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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
第二章:アウスレイ
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二人の旅路

 夜、木々が鬱蒼と茂る山中に一つの明かりがあった。野営の為に建てられたテントが小さな焚火を囲んでいる。煙が天へと昇っていく。晴れていれば満点の星空なのだろうが、今日は生憎の曇り。曇天に焚火の煙が絡んでいく。


「やっぱり、アウスレイに行くべきだと思うの!」


 カリンの大声が夜の森に響き渡った。焚火の明かりはその無駄に真剣な表情を静かに照らしていた。


「カリン。野獣除けを敷いているからってそんなに大声を出すな。」


 大声を出したカリンをレインが制す。二人の足元には魔方陣の刺繍が施された布が敷いてある。辺りからは獣の遠吠え、梟の鳴き声、虫の輪唱が聞こえてくるが、彼らが二人の近くによって来ることは無い。


「それに言っただろ。直接王都に向かうから寄り道はなるべくしたく無いって。アウスレイなんか…見ろ、大分逸れてるだろ。」


 アウスレイには行かないことをレインは懐から地図を取り出してカリンに説明した。


「レインの言い分も分かる。あたしが言ってるのはただの我が儘じゃないの。」


 カリンは極めて冷静に話を進める。

 いつものカリンなら感情に任せて話す筈なのにこの落ち着きよう。これはよっぽど重要な話だと思い、レインは耳を傾けた。


「まず、今のあたし達には情報が無さすぎる。この国がどんな国なのか、何が起こっているのか全然知らないでしょ。」

「一応、この国に入る前にどんな国かは調べてはいるぞ。それに最近の情勢なんかもちょこちょこ聞いてはいるぞ。あまり良くは無いらしいが。」

「それはあたしも聞いてる。景気が悪いとか、各地で暴動が起きてるとか。じゃなくて、その情報も聞きかじりの薄い情報でしょ。実際に王都に着いて、聞いてた話と違うってなったら困るじゃない。自分で見るのが一番ってこと。」


 まあ分からない話でもないのでレインは黙って続きを聞くことにした。


「次にレイン、アンタまだ武器持って無いでしょ。」

「まあ、そうだが。でもそれは、」

「そう、アンタの刀が無くなったのはあたしのせいでもある。だから持ってないことを咎める積もりは無い。けど、それと武器を持たずに旅を続けるのは違うでしょ。」

「…確かに。」


 図星を付かれたレイン。


「それに、これからはあたしと一緒に戦う事が多くなるでしょ。あたしの魔法に焼かれる程度の武器を使っていくのもどうかと思うの。」

「はあ!!カリンの魔法に耐えられる金属なんて強魔鉄鋼か、グリム鋼しかないだろ!!刀に魔法を込める以上、魔成素の通りが悪い強魔鉄鋼なんか使えないが、グリム鋼なんて…いくらすると思ってるんだ!!この前カリンに飲ませたエイドヘッズ製の薬の倍はするぞ!!」

「この件に関してはあたしが悪いと思ってるからあたしに払わせて。それだけの蓄えくらいあるから。」

「え、い、いや別に全額なんて払わなくても…わ、わかった。刀は必ず買うから、せめて半額まででお願いします。」


 余りの金額の大きさに尻込みしたレイン。


(まあ、実際武器はいつか用意しなきゃとは思っていたし、自分で経験するってのにも一理は感じたからな。ここはカリンの提案に乗るか。)


 レインがアウスレイに行く事を許可しようと口を開こうとした時、


「そして最後。これが一番重要よ。」


 カリンがそう口にした。

 これまでの話も旅を続けていくにあたって割と重要な話だった筈なのに、カリンがそんなことを言うものだからレインもつい真剣に聞く体勢になってしまった。


「もう、」

「もう?」


 ごくりと生唾を飲む。


「もう、不味い料理は、食べたく、なああああああああい!!!!」


 なーい、なーい、なーい…

 カリンの声が闇夜の森に木霊した。


「…なんて?」


 その阿呆な内容をレインの脳は記録するのを拒んだ。


「もう、不味い料理は食べたくないの!!私たちミッシュを出てから何日になると思う?もう十日よ!!この十日間朝昼晩、来る日も来る日も肉肉肉肉!!焼いて塩振っただけの肉肉肉肉!!!焼き加減がばらばらで塩辛い肉肉肉肉!!!!もううんざりなのおおお!!!!」


 そう、これまでの二人の旅の中でレインが作った料理は野獣の肉を焼いて塩を振っただけの極限まで簡素な、料理とも呼べない代物だった。

 初日にカリンの料理の下手さが判明し、レインが代わりにこの塩肉を振舞った。初日はまだ良かった。カリンも簡素だとは思いつつも、自分が料理が出来ない以上文句は言わなかった。

 カリンがおかしいと思ったのは翌日の事だった。朝も昼も夜も前日に食べた塩肉しか出ない。それも血抜きがきちんと為されておらず、塩が極端に多い最悪な出来の物が。

 もちろんカリンは文句を言ったが、レインはそんなもんだろと一蹴。その日からクオリティの違う塩肉が毎日テーブルの上に並べられる。こんなにも美味しくないものを食べた事の無かったカリンは段々と精神が削られてきていた。


「なんでアンタはこんな精密なものを作れるのに料理が出来ないの?何で?ねえ何で?」


 カリン足元に敷かれた野獣除けを指差し、レインの肩を揺さぶった。


「お願い!!アウスレイに行かせて!!もう、エストボアとファストディアの食べ比べはしたく無いの!!美味しいものを食べさせて!!美味しいものを作れる人を仲間に加えてええ!!」


 カリンの悲痛な叫びがレインの耳に刺さる。

 肩を揺さぶられ、首を前後に揺らされているレインは親指を上げ、


「アウスレイ、いこう」


 そう言うしか出来なかった。

 かくして二人の旅の行き先は十日目にしてマギドラ王都から変更された。

 目的地はアウスレイ。欲望の都アウスレイ。この世の光と闇を体現するその街で何が起こるのか。それは神と悪魔だけが知っているのだった。

ご閲覧ありがとうございます。

今回から少し世界が広がる第二章が始まります。

次回の更新は22年3月20日12時更新です。

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