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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
第二章:アウスレイ
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アウスレイが始まる日

 一夜が明けた。城前の広場には多くの人間が詰めかけていた。彼らの目的は他でも無い、スラムのリーダーライガの処刑を一目見ようと集まっていたのだ。

 昨日、王は直々に発表を行った。アウスレイに蔓延っていた犯罪組織、スラムの団の頭であるライガを捕縛したと。その発表に街の住民は深い関心を持ったのだ。

 彼らが見つめる先、広場の中央には小さな処刑台が立てられていた。


「今日はいい天気じゃのう。そう思わんか?ライガ。」


 処刑台の上には後ろ手に枷を填められ、足も拘束された、ただ死を待つ事しか出来ないライガの姿と、その傍らに立つ贅肉の鎧を纏った豚の王、レンディル・オーピッグの姿があった。


「どうだ、今この場に集まっている者全員がライガ、貴様を憎んでおる。都合のいい者達じゃな。自分の安寧の為に見殺しにした全ての責任を貴様のせいにしておるのだから。」


 ライガを見る住人の声はライガの耳にも届いていた。

 ある人曰く、隣人が何時の間にか消え失せていたのは奴らのせいだ、と。ある人曰く、うちの店で高額な品物が盗まれた。きっと生活に困ったあいつらが盗んだのだ、と。

 自分たちが見て見ぬふりをしていた身の回りの異常、それを全てライガの仕業だと言った。その方が都合が良かったのだ。自分が幸せに生きるためには。


「おい、顔を上げんか。」


 レンディルはライガの紙を鷲掴みにし、無理矢理顔を上げさせた。


「見よ。奴らの顔を。皆笑っておるだろう。あれはな、安堵じゃよ。奴らにとって最も恐ろしいのは何だ?そう、この儂じゃよ。今、お前がいる場所が自分じゃなくて良かったと心の底から安堵しておる。悲しいのう。貴様がこれから死のうとしているのに、奴らが見ているのは儂と自分自身だけじゃ。ああ、ライガ、お前はなんて哀れなのじゃろうか。」


 ライガにはレンディルの顔は見えなかった。しかし、きっと笑っているのだろう。あの欲望を塗りたくった、ぎとぎとの笑みで。


「貴様がどれだけ頑張ったとしてもこいつらには響かない。お前の頑張りは全部無駄になったのだ!!ぶふぉっ!!」

「はぁ、オーピッグ…お前一つ勘違いしてるぞ。」


 ライガが溜息をついた。


「俺が裏で動いてきたのは何も街の住民の為じゃない。ずっと、俺の目的はただ一つだ、オーピッグ。手前の糞みたいに膨れ上がったその腹掻っ捌いて…!!」


 ライガが言い終わる前にレンディルの爪先がライガの顔に減り込んだ。血を噴き出し、後ろに仰け反るライガ。


「があっ!!」

「…お前達、彼奴らをどうにかしろ。」


 処刑台の周りに待機していた兵士たちは、近づきすぎた見物人を叩き、追い出し始めた。すると、それを見ていた他の見物人の声が収まった。


「それで良いんだ…ったく。聞け!!これから、スラムの頭の処刑を始めるが、その前にこいつがこれまでどんなことをしてきたのかを話す!!」


 レンディルはそう言ってライガの頭を掴み、持ち上げた。遠くまで血で顔を赤く染めた滑稽な姿が見えるように。


「こいつは数年前から儂の事業を邪魔して来た。あらゆる事業にだ。そのせいで私に、アウスレイにどれだけの損害が出たことか…そこのお前!!」


 突然、レンディルは見物人の一人を指差した。


「お前はこいつに何をされた?」

「は、はい!わた、わたしは店の品物を盗まれました!」

「窃盗を働いていたと…次、お前!!」


 見物人達はレンディルに聞かれるまま、自分の身に起きた不幸を語っていく。ライガがやったことでは無かったが、今この場で語られたことは全てライガの仕業となったのだ。


「窃盗、暴行、強盗、なんと誘拐までやっているそうだ。」

「…騙されるな!!そんな事俺は、」

「黙ってろ!!誰が貴様の言うことなど聞くか!!」


 レンディルはライガの顔を殴った。微かに漏れるライガの声と血に濡れたレンディルの拳。ライガの首ががくんと項垂れた。


「今日、儂がこの場に立っているのは儂、自らの手で処刑を行うからだ。昨日、儂の息子がこいつの仲間に殺された!!死体も残らない残酷なやり方でな!!絶対に許すわけには行かない!!せめて、儂がこの手でこいつの首を刎ねようと思う。異論はあるか!!」


 レンディルの問い掛けに群衆は一人として反論しなかった。別に息子を殺されたことを哀れんだわけでは無い。彼等にとって保身は何よりも重要だっただけだった。


「そうか、そうか。」


 レンディルが手を開いた。無抵抗のライガの身体が地面に打ち付けられた。


「では、刑を執行、」

「あるわよ。異論。」


 女の声だ。レンディルが最も憎んでいるあの声だ。


「その声…何処だ!!何処に居る!!」

「上に決まってるでしょお馬鹿さん。」


 辺りを見回すレンディルを小馬鹿にした声が聞こえた。真上を見るとカリンがその赤い翼で空に浮かんでいる。


「あの女あああ!!!降りて来いいいい!!!」

「言われなくてもそうするわよ。」


 カリンの身体に火が付いた。上空なのに暑さが伝わってくるような真っ赤な炎が。

 段々と炎が大きくなる。真上で見ているレンディルにはそう見えているだろう。しかし、離れて見ている群衆には見えていた。


「炎が落ちてくるぞおおお!!」


 炎の塊となったカリンが処刑台目掛けて急降下を始めたのだ。群衆はたちまち逃げ出した。処刑台の傍に居た兵士も恐れ、距離を取った。


「…かかったな馬鹿があああ!!」


 レンディルは腕を掲げた。すると、指先から金属の渦が噴き出した。それは形を取り戻し、処刑台を覆い隠す金属の壁となった。


「高圧縮魔鉄鋼の壁だああああ!!いくら貴様と言えどこれは溶かし切れまい。身体を叩きつけて死ねええ!!」


 どん、と鈍い音が響いた。やってやったとレンディルは喜んだ。あれだけの高さから落ちてくれば命は無いだろう。


「さて、逃げ出した無能共に罰を与えねば。」


どん!


 天井から鈍い音が響いた。


「…そんな馬鹿な。何故生きてる!?」

「炎で威力でも殺したんじゃないのか。カリンは結構頭が回るからな。」


 レンディルは素直にそうかと答えたが、直ぐに気付いた。自分の傍には誰も居なかった筈だと。


「誰だっ!?」


 レンディルが声のした方向を見ると、一人の青年が立っていた。足元には拘束されたライガが転がされている。


「どおも、お初にお目に掛かります。私、レイン・マスべと申します。」


 レインは丁寧に頭を下げた。


「貴様…いつ近づいて来た?」

「この鉄の檻が閉じる頃には既に居ましたよ。注意が散漫じゃないですか。」


 レインは不敵に笑った。


「貴様、誰に口を聞いている。そいつをこちらに渡せ。」

「嫌だね。友人を敵に売る馬鹿は居ないだろう。」


 レインはおもむろに手錠に手を伸ばした。かちゃんと音が鳴り、ライガの手から手錠が外れた。


「…ん、な、んだ…!レイン!!何でここに!?」


 手錠が外れた衝撃でライガが目を覚ました。


「そりゃ来るだろ。仲間だろ。」

「貴様!!何を勝手なことを!!!」


 レインが手錠を外したことに激怒するレンディル。


「ライガ、これ持っておけ。あとこれを読んで覚えておいてくれ。」


 レインは無理矢理紙束と細剣をライガに持たせた。


「何を無視しておる!!早くこちらに渡せ!!」

「レインこれは?」

「良いかライガ、絶対に落とすなよ。」

「は?落とす?」

「行くぞ、【ブレムズ・ドゥリツラ】!」


 レインの詠唱と同時にライガの身体が上に向かって落ちて行った。背中を天井に打ち付けたと思ったライガだったが、一切の衝撃が来な…


「なあ、レイン。背中からどんどん音が鳴っているけど、これ大丈夫か?」

「…さあ、レンディル。俺が相手してやるよ。」

「なあ、おい!」


 文句を言うライガだったが、既に睨み合うレインとレンディルには届かなかった。


「…分かったよ。読めばいいんだろ!」


 ライガは紙を開き、読み始めたのだった。


「貴様…儂を呼び捨てにしたな。儂は貴様の様な生意気な小僧が世界で二番目に嫌いなんだ。」

「へえ、光栄だね。」


 また睨み合いが起こる。


「……ちっ!」


 レンディルが自分の腹に手を突っ込んだ。どぷんと音が鳴り、大きな斧が引き抜かれた。


(来るか…)


 レンディルは斧を振り上げた。そして、


「馬鹿め!!貴様なんぞに用は無い!!」


斧を空中のライガに向かって投擲した。


「お、おいレイン!!」


 斧は正確にライガに向かって飛んでいく。このままではライガは真っ二つ。無残な姿になってしまうだろう。

 しかし、レインは動かない。ライガに斧が迫っていく。レインは何かを手に持った。ライガの目と鼻の先まで斧が到達する。


(レインは動いていない。なら、俺も信じるしか無い!!)


 ライガは斧をただ見つめた。自分を信じたレインを信じる為に。

 すると、死の刃が近づいてくるのがゆっくりに見え始めた。極限状態だからだろうか。


(いや、本当にそうか?)


 ライガは自分の感覚に疑問を持った。斧の回転は遅くなっていなかったのだ。


「何じゃ、あれは。」


 斧は空中で勢いを失くしていた。しかし、落ちるわけでもなくそのまま空中に留まっている。

 すると、レンディルの目の前に光が発生した。それは透明な魔方陣の光。

 レンディルは見た目に似合わない俊敏な動きで横に跳ねた。直後に光が強まり、魔方陣が消失する。


「逃がしたか。」


 レインが悔しそうに呟いた。


「貴様、何だその魔法は。」


 レインがにっと笑うと浮いていた斧が地面に突き刺さった。レインはそれに肘を掛ける。


「この魔法は俺が自分で解除するか、死ぬかしないと解けることは無い。…俺に用、出来ただろ?」

ご閲覧ありがとうございます。

次回の更新は4月25日12時です。

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