコがそんな事知る由も無い。うあんと一鳴きするだけだった。
「まあ分からないわよね。」
「うおん!」
カリンはフーコを床に下すと、腕のみを動かして即興の舞を作り出していく。
「これじゃないわね。もっと……良い気がするわね。後で二人にも見て貰いましょ。」
気に入った動作を手帳に書き記していくカリン。その頁の見開きには過去にカリンが戦闘舞踊として昇華させた振り付けがびっしりと書き込まれている。
「そろそろ替え時かしらね、この手帳。」
残りの頁数を数えて独り言を呟くカリン。数か月使い続けたこの手帳も、抓めば指が付きそうな厚みしか残っていない。
「後でレインに頼んでおきましょ。」
そうしてカリンは約二時間程を考案に費やしたのだった。
……
午後三時。手帳を自分の荷物に仕舞ったカリンは一度大きな欠伸を放つ。
「ふああ……フーコ、アンタも一緒に寝る?」
カリンはこれから昼寝の時間。元気そうに見えても未だ身体は熱を帯びている。適度な休息を無意識の内に欲していたのだ。
寝室に向かうカリンの後をその短い脚で追いかけるフーコ。彼を抱えると、カリンはベッドに寝転がった。
……
「カリン!!」
午後六時。レインの声でカリンの意識が目覚めた。カリンは寝ぼけ眼で起き上がると、隣で寝ているフーコを抱えて部屋を出た。
「おかえりレイン。」
「ただいまカリン。フーコとお休みだったか?」
朝から外出していたレインにカリンは呑気に挨拶をした。レインは台所の前に立ち、何やら不機嫌そう。
「カリン、この惨状は何だ?」
「ん?……げ。」
そこにはカリンが半日で散らかした食器の山が。カリンが綺麗な皿やコップを使っては流しに放り込んでいたせいである。
「いつも言ってるよな。使った皿は洗っておけって!」
「ごめんなさい!!」
カリンはレインから逃げるように後ろを向くと、徐に近くのソファに寝そべった。
「……ぐぅ。」
「嘘だろ!?寝やがった!!」
……
午後七時。仕事から帰って来たライガと三人で食卓を囲む。
「今日凄いもん見たぞ。全身入れ墨の兄ちゃんが店の客全員に奢るって言いだしてよ。んで、本当に全額、いや結構なお釣りが来る程の大金を支払って帰って行ったんだよ。」
ライガが酒場であった事を食卓で話し始めた。カリンはそれに強く食いついた。
「ええ!?良いなあ。あたしもその店に行けば良かった。」
「馬鹿言え。まだ熱あるんだろ?外に遊びに行くのはそれからだ。」
「まあ治ったら来ればいいさ。」
和やかな雰囲気のまま時間は過ぎて行く。
……
午後九時、就寝の時間。町の多くの人間が眠りに就く。余程の変わり者でない限り。
この日一日でおよそ十五時間寝ていたカリンだったが、数多の例に漏れず、この時間には眠気が最高潮に達していた。
たった一人の寝室。フーコはリビングで寝ている為、カリンは闇の寝室で一人仰向けになる。
虚ろな意識の中でカリンは、カーテンの隙間から漏れる月明りを見ていた。透明な暗闇に差す青い月明りを。
「あしたも……いいひになるかな……」
カリンの素敵な一日はこうして過ぎ去った。きっと明日の彼女の朝も……遅いのだろう。
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次回の更新は7月25日の12時頃を予定しています。
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