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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
第一章:ミッシュ
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異変

今回から話が動き出します。

 翌日、雲一つない青空。すこぶる天気が良い為、ショーバーに歩いて向かっていたカリンは、飲み屋街でシンとその友達であろう数人の子供に出会った。


「あっ、姉ちゃん。」

「シン、と友達?アンタらこんな所で何やってんの?子供だけで来るところじゃないわよ。」

「そんな所に昨日連れてきたのは姉ちゃんだろ。…おれな、今日でもう冒険、止めるつもりなんだ。」


 笑顔でそう言ったシンにカリンは驚きを隠せなかった。


「そ、そりゃあ昨日あんなこと言ったけど、なにも今すぐにやめろって言ったわけじゃないのよ。」


 焦ったようなカリンの様子にシンはゆっくりと首を横に振り、


「いいんだ。姉ちゃんの昨日の踊りや言葉がなんか、こう、ずっと心に残ってる?気がするんだ。だから今日で冒険は一旦おしまい。次にするのは俺が自分で身に着けた力で自分の冒険をする時だよ!」

「…そう、なら良いわ。なんかちょっぴり大人になったんじゃないの?」

「へへっありがと。それで今日は今まで行った場所を回ってるんだ。」


 なー、と周りの友達にシンが声を掛けると他の六人は大きい声で返事をした。シンはカリンにあそこに行って、ここに行ってとこれから行くであろう場所を一つ一つ手に持った木刀で指しながら話した。


「で、最後に今まで行けなかった。街のはずれのお屋敷に行こうって。」

「あのボロ屋敷に?アンタ達勇気あるわね。日が暮れる前には帰ってくるのよ。」


 はーいと全員が返事をし、通りを駆け抜けていった。危ないから走るなと注意をしたカリンは、知り合いの成長を嬉しく思い、ふと笑みが零れるのだった。



 レインは退屈な時間を過ごしていた。

 レインはこの日、ミッシュでの最後の商売を終え、鍛冶屋へ依頼をしていた刀を受け取りに行った。思ったよりも時間が掛かってしまい、日はすっかり暮れてしまった。店を出ると丁度懇意にしていた露天商達と偶然出くわし、近くの飲み屋へ一緒に行くことになった。しかし、カリンとの約束があった為、レインだけが酒に酔えず、周りがはっちゃける中一人だけ素面のまま暇を持て余していたのだった。


「なあ、兄ちゃん、。俺あ寂しいよ。ぐすっ」


 酔って泣き上戸と化した隣の店の店主がダルがらみをし始めた。


「寂しいって、たった二週間いただけじゃないですか。」

「でもよお、だっで兄ちゃんがどなりだから…(?)」

「意味わかんないですよ…ってああ!」


 隣の店主はそれだけ言って、倒れ込み、眠ってしまった。その時にテーブルの上の物と床に置いてある荷物をなぎ倒し、飲み物をレインの荷物の上に零してしまった。


「ちょっと!すみません!拭くものくれませんか?」


 レインは店員から布巾を受け取り、床と自分の荷物を拭き始めた。

 床にはレインの荷物袋から飛び出した物が幾つか散乱し、それらは全て床に広がった酒に浸されていた。


「もう、全部びしゃびしゃだよ。この日記まで…貰い物なのに。」


 濡れてしまったものの中に、宿屋の女将から貰った古い日記が混ざっていた。本の表紙は濡れており、中身は無事かとレインはペラペラとページを捲った。


「最初の方は結構濡れちゃってるな。中の方は大丈夫そうだな。ん?」


 中身を確認していたレインは少し違和感を感じた。


「おかしい。このページ、中身が分かる。こっちも、こっちも。」


 最初の方は文字がにじんでおり、終盤は依然と変わらず何故か読めないページが続いていたが、中盤のページの一部のみ以前とは違い読めるようになっていたのだった。


(ええと、『マギ歴百三十五年』今から九十九年前か…『新しい王様が誕生したらしい。この町にも領主殿が来られた。この領主殿はたいそう羽振りがよく、孫の代まで残してやれそうな程のお金をうちの宿にも落としてくれた。この町の発展が楽しみだ。』)


 レインが日記の読むことが出来る箇所を読み進めていくと、百年ほど前のミッシュの状況が見えてきた。


(『お金を持つ人が増え、町が裕福になって来た。喜ばしい限りだ。』『領主殿は毎日町はずれの大きなお屋敷でパーティをしているそうだ。』ずいぶんと良い暮らしをしているな。次はちょっとページが飛んでいるな。『マギ歴百四十四年 領主殿が屋敷から出てこなくなった。取り巻きも最近町で見かけない。何かあったのだろうか。』『お屋敷にいった隣人も帰ってこない。首都の方でも暴動が起こっていると聞いた。一体何が起こっている?』『行方不明者が段々と増えている。この町は呪われてしまったのだろうか。次は自分の番じゃないかと不安になる。』)


 幸せな状況から一転、急に様子が変わった日記の内容にレインはすこしばかり緊張を覚えた。その後の内容を知ろうとページを捲っていくが、それからは再び読めない文字が続いていた。やがて日記を読み終わろうという頃、マギ歴百五十四年の年号と共にとある文が書かれていた。


『…そういえば今日ふと目について思い出したのだが、町はずれのあの大きな屋敷は何なのだろうか。』


 レインはその一文を目にした時、つい勢いよく立ち上がってしまった。


「お、お客様?どうかされましたか?」

「…すみません。帰ります。」


 過剰な金額を店員に渡し、レインは足早に店を出るのだった。



「カリンちゃん!」

「どうしたんですか?」


 夜、宿に帰ったカリンに大慌てで女将が近寄って来た。


「あ、あ、あの、シン、シンのこと知らない?」

「シン君がどうかしたんですか!?」

「い、いつもならお昼には帰ってくるのにま、まだ帰って来なくて。とな、隣の奥さんに聞いたら隣の子もまだ帰ってないって。」

「まだ帰ってこないって、いつもならもう寝てる時間なのに!?」


 女将は現状を説明するうちにだんだんと過呼吸気味になって行った。


「だか、だから、」

「女将さん!落ち着いてください!…私お昼頃一度会いました。」

「!?どこ、どこで!?」

「飲み屋街のあたりです。今日は今まで行った所に行くと言ってました。」

「それだけ!?それならすぐに帰ってくるはずでしょ!!」


 ヒートアップする女将に言われて思い当たる節がないか考えてみる。


「と言っても…あ、そうだ」

「何!?」

「町はずれの大きいお屋敷に行くと言ってました。あの古いお屋敷に。」


 それを言ったとたん、女将の様子が変わり始めた。


「屋敷?町はずれの屋敷?あ、ああ、あああ!!駄目っ!!あそこには行けない!!でも、シンが、でも!!

「どうしたんですか!?あのお屋敷に何が!?」

「あそこは入っちゃだめで、何人も居なくなって。祖父も旦那も…何でこんな事忘れて…でも行けない!行っちゃだめだから!ああああ…」


 頭を掻きむしり、床にうずくまり泣きはらす女将。流石にその状態の女将をカリンは放っておけるわけも無く、


「…あたしが行ってきます。」

「!?でもあそこは…」

「大丈夫です。腕っぷしには自信がありますから。」


 そう言ってカリンは剣以外の大きな荷物をすべて預け、腕の翼を大きく広げた。


「必ずシン君を連れて帰ってきますよ。」

「お、お願い、します。」


 その声を聴き、カリンは空へと羽ばたいた。

ご閲覧ありがとうございます。

次回の更新は22年2月20日0時です。

追記:一部改稿しました。

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