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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
第二章:アウスレイ
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進展

「レインさん。」


 工房で作業をしていたレインの元に子供達がやって来た。


「どうした?」

「私達にも手伝わせて下さい。」


 机の上に広げられた紙の上でレインは筆を動かし続けている。


「さっきまで何も言わなかったのにか?」

「私は!」


 レインの質問にラスが真っ先に声を出した。子供達はラスがいきなり声を張り上げたので吃驚している。


「私は…レインさん。貴方が嫌いでした。」

「は?」

「ぷふっ!」


 大胆な告白にレインは目を丸くした。隣でレインの手伝いをしていたカリンが噴き出してしまう。


「一月前にここに来たばかりの頃、ちょっとライガさんと話が弾んで、ちょっと変な魔法が使えて、それで直ぐにライガさんに気に入られてて。…ずるいなって思ってました。私が十年かけて作った居場所にあなたは一瞬で到達したんです。こんな変な奴、信じるのは止めようって何度も言いました。でもライガさんは、大丈夫、あいつは信用できるって。」

「…コーデウスにも似たようなこと言われたよ。」

「あんな奴どうせ大した事出来ないって思ってたら、ちゃんとライガさんの為になる物を作って来て。そしたら、皆に馴染み始めてきて…でも私はずっと気持ちを変えられなくて。なんで皆は、ライガさんはあいつを信じられるんだろうってずっと考えてました。」


 周りはラスの独白を聞き入る。カリンだけは作業を続けていたが。


「でも、今日気付いたんです。貴方がライガさんを助けに行くと言った時に。私達はずっとライガさんと同じ目標を見て来ました。けれど、私達はライガさんの背中を後ろから見ていただけだったんです。あたかも自分が目標に向かっていると錯覚して。だから、ライガさんが居なくなった時に何も出来なくなってしまった。…でも、貴方は違った。最初から貴方は隣に立つ覚悟が出来ていた。」


 ラスが頭を下げた。


「お願いします、私にも手伝わせて下さい!!私はライガさんを助けたいです!!胸を張って彼と並び立ちたいです!!」


 続けて他の子供達も頭を下げた。きっと今のラスの言葉が皆の本意だったのだろう。


「…ラス。それを俺に言って、俺が怒るとは思わなかったのか?」

「…どうしても自分の気持ちを正直に伝えたかったんです。」


 レインはラスを見つめる。ラスは真剣な眼差しをしている。数秒、時が止まる。


「…早く何か言いなさいよ馬鹿。」


 その時間を壊すようにカリンがレインの頭を叩いた。


「痛っ!何すんだ!」

「アンタが何も言わないからよ。大丈夫よ。こいつ全然怒ってないから。」


 カリンが優しく、戸惑うラス達に話しかけた。


「まあ、怒って無いよ。むしろ、お前達の本音が聞けて良かったよ。」


 レインはラスの頬を両手で挟み込み、むにむにと手を震わせた。


「やめ、やめてください!」

「それにな、ライガの後ろを見ていただけなんて言っていたけど、そんな事無いと思うぞ。お前達は自分がすべき事をしっかりとやっていたよ。ライガもお前達を信頼していたからこそ、自分の命を任せていたんだろ。俺だってオーピッグを倒すなんて言っておいて、戦いは全部ライガに任せっきりだ。」


 カリンがレインをラスから剝がす。ラスは少しレインを睨んでいる。


「だから、これからはライガの戦いじゃなく、俺達の戦いだ。やれることは全部やる。その為には準備が必要だ。…皆、手伝ってくれるか?」

「はい!もちろんです!!」


 その元気な返事にレインとカリンは笑みが零れた。ようやく彼らの戦いが始まるのだ。


「よし、先ずは潜入組以外のお前達。この魔方陣をこっちの紙束に複製してくれ。ゆっくりで良い。正確に書いてくれ。」


 レインは子供達に紙束を渡した。子供達はそれらを持って机に広がって行った。


「そして二人は俺と一緒にこの剣について考えて欲しい。」


 レインは机の上の剣を目線で示した。


「僕達は魔法の事何も知りませんよ。」

「いや、そこは期待していない。重要なのはこの剣そのものだ。」


 レインは剣を手に持った。


「ここ、窪みがあるだろう?」

「確かに、ありますね。割れた跡がありますけど。」

「ここに嵌っていた物が知りたいんだ。何か知らないか?」

「あ、確か宝玉が、って言ってましたよ。」


 パードがそう口にした。


「何だって?」

「それを受けとった時にライガさんが、宝玉って呟いていましたよ。」

「そうか、宝玉か…」


 レインは机の上に広げていた宝石辞典を閉じた。


「何か不都合でもあるの?」


 横で聞いていたカリンが尋ねる。


「いや無い。…一応。」

「一応ってどういう事ですか?」


 レインが椅子に座った。


「もしも天然の宝石を使う方法だったら、金が掛かる上に上手く行かない可能性がある。代わりに、魔方陣を直接刻む方法では出来ない特殊な魔法が使える。一方、ライガが言っていた宝玉って言うのは、ガラスの玉や質の悪い宝石の内側に魔方陣を刻んで作る。そうすることでその玉に模様が浮き上がる。その模様が複雑な魔法を魔法を作り上げる。この方法なら武器に直接魔方陣を刻むことでその魔法を再現できる。」

「それなら宝玉で良かったのでは?」

「でもなあ、その魔方陣を作るのが大変なんだ。特に、どんな効果の魔法陣なのかを調べる事と、複雑な模様を作り出すところが…」


 レインはこの先にある多大なる作業に頭を抱えてしまった。


「何よ大げさね。一晩もあれば作れるでしょ。」

「適当言うな!少なく見積もっても一日は休まずに、」

「失礼致します。」


 レインが作業の大変さを語り始めようとした時、真っ黒な服の男が工房に入って来た。


「あ、コーデウスの使いじゃないか。」

「少し、お伝えしたいことが。」


 男はラスに耳打ちをした。


「え!?レインさん、不味いです!!明日、ライガさんの処刑を行うそうです!!」

「嘘だろ…おい、時間が全然無いぞ!!」


 聞くと、明日の朝に処刑が行われるらしい。


「取り合えず、ラスとパードはこの文献を読んでくれ。何か、雰囲気的に使えそうなものがあったら教えてくれ。」


 レインは机の横に積まれた本の山を指し示す。二人は直ぐに本を手に取り、開き始めた。


「では、私はこれで。」

「ああ、ありがとう!!」


 レインの荒っぽい感謝の言葉を聞くと、黒服の男はその場を後にした。

 それからレイン達はずっと作業を続けた。ライガの処刑と言う期限があるのだ。休む時間など無い。

 子供達は眠い目を擦りながら紙に魔方陣を描いて行く。よれよれの線だ。きっと魔法は使えないだろうが、もう十分な量は出来上がっていた。

 子供達の魔方陣作成が順調だった一方、レイン達の作業は暗雲立ち込め始めていた。


(全っ然出来上がらんっ!!安定しない魔法を安定化、かつ高威力に固定!?そんな複雑な処理を二つ同時に発動出来る魔法陣だと!?それを剣の大きさに収めるなんて無理だ。それにその魔方陣がどのように動くかそのパターンも何もかも分からない!!)


 レインの汗が白紙に滲む。レインは過去最高に焦っていた。死にかけた時もここまででは無かっただろう。なんせ他人の命が掛かっている。妥協する訳には行かなかった。


「レインさんっ!!」


 汗だくのレインをラスが呼んだ。


「どうしたっ!?」

「ここ、これを見てください!!」


 ラスが指差すのは歴史書の一頁。五百年前の統一戦争についての記述だった。


「この名前です。」

「ジェントル・タイガーアイ?この名前がどうした?」

「その剣を持った時にライガさんがこの名前を言っていました!」


 隣に座っていたパードも頷いている。


「でも、これ人の名前だぞ。」

「うぅん、何も関係ない言葉を話すとは思えないですが…」


 ラスが唸っていると、


「見つけました!!ジェントル・タイガーアイ!!」


パードが声を上げた。二人がパードの呼んでいた本を覗く。


「読んでみてください。」

「ああ、“ジェントル・タイガーアイ:人名、名称 グリア統一戦争を終戦に導いた立役者。剣を振るうだけで大雷を呼び寄せたと言われている。また、その名前は彼が使用していた剣にも受け継がれた。虎の目の様な縦縞模様の宝玉が埋め込まれていた為、その名で呼ばれたとも言われている。”…二人とも良くやった。」


 レインは文を読み終わると二人を抱きしめた。


「縦縞模様は最も単純なパターン。何方かが発動するともう片方も動き出す複陣連動模様。そして虎の目の様に見える程狭い間隔。間隔はそれら魔方陣同士の結びつきの強さを表している。…ようやく取っ掛かりが掴めた。ありがとう、二人とも。」


 レインは再び机に向かうと、今度は魔方陣を描き出し始めた。レインの頭には正解の模様がもう出来ていた。後はそれを組み上げるだけ。

 そうして日が変わり夜明け直前。子供達の寝息が聞こえる中、レインは果ての無い作業を繰り返していた。


(それぞれ手の平程の大きさにはなったが、これ以上は小さくならないぞ。)


 レインは悩んでいた。初めに作った魔方陣はレインの身長ほどの大きさがあり、それを少しずつ軽量化、最適化していった。しかし、安定化の魔方陣と最大化の魔方陣の二つは、魔方陣に入れ込む容量の関係上どうしても合わせることが出来なかった。加えて魔方陣はどうしても手の平大の大きさまでしか小さく出来ず、細剣に二つも組み込む余裕は無かったのだ。


「……」


 レインは悔しがっているが、本来ここまでの工程を一日で行うのは至難の業である。同業者が聞けば腰を抜かすだろう。しかし、それでは足りないのだ。友を救うためにはまだこれでは足りないのだ。


「…ん?アンタまだやってたの?」


 隣で眠っていたカリンが目を覚ました。


「その顔じゃ、完成しなかったようね。」

「ああ、ここまでしか出来なかった。」


 カリンは机の上の魔方陣を見た。


「こんなに小さくなってるじゃない!ここまでやれば十分じゃないの?」

「駄目だ。これじゃあ、剣に組み込めない。どうしても一つに纏め切れない…」

「ふうん。じゃあさ、二つで良いんじゃない?」

「え?」

「魔方陣同士をペアにする事って出来ないの?あの魔方陣を引き合わせる奴みたいに。」


 カリンは昨日、城から逃げるときに見たあの魔法の事を思い出した。


「それでさ、片方を剣の柄に、片方をライガの手の平に付けて、剣を握った時だけ発動するみたいなのは?」


 レインの目から鱗が落ちた。確かに二つを無理矢理一つにすることは無いじゃないか。


「それ、良いかもしれない。後はライガに描き込む時間さえ作れれば…」


 そう言ってレインはゴールに向かって最後の制作を始めた。


「…頑張ってね。」


 カリンはレインには聞こえない声でそう言うと、再び夢の中へと帰って行った。

ご閲覧ありがとうございます。

次回の更新は4月23日12時です。

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