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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
第二章:アウスレイ
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サトリ・悟られ

「ラスさん!!大丈夫ですか!?」


 ふらふらのコーデウスが仰向けで動かないラスを抱え上げる。


「ラスさん!!」


 ラスがゆっくりと瞼を開いた。


「コ、ーデウス。」

「はい!!」

「先に行け。」

「!?出来ないです。」


 仲間想いのコーデウスはぼろぼろのラスを見捨てることなど出来なかった。


「優先事項を見誤るとはコーデウス、お前らしくないな。お前は私の介護をするためにここに来た訳じゃ無いだろう。」

「それは…そうです。」

「一番に守るべきはライガさんとレインさんの命だ。コーデウス、お前は彼らの手助けになる物を求めてここに来たのだろう。」

「…はい。」

「なら、早く行けコーデウス。私なら大丈夫だ、死にはしない。…喋り疲れた。少しここで寝る。」


 ラスはそう言って再び瞼を閉じた。直ぐに細い寝息が聞こえて来た。


「分かりました、ラスさん。直ぐに戻ります。」


 コーデウスはラスをそっと寝かせると、宝物庫へと走って行く。

 コーデウスは宝物を掻き分け、目当ての物体を探していく。

 大量の宝物の中から彼らの手助けになるベストな物を探し当てる。それは途方も無い作業だった。


(これはただの絵画。これは何の変哲も無い装飾具、これは…変な置物。駄目だ、全然分からない。)


 加えてコーデウスは芸術品の目利きが得意では無かった。膨大な物品のカタログでも無ければコーデウスが探し当てるのは不可能だろう。


(くそっ、何処だ、何処にある?これだけあれば必ずある筈だろう!レインさんの助けになれるものが!!)


 コーデウスが心の中でその焦りを口にしたその時、


がたっ…


 背後から何かが揺れる音が聞こえた。


「何だ?誰かいるのか!?」


 コーデウスは振り返り、呼び掛けるも、そこはただの壁だった。


(気のせいだな。)


がたっ…


 コーデウスが気のせいだと断じた瞬間、壁から再び振動音が。


「気のせいじゃない。ここに何かある。」


 壁に手を触れると、何か違和感があった。そこだけ少し壁が薄いような気がした。

 コーデウスは少し離れた場所に飾られていた煌びやかな戦斧を引きずり、持ってきた。そして渾身の力でそれを持ち上げ、振り下ろした。

 派手な破壊音が響くと、壁があった場所に小さな空間が出来ていた。その奥には細長い古びた木箱が一つ。


「これだけ?」


 腑抜けた声が出てしまった。コーデウスの想像ではレンディルの所有する財の中でも、特に重要なものがこの隠し部屋に詰め込まれていると思っていたから。

 コーデウスは恐る恐る近寄り、木箱に触れた。何も反応は無い。

 よく見ると木箱に繋ぎ目がある。恐らく蓋になっており、開くのだろう。コーデウスはゆっくりと、中から何が飛び出てきてもいい様に身構えながら蓋を開いた。


「これは…剣?」


 中には細長い棒の様な物体が入っていた。コーデウスの記憶では遠く離れた大陸にこんな形の武器があった気がする。

 コーデウスはそれを持ち上げてみた。長さの割に案外軽い。


「…でも、こんな武器じゃレンディルに太刀打ちできない。」


 コーデウスはそれを置いて行くことにした。コーデウスはその武器の軽さに一抹の不安を覚えたのだ。

 コーデウスは箱に剣をしまい、その場を後にしようと振り返った。すると、何者かがコーデウスの服の裾を引っ張った。


「誰だ!?…誰も居ない。…お前か?」


 背後には誰も居なかったが、箱の中に居座る剣がコーデウスを見つめているような気がした。


「もしかして連れて行って欲しいのか?」


 そんな気がしてコーデウスが口に出すと、剣が頷いた気がした。


「…分かった。持ってくよ。」


 コーデウスは剣を背負うと小部屋の外へ出て行った。

 謎の武器は手に入ったが、依然として状況は変わらない。コーデウスが手助けになりそうな物を探そうと別の場所へ向かおうとすると、


「え!?引っ張られる!?」


見えない存在がコーデウスの腕を引っ張って何処かへ連れて行く。初めは抵抗したコーデウスだったが、止みそうに無いのでそのまま引っ張られていく事にした。すると、大きな石の前でその力が止まった。


「これを持って行けと?」


 恐らく何かしらの宝石の原石だろう。それにしても大きい。両手で抱えるのがやっとな程の大きさだ。


「…よし。」


 コーデウスは原石を持ち上げた。凄まじい重量。コーデウスの腕では持って歩くどころか、持って居続けるのすら不可能な重さ。


「駄目だあ!!」


 コーデウスの腕は直ぐに限界がきて、その石から手を放そうとした。


「…楽になった。」


 それを察知したのか、見えない何かが石をしたから持ち上げたのだろう。コーデウスの腕は途端に軽くなった。何かは持ち上げたまま私室の方へとコーデウスを引っ張って行った。


「ちょっと、何処に行くんだ!!僕には探さなきゃいけない物があるんだ。」


 コーデウスの必死の呼びかけにも答えず、見えない何かとコーデウスは私室のバルコニーへと辿り着いた。


「何だ?ここに置けば良いのか?」


 コーデウスが石をその場に置くと、

「アンタそこで何してるの?って言うか酷い怪我じゃない!!」


バルコニーの外に羽ばたくカリンが居た。


「え!?カリンさん何で!?…そっかこの下か。」


 バルコニーの下には鋼鉄の檻が見える。王の私室は広場を見渡せる位置に存在していた。


「アンタそれ大丈夫なの?」

「はい、大丈夫です。それよりも、カリンさん。何か必要な物はありませんか?」

「必要な物?…あの鉄の檻に打ち込めるような硬くて重い物があれば良いんだけど。」


 それを聞いてコーデウスははっと気づいた。


「カリンさん!!これ!んぐぐ、これなんて如何ですか?」


 コーデウスは今しがた運んできた原石を持ち上げた。


「それ凄く良い!!何でそんなものここにあるのよ!!」

「あ、それは、」


 原石を置き、コーデウスは背中の剣を取り出した。


「これが教えてくれたんです。その石を持って行けって。」

「ただの物が教えてくれた?…ってそれ刀じゃない?」


 コーデウスが持っていた剣を指差して驚くカリン。


「はい、確かそんな名前でした。」

「それも貸してくれない?レインの得意武器なの。」


 そうなのかとコーデウスは刀を見つめた。刀は答えてはくれなかったが、何故この刀があの部屋から出してくれと言っていたのか分かった気がした。


「良いですよ。借りると言わず、持って行ってください。多分こいつはその為に協力してくれたのですから。」


 コーデウスはカリンに刀を差しだした。


「ありがとう、また後で!!…レイン待ってて。」


 カリンは刀を背負い、原石を足で挟んで飛び上がった。


「レインさんか…」


 彼女がレインを想ったその時の顔が頭から離れなかった。


「戻ろう。ラスさんを連れ帰らなきゃ。」


 コーデウスはラスが眠っている廊下の方へ歩いて行った。その背中には何処か清々しさが滲んでいるのだった。



(レインが戦ってるってのに、俺は何も出来ないのか!)


 ライガは悔んでいた。打開策が無くともライガを助けるために戦い続けるレインを見て、何も出来ない自分自身の弱さを悔んでいた。


(俺にも出来る事があれば…)


 レインから渡された冊子は全て覚えきってしまった。もうライガはレインの戦いを眺める事しか出来なかった。

 すると、一際巨大な衝突音が空間内に響き渡った。


「な、何だ!?」


 ライガは軽く狼狽したが、下のレインとレンディルは全く気付いていないようだ。


(待てよ、この振動、天井から来てるな。と言う事はやっぱり俺は危険なのでは?)


 ライガが自分の置かれた状況を認識した瞬間、


「おらああああ!!!」


雄叫びと共に檻の天井がぶち抜かれた。

 黒く鈍重な鉄の欠片と白く透明に輝く破片がキラキラと舞い落ちていった。


「よしっ!!ちょっと開いた!!」

「…カリンか!!」


 ライガのすぐ傍、天井に空いた小さな穴から赤髪の女が顔を出した。


「あら、あんたライガでしょ?そこ危ないから退いてなさい!!」

「無理だ。今レインの魔法で身動きが取れねえ。」

「はああ!?…むう、ならちょっとやり方考えるから、代わりにレインにこれ渡しておいて。」


 カリンはそう言うと、穴から刀を差し込んだ。


「おわっ、いきなり何だ!?」


 それが何かは考えずに、ライガはつい手に持ってしまった。


「じゃあ、頼んだわよ。」

「おいカリン!!これは…もう行っちまった。」


 飛び去ったのだろう。カリンの気配が居なくなった。


「…しょうがないな。おおい、レイン!!」


 レンディルからの激しい攻撃を避け切っているレイン。顔には余裕が無さそうだが声は届いているようで、空いていた片手を軽く振って合図した。


「そんな余裕があるのかああ?ぶふぉっ!」


 レインが受けに回り続けた為、気が良くなっているレンディル。斧が一度もレインに当たっていない事など考えず、レンディルはただ笑いながら斧を振り回し続けていた。


「投げるぞ!!ほら、よ!!」


 ライガが投げた刀はレンディルに邪魔される事無く、レインの手元に綺麗に収まった。


「刀?それも相当な業物だな。」


 レインは鞘から刀を抜き、指を滑らせた。長年刀を触って来たレインだから分かる質の良さがあった。


「…で、お前は攻撃するのを止めたのか?レンディル。」


 レインが刀を持った時から動きが無くなったレンディル。


「何故サトリが、何故それがここにある…早く、早くそれを捨てろ!!」


 震え、怯えるような声で命令するレンディル。


「へえ、怖いのか。これが。」


 当然、素直に言う事を聞く訳も無かったレイン。試し切りの様にレンディルに向かって横薙ぎに振るった。


「…避けたな、レンディル。無敵の身体を持つお前がこの刀を!!」

「しまった!!」


 結果レンディルはその刀を避けたのだった。あらゆる物質を飲み込む身体を持ちながら、その刀だけは後ろに退いて躱したのだ。それは自分から弱点を晒す愚かな行為だった。


「ふ、ふん!!だが、それが分かった所で、次その刀を儂に振るった時貴様の身体が半分になるだけじゃ。」


 確かにその通りだ。レンディルに刀が当たる距離までレインが近づけば、逆にレンディルの攻撃が決まってしまうだろう。


「じゃあ、試してみるか?」


 レインが刀を構えた。


「…や、やってやろう!!」


 レンディルが斧を振りかざす。

 さっきまでの暴闘は何処へやら、レインとレンディルは睨み合ったまま動かない。動いた方が敗けることを理解していた。


「……」

「……!」


 レインが先に動いた。真正面に走って行く。レンディルは刹那の中考えた。


(きっとこいつは横に逃げるだろう。そうすれば大振りの儂の方が痛い目を見る。ならば…行き場を狭めるのみよ!!)


 レンディルは斧を振り下ろした。それはレインの真上ではなく真横の地面を割いた。レンディルの腹の砲塔が裁きの光を解き放つ!!


(これで奴は空いた方向に逃げる!!そこを…)


 レンディルの片手は体内の斧を握りしめる。レインは砲撃の射程内。


(儂の勝ちだ!!)


 レンディルは勝ちを確信し、口角が上がった。しかし、その油断が命取りだった。

 砲塔が砲撃を放つ瞬間、レインの姿がレンディルの視界から一瞬にして消え去った。唯一の回避ルートは補足していた筈なのに。

 レインは用意された逃げ道は通らなかった。それが確実な罠だと知っていたから。だから、レインはもう一つの逃げ道を使う事にした。

 レンディルはレインの倍の身長を持ち、豊満で傲慢な肉体を持っている。だから自分では気づけないのだろう。その股下にある絶好の抜け道に。

 レインは魔法を多重に、オーバーヒートさせる程無理矢理に魔方陣を起動させ、一気に加速した。たった数メートルの移動でほぼ全ての回避用魔法陣が焼き切れた。そんなリスクを冒す位にはレインはこの一瞬に全てを掛けていた。

 レインの身体は逆さの状態でレンディルの背後三メートル、高さ四メートルに跳ね上がった。レインの視界にはレンディルが上方に見える。逆さの視界では正確な狙いは出来ないだろう。ただ、レインの狙いは飽くまで一つだ。相手は肥えて太った巨大なただの的。当てるだけなら容易かった。


「【アープズ】!!」


 空中でレインの身体が弾かれた。ほんの少しの距離を動いただけだったが、刀の先端がレンディルの無敵の背の肉を、ぷつりと切り裂いたのだった。

 レインは即座に離れようと残り僅かの回避魔法を使用したが、レインが背後に居ることに気付かないレンディルではない。凄まじい瞬発力で背後に向かって斧を振るった。


「くっ…刀が!!」


 辛うじてレインの身体は無事だったが、斧によって刀を弾かれ丸腰のレイン。離れた位置に着地した。


「貴様、儂を出し抜くとは…しかし、刀を拾いに行くことは出来まい。」


 レンディルは刀の近くに陣取った。余程刀に触れたくないのか、傍に居るだけだったが。


「やはり、儂の勝ちじゃあ!!ぶふぉっふぉっふぉお!!」

「そうか…でも、俺はお前に触れたぞ。」


 レンディルは気付いた。自分の身体が刀に触れた事に。レインが刀の刃に指を触れていた事に。

「…貴様、まさか!!」

「終わりだレンディル!!【ブレムズ】!!」


 レンディルはレインを殺そうと動き出すが、レインの詠唱には当然間に合わなかった。

 白い光がレンディルの身体を包むと、レンディルは鉄の壁に向かって吹き飛んだ。

ご閲覧ありがとうございます。

次回の更新は5月1日12時頃です。

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