喧嘩別れ
「マスヤマさん、どうしてそこまで?」
『まぁそう思うでしょうね、んじゃディノスさん、この飴をなめてみてください。』
素直に口に入れるディノス、特に変わった気はしない。
「美味しい飴だとは思いますけど……」
『ではこのナイフで指先を突いて血を出してもらえますか?』
「はあ……こんな感じで?」
『指先の傷は治ってませんか?』
「え?」
指先の血を拭うと……傷が無い。
「これは?」
『リンジーの治癒を飴に付与してみました。そしてこっちが純粋に魔力だけを付与した物です。これをシンさんに…』
シンが飴を口に入れるとシンの身体がぼうっと光る。
『気分は悪くありませんか?』
「はい、むしろ気力が充実しているように想えます。」
『不思議ですね。ただの光付与しただけなのに。』
「え?だってさっき……」
『ええ、ディノスさんの飴には治癒を、シンさんの飴には光を付与しました。あなた方は最初にディノスさんの治癒を見てこの飴は本物だと信じ、おいらの言葉を鵜呑みにしました。これがプラシーボ効果です。』
「マスヤマさん……聖女が嘘を言うのは……」
『言ってませんよ?おいらは「純粋に魔力を」付与したと言いました。純粋に光の魔力を付与してますから嘘ではありませんね?』
「言いたい事は判りました、ではこれで何がしたいのかです。」
『ダンジョンの奥で瀕死の重傷を負って魔物を倒した。だけどこのままでは死んでしまう。その時身体が光れば見付けやすいと思いませんか?それに気力が萎えて無くなったのでないなら助けが間に合う可能性も出て来ます。この飴をレスキューキャンディとして冒険者に1個ずつ持ってもらうと救出が楽になると思いますよ。』
……なんでみんなびっくりした目で見てるん?
「ああ言ってるけどリンジーが儲けにならない事かんがえるとは思えないんだ。」
「でも司祭様、今の説明はマスヤマさんですぞ?」
「たぶんマスヤマさんはあまり欲はないですよ。リッチが落としたイエローダイヤ3個と聖骨杖と鎌なんですけど自分は魔石とイエローダイヤ1個であと我々にくれようとしましたし。」
「ああそうか……どうしてもリンジーと同じに見る癖が付いてるんだな……私もまだまだ修行不足か……いや、まだ可能性は残っている!マスヤマさん!そのキャンディいくらで売るんですか?」
『冒険者ギルドの窓口にでも置いといてもらえたらいいなと。』
「あれはリンジーの偽物です!」
「司祭様、しっかり。あれはエインヘリヤル・マスヤマですよ。」
「あの……オスカー司祭、聖女様とマスヤマさん喧嘩してますけど……」
『だから高くしたら誰も持ってかないだろうが!』
「面白キャンディとして祭で売れるわ!売れば大金持ちよ!」
『儲けたいならやればいい、おいらは手伝わん。』
「人体使用料取るわよ?」
『おし払おう、ただし金輪際助けん。ゴブリンかオークの苗床になればいい。』
「ふっ……あたしの身体を使ってる以上レシピは探れ……あら?」
『ホレ今までの分のイエローダイヤ、記憶はロックした。後おいらは見てるだけだから勝手にしろ~。』
「え……ちょっとこらマスヤマ!何我儘言ってんのよ?」
「リンジー、今のはあなたが悪いですよ。」
「え……でも……」
「神に仕える聖女が言っていいセリフではありませんね。マスヤマさんは冒険者の命を護ろうとあの飴を開発しその為に未知の方法を示した。これは聖人であってもなかなかできる事ではありません。これは理解してますか?」
「はい……」
「では明日もう一度このダンジョンに潜ります。我々も付いていきますがあなたの力でダンジョンをクリアしてください。マスヤマさんもよろしいですか?」
“オスカー、無駄です。エインヘリヤル・マスヤマは冥界に旅立ちました。”
「ええっ?では明日までに新しいエインヘリヤルを……」
“無理を言わないでください。マスヤマはあなたを一人前の聖女にするために不自由な身体で頑張っていたのですよ?あの条件であなたのエインヘリヤルをしてくれる英霊は居ません。シン、弓を探せなくてすまなかった。アーニャ、その杖でクソ女を聖女にしてやってくれ。カトー、美味いもの食べにいきたかった。ディノス、次は遅れないでやってくれ。オスカー、こいつの守銭奴振りをもう少し抑えなきゃ聖女は無理だ。それが彼のエインヘリヤルの最後の言葉です。”
「フレイヤ様、彼は本当に逝ってしまったのですか?」
“エインヘリヤルがその務めから離脱する方法は2つ、守護対象が心から疎んじた時とエインヘリヤルが守護対象を見限った時です。今回はどちらなのでしょうか?”
「どちらか判れば帰って来てくれると?」
“それは難しいでしょう、前者では帰ってきたところで冷遇されるのは解ってますし後者では別れられてせいせいしてると思いますよ。リンジー、わたくしは貴女を甘やかせ過ぎたかも知れませんね。アマテラスの巫女は着実に聖女の道を歩んで居ますよ。”
「彼女のエインヘリヤルは帝国英雄ですか?」
“違います、彼女にエインヘリヤルは居ません。彼女は帝国英雄を手本として自ら学んで居ます。守護戦士は貴女の特権になるはずでした。”
「それを自ら投げ捨てたんだなぁ。」
「ちょっとシン!」
「我は仕えるべきお方を間違えたのではござるまいか?」
「カトーさんも!本人目の前にして言うことじゃ無いでしょ!」
「いや、致命的なデメリットが1つ有る。マスヤマさんは前線もこなせるインファイターでもあったが故に君たちもかなり楽ができたはずなんだ。」
「聖女様は攻撃魔法の特性有りませんからねぇ。」
「え?でも死霊退散や悪霊浄化を付与させてましたよ?」
「シンくん……それは多分マスヤマさんがブーストさせてたんだ。彼女自体の魔力は低い。」
「地域治癒なんかも?」
「この子では単発の治癒が精一杯でしょう。」
オスカー司祭がこのダンジョンを彼女に勧めた理由がシンとアーニャにも理解できた。
彼女はまだまだ成長が足りないのだ。
エインヘリヤルが去った理由もわからなくはなかった。
彼が居ると彼女は成長できないから……
間に合った……
{いやまぁ1時間残したのは褒めたるが……}
ん?
{増山居なくしてどうすんじゃ!}
お前女神が本当の事言ってると思うのか?
{増山まだ居るんか?}
居らんぞ?三途の川でフェリー待ってるはず
{だからどういう事だと聞いてんねんけど?}
来週辺り元気に出てくるかなと。