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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
第二章:アウスレイ
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アウスレイ観光

 料理を凄まじい速度で食べ進めた二人。口に残る後味を水で流し込み、二人同時にコップをテーブルの上に置いた。

 テーブルに置かれた皿の上には具材の一欠片すら残っていなかった。皿の模様が綺麗に見える。


「ねえ、この後ブティックに行きたいから、荷物持ちしてくれる?」


 唇をナプキンで拭いたカリンがそう話を切り出した。


「またかよ。まあ良いぞ。俺もついでに見ておきたい所があるからな。そこに寄りつつで良ければ。」

「アンタは何処に行きたいの?」

「屋台が並ぶ市場があるみたいなんだ。俺も二日ほど店を出したいからその下見と、フーコの飯もそこで用意出来たらなって。」


 名前を呼ばれて反応したのかレインの荷物袋の中からフーコの鳴き声が聞こえる。


「前から思ってたんだけど、そこにフーコを入れてフーコは苦しくないの?というか、やけに一杯ものが入っている気がするんだけど。」


 カリンはフーコが常に入っているレインの荷物袋に疑問を持っていた。袋の大きさはフーコと同じくらいなのだが、いつもレインの生活道具や売り物が中から次々に出てくるので、一体どういう細工をしているのか気になっていたのだ。


「それもやっぱり魔法なの?」

「そうと言えばそうなんだけど、無尽蔵に入るわけじゃないんだよ。めちゃくちゃ大きい布を袋に縫い付けて、魔方陣に物を入れ込む要領で少しずつ空間を広げて作る。布の大きさ以上は入らないんだよ。

「へー、分からないけど分かったわ。それ、あたしにも作ってくれない?これじゃあ邪魔だしあまり入らなくて。」


 カリンは自分の荷物を入れているリュックサックをぽんぽんと叩く。


「これ、作るのに凄い時間掛かるんだぞ。…まあ考えておくよ。」

「やった!」

「作るなんて言ってないだろ。」


 嬉しそうに荷物を背負い、立つカリン。


「じゃあ、市場に行ってからブティックに行って、その後で宿を探しましょうか。」


 そうして二人は会計を済ませる為にカウンターへと向かった。


「店員さん、お会計お願いします。」

「分かりました。滞在証を持ってお待ちください。」


 厨房の奥から店員の声が聞こえて来た。


((滞在証?))


 よく分からず首を傾げる二人だったが、受付で貰った掌大の滞在証を取り出して店員が来るのを待った。


「お待たせしました。滞在証お見せください。…ありがとうございます。五点で千八百ドラになります。」」

「あの、滞在証を見て何をしているんですか?」


 レインがお札を渡しつつ、店員に今の行動の真意を聞いた。


「ああ!お客さんこの街は初めてですね。この街では色々な事、買い物だったり施設を使ったりする時に滞在証の提示を義務化しているんですよ。何でも侵入者対策だって。」

「なるほど、分かりました。」


 お釣りを受け取って、二人は店を後にした。


「大きい街はしっかりしてるものなんだな。」

「そうみたいね。街の中の移動もあの馬車…じゃないわね。何々、風動車っていうので移動するみたい。」

「魔動車!?そんな珍しいものもあるのか。確かにこんな大きい街じゃ移動も大変だろうしな。ちょうど良いからあれに乗って行こう。」


 二人から少し離れた所に風動車と呼ばれている馬車の様な大きな乗り物が止まっていた。

 二人は風動車に乗り込むと、滞在証を運転手に見せてから席に着いた。

 ジリリとベルが鳴り、風動車のドアが閉まった。


「えっ!何?」


 カリンが驚く声を漏らした。なんと風動車がゆっくりと浮き始めた


「わあ…凄い。」


 空を飛ぶことが出来るカリンも声を漏らす壮大な景色。広大なアウスレイの街が眼下に広がる。巨大な城を中央に据え、その周りに広がる城下町。その規模感はもはや国そのものだった。


(だから眠らない国、か…)


 声には出さなかったがレインもこの景色に、初めて乗る風動車に感動しっぱなしだった。


「わっ!レイン、動き出した!!」


 風動車が向きを変えるために前方を動かし始めた。くるりと少し回転し、止まった。


「え、きゃあああ!!」


 いきなり速度を出して、斜め下に向かって進み始めた。その速度にカリンは叫び声を上げてしまったが、


「あれ?全然風が来ない。」


その速度とは裏腹に、乗客には一切風が当たらなかった。カリンの新鮮な反応に周りの乗客がくすくすと笑いだす。顔を赤らめるカリン。


「ねえ、レイン何で風が来ないの?」

「っはは、それはな前方から来る風をこの車が出す風の壁で相殺しているからだよ。」


 それを聞いてカリンは車の前方に薄っすらと透明な膜が出来ているのに気が付いた。

 そうしている間に風動車は目的地へと辿り着いていた。


「もう着いたの!?あたしより速いわよこの車。」


 他の人には若干伝わり難い例えをしているが、とにかくカリンが感動しているのがレインには伝わった。


「凄いだろこれ。こんなの見たら魔法の研究してみたくなるだろ。」

「それは、無い。」


 淡白に吐き捨ててカリンは先に行ってしまった。


「あ、そう。」

「レイン、置いて行くわよ。」


 若干がっかりしつつも、レインはカリンを追いかけた。


「ねえ、レイン。あの建物じゃない?」


 何時の間に持っていたのか、カリンが地図を見てそう言う。


「ああ、あれだ。あの中で市場が行われているらしい。」


 少し遠めでも分かる巨大な建物。そこへ向かって二人は歩いていく。


「にしてもこの街は何でも大きいわね。この街に住んでたら自分がちっぽけに思えそう。」

「そんなことないさ。少なくとも、カリンは結構大きいだろ。器。」

「え、そう?嬉しいこと言ってくれるじゃない。」

「頭がおかしくなる程不味い料理を食べても愛想をつかさないだろ?」

「なんか理由が嫌なんだけど。」


 カリンはげええと顔を顰めた。


「アンタは…ちょっと小さいかもね。器。」

「なんでだよ。」

「ふふっ嘘嘘。」


 そんな話をしていると、


「なんか人の数増えてきてない?」


 段々と道を歩く人の数が増えて来ていた。


「カリン、もっと近くに。」


 レインはそう言ってカリンを引き寄せる。

 その人の波はある一つの方向へと向かっていた。


「これもしかして、皆市場に向かってる!?」

「そうらしいな。」


 溢れかえる人の波が巨大な建物へと吸い込まれていく。二人はその流れに飲まれていった。

ご閲覧ありがとうございます。

次回の更新は22年3月24日12時です。

ツイッターをやっています。ぜひ見に来てください。

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