発見
レインは階段を上がった。部屋の中は相変わらず酷い状態のまま。レインは足元の焼けて半分になった本を拾った。
(俺は廊下やこの部屋の状態から、カリンはこの部屋の奥に入って行ったと思った。)
レインは炭化した本棚と部屋の外を見た。
(でも、あの部屋にカリンは居なかった。と言うことは、全くの逆。カリンは炎を撒き散らしながら部屋の外に出て行った。だが、廊下で何者かと戦闘になった。)
手に持っていた本を捨て、レインは廊下に出た。床の焦げや壁の傷などをなぞる様に触れる。
(カリンがやった、と思われる焦げ跡以外に戦いの跡が殆ど見られない。血の跡も部屋の中には続いていなかった。もしもそこで…殺されたのなら何故死体は地下に置かれなかった?もしかして、いや多分、きっと…)
「カリンは生きてる。」
そう自分に言い聞かすように呟いてレインは歩き出し、隣の部屋の扉を開けた。
(カリンが生きてるならまだこの館に居るはずだ。出られないからな。)
レインは明かりを頼りに部屋の中の箪笥を開く。中は空で埃がたまっていた。
(俺の推測が合っているとしたら、あれだけの炎を出したのなら、きっとカリンは何処かで身を潜めているはずだ。)
レインはベッドの下を覗いたり、床や壁を叩いてみる。
(なら、俺が出来ることは一つだけだな。)
何も無いと判断したのか、レインは部屋の外に出た。
(コレをカリンに渡す。俺も覚悟を決めなきゃな。)
レインは剣を握りしめた。そうしてレインは次の部屋へと向かった。
次の部屋でも探せる所を全て調べる。それを繰り返し、廊下の最後の部屋、エントランス一番近くの部屋へと辿り着いた。その部屋でも前の部屋と同じように探してみるレインだったが、カリンが見つかることは無かった。
(まあ、そんなに近くの部屋には隠れないよな。次は二階でも探すか。)
そんなことを考えながら廊下に出て、木枠だけとなってしまった入り口を通ろうとした。しかし、レインは直ぐに体を引っ込めた。
(今二階に誰かいた!?)
ゆっくりと顔だけを出すレイン。今まさに向かおうとしていた二階にランタンを持って歩く人の姿が見えた。幸いにもその人物は背を向けていた為、レインに気が付く事は無かったが、レインからもランタンの光が影となっていた為、人物のぼんやりとしたシルエットしか確認できなかった。その人物はゆっくりと足を擦るように歩き、頭を下げて戸枠をくぐる様に奥の部屋へと入って行った。
(…カリンじゃない。背丈も歩き方も何から何まで全部違う。多分アイツだ、アイツがシン達を!!…落ち着け。今日はこんなのばっかりだな。一旦二階はやめだ。一階を先に探し切ろう。)
不安定な心を抑え、エントランスを挟んだ反対側の扉へと向かうレイン。二階の扉から先ほどの人物が出てこないか注意しながらエントランスを駆け抜けていく。レインは何事も無く扉に辿り着くことができ、扉のノブを握りしめた。
ネチャ…
不快な感触に思わず手を離してしまう。手を見ると何か赤黒いものが手の平に付着していた。
(鉄臭い!?何で血がこんな所に!?)
辺りを見渡すレイン。よく見ると扉以外にも地面にぽつぽつと血が滴った跡が見て取れた。先程は上ばかりを気にしていた為気が付かなかったようだが、血痕はひとつの血溜まりから続いているようだった。血溜まりに近づき、ランタンで照らしてみるレイン。何を思ったのか、レインは血溜まりに指を突っ込んだ。ゆっくりと引き抜かれるレインの指には一つの羽毛が摘ままれていた。
(これは、間違いない。カリンの羽だ。殆どが血に濡れているけれど、この光り方。あの時ベランダで見た輝きそのものだ。なら、この血の先に!)
レインは荷物袋から布巾を取り出し、手とノブに付いていた血を拭き取り、そのまま綺麗になったノブを引いて扉を開け、奥に続く廊下へと進んだ。
廊下はもう片方の廊下よりも月明りが入ってきており、ランタンの火に頼らずとも廊下の奥まで薄っすらとではあるが見通すことが出来た。床にはエントランスと同じく血痕が点々と続いていた。
レインは血溜まりを辿ってゆき、奥から一つ手前の部屋の前に辿り着いた。
(この部屋に居るのか?)
レインは軽くノックしてみるが、中から応答は無い。扉を開けようとしてみるが、中から鍵が掛けられているのかガチャガチャと音がするばかりで開く事は無かった。しかし、レインは一瞬だけ部屋の中から息を飲む音を聞いた気がした。
「っ!カリン!!そこに居るのか!?レインだ!!居るなら返事してくれ!!」
レインは扉を叩き、声を掛けるが、中からの返事が返ってこない。
(返事が無い…これは無理矢理にでも入ったほうが良いか。しかし、アイツにばれる可能性も高まる…)
レインがそう思案していると、部屋の中からガチャンと鍵の開く音が聞こえた。レインがノブを引くと、何も遮る事は無く扉は開いた。
「カリン!!!」
中に居たのはやはりカリンだった。カリンはその端正な顔を涙で赤く染めている。服の一部はズタズタに裂け、左肩からは血が流れ落ちていた。彼女はレインの顔を見ると、散々泣き腫らしたであろうその眼から再び涙を流し始めた。
「…何で、ここにいるのよ。ばかぁ…」
カリンはいつも強気だった彼女とは思えない程、弱弱しい声で泣き始めたのだった。
「落ち着いたか?」
「うん、ありがと。」
一度部屋の外に出たレインは再び部屋に戻り、しゃがみ込んでいたカリンに声を掛けた。カリンはか細い声で返事をし、手に持った瓶の中の液体を一口だけ口に含んだ。
「これエイドヘッズ製の治療薬でしょ。こんな高級品、使っちゃって本当に良かったの?」
傷ついていたカリンの肩には手に持っている瓶の中と同じ色の液体が塗られており、血が流れた跡は残っていたが傷そのものは見る影も無くなっていた。
「ああ、こういう時の為に一つ、買っておいただけだからな。良いんだよ。それよりも…地下の…見たか?」
「…見た。」
地下の事について話そうとするレインだったが、カリンは一言答えたきり口を噤んでしまう。
「思い出したくないなら良いんだ。俺もあまり考えたくはないから。でも、」
レインは袋からカリンの剣を取り出し、手渡した。
「これ、あたしの剣…」
「あの部屋の前で見つけた。俺達は今、この館に閉じ込められている。外に出るには多分、館の中を徘徊している奴。この館の主を…殺さないといけないと思う。」
その言葉にカリンは目を見開いた。
「殺すって…アイツと戦うって言うの!?」
「そうだ。だから、アイツは何なのか、あの部屋で何があったのか。カリンが何と戦ったのか。俺に教えて欲しいんだ!」
レインの雰囲気に押されたカリンは顔を手で覆ってしまった。それからしばらく部屋の中に静寂が流れた。
(一足飛ばしに言い過ぎたかな。)
そうレインが反省していると、
「…地下室で何があったのかは分からないけど、あの男の事なら、話せる。でも、聞いたら戦う気も失せると思う。」
「!それでいい!頼む教えてくれ!」
そうしてカリンはぽつぽつと自分の身にあったことを話し始めた。
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次回の更新は22年2月26日0時更新です。
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追記:一部改稿しました。




