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箱庭のテイル  作者: 佐々木奮勢
4章:ブランターヌ
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遊技場にて

「だ、大丈夫ですかお客様?」


 館に備え付きの便所にて朝食を吐き出し切ったレイン。つい数日前にも似たような出来事があったな、と達観にも似た静かな心持ちで遊技場内へと舞い戻ったレインに遊技場の係員が心配そうに声を掛けた。。


「ええ、まあ少しマシに……。」


 具合の優れないレインの元にルルイドが天井から降りて来た。彼は白塗りの顔面でも分かる程の申し訳なさを全身から醸し出していた。


「申し訳ありませんお客様。その……こんなにも弱いとは露知らず。」

「うう……むしろ他の客は平気なのが不思議ですよ……。」


 グロッキー状態のレインがその場で項垂れていると上の方から甲高い笑い声が聞こえてくる。


「あはははは!!見なさいロビー、あれは遊技場も楽しめない可哀そうな男の姿よ。」

「ぐっ……カリンの奴!!」


 レインはぎりぎり残った力を振り絞り声の主を見やるが、やはりと言うべきかカリンがこちらを見て笑い声を上げていた。


「か、カリンさん……僕ももう、きついです……。」

「さ、ロビー、そろそろ始まるわよ!!」

「え!?ちょ、」


 レインが文句を言う間もなく鉄そりは走り出して行った。カリンの隣に青ざめて寧ろ白い顔で呻くロビーがいた気がするが……気のせいだろう。


「くそ、本当にあいつは性格が……。」

「愉快なお仲間ですね。……さて、鉄そりが無理となるとそれ以上のレベルの遊具も無理そうですね。」


 あれよりもまだ怖い遊具があるのか、レインはその事実に得も知れぬ恐怖を感じた。


「では子供用の優しい遊具は如何ですか?さ、こちらへ。」


 ルルイドはレインの肩を掴み、先程と同じ様にふわりと浮き上がり移動を始めた。

 鉄そりや回転する謎の遊具など無骨な見た目の遊具群を超えて二人は少し離れたポップな見た目の遊具群の傍に降り立った。


「これが遊具?」


 レインは間近にあった謎の遊具に触れた。見た目も触感も紛うことなき真綿。ふわふわと沈む触感の物体がふわふわと浮かんでいて見た目はまるで雲だった。


「ええ、乗ってみて下さい。見た目よりも遥かに頑丈ですし、動きますが歩く程度の速度しか出ませんよ。」


 それを聞いてレインは綿に腰を掛けた。綿はずむりと沈んだ。レインの身体を柔らかく、それでいてしっかりと包み込んだ。


「おお……!!確かに見た目よりもしっかりしているな。」


 レインは綿雲の乗り心地の良さに荒ぶった三半規管が静まっていくのを全身で感じていた。

 そんな夢心地のレインを乗せた綿雲はゆっくりと動き出した。その揺れがまた心地良く、レインは静かに瞼を閉じた。


「お気に召しましたか。ではごゆっくり楽しんでください。」


 ルルイドはそう言って天井に飛び去って行ったが、既に夢の中に旅立ってしまったレインは気が付かなかった。


(やっぱり不思議な魔法だ。浮遊する物体に安定した移動……御伽噺に出てくるカミサマの奇跡の様だ。)


 レインは夢現の中、どうしても魔法について考え込んでしまう。その時、


「うあんっ!!」


直ぐ近くから甲高い獣の鳴き声が響いた。


「ん?どうしたフーコ?腹でも減ったか。」


 荷物袋から這い出たフーコがレインの膝上に座っている。飯が食いたいと言い気なその視線に気が付いたレインは、彼を抱えると綿雲の上から跳ね降りた。


「他の遊具を見る前に昼飯でも食べるか。」

「うおん!!」


 そうしてレインは館の案内図を頼りにカフェスペースへ向かった。

 道中に辺りの遊具を軽く見ながら自分でも平気そうな遊具を探すレイン。しかし、殆どが大きく、早く動くものばかり。

 げんなりとしたレインは取り合えず昼食の事を考えようとカフェスペースへ向かう足を速めた。


「あ。」


 カフェスペースに近づいたレインから何かに気が付いたような間抜けな声が出た。昼時だというのに人の少ないカフェスペースに見知った二人を見かけたからだ。


「おうレイン。お前らも昼飯か。」


 赤色の麺で口元を染めたライガがレインに気が付いたようだ。その隣にはご飯を前に座りつくすプルディラも居た。


「ちょっと休憩の休憩がてらにね。」

「なんだそれ。そうだ丁度いいし、プルディラに飯食わせてやってくれよ。今気づいたんだが、俺の命令じゃ食えないっぽい。」


 プルディラは口元を涎で湿らせながら目の前の昼食を凝視しているが、置かれた匙には汚れ一つ付いていない。


「そうか!!……ごめんよプルディラ、失念してた。食べろ。」


 レインの命令を聞いたプルディラは待ってましたとばかりに目の前の飯をかっ食らった。その勢いでプルディラの顔はソースの油塗れに。


「はは、良い食べっぷりだな。」

「そうか……俺以外に任せるのも難しいのか。」


 ばくばくと食べ進めるプルディラを見て親の様な静かに笑うライガ。それとは対照的に自分の言葉でしか行動できないプルディラをどう扱っていけば良いのか、新たな悩みの種に頭を痛めていた。


「おいおい、こんな楽しい所でそんな顔するもんじゃねえぞ。なあ店員さん!!こいつらにも同じもん頼む!!」


 奥の屋台の店員が了承のサムズアップを見せる。


「ちょっと待ってろよ。それで、あの遊具の事は分かったのか?」

「んん……まあ大体は。」

「お、レインにしてはえらく自信なさげだな。お前の事だから直ぐに解析し終えて、なんなら改良案まで出しちまうと思ってたよ。」

「いや、それはしたんだが……」


 レインはルルイドと交わした約束の内容を語った。


「ほお、なかなか粋な男だな。にしてもお前がそんなあしらわれ方をするなんて、よっぽどあの道化のおっさんは魔道具に対する知識が豊富なんだな。」

「いやいや、そうとも限らないぞ。」


 ライガの言葉に負け惜しみと取れるような返事をするレイン。ライガは揶揄うようににやりと笑みを浮かべた。


「何だぁ?悔しがってんじゃねえぞ。」

「そういうんじゃねえよ。ルルイドさんがその分野において俺よりも造詣が深いってだけだよ。」


 レインは当然とばかりに話すが、魔道具のコミュニティ事情を全く知らないライガはその発言に疑問を持った。


「分野?魔道具に分野があるのか?」

「当然だろ。人によって使える属性が異なるんだ。それだけでも専門家は八種類はいる。その上得意な形の魔法や対象にする顧客なんかでも専門分野は変わってくる。俺みたいに属性魔法は使えないけど魔法道具だけは作れる人間なんて普通は存在しないからな。魔道具技師は基本的に専門の魔道具だけを作るんだって覚えておいてくれ。」


 レインは至極真面目に魔道具業界の事情を語るが、そもそも魔道具という分野に触れて生きてこなかったライガには余り刺さらなかったようだ。そんなもんか、とライガは首を傾げた。


「だから俺が分からない魔法だとしても、ルルイドさんが独自に研究した結果の産物の可能性があるから一概にその一要素だけで知識の差は図れないんだよ。」

「分かった分かった。レインも結局根っこの所は負けず嫌いだもんな。」


 ライガが嬉しそうに呆れた。


「何だよ分かったように。」

「分かってんだよ。お前が考える事なんてな。だから……。」


 ライガはレインの肩を組んだ。がっしりと、体格差を感じる。


「ここからは楽しむ時間だぞ。余計なあれこれなんて考えないでさ。」

「……。」


 見透かされているようで癪ではあったが、確かに余裕が無かったのも事実だ。レインはわしゃわしゃと揉まれながらそう思った。


「……仕方ない。あの魔法の秘密を知る為だ。存分に楽しんでやるよ。」


 そう言ってレインは立ち上がった。カフェスペースに向かう途中で見つけた気になる遊具へ向かう為に。


「お待たせ致しました!!こちらご注文のパンインチーズバイロン焼です!!」


 その時レインの目の前に皿が置かれた。見るだけで胃もたれを起こしそうなエネルギッシュな料理を乗せた皿が。

 注文を忘れて綺麗に出鼻を挫かれたレインが皿を置いた張本人に目を向けると、彼はサービス精神ましましでサムズアップを決めて見せた。


「……頂きます。」

「では約束通りお教えいたしましょう。」


 その後レインは心を入れ替えて遊具を楽しんだ。

 低年齢層向けの緩やかな遊具を主に乗り、偶に激しい遊具に乗って目を回す。

 レインは多少自棄気味になっていた所もある。しかし、その甲斐あってか傍目には楽しそうに見えたらしい。

 分かれて楽しんでいた一同が集まり、早いけどそろそろ馬車乗り場に向かおうなんて話しているその場に白塗りのルルイドが降りて来た。


「満足してくれましたか。」

「普通は此方の台詞なんですがね。私は満足しましたよ。お客様の楽し気な姿に。」


 ルルイドはそれが心底嬉しいようで白塗りの上からでも分かる程の笑顔を見せる。


「それであの遊具は何で浮いているんですか。」


 もらえるヒントは一つだけ。レインは唯一見抜けなかった浮かぶ遊具の秘密を問うた。


「やはりそれですか。いいでしょう。ヒントは……、」


 ルルイドは一つ間を開けて一言、こう言ったのだった。


「この手紙です。」

ご閲覧いただきありがとうございます!!短くてすみません!!

次回の更新は1月12日の12時です。

Twitterでも更新の告知をしているのでぜひフォローお願いします。

https://twitter.com/sskfuruse

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