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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
第二章:アウスレイ
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潜入

 祭り二日目。十二番通りは昨日よりも多くの人でごった返していた。

 彼彼女達の目的はもちろんアウスレイ大ホールで行われるカリンのショー、そして同じく大ホールで行われる事となった領主オーピッグの演説であった。

 初日のカリンの舞台は凄まじい反響となり、瞬く間にその熱狂は市街の語り草となっていた。見た人曰く、アウスレイ史上最高の演舞だったと。

 その上、オーピッグがホールまで演舞を見に来ると言う。アウスレイの住民はもうカリンの舞が見たくて見たくてしょうがなくなってしまった。

 そもそも、領主オーピッグはまず城から出ることが無い。年に一回の記念祭に城前で行われる演説で姿を見られたなら、次に住民が彼の姿を見られるのは一年後になるだろう。何故なら、オーピッグは自らの城であらゆる娯楽を、贅を貪る為、外に出る必要が無いからだ。

 そのオーピッグがカリンの舞を見る為に自ら赴くというのだ。それだけでカリンの舞台は更に拍が付いたと言えるだろう。

 そういう訳で、十二番街は過去一番の盛り上がりを見せていたが、一方で他番街は昨日ほどの盛り上がりは無かった。

 屋台の店主たちはどこか不満げな顔で屋台を開いていた。もちろん、他の町では十分と言われるほどの人だかりではあったが、このアウスレイに住んでいる以上生半可な儲けで喜んではいられないのだ。

 しかし、この盛り上がりの無さを喜ぶ者達も居た。人が少なくて歩きやすいと喜ぶ歩行者。店番を手伝わなくても良いとはしゃぐ子供。そして…裏路地に潜む潜入者達。


「…よし、ここで待機だ。」


 ライガとラス、そして隠密班から選抜された子供、パードが路地裏から王城を見やる。

 時刻は昼を少し回った所。三人は刻一刻と近付くその時に向けて最終確認を行った。


「今日は皆の意識がホールに向かっているお陰で人通りが少ない。潜伏はこのままここで問題無いだろう。」

「はい。後は、彼らからの報告を待つだけです。」


 彼らの作戦はこうだった。

 六人の潜入班が三人ずつに分かれて別方向に潜む。そして王城から飛び立つ風動車と仲間の隠密班の合図を待つ。

 合図が来たら、ライガ達は物品搬入用の出入り口から、フィリト班は使用人出入り口から潜入する。そうして別ルートから頂上の宝物庫を目指すつもりだ。

 かなり単純な作戦だったが、この作戦を実行するまでにライガは十年近い月日を要したのだった。

 ライガ一人では体質的な問題で成功率にぐらつきがある為、共に潜入できるように育てる必要があった為だ。現に、


「今日はどんなことがあってもお前らを助けてやることは出来ないと思え。俺は今日は…絶不調だからな。」


ライガの魔法は、今日最悪の体調だった。手からはぴりぴりとか細い音が鳴っているだけで、自慢の雷は姿も見えない。


「だが、お前達の強さを俺は知っている。必ず、生きて帰るように。」


 しかし、ライガの体調とは裏腹に、今日のラス達は完璧と言っても差支えが無い程万全の状態だった。ライガの十年の努力がやっと報われる時が来る。

 王城から一台の風動車が発信した。同時に奥から一瞬だけ光が点滅した。


「…行くぞ。」


 そう言って三人は王城へと向かう風となったのだった。



 この日もカリンは朝、暗い内からホールに到着し、入念な事前練習を行っていた。


「はあっ!!はっ!!」

「カリン様、練習はそこまでにしておいた方が良いのでは?」


 昨日から続く激しい猛練習。カリンの滝の様な汗を見てスタッフも流石に止めに入った。


「もう十分、いえ完璧に貴方の舞は仕上がっています。もう休憩を取って下さい!」

「まだよ。まだあたしが納得してないの。お客を入れるまで時間はまだあるでしょ。もっと完璧に仕上げたいの。」


 カリンは強情で、スタッフの説得を何度も跳ねのけては、また練習に戻ってしまう。スタッフ達もどうしたものかと考えていた。

 すると、黒服の男がカリンに近づいてきた。ホールのスタッフでは無い。スタッフ達も見覚えが無いようで、誰だと言う声がちらほらと聞こえてくる。


「アンタ誰?あたしのファン?」

「カリン様。少しお時間宜しいでしょうか。」

「ごめん、今は集中したいから。」

「貴方と話がしたいと言う方が来られております。」


 カリンがきっぱりと断ったにも関わらず、男は一歩も引かない。


「だから…はあ、分かったわ。行けば良いんでしょ。ただし、シャワーを浴びてからって伝えておいて。」

「畏まりました。では後ほど。」


 そう言って黒服の男はステージを去って行った。


「そう言う事だから。事前練習はこのくらいにしておくわ。…さっきの、アンタ達の差し金じゃないでしょうね。」

「いえ、そんな事は。」

「まあ良いわ。取り合えずシャワールームを開けておいて。後、話が終わったら楽屋に戻っているから。」


 スタッフの返事を聞くと、カリンは自分の楽屋へと戻った。

 荷物からタオルと着替えを取り出すと、シャワー室に向かう。

 カリンの言いつけ通り、シャワー室には他に誰も居らず、カリンは鼻歌を歌いながら服を脱ぎ捨てるとシャワーの蛇口を捻った。

 温かな雫が汗を流してゆく。白肌に石鹸を当て、染みついた汚れを落としてゆく。それは気持ちの良い恵みの雨のようだったが、依然としてカリンの頭の中には今日の舞の事だけが存在するのだった。


「ん~、んん~…」

(ここでターン。しなやかに、上品にターンを…)


 鼻歌で舞の曲を口遊み、脳内では舞い踊る自分を客観視する。


(これじゃ駄目。もっと顔を意識して…)


 そんな事を考えていた為か、目の前に立つ男に気が付かなかった。


「カリン様。」

「きゃっ!!な、なんでアンタここに…ここは女性用のシャワー室よ!!」

「ですから部屋の前で待機させて頂いておりました。」


 その男は先程の黒服だった。そこまで言われてカリンは、既に自分がシャワー室から出ていた事に気が付いた。


(想像練習にのめり込み過ぎた…これからは程ほどにしよう。)

「では案内致します。」


 落ち込むカリンを他所に黒服の男はホールの奥へと歩いて行く。カリンは急いで彼の後を追って行く。


「では、ここから少し下に降りて行きます。」


 そう言って男は、二階に上がる階段の前に設置されていた扉を開いた。そこには地下へと続く長い階段があった。


(…嫌だなあ。)


 カリンはミッシュの屋敷の地下室を思い出して憂鬱な気分になった。


「この下で本当に誰かがあたしを待っているの?」

「ええ。間違いなく。先に言って置きますが、この先に居られる方は本来であれば一対一で人と会われる事の無い高貴な御方です。絶対に失礼の無い様にお願いします。」


 そう言って男は階段を降りて行った。


(今日あたしに会いに来る高貴な奴う?そんなの一人しか居ないでしょう。)


 カリンは未だ見ぬ諸悪の根源の名を思い浮かべた。


(レンディル・オーピッグ。もし奴が本当にこのホールに来ているとしたら…全部思い通りに行けたって事。我ながらよくこんな無茶が通ったものだわ。)



 カリンは思い返していた。あの日、コーデウスに押し付けた無茶苦茶な願いを…


「ショーにおびき寄せる!?」


 コーデウスがありえないと首を横に振る。


「ちょっと、口にしないでよ。」

「そんな馬鹿げたことを言われたら口にも出しますよ!何でそんな事を!?」

「そりゃあ城から引き離す為よ。ショーに来るんなら城から離れるでしょう。ならライガって奴が潜入するのに大きなチャンスになると思わない?」

「思いますけど…第一、あの人が城から出る訳無いじゃないですか。殆ど城から出ないんですよ。僕だって年に数回会えるかどうかです。」

「あら、やっぱりアンタ中々の地位があるみたいね。なら話が早いわ。どうやって城から出すか。それは…」


 カリンがコーデウスの鼻先に人差し指を向けた。


「アンタが!街中に!!噂をばら撒くのよ!!!」


 言い放った。それは、余りにも、


「は?何を言っているんですか?」


阿保らしい作戦だった。


「だから、アンタが噂を流すの。」

「はあ!?噂を流すって…カリンさんの舞は凄い…ってですか?」

「そう!滅茶苦茶誇張した噂をね。この街一番の踊り子だ。史上類を見ない完成度だってね。」

「そ、そんなの上手く行くわけ…」

「だからやるのよ。相手が思っても無い事をやるの。上手く行かないのが前提として、上手く行けば万々歳。それじゃ駄目?」

「そ、それは…」


 コーデウスは口籠ってしまう。少しだけ、そうかもと思ってしまったから。


「さっきのあたしの舞、どうだった?」


 コーデウスはそれを聞かれて思い出した。激情の数分を、魂が震えたあの光景を。


「…今まで見たどの芸術よりも、感動しました。」

「でしょ。その感動を何倍にも膨らまして言葉にすれば良いだけよ。そうして話題を作るの。そしたらあたしはその噂を遥かに上回る演舞で迎え撃つから。」


 ね、とにこやかに笑いかける。その顔にコーデウスはやられてしまった。


「…分かりました。やってやりますよ!!どんな出不精でも見に行きたくなるような飛びっきりの噂を流してやりますよ!!」

「よく言った!!じゃあ踊り以外は全部任せるわ。噂を流すのも、ショーの出演に関しても。」

「え?今何て?」



(兎も角、この下にオーピッグが居るわけね。…どうせならここで殺っちゃうか。)


 そんな物騒な事を考えつつも、カリンは地下に向かう階段を降り始めた。

 薄暗い階段を五・六階は降りただろうか。先に光が見えて来た。

 光の先には小綺麗な廊下が続いており、奥に大きな扉が一つだけ存在する。


「あちらの扉の奥でお待ちです。どうぞ。」


 男はカリンに先に行くように促す。客人に扉を開けさせるのかとも思ったが、態度には出さず、言われるまま奥の扉に手を掛けた。

 扉は意外と重く、恐らく金属製の重厚な作りをしていた。カリンの剛腕の前にはその重さなど何でも無かったが。


「あれ?」


 カリンはつい声を上げた。カリンは扉を開いたのだが、奥には暗闇が続いていた。


「ここで合ってるの?」

「はい、このまま御進み下さい。」


 カリンは暗闇の中に足を踏み入れた。暗闇の中を廊下から入る光が少しだけ照らしている。部屋の中は酷く殺風景なものに見えた。


「ねえ本当に、」

「カリン様。」

「何?」


 男が声を掛けるので、カリンが振り向いた。


「失礼致します。」


ガチャン…



「妙だな。」


 城の中。ライガは思ったことを声に出してしまった。

 潜入中の身ではあるが、そんな事をしてしまったのにはある訳があった。


「やけに兵士が少ない。」


 今ライガ達が居るのはアウスレイ城上層階の広い廊下、その隅に潜んでいるのだが、潜む必要が無い位に辺りに兵士が居ないのだった。一応、下層階には兵士の姿があったのだが、中層階に着いた時にはもう既に人影は存在しなかった。その御蔭か、怖い位順調に進む事が出来ていた。


「オーピッグが外出するからと言って、こんなに城内の警備が薄くなるとは思えない。」

「引き返しますか?」

「…お前達だけでも先に帰って、!?」


 ライガが仲間に撤退を告げる瞬間、前方の壁が破裂した。


「何が起こって…」

「おやおや…こんな所にも居たのか。ドブネズミが。」


 見上げる程の巨体がライガの前に立ち塞がる。

 巨体が片手で何かを放り投げた。ライガの横を通り、ラス達の前に落ちた。


「フィリト!!」


 傷だらけのフィリトがそこには居た。ラスが慌てて抱きかかえる。酷い出血だが、辛うじて息はある。


「ぶふぉっ!ふぉふぉふぉ!!」


 贅肉を震わせて巨体が笑い声を上げた。


「何で、」


 震えるライガが声を振り絞った。


「何でここに居やがる!!!レンディル・オーピッグううう!!!!」

「ぶふぉっ!!」

ご閲覧ありがとうございます。

次回の更新は22年4月17日12時です。

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