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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
第一章:ミッシュ
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二人旅立ち

「おらはこの耳でばっっっちり聞いた!真っ黒い姿をしたバケモンが自分が殺した死体が地下にあると言ってるのを!だからあいつ等は人殺しじゃねえ!!」


 これはマギドラ王国ミッシュで起きた幼児殺害事件における重要証言として記録されたものである。



 二人の一夜限りの決死の戦い。あれからもう一月が経とうとしていた。


「久しぶり。」

「あら、待っててくれたの?」


 病院の前。二人は数週間ぶりに顔を合わせた。


「うおん!」

「フーコも久しぶりね。あの時はありがと。」


 カリンはフーコの頭を撫でた。フーコは気持ちよさそうに目を細める。

 あの後、二人はフーコが連れて来た近隣の住民によって発見された。戦いが終わった安心感で気を失ってしまった二人はあまりに酷い怪我をしていた為、即座に病院へと運び込まれた。

 目を覚ました二人は事の顛末を全て話した。すると二人の証言通りに館で大量の死体が発見された。年代が違う死体がそれも、干からびてはいるが白骨化はしていない綺麗な状態で。

 同時期に町では混乱が起きていた。私の旦那が帰ってこない。俺の息子が、嫁が、親友が。何年も何十年も人が帰ってこないという通報が同時に相次いだ。まるで皆が夢から覚めたように。

 館で発見された死体と町で起きた混乱。それが無関係とは思えなかったミッシュ議会は通報者に死体を見て貰うことにした。やはりと言うべきか、死体はミッシュで行方不明になった住民で間違いなかった。それも、行方不明になった当時のままの姿で。

 レインとカリンは重要参考人ということで病院内に軟禁されることとなった。人の姿をした化け物が館の中で人の血を吸って生きていた。最初はそんな話を信じる者は居らず、二人は何度も何度も話を聞かれた。

 しかし、館から発見される証拠の数々。館の主が書き残したと思われる古びた日記。そこに書かれていた人殺しの告白と、町に掛けたという認識疎外の魔法。死体に付いた首元の傷と奇妙な死に様、そして実際に化け物を見たという証言。これらが二人の発言に信憑性を持たせていった。

 最終的にミッシュ議会はこの事件を館に住み着いた化け物の仕業だと公式に発表した。実際には百年間続いていた殺人なぞ、さっさと化け物の仕業にして片づけてしまいたかったのが本音ではあったが。

 そうして二人は晴れて自由の身となった。


「あの後、落ち着いて話せなかっただろ。少し歩かないか?」

「いいわよ。」


 そうして二人は病院の前から街中に向かって歩き出した。


「身体はもう大丈夫か?」

「ええ、もう全快…と言いたいけど、まだ羽が。」

「まだ痛むのか!?」

「いや、まだ羽が生え切って無くて、広げると剥げてるのが見えちゃうのよ。」

「なんだ。」

「なんだって何よ!こっちは死活問題なのよ!」

「はははっ!」

「……」

「……」


 一瞬の沈黙。


「アンタはこの一月何やってたのよ。」

「俺は専ら魔方陣制作をしてたよ。ちょっと新しいのを思いついたからさ。」

「はぁ、アンタは何時もそれね。」

「こればっかりは趣味だからしょうがない。」

「……」

「……」


 再び沈黙。


「び、病院のご飯、意外と美味しかったな。」

「そうね。」

「……」

「……」

「ねえ、レイン。」

「…なんだ?」

「アイツ…強かったね。」

「…」

「腕力じゃなくて、いやそれもあるけどもっと…心の強さみたいな。見えない所の強さがあった気がする。」

「分かるよ。」

「あたし…あんなに憎い奴なのに…あの時、アイツが立ち上がった瞬間、死んで欲しくないって…本気でそう思ったの。」


 カリンの目から悔しさが滲み出た。


「俺さ、思うんだよ。俺たちあの館から出られなくなっただろ?多分、アイツも出られなかったんじゃないかって。」

「え?」

「百年間も館から出てこなかったのは、出る気が無かったんじゃなくて出られなかった。館に来る人を襲わずにいられない代わりに自分が外に出られないようにした。こんなことを考えているとさ、ちょっと、格好いいなって。カリンと一緒だな。」

「…あたしは格好いいまで言ってない。」

「ん?そうだったか。」


 失敗したなと笑うレインの横顔にカリンは誰かの面影を感じた。


「カリン。俺、王都に行こうと思うんだ。」

「アイツの言うとおりに?」

「…うん。アイツが何を考えてこの町に居たのか。王都で何が待っているのか。気になるんだ。だから…」


 レインは屈託の無い笑顔で言った。


「カリンとはこの町でお別れだ。」

「…は?ちょっと、」

「あ、着いたぞ。」


 カリンが何かを言う前に二人はシルク亭に到着した。二人は示し合わせたわけではないが、足が勝手にシルク亭へと動いていた。


「すみません。」


 レインが宿の扉を開ける。


「ごめんなさい。今、お休みしてるんです。」


 奥から力の無い声が聞こえて来た。ぱたぱたと足音を鳴らしながら女将が顔を見せる。その顔は憔悴しきっており、あまりものを食べられていないのか頬がやつれている。

 女将は二人の顔を見た途端、


「帰ってください。」


女将の様子が変わった。


「帰って。帰って!帰って!!」


 自分の記憶との余りの違いにカリンは何も言えなくなってしまった。


「あんた達が、あんた達がここに来なければあの子は、あの子は…!!」


 膝から崩れ落ち、声を上げて泣き出した。

 レインは何も言わずに胸元から布袋を一つ取り出し、その場に置いた。


「お世話になりました。」


 そう言ってレインは一礼をし、宿を出たのだった。その後を追いかけるカリン。


「レ…レイン。」


 その時レインの足元に一粒の雫が落ちた。それを見たカリンの肌に冷たいものがぴちゃり。


「あ…雨。」


 ぽつぽつと雨が降り始めた。


「レイン、行くよ。」


 動こうとしないレインの手をカリンは引っ張っていく。

 雨が次第に強くなり始めた。


「ーーーーーーー」


 雨の音が辺りの音を搔き消すので、カリンは今だけは聞こえない振りをした。



「じゃあ、行くよ。」


 雨が降り止むのを待ってから二人はミッシュの門へと向かった。手荷物検査を受けた後、レインは別れの言葉を口にした。


「カリンとの旅、楽しかったよ。それじゃあ、またどこかで。」


 別れを淡白な言葉で飾り、レインは歩き出した。

 その時の横顔もカリンに誰かの面影を想起させた。

 遠くへ去り行く後ろ姿を眺め続ける。レインの姿が見えなくなってもカリンは暫く動かなかった。


「お姉ちゃん…」


 カリンは無意識にそう口にした。その時、カリンは思い出した。手を伸ばしても届かなくて、失って泣いた後悔の記憶を。その記憶がレインの横顔と重なった。


(このままレインを、一人にさせたくない。)


 カリンは衝動のまま飛び立った。

 景色が流れて行く。大空を翔る翼は流星のように輝く。下の方に人影が見えた。


「うおおおん。」

「フーコ、心配すんな。俺は大丈夫だから。」


 一人と一匹。ふと、彼らの上を影が通った。


「ねえ、お兄さん。」


 聞きなじみのある声。


「あたし、ちょうど王都まで用事があるの。こんな時、なんて声を掛けるべきかしら?」

「カリン!」


 空から紅い翼の鳥人が降りてくる。


「…だって、何が起こるか分からない旅だぞ。」

「アンタよりあたしの方が戦えるわよ。何があったってあたしは負けないから。」

「でも、カリンには関係の無い話で…」

「アンタ、あたしがあんな話聞いて何もせず黙ってるような腰抜けに見える?聞いたからにはあたしも関係あるのよ。」

「でも、でも、」

「はぁぁ、アンタね。あたしが行かない理由を探すんじゃなくて、アンタがどうしたいかを言いなさいよ。」

「うっ、ああ、ああああああ!!」


 レインは瞼を手の平で抑えた。間から涙が零れ落ちる。


「何、泣いてるのよ。」

「ああああ、い、」

「い?」

「一緒に来てくれないか!!」


 レインは嗚咽交じりにそう言った。


「…ええ、もちろん。」


 こんどはカリンが屈託の無い笑顔でそう言った。


「うおん!うおん!」


 フーコも喜びの声を上げる。


「そうと決まったら、何時までも泣いてないでさっさと行くわよ!!」


 カリンがレインの背中を押した。


「ほら、あたしに言うべきことあるんじゃない?」

「ぐすっ、翼の所、本当に剥げてた。」

「うるさいわね。そうだ、アンタ背中見せなさいよ背中。ちょっと気になることが。」


 こうして、一人と一匹にもう一人。三人の旅が始まるのだった。

ご閲覧ありがとうございます。

本日は一章エピローグの短い話が同時投稿されております。そちらもぜひご閲覧下さい。

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https://twitter.com/sskfuruse

追記:一部改稿しました。

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