試作品
コーデウスの告白を聞いた翌日に、レインは地下の訓練場へと足を運んだ。手に紙束を持っている彼は、子供達が激しく戦闘を行っている中を堂々と進んでいく。
「ようやく来たか。お前達、一度休憩だ!」
奥で訓練を見守っていたライガが子供達に休憩を言い渡すと、子供達は水を飲みに行ったり、追いかけっこを始めたりと思い思いの行動を取り始めた。
子供達の楽し気な声が聞こえる中、ライガがレインの近くに寄って来た。
「あんなに激しく戦ってたってのに、まだ元気に走り回れる体力があるなんてな。やっぱり子供の体力ってのは無尽蔵なのかね。」
「訓練中でもこれくらい元気を出してくれれば良いんだけどな。で、昨日言っていた魔法がそれか?やけに多いが。」
ライガがレインの持っている紙束を指差した。レインは頷き、地面に持っていた紙束を広げた。
「幾つか考えて来たんだ。形になっている物は少ないが、取り合えずこういう魔法は用意できるぞって事で。」
「そう言う事なら…おーい、フィリト!!ちょっと来てくれ!!」
ライガが誰かを呼んだ。すると、水飲み場の方から一人の青年が二人に向かって走って来た。
「こいつはフィリト。戦闘班の班長だ。潜入作戦のメンバーの一人でもある。」
「貴方がレインさんですね!よろしくお願いします!」
そう言ってフィリトと呼ばれた少年は礼儀正しく礼をした。
「ああ、よろしく。」
「フィリト、ここにレインの作って来た魔法がある。万が一の時に使う事が出来るように俺が頼んでおいた。これからレインが試しに使ってみるから、お前はその魔法で気になる所なんかがあったら言ってくれ。」
「はい!分かりました!」
ライガがフィリトに説明をしている間にレインは一つ目の魔法の準備を終えていた。
「じゃあ、一つ目。防御用の魔法だ。フィリト、俺に斬りかかってみてくれ。」
魔方陣の書かれた紙を手に持ったレインがそう言うので、フィリトは訓練用の木刀を手に持った。
「良いんですね?行きますよ。」
フィリトが心配そうに聞くも、レインは大丈夫だと楽観的に言う。ライガも思いっ切りやってやれと言うので、フィリトは眉を顰めながらもレインの頭上に思いっ切り木刀を振り下ろした。
木刀がレインの額に触れる瞬間、手に持った魔方陣が光を放った。すると、フィリトが持っている木刀が動きを止めた。
「!うご、きません…」
フィリトは必死に力を入れるが逆に木刀はレインから遠ざかっていく。その不思議な現象の正体を少し離れた位置から見ていたライガは分かっていた。
「レイン。お前の周りに透明な球状の膜みたいな物が出来てるぞ!」
魔方陣から光が放たれた瞬間、レインを覆う様に球状の膜が発生した。その膜は次第に膨張して行き、木刀に裂かれる事無くむしろ押し返すほどの耐久性を持っていた。
「そう、これは【ライミア・アープズ・ミディ・ドウン】。どんなものでも弾く膜を作り出す魔法。」
「ふんっ!ぐぐぐ…」
「ただ、この魔法には弱点がっ!!?」
得意げなレインの頭頂部に木刀が振り下ろされた。レインを守る膜が突如として消えたのである。振り下ろしたフィリトも何が起きたのか分からずにいる。
「おい、大丈夫か?」
「…うう、これこの魔法の問題点、発動時間が短い。」
レインが叩かれた頭頂部を撫でながら説明を始める。
「効力を強くした代わりに時間が短くなっている。もうちょっと長くしようと考えているが、一応限度はある。」
「今のでも相当便利そうだと思います!」
「いや、今の時間じゃ駄目だ。いざって時に対応しきれ無え。それにラスは魔法が使えるが、フィリトや他のメンバーは魔法が使えない奴が殆どだ。一人だけを守れるようにするだけじゃ駄目だ。」
渋い顔をしたライガがレインの魔法を酷評する。
「確かに時間は要改善点だ。ただ、この魔法に魔成素補充用の魔方陣を入れ込んでちょっと改良すれば、フィリトや他の魔法が使えない子でも危ない時に自動で発動させることが出来る。後は応用的な使い方だが、高い所から落ちた時にクッションにもなる。現状委でも一応持っておくくらいの使い方は出来る筈だ。」
レインは即座にライガの指摘に対して改善案を言う。
「レイン、お前の魔法やっぱり…いや、今はいいや。そう言う事なら改良に期待だな。」
「そうですね!」
ライガは何かを言いたそうだったが、取り合えず今は改良待ちと言う事で話が付いた。
「次はこれだ。」
レインは別の魔方陣を手に持った。
「いや、これって言われても俺は魔方陣なんか読めん。」
「まあ、そうか。これは【ラグリズ・ド・ティミアドゥリ】。魔方陣の過剰魔成素発光反応を使って強烈な光を出して目眩しを、」
「はい、駄目ですそれ。」
フィリトが手を上げて発言をした。
「え、何でだ?」
急な否定に戸惑うレイン。
「僕達の信号はラスさんの光魔法で行っています。信号が掻き消されると連携が取れなくなる恐れがあるので駄目です。」
フィリトの発言に確かにそうかと納得するライガ。レインは顎に手を当てて考え始めた。
「ん、なら、煙ならどうだ?」
「煙、ですか?」
「煙なら光を掻き消しはしないと思うんだ。」
次はフィリトが腕を組んで考え始めた。うーんと唸りながら言葉を絞り出した。
「駄目、では無いと思いますが、やっぱり視認性が気になりますね。そこは実際に魔方陣が出来てから確認でどうでしょうか。」
「うん、それで良いな。」
話が纏まった様だ。レインが次の魔方陣を用意しようとすると、隣に立っていたライガの様子が変なことに気が付いた。
「ライガ、何にやにやしてるんだよ。」
「いやあ、やっぱ良いなと思って。」
「何だそりゃ。」
気色悪いと心の中で毒づきながらもレインは次の魔方陣を手に持った。
「次は、二枚一片にですか?」
レインは片手に一枚ずつ紙を手に持っている。
「こいつらは二枚一セットなんだ。片方に魔成素を流すと…」
そう言ってレインは右手の魔方陣に力を込め始めた。魔方陣から光が漏れだし、
ピタアン!
もう片方の紙が魔成素を流していた方の紙にくっ付いた。
「こんな風に魔方陣同士が引き寄せられる。一応距離の制限はあるが、一度認識したら必ずくっ付くまで引き寄せられる。」
「へぇ、面白いなこれ。」
レインから紙を受け取ったライガが面白そうに紙をべりべりと剝がし始めた。
「それに三回くらいは使える。」
「おお!!本当だ。」
ライガの手の上で紙同士が勢いよく引っ付いた。驚いたのかライガの耳がぴんと張った。
「フィリト、これは中々使えそうじゃないか?」
ライガがフィリトに話しかけるが、フィリトから返事が無い。見るとぷるぷると震えている。
「フィリト?」
「すっ、素晴らしいですう!!」
ですう…ですう…
フィリトが急に大声を上げた。遠くで遊んでいた子供達からも注目を受けている。
「危ない味方を引き寄せて助ける!相手が予期しない動きの連携が取れる!!物に張り付けておけば遠くからでも回収できる!!!何にでも使える万能魔法じゃないですか!!!それに何回も使えるってことは何回も使えるって事ですよね?」
「まあ…うん。」
レインはこの魔法がここまで賞賛を貰えるとは思っておらず、フィリトの異常なテンションに着いていくことが出来なかった。
「ああ、攻めに使った後に守りにも使えるなんて…レインさん。貴方天才です。」
「そ、そうか?」
そこまで言われると押され気味だったレインもいい気になって来る。
「こんな事で天才だなんて言われちゃあ敵わないな。もっと凄いのを見せてやるよ。次はなあ…」
二人で盛り上がりだしたのを横目に、ライガは子供達に訓練の再開を告げていた。渋々動き出した子供達へ叱責を飛ばすライガだったが、その顔はどこか満ち足りたようなそんな顔をしていた。
所変わって、ここはアウスレイ中心区にあるショーホール。
「そう、アンタの気持ちは十分伝わったわ。」
二階にある要人席にカリンとコーデウスが座っていた。下の舞台では踊り子が自分の舞を披露しているが、カリンは詰まらなさそうに眺め、コーデウスは見向きもせずに俯いている。
「すみません…どうしても抑えきれなくて…」
「別に謝らなくても良いわ。あたしはアンタ等の信用を得て、オーピッグって奴をぶっ殺すだけ…だったんだけどね。」
カリンはグラスに注がれたワインを一口含む。
「アンタ等の親玉がそう言うんじゃあたしが勝手に動く訳に行かないわね。」
カリンはグラスをテーブルに置いた。
「はぁ、アウスレイの踊りの程度はどのくらいか楽しみにしていたんだけど…」
一階では踊り子が客におひねりをせびっている様子が伺える。
「どいつもこいつも踊りに金の匂いがし過ぎなのよ。ちょっとは隠せっての。…すみませえん。」
カリンがウエイトレスを呼んだ。
「如何致しましたか?」
「あたしもそこのステージで踊らせてよ。」
え、と黙っていたコーデウスが顔を上げた。ウエイトレスがここは貴方の踊りを見ても居ないのに許可することは出来ない、と遠回しに伝えようとしたがカリンは、
「あたしの連れを見てもそんな事言えるの?」
とコーデウスを見ろと指し示した。
「え?…は!コーデウス様のお連れ様でしたか!申し訳御座いませんでした!どうぞ此方へ。」
コーデウスの顔を見るなり態度を急変させたウエイトレスは、カリンを奥の部屋へと促した。
「カリンさん、どうしてそんな無茶を?」
「今日アンタの事軽く調べたの。どうやら相当有名人みたいじゃない。」
カリンはグラスに残っていたワインを飲み干してそう言った。
「ねえ、コーデウス。来月のお祭りで大規模のショーが開かれるって聞いたんだけど。」
カリンが急に話を変えだした。
「そうですが、急に如何しました?」
「いや別に。ただ、察しの良いアンタならこの意味、分かってくれると思ってるわよ。」
カリンはウエイトレスの後に続いて楽屋へと歩いて行った。
舞台の上、赤い人影が立っている。もうすぐショーが始まる。
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次回の更新は22年4月7日12時です。
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