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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
第二章:アウスレイ
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地下会議

「皆、良く集まってくれた。」


 地下の広場に地下街の住人が集まっている。大人の姿もちらほらと見えるが、その殆どが五歳から十二歳ほどの子供ばかりだった。

 彼らはお立ち台を中心に集まっていた。その台の上に彼らのリーダー、ライガが立っている。


「まず、お前達に新しい仲間を紹介する。」


 そう言うとライガは台の直ぐ下にいるレインに手を伸ばした。


「ほら、上がって来い。」

「分かった。」


 皆に顔が見えるようにレインが立った所で、ライガがレインの肩を掴んだ。


「こいつは、」

「れ、レインさん!?」


 ライガがレインの名前を言おうとした瞬間にその名を叫ぶ者がいた。皆の注目が名前を叫んだ彼に集まる。

 自分の名を叫んだ者。レインはその顔に見覚えがあった。


「コーデウス!?お前何でここに!?」

「レインさんこそ、何で!?」


 彼はコーデウス。アウスレイに来る前にレインとカリンを助けた少年。レインとコーデウスはこの地下世界で奇跡的な再開を果たしたのだった。


「何だ?お前ら知り合いなのか?」

「ああ、この街に来る前に助けて貰ったんだ。」


 そうですと大声で同意するコーデウス。その豪勢な身形は、周りから浮いてるなあとレインは思った。


「それなら話が早いな。こいつはレイン。俺達の新しい仲間だ。」

「よろしく。」

「レインは魔道具技師らしいから、戦闘補助組の技能班の方に入って貰う。分かったか。」


 はーいと声が響く。


「それと、」


 ライガからまだ話があるようだ。


「作戦を実行することにした。」


 その言葉で辺りに緊張感が流れた。


「来月の祭りの日に行うと考えてよろしいでしょうか?」


 大人が一人手を上げて発言した。


「ああ、そう捉えて貰って問題ない。」


 すると、次は子供の集団からから声が上がった。


「しいれはどうする?」

「何時も通りの物を仕入れてくれ。何か必要なものがあったら伝える。」


 その質問を皮切りに次々と声が上がる。ライガはそれら全てを丁寧に答えて行った。

 やがて出切ったのか質問がなくなった頃、最後にと前置きをしてライガが口を開いた。


「これで全体の話は終わりだ。この後、班長とコディは奥の会議室に来てくれ。話がある。」


 では解散とのライガの宣言によって集まっていた住人たちは散り散りになって行った。残ったのは先程呼ばれた班長と思われる住人とコーデウスだけだった。


「じゃあ行くか。レインも来てくれ。」


 ライガは一行を引き連れて先程レインと話していた部屋に向かったのだが、


「あ、机壊したんだった。」


 会議室はライガが壊してしまった机の破片が広がる大惨事となっていた。

 取り合えず机の残骸を端の方に退かしたが、会議をする為の机が無い。


「僕たち取って来るね。」


 数人の子供が部屋を出て机を取りに行こうとしたので、


「いや、俺のを貸すよ。」


とレインが袋の中から一束の布を取り出した。

 何をやっているんだと周りが見ていると、レインが地面に布を広げだした。表面には魔方陣が描かれており、レインが布に触れると魔方陣が透明な光を放ち始めた。


「おお…」


 誰かの溜息が漏れる。

 布に描かれた魔方陣から何かが顔を出した。


「か、角。」


 それは角ばった木製の物体だった。

 レインがそれを掴んで引き摺り上げる。


「ふ、うんん!!」


 レインが顔を赤くする程、思いっきり力を入れた。光が一瞬強まり、ずるんと引き抜かれたその物体は、


「机だ。机が出て来た。」


大きな机だった。レインはぜえぜえと息を荒くしている。


「レイン?これは、今魔法で作ったのか?」


 ライガが困惑した顔でレインに問いかける。


「いや、取り出しただけだよ。」

「取り出したって…その魔方陣の中に仕舞ってたってのか?」


 意味が分かっていないライガにレインが、そうだと簡単に返した。


「…ふふっ」

「ライガさん?」

「ふははははは!!」


 突然笑い出したライガに班長達はどよめく。ライガは笑いながらレインの背中をばしばしと叩き始めた。


「なん、何だよ。」

「はははは!!お前は本っ当に俺を楽しませてくれるなあ、レイン!!」


 笑い終わったかと思えば納得したように頷き始める。


「ライガさん。何があったんですか?」


 ラスがぽかんとする住人たちの心の代弁をした。


「いや、珍しいもの好きのオーピッグが欲しがりそうだと思っただけさ。」


 ラスはそう言って近くの椅子に座った。その気ままに行動するライガの意図が周りの者にはさっぱり分からなかった。


「お前らも座れよ。」


 その言葉で皆は近くにあった椅子を持ってきて、レインの出した机を囲むように座った。


「みんな座ったな。よし、じゃあ作戦について詳しく話していく。まずは戦闘班」

「待ってくれ。」


 ライガの話をレインが遮った。


「その作戦ってのは何だ?そもそも俺はここのルールみたいなもの何も聞いていないぞ。」

「はあ!?ちょっとライガさん!!あれだけ長話していた癖に何も説明していないんですか?」


 レインが何も知らない。その事実にラスが激高した。


「ここに来た人には、この街の事とこの地下街の事全部説明しろって言ってますよね?」

「い、いや、この街の事は全部言ったぞ。」


 ライガが弱弱しく言い訳をする。


「それだけですよね?…はあ、レインさん。仕方がないので僕から説明させていただきます。」


 そうしてラスからの分かりやすい説明が入った。

 この地下街の住人は幾つかの班に分かれて活動している。大きく分けて商業班、技能班、仕入班、隠密班、戦闘班の五つに分かれている。それらの班は地下街の生活の運営を行いつつ、ある一つの目標に向けて動いている。それが、


「アウスレイ城の潜入作戦です。」


 その作戦の内容はシンプルだった。アウスレイ城に眠る至宝の数々。その中にあるアウスレイ家秘蔵の剣、ジェントル・タイガーアイを盗みだす。ただこれだけだった。

 しかし、それは簡単なことでは無かった。オーピッグが金に物を言わせて雇っている数多の衛兵、魔鉄鋼で作られた黒鉄の城、それを搔い潜っても宝物庫直前で待ち受けるレンディルオーピッグという化け物。


「俺もそこまでは行ったんだけどな。本調子じゃなかったからオーピッグは抜けられなかった。」


 ライガも一度失敗した潜入作戦。その成功を目指してライガはこの地下街で機を伺っているらしい。


「あれから十年、ようやく決行に移す時が来た。」


 ライガの目の奥に凄まじい復讐の雷が鳴り響く。対象でない周りの者も思わず震えあがる。


「それは、俺が奴を殺すと言ったのと関係があるのか。」


 ライガの目がレインを向く。二人の顔が強張る。


「あったら何だ?」

「もしそうだとしたら、出会ったばかりの俺の言葉で動く程度なんだって思うよ。」


 レインとライガの視線が重なる。


「調子悪いなんて言ってるが、本当にそれだけなのか?怖がってるだけじゃないのか?」


 レインが追い打ちの様に問いかける。それ以降レインもライガも何も言わない。その空気を直に受ける周りの者は額から汗が止まらなかった。


「で、どうなんだ?」

「関係無え、ってことは無えなあ。」


 そうライガが答えた。関係ないと言った瞬間レインの眉が少し動いた。


「流石に無え事は無え。ただ、タイミングが良かったのは確かだ。一月後に一年に一度の祭りがある。三日間続く祭りの最終日、奴は必ず城前で演説を行う。それが作戦を実行する絶好の機会となる。そのタイミングで同じ目標に向かうことが出来る奴が現れた。運命としか思えねえだろ?」


 ライガはレインの挑発に負けることなく答え切った。その言葉にレインの表情は、少し緩んだのだった。


「悪かったよ。試すようなことして。俺は聞きたいことが聞けたから十分だ。」


 和解した二人に周りの者の表情も落ち着いた。ラス以外は。


「もしライガが関係ないって言い切っていたら俺はお前に協力は出来なかったよ。カリンと二人で…カリン?」

「「「あ」」」


 レインとライガとラス、三人の声が重なった。


「「「それのこと忘れてたあ!!!」」」


 三人はレインの首に掛かったペンダントを指差して叫ぶのだった。

ご閲覧ありがとうございます。

次回の更新は22年4月1日12時です。

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