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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
第一章:ミッシュ
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ミッシュでの日々4

 翌日、三回目のレインの店の営業日。

 レインが一週間掛けて商品を作り上げた甲斐があり、前回よりも多くの客が押し寄せていた。


「なあこの前の獣避け、まだあるか?」

「ええ、一月用と一年用がありますが…」

「セレイト夫人が買っていたあの木の小物。一体どれかしら。」

「あれは掃除用の道具です。部屋の中で…」

「嫁さんにプレゼントしてやりたいんだが良いものないか?」

「これなんてどうでしょう。この取っ手を回せば音楽が…」


 入れ替わり立ち代わり客がレインに質問をし続ける。レインはそれに一つずつ丁寧に返していく。


「いやあ良い買い物した。おやっさんの言う通りだな。」


 一人の客がふとそんなことを呟いた。


「おやっさん?誰かしらんが噂でも流れてるのか?」

「おやっさんはこの露店の取締役だよ。あの店は珍しいもの売ってるってあちこちで言ってるんだよ。」


 それを聞いた、レインは露店を始めた初日に、一人の男に魔道具を手渡したのを思い出した。


(何が帰ってくるか分からんもんだな。)


 運命の不思議さをレインが実感していると、


「あら、本当に繁盛してるじゃない。」


上空から聞きなれた声が聞こえてきた。


「カリン、また来たのか…って今日は一人じゃないのか。」


 レインが上を向くと、空を飛ぶカリンが居た。羽ばたくたびに輝きを放つ彼女は一人では無く、同行者の少女はカリンの鳥の様な足で掴まれており、まるでカリンの獲物のような状態だった。


「…食べるのか?」

「そんな訳ないでしょ!ただの友達よ。昨日出会ったの。」


 宙ぶらりんの少女はレインに軽く会釈をした。少し恥ずかしいのかその顔は赤く染まっている。

 何時の間にか空を飛ぶカリンは周囲の人間の注目を集めていた。どうやら鳥人種が珍しいようで、どんどん人が集まってくる。


「おーいカリン!お前のせいで人が集まりすぎてる。」

「ええ!?そんなに珍しくも無いでしょ鳥人くらい。」

「ここの人たちからしたらそうでも無いんだろ。」


 不機嫌そうな顔をしつつもやはり居心地が悪いのか、すぐに飛び去り、豆粒のように小さくなっていった。

 カリンを見送ったレインは少し呆けていた。すぐに辺りを見渡すと、周りの客も同じようにぼんやりとしていた。彼らに向けてレインが声を掛ける。


「…さあ、お客さん!」



「ほらシン、お土産だ。」

「え!?やったー!!」


 木刀を握りしめたシンがバタバタと部屋を走り回った。


「こら!走り回らないの!あの、ありがとうございます。」

「良いんですよ。今日は結構稼げましたし、それが売ってる店にも用があったんで。」


 その言葉を聞いて、先に食事を始めていたカリンが手を止めた。


「そんな武器が売ってる店に用なんかあったの。確か剣みたいなの持ってなかったっけ。」

「うーん、そうなんだけどな。どこかに消えちゃったんだよ。」


 頭に手を当てて考えこむレイン。


「森の中に置いてきちゃったんじゃないの?間抜けねえ。」


 悩むレインをカリンが煽った。


「うーん、まあそう言うことで新しいのを注文してきたんだよ。特殊な形状だから時間がかかるみたいだけど。」


 丁度帰る日の前日だったかなと言いつつ、席に座る。先ほどまで走り回っていたシンが近づいてくる。


「ねえ兄ちゃん剣使えるんでしょ!教えて教えて!」


 剣の使い方を教えてとせがむシン。女将はこらと注意をしたが、レインは笑って了承した。シンは喜び、走って自分の部屋に入っていった。


「良いんですか?あなたもお仕事で疲れてるでしょうに。」

「これくらい良いですよ。まあ魔法の媒体にするくらいにしか使わないですし、そもそもそんなに剣術は上手くないんですけどね。」


 そう言ってレインは自虐的に笑った。


「これであの子の冒険心が少しでも治まればいいんだけど。」


 レインとカリンはむしろ逆効果なんじゃとも思い、目くばせをしたが、女将はその様子には気が付かず、話を続けていた。


「だってねえ、うちの家系は皆魔法が使えないから旅をするにしたってやっぱり不安があるし、それにどれだけ外に出たいと言ってもこの町から出て暮らすわけにはいかないし。」


 レインは女将のその言い分に少し違和感を感じた。


「別にこの町から出て他の町で暮らすくらいなら良いんじゃないですか?絶対にこの町で暮らさなきゃいけない訳でもないでしょうし。」

「…そうよね。この町に居なきゃいけない訳じゃないわよね。」


 女将はそう言うと黙りこくってしまった。カリンは変なこと言うなとでも言いたげな視線を送っている。


「ま、まあわが子に危険なことをして欲しくないって言うのは、親としておかしい事では無いと思いますけどね。」


 女将はそうよねと言いつつ、厨房へ入って行った。すると、カリンがレインに小声で文句を言い始めた。


「ちょっと、ああいうときはそうですねって言うのよ。そのせいで変な空気になっちゃったじゃない。」

「ごめんって。つい口から出ちゃったんだよ。」

「全くもう。でも分かるわ。この町の人たち結構そういうところあるもの。外からの情報に弱いと言うか、なーんか町の外に出たがらないというか。」


 そう言うとカリンは食べ終わった後の食器を厨房に持って行った。部屋の中からご馳走様でしたと言う声が聞こえた後、カリンが部屋から出てきた。


「そうだ、次の目的地、アンタもアウスレイでしょ。」

「そうだけど、どうした急に。」

「いや、確認しただけ。この町に居るのもあと四日だけだから気になって。」


 カリンはそれだけ言って二階の自分の部屋に帰って行った。


(俺も明後日にむけて用意しないとな。)


 食堂に一人残ったレインは、皿に残った料理を一気に描きこんだ。

ご閲覧ありがとうございます。

次回の更新は22年2月16日0時です。

追記:一部改稿しました。

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