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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
第二章:アウスレイ
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想定外の報告書

「王よ、戻りました。」

「おお、そうか。無事で何よりだった我が息子よ。して、スラムはどのような状況かの?」

「以前の報告どうり、来月頭の記念祭の最終日に例の作戦を実行する予定のようです。」

「ほお、そうかそうか。」

「しかし、懸念点が一つ。先日スラムに入った男とその同行者の女の事です。男の方は珍妙な魔法を使うのをこの目で見ましたが、女の方はどのように関わるつもりなのか見当もつかない状況です。」

「ああ、構うな構うな。魔法も碌に使えない無能な頭と何も出来ない餓鬼共の軍団にたった二人が手を貸した所で何が出来ると言うのだ。どれだけ策を巡らそうともこの国に、この儂に歯向かう者がどうなるかは知っているだろう。」

「ですが、」

「くどいぞ息子よ。お前をそんな臆病者に育てた覚えは無いぞ。お前は優秀な子だ。どっしりと構えて待って居れば良いのだ。」

「…分かりました。我が父よ、我が王よ。」


 報告者は王室を後にした。これは物語の裏に潜む邪悪な思惑、其の一頁なのだった。



 あれから時間が流れ、作戦の実行日である祭日を来週に控える所まで日にちは進む。

 この日は月に一回の集会の日。地下街の住人が一堂に会する大規模な集会である。しかも今日は作戦前最後の集会。皆の気合がその話し合いの激しさに拍車をかけて行くのだった。


「…以上仕入班からの報告を終わります。また、別件で商業班に相談があるので集会後に残ってください。」

「わかった!」


 子供の返事を聞き届けると壇上から商業班班長の男が降りて行く。それと行き違いになるようにライガが壇上に上がった。


「王城の仕入れが増加している件、恐らく祭りに合わせた仕入れの増加だと思われるが、注意するに越したことは無い。貴重な情報ありがとう。次、隠密班。」


 ライガが降りて行き、代わりにラスが台の上に立った。持っていた紙を捲り始めた。


「隠密班です。先ずは王城の見張りからの報告です。王城から不審な車が出て行った形跡は出ていないようです。一方、王城に入る車の数が増加していたという報告が入っています。」


 ラスの報告から話し合いが始まった。


「出て行って無いって事はさらわれた人達はまだ送り出されてはいなさそうだね。」

「いや、以前の様に公的な車に潜ませたっていう可能性もある。」

「いや、その件から城を出てくる全ての車を注意するように指導してある。その可能性は低いだろう。」

「王城に入る車は仕入班の情報にあった増加した仕入れと関係ありそうだね。」


 白熱する議論の合間にラスからの補足が入る。


「少なくとも、潜入班は宝物庫の潜入以外に捕らわれた人の開放も視野に入れなければいけなくなった訳だ。」

「しかし、今回の作戦は何時も行っている馬車からの奪還程度の難度では無い筈。元の目的の遂行のみを考えた方が成功率も上がるのでは?如何でしょうライガさん。」

「俺も出来れば助けてやりたいが、あの城の中で余計な事を考えたく無え。救出は作戦の後、俺が万全に戦えるようになってからだ。」


 ライガや各班の班長や年長組が話し合いを続ける中、子供達は難しい話がよく分からないようで、少し離れて見ていたレインに集まり始めていた。


「ねえ、兄ちゃんはなんでこんな所で見てるの?」

「俺は魔道具を提供するだけだからな。ああいう話し合いはちょっと前にここに来た俺が出るべきじゃないよ。」


 レインも一応自分なりに考えて後ろの方に立っていたのだが、


「えー、そんなことないって。あっちにいこうよ。」


子供特有の純粋な眼差しがレインを襲った。レインはどう説明するか迷っていた。


「次は技能班。先ず初めに特別班のレイン。魔道具の進捗はどうだ?」


 壇上のライガからレインに声が掛かった。レインは助かったと胸をなでおろす。


「全部完成させてある。後で潜入班はもろもろのチェックがあるから後日、訓練場まで来て欲しい。」


 分かったとライガが言うと話題は直ぐに技能班に切り替わった。


「な、俺の仕事はこれだけ、と言うよりもこの後にあるんだ。分かったら皆の話をちゃんと聞かなきゃだめだぞ。」


 子供達は納得したのかレインの元を離れて行った。何人かはそれでも居座ろうとしていたが、レインが背中を押すと名残惜しそうに元の場所へ帰って行った。


「…戦闘班からは特にありません!」

「いや、せんにゅーぐみのひとたちがんばりすぎだよ!!らいしゅうまでやすんでて!!」

「分かった検討しておく。これで全班報告終わりだな。班長上がってきてくれ。」


 そうして集会も終盤を迎える。ライガと各班長が壇上に上がり、作戦の最終確認を行った。


「商業班、仕入班、技能班は地下街で待機、隠密班は王城周辺の監視及び報告を行ってくれ。戦闘班は有事に備えて地下街、祭り会場、その他市街で待機しておくこと。決行は祭りの最終日三日目。各班は以上の事をしっかりと頭に…」

「ライガ様。」


 ライガが集会を閉めようとした時、ライガの背後に真っ黒な服を身に纏った男が突如として出現した。


「何だ!?…コディの使いか。何の用だ?」

「此方、コーデウス様から預かりました封書となっております。お納めください。」


 ライガが受け取ると使いの気配は元からそこに居なかったかのように立ち消えた。


「はあ、アイツが手伝ってくれりゃもう少し事は単純になるんだがな。」


 下に居る者たちには聞こえない小さな愚痴を吐きながらライガは封書を開いた。


「ええと…ラス、フィリト。どう思う?」


 近くに立っていたラスとフィリトを呼び寄せた。三人は封書を覗き見た。他の班長や下で見ていた者達には何をしているのかさっぱり分からなかったが、何かを相談していることは漏れ出た声のトーンで分かった。


「どう思う?」

「…レインさんを呼んだ方が良いのでは?」

「同意見です。」

「そうだな。レイン!!ちょっと来てくれ。」


 何をしているのかと呆然と眺めていたレインに急に呼び出しがかかった。レインは急いで壇上に向かう。


「どうしたんだ?」

「これはコーデウスから送られてきた文書だ。見てくれ。」


 コーデウス最近見てないな、なんて思いながらレインは渡された文書を読み始めた。

 文書には、コーデウスが何処からか調べ上げた城内の構造や衛兵の動きが記されていた。中にはライガ達が最も警戒をするオーピッグの祭り前後の予定まで書かれていた。

 かなり貴重な情報だがレインに見せるものでは無いだろう。レインが顔を上げるとライガが文書の下部を指差している。再びレインは文書に目を落とした。


『…当日のオーピッグの動きは現在判明しておりません。それとカリンさんの事ですが、祭に合わせて行われるショーにおいて、唯一舞を披露できるという特別な権利を彼女は勝ち取りました。今、上流階級の間でカリンさんの舞が話題となっています。十二番街にあるアウスレイ大ホールにて祭りの一日目と二日目に披露する様で、ぜひ来てくれとの事です。せっかくなので心の片隅にでも置いておかれたらどうでしょうか。…』


 レインは額に手を当てた。


「レイン、君の連れは何を考えている!」


 ラスは激怒した。大人しく待っていろとライガが手紙で伝えたはずなのになぜこんな目立つ事をしてしまったのかと。


「…言葉もない。」

「でも妙ですよね。」


 苦笑いを浮かべながらフィリトがそんなことを呟いた。


「何がだ?」

「レインさんから聞いていた人柄と合わないなって。こんなに聞き分けの無い人だとは思えないんですよ。」

「いや、我儘は人一倍多いけどな。けど、人の言う事を聞かずに勝手をやるタイプじゃない。」


 すると黙って聞いていたライガが口を開く。


「それならコディの手紙にも気になる所がある。事務報告はいつも通りだ。だが、正直カリンの報告の部分は無駄だろう。この街を誰よりも想っている男が作戦前の大事な時にそんな余計な事をするのかと考えていた。」


 ライガは腕を組んで目を瞑った。下の者達は上で何があったのがと騒めき始め、他の班長達も何があったのかと心配そうな目で見つめる。


「ライガさん。何を悩んでいるんですか?もう私達の作戦は完成間近なんですよ。そんな変な言葉に惑わされないで下さい!貴方は迷っては駄目です。皆には貴方しか、」

「ラス、止めとけ。」


 レインがラスの口を塞いだ。


「何するんですか!!私はライガさんの事を考えて…」

「ライガ、大丈夫だ。好きに決めろ。」


 怒れるラスを無視し、レインはライガに語り掛けた。

 ぱしっ、とライガは自分の頬を叩いた。


「ライガさん?」

「仕入班!!!」


 ライガの声に仕入班の班長と下で見ていた仕入班の班員が姿勢を改めた。


「…作戦変更だ。祭りの一日目と二日目に十二番街のアウスレイ大ホールでショーの観覧をすること。」


 文書を見ていないものには意味不明の作戦変更。仕入班は困惑していた。


「返事は!!!」

「は、はい!!」

「以上だ。全員、本番に向けて整えておくように。解散!!」


 ライガの掛け声で困惑していた住人達は自分の仕事場へと帰って行くのだった。


「ライガさん!!なんで!!」


 班長達にも解散を告げたライガにラスが詰め寄った。


「…コーデウスを信じたかった。ごめんな。」


 服を掴み項垂れるラス。ライガの言葉に少し頷いた。


「さあ、行こう!まだまだやることはあるんだ。」


 ライガはそう言って台を降りて行った。それを追いかけるレインとラスとフィリト。


「…しっかりしてそうでも案外子供っぽい所もあるんだな。」

「…ですね。」


 小声で話すレインとフィリト。ラスは二人の脇腹に肘を入れると、ライガの後を追いかけ走り出すのだった。

ご閲覧ありがとうございます。

次回の更新は22年4月11日12時です。

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