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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
第二章:アウスレイ
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観光終了

 二人が建物から出て来られたのはそれから約二時間後の事だった。


「はあ、ようやく出て来れた。」

「まさか今日がこの街の祝日だったとはね。」


 二人は歩道に設置されていたベンチに座り、項垂れていた。足元ではフーコが焼いた鶏肉を貪っている。


「フーコ、旨いか?」

「うおん!!」


 フーコは嬉しそうに飛び跳ねている。レインはフーコの頭を撫でる。


「結局フーコ用の食べ物しか買えなかったな。」

「でも、良かったじゃない。お店を出せるか確認して貰えるそうじゃない。」

「話だけでも聞いてもらえるものなんだな。」


 レインはこの建物で店を出すことが出来るか確認するため、人ごみに流されながらもなんとか受付まで辿り付いた。

 この賑わいだ。ダメもとではあったが受付で店を数日出したいと言った所、一応上の人間に確認をすると言われ、滞在証の番号とレインの出品する商品を渡すことが出来たのだった。


「後で連絡をするって言ってたけどそんな簡単に出来るものなんだろうか?この街でそんなことが。」

「どう連絡が来るか分からないけど、気長に待ちましょう。これからブティックに行くつもりだったけど、今日はもう遅いから明日にしましょ。」


 市場で時間を取られた為、日が暮れだしており、街は段々と赤く染まり始めていた。


「でも、この時間から取れる宿ってめちゃくちゃ安い所の様な気が。」

「何とかなるって!」



「全然空いてなかった。」


 今日がアウスレイの祭日と言うことを忘れていたカリン。手頃な宿はすべて埋まっており、後は雑魚寝のボロ宿か一般市民がまず止まらない高級宿しか空き部屋が無かったのだ。

 レインは一日だけだからボロ宿でも良いんじゃないかと提案したが、ここでカリンの我が儘が発動。雑魚寝は嫌だ。ベッドで寝たいと駄々を捏ねた為、レインは渋々高級宿に泊まることを了承したのだった。


「…一泊で俺の一日の稼ぎが消し飛んだぞ。」

「それも、あたしと半分で割った金額でね。」


 レインは自分の家計を記した手帳を見ている。


「カリン。明日はまず宿探しからやるぞ。」

「分かったわ。ふああ、じゃあおやすみ。」


 大きな欠伸をし、カリンはベッドに潜り込んだ。疲れていたのか直ぐに寝息が聞こえ始める。


「さてと、」


 レインは机に備え付けられた照明を点け、部屋の電気を消した。

 机の上に布を広げ、その上に小さな球を転がした。針を取り出し、球に細工を施していく。このレインの工作は深夜にまで及んだ。



 翌朝、カリンが食堂で朝食を食べている所に起きたてのレインがやってきた。


「お、はよ。」

「レイン遅いわよ。あたしは、ん、もう食べ終わったから。」


 カリンが残りの朝食を口に放り込んだ。


「アンタ、しっかりしなさいよ。今日は昨日よりも動くんだからね。」

「ん、分かった。」

「じゃあ、私は先に出て直ぐ向かいのお店にいるから、チェックアウトよろしくね。」


 カリンはレインに部屋の鍵を手渡し、食堂を出ていった。

 数十分後、宿の向かいの店に到着したレイン。どうやら土産物の店らしい。


「あ、レイン。こっちこっち。」


 店の奥でカリンが手を振っている。


「お待たせ。」

「ねえ、レイン。これ見てよ。」


 カリンが持っているのは二本の突起が生えている小さな箱だった。


「なんだそれ。」

「ここを回すと…」


 そう言ってカリンは箱の側面に付いているレバーを回し始めた。すると、二本の突起からぱちぱちと小さな雷が走った。


「うお!?雷魔法か?」

「エレキ箱って言うんだって。中で魔法を使わずに電気を作り出すんだって。」

「へえ、これ魔法じゃないのか。カガクって奴かもな。」


 カリンから箱を受け取ったレインがレバーを回し始めた。属性魔法の使えないレインは自分が雷を発生させていることに少しの高揚感を覚えた。


「あと、これ見て。ここを回すと光が出てくるの。細くなったり太くなったりするんだって。


 続いてカリンが持ってきたのは小さな筒状の道具だった。筒の一部を回すと中から光が漏れ、回す度合いによって光が強まったり弱まったりする。


「へえ、光石が中に入っているのか。」

「いいでしょ。買っちゃった。」

「え?面白いとは思うけど、要るかこれ。」

「良いでしょ、気に入ったんだから。」


 カリンは筒を自分のポーチに仕舞った。


「あと、これも買ったの。はいこれ。」


 カリンが何かをレインに手渡した。


「木製のペンダント?何に使うんだ?」


 レインが貰ったものは不思議な模様が彫られた木製のペンダントだった。よく見るとカリンも同じものを首に付けている。


「このペンダントの装飾を引っ張ると、ペアになっているペンダントが一度ずつ音を出すんだって。」

「さっきのよりは使えそうだな。ありがとうカリン。」


 レインは早速首に付ける。


「どういたしまして。じゃあ、行きましょうか。」


 そう言ってカリンはさっさと店を出て行ってしまった。


「え!おい、待ってくれ!」


 物色しようと商品を見ていたレインは出て行ったカリンを急いで追いかけて行った。



「いやあ、良い買い物したわ。」


 日も暮れ果て、二人に訪れた二日目のアウスレイの夜。新しく借りた宿に買い物を運び込んで満悦のカリン。


「カリン…買いすぎだろ。」


 逆にレインは疲れ切って倒れていた。それもその筈、部屋の端にはカリンが買った大量の服の箱が積み上げられており、それらを一日運んだレインの身体は疲労困憊となっていた。

 レインがシャワーを浴びて直ぐにでも寝ようとベッドから立ち上がった時、


コンコン


 部屋の扉が叩かれた。

 こんな時間に何の用だろうかとレインとカリンは見合わせ、偶々立っていたレインが部屋の扉を開いた。


「はい、何ですか。」

「夜分恐れ入ります。レインさん宛に手紙が届けられております。」


 宿の従業員がレインに一通の手紙を渡した。


「では、此方にサインを。」


 レインが管理用紙にサインをすると従業員は一礼をし、立ち去って行った。


「何だろう。これ。」

「レイン、読んでみてよ。」


 言われるままにレインは手紙を開き音読をする。


「えぇ、“レイン・マスべ殿 この度は出店の申し込み、誠にありがとうございます。貴方の商品を拝見させて頂いた所、とても興味深い代物でした。つきましては出店の件について幾つかご相談をさせて頂きたいので、次の蕾の日の夜、市場が終わった後に市場の建物前までお越し下さい。”ってことは。」

「出店できるってこと!?良かったじゃない!」

「ええと、次の蕾の日は…明日じゃないか!」

「じゃあ、明日は各自自由行動で良いわね。」

「ああ、これで俺の商品がこんな都会でも通じるか分かる!!」


 明日への希望を胸にその日は二人揃って早めに就寝したのだった。



 翌日の夜。レインは市場の会場に赴いていた。

 辺りは昼間の賑わいが嘘のように静まり返っていた。人の姿も疎らで、道に倒れ込む酔っ払いや小さい影が遠くに見える程度である。

 暗闇に紛れて見え難いが、会場前に何か人影が見える。近づいていくと相手もレインに気が付いたのか声を掛けて来た。


「こんばんは。レインさんですね。」

「はい、そうです。」

「私、市場の開催及び管理を行っているロット・バリガンです。外で話すのもなんですのでこの中で話しましょう。」


 そう言ってレインを建物の中へと促した。

 ロットとレインは薄っすらと明かりの点いた建物の中を歩いて行く。

 屋台が並んでいた所には厚い布が被せられており、騒がしかった屋台がいかにも準備中の様な状態で敷地内に放置されていた。


「レインさん。滞在証をお貸しいただけますか?」


 長い建物の中央辺りで止まったロットがそう言うのでレインは素直に滞在証を渡した。


「…確認しました。少し預からせてもらいます。」

「分かりました。」


 ロットはレインの滞在証を持っていたボードに挟めた。


「レインさん。貴方にお尋ねしたかったのはこの道具の事です。」


 ロットは胸ポケットから小さな道具を取り出した。それはレインが受付に渡した自作の魔法道具だった。」


「この道具はレインさんが作ったもので間違いないですね?」

「はい。そうです。」


 レインが答えるとロットはボードに何かを記入していく。


「あの、何か不味い事でもありましたか?」


 その反応に不安感を覚えたレイン。


「ああ!いえいえ、そうでは無いのですよ。」


 きっぱりと答えるロット。


「単刀直入に聞きます。この魔道具、紙には獣除けと書かれていますが、どうやって作られたのでしょうか?」


 ロットが突然そんなことをレインに問いかけた。レインにとっては生活に関わる事だったので余り答えたいものでは無かったが、信用してもらえるならと正直に答えた。


「えぇと、普通の笛に魔方陣を付けただけですよ。獣が嫌がる音と匂いを笛の音に混ぜて飛ばせるようにしてあります。」

「音と匂い?二つの事が出来る、と。…私は魔法が使えないのですが、この魔道具は何故か使えました。それは?」

「俺の魔成素を魔方陣に入れ込んであります。そうすると魔法が使えない人にも使ってもらえるので。」


 レインの言葉をボードに記した後、黙ってしまうロット。


「あの、ロットさん?」


 沈黙が続き声を掛けてしまったレイン。


「…しい」

「はい?」

「素晴らしいっ!!」


 ロットが建物内に響き渡るほどの大声を出した。


「素晴らしいですレインさん!!魔法が使えない人でも使うことが出来るようにするその技術。魔方陣に入れ込むという新たなる技法。こんな魔道具は二十年この市場を運営してきた私も殆ど見たことの無いものです。」

「本当ですか!ありがとうございます。」

「貴方がこの市場で店を出店する事、大いに賛成です。ですが、レインさん。確か出店の期間はたった二日ほどでしたね?」

「はい、そうです。」

「そこで私、というよりこの国からレインさん、貴方にご相談がございます。」

「え、国?提案?」


 いきなり出て来た国という単語、そしてその国が自分に相談があるという事実を飲み込めないレイン。


「はい!提案というのはですね、レインさん、貴方がこの国の国家魔術師にならないかという話です。」

「こっかまどうし?」


 余りに規模の大きい話に目を回すレイン。


「はい!貴方の素晴らしい技術をこの国、いやこの世界に広める為にもぜひ、ぜひご了承頂けませんか?」


 いきなり降って湧いた最高の提案。レインは直ぐにでも引き受けたかった。しかし、頭に浮かぶのは…


「素晴らしいご提案、ありがとうございます。ですが、」


 ロットの顔が固まる。


「お引き受けすることは出来ません。俺には…やるべき事があるので。」


 レインは言いたいことを言い切った。そして元々の話である出店の話に戻ろうとして…


「ロットさん、何で俺の滞在証を持っているんですか?」


ロットが自分の滞在証を手に持っていることに気が付いた。ロットの余りにも冷め切った顔。何かを感じ取った。


「やめ、」


バギバギ!!


 レインが制す間も無かった。ロットは素手でレインの滞在証を握りしめた。派手割れる音が鳴る。


「な、ぜ…」


 ロットの手からばらばらになった滞在証が落ちた。唖然とするレイン。


「これで、お前は不法入国者という訳だ。お前達コイツを囲め!!」


 ロットの掛け声とともに辺りに潜んでいた兵士達がレインを囲み始めた。槍の先端がレインに向けられている。


「何で!!何でこんなことを!?」

「連れて行け!!」



「レイン遅いわね。」


 カリンは帰らない同居人を待ち続けた。夜は、更けていく。

ご閲覧ありがとうございます。

次回の更新は22年3月26日12時です。

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