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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
第一章:ミッシュ
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呪い3

「吹き飛べ、【ブレムズ・ドゥリ】!!」


 青年が叫んだ。領主に突き立てられた刀。その挿入口から光が溢れる。透き通る純白の光が。


(………まほうか。)

「……」


 意識が朦朧としていた領主はその光を見て、一瞬遅れて何をされているのかを理解した。言葉に出したつもりだったが、喉から空気が漏れる。

 領主は歪む意識の中である思いだけが強まっていくのを感じた。


(…この、男を、)


 領主の手がカリンの首から離れた。カリンの身体が地面に落ちる。

 領主は青年に手を伸ばし始めた。一瞬、視界がぶれた。


(…やつはいつ移動した?)


 何時の間にか自分に張り付いていた筈の青年が遠くの方に見える。

 レインは横たわるカリンに近寄って行き、何かを飲ませた。


(…いや、あの女。私は先程まであの女の前に…)


 ぼやけた意識が段々と覚醒していく。


(…魔法。そうだ魔法だ。もし、奴らではなく、私が魔法で移動させられていたら、ここは?)


 領主の意識は完全に覚醒した。同時に感じる強い痛み。


「がっあああああああああ!!」


 彼は今、焼かれていた。カリンの用意した炎の壁に。


(何故だ、なぜ動けない!?)


 領主の身体はゆっくりと少しずつ焼き尽くされていた。領主は壁から離れようと力を入れるが、一向に体が動かない。


(力が入っていない!?いや、違う!!ただ、動けない!!!)


 部屋に領主の叫び声が響く。領主は焼かれる苦しみに悶えて腕を、足を動かすが、身体は全く壁から離れようとしない。


(今の身体では、本当に、本当に死んでしまう!!!)

「があああああああああ!!!!」

(まだ、死ぬわけにはいかないのだ!!)


 領主がどれだけ藻掻こうとやはり彼の身体は言うことを聞いてはくれなかった。

 それからどれだけ経っただろうか。領主にとってはたった数秒にも、数年以上にも思える灼熱の苦しみ。

 すると、領主は何かを聞いた気がした。領主の耳ではない、感覚の中で何かが切れる音が聞こえたのだ。とたんに体が動き出し、壁から離れて地面を転がった。


「…カリン、気を付けろ。」

「…レイン、どうしたの?」

「奴がもう動き出せるようになった。」


 カリンに肩を貸していたレインがそう言った。


「そう…ならもう肩はいいわ、ありがと。」

「大丈夫か?あの薬、気休め程度にしかならないと思うが。」

「ううん、ばっちり効いたわ。それに…」


 遠くの方で領主の身体が地面に広がっている。元々の傷に加えての高熱のダメージは領主の身体に甚大な被害を与えていた。


「アイツと戦うときに肩組んだままでいられないでしょ。」


 カリンが力なく笑う。


「そうだな。」


 レインはその笑顔を見ていられなくなって目を逸らして答えた。


「!?カリン!!」


 レインが顔色を変える。カリンが前を見ると散らばった領主の身体がそれぞれ灰となり崩れ始め、光を放ち始めた。


「カリン!!炎は絶対に消すな!!」

「わかってる!!」


 二人は一言言葉を交わして身構えた。

 光が強まり、内側が露になった瞬間、破裂した。衝撃波と爆風を生み出しながら。

 衝撃波が二人を襲う。


「っレイン!?」


 カリンはその場にとどまったが、レインが吹き飛ばされた。


「俺は、大丈夫だ。」


 レインは後方の瓦礫の山に埋もれていた為、炎の壁に当たる事は無かった。

 ほっとしたカリンの鼻から一筋の鼻血が垂れる。それを雑に拭い去る。

 爆心地では赤黒い触手によって塊が形成され始めていた。

 蠢く触手が散らばった肉体から生え、大きな塊と接続する。


「カリン、今の内に準備を。」


 レインが声を掛ける。すると、カリンの近くに剣が落ちてくる。。レインが投げたのだろう。カリンはそれを拾った。

 カリンは胸の前で剣を交差させる。剣から光が放出され始めた。段々と熱を持ち始め、赤く染まり始めた。最初に領主に攻撃を入れた時と同じように。


(これでカリンは大丈夫か。後は…)


 レインは爆心地をた。

 数十秒前には無形の塊だった触手群は、既に人の形に変化して立ち終えた後だった。


(原型が無かった状態からもう、あれだけ再生し終えている。やはり、あの作戦は…)

“…小僧。”

 レインは話しかけられた。余りにも聞き覚えのある声にレインは思わず身構える。


「その声!?」


 掠れているが、強い威圧感のある声。間違いなく領主の声だった。領主の身体は依然、形を成している途中だというのに。


“…小僧、答えろ。”

「っ何だ!!」


 レインにとってはこの部屋の中で散々聞いた声だったが、自分に向かって話しかけられるとどうしても恐怖心が沸いた。しかし、悟られまいと精一杯の強気を込めて言葉を返す。


“…何時からだ?何時からお前はここに居た?”

「っ!最初からだ!!」

“…そうか。”


 領主の声が止む。同時に触手が足元から順々に消えだした。


「カリン、合図したら。」

「分かってる。」


 レインはカリンの返事を聞くと少しカリンから離れた。カリンは剣を頭上に構えだす。


“…端に寄せられた残骸も、炎の壁も、全部お前を隠す為の作戦だった、と言うことか。…素直に感心したよ。”


 再び領主の声が聞こえだす。レインはもう、それには答えなかった。


“…お陰で私はもうぎりぎりだよ。ぎりぎり意識は保っていられる。”


 領主の語りは続く。


“…ただ、意識だけなんだ。体はもう無理でね。すまないが加減が出来なくなる。…でも誇っていい。今まで戦った誰よりも君たちは強かったよ。戦いだけが取り柄のあいつよりも。”


 二人はじっと機会を伺う。

 領主の身体は殆どが姿を見せている。そして最後、顔の呪縛が解かれ始めた。


“…私も出来ることなら死んであげたいが、そうもいかない。やらねば成らん事があるのでね。だから、私が生きるために…”


 顔が露になった。青ざめた肌も、こけた頬も変わらない。ただ、唯一目を引く長い牙。元の顔には無かった要素が存在していた。

 長く、奇妙な形をした牙。邪魔なのか口が締まりきっていない。


「カリン!!やれ!!」


 レインの合図に合わせてカリンが剣を振るう。炎の斬撃が真っ直ぐと領主を襲う。領主は目を閉じたまま動かない。斬撃が直撃した。


「当たった…レイン!!」


 カリンがレインの方を見る。その顔はとても嬉しそうだった。しかし、レインは首を横に振った。


「え?」


 カリンが前を見る。床板を焼き尽くし、その下の土壌から舞い上がった土煙の奥に黒い影が見える。


「嘘…」


 土煙が晴れ、奥の光景が見える。カリンが見たのは、焼けた地面の上に直立し、体の中心の再生を終えた瞬間の領主の姿だった。

 領主が目を開く。その瞳は黒く濁りきっていた。

 辺りが静けさに包まれた。カリンの唾を飲む音がレインにまで聞こえる程の静寂。


“すま・・が、”

「何だ!」

「レイン!?どうしたの!?」


 レインは何処からか声を聴いた。カリンには聞こえていない声が何処からか。

 レインは辺りを見回した。しかし、レインとカリン、棒立ちの領主以外の姿は見えない。それなのにまた何処からか声が聞こえる。


“すまないが、”

(アイツの声。でも、何処から?)


 聞こえてくる声は、今日嫌という程聞いた領主の声。


“貴様らの血、彼らに吸わせてやってくれ。”

「ーーーーーーーーーーーーーーーッ」


 領主の姿をした何かが、吠えた。

ご閲覧ありがとうございます。

次回の更新は22年3月10日です。

ツイッターをやっています。ぜひフォローお願いします。

https://twitter.com/sskfuruse

追記:一部改稿しました。

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