涼太のSK
「じゃあ、お時間いただき申し訳ございませんが、智子さんとあなたたちは私と一緒に来てくれませんか?」
荒波さんはどうして呼ばれたのかわけがわからない智子さんを、
同じ疑問を携えている、将司暴走時に一緒に室内にいたSK調査課の人たちの車に乗せてもらって、一緒にSK対策課のあるSK機関のビルへ向かった。
行きと同じく彼女が運転する。
まぁ、正確には帰りは分身体が運転したのだが。
本体は後部座席にて寝ている悠馬の隣でパソコンで報告書を作成している。
(この能力も便利だよなー。)
俺は助手席から運転している荒波さんの分身体を見ながら、まだ知らない自分の能力に期待を膨らませて対策課へと帰っている最中、俺はふと疑問に思ったことを荒波さんに尋ねてみる。
「そういえば、何で将司が犯人ってわかったんですか?
いくらSKを隠し持っているからってそれだけで犯人とは断言できないですよね?」
俺みたいに急にSKに目覚める場合もあるため、
SK持っていることを報告していない=犯人
とは断言できないはずだ。
「あぁ、それは元からあの住宅街、機関の方に目をつけられていたらしいの。あの辺りの住人で毒の密売人がいるって。
その中に未発見の毒物もあったからSKによる生成物の可能性が高いと踏んでたらしいのよ。
で、そんな住宅街で毒殺事件が起こったなら毒のSK持ちが関わってる可能性が高いってわけ。」
「でも、それって密売人から毒物を購入したってパターンもありますよね?」
そう伝えると、荒波さんはパソコンから俺に視線を移し、
「大丈夫よ。
もしその場合は謝ってから涼太に誤魔化してもらうから。
まぁ、犯人見つけられたし結果オーライってことで!」
と笑顔で告げてくる。
いや、結果オーライって、それで誤認逮捕したらそれこそどうするんですか...
「だから、主任には内緒ね、この話。
もちろんわかってますよね?」
...ハイ...
あの視線には逆らいません...
俺は誤魔化すように流れていく外の景色に目を向け、眺めた。
「ただいまー!」
SK対策課へ帰ってくると、悠馬は自分の席である、俺の左隣の椅子に座った。俺もつられて自分の椅子に座る。
「悠馬、刄、おかえりなさい。」
帰ってきた俺たちに気づいたのか、槙田さんは今まで目を向けていた書類を机の引き出しにしまい、俺たち2人へ視線を向けた。
ちなみに荒波さんはSK対策課へ戻る前に、先にSK機関の上層部の人に今回の事件について直接報告しに行っているため別行動だ。
俺たちが席に着くと、扉から俺たちと同じ制服に身を包む茶髪ショートの男性が、智子さんと先程の調査課の人たちと共にやってきた。
見た目的には多分大学生くらいの年齢だろう。
「初めまして、刄さん!
俺は仲里 涼太と言います。
よろしくっ!」
智子さんたちを先導してやって来た男性は俺がSK対策課にいることに気づくと、俺の方へ握手を求めるように右手を差し出してきた。俺も挨拶をしながら右手を出すと、涼太が握手してくる。
「よろしくっ!涼太!
...って、呼び捨てでも大丈夫?」
「大丈夫ですよ!
じゃあ、俺も刄って呼んでもいいですか?」
「おうっ。もちろんっ!」
俺が呼び捨てでいいか確認すると、涼太はニッコリと笑いながら自身も呼び捨てで呼んでもいいか確認してきた。俺が笑顔で了承すると、涼太は握手してた手を離した。
「あのー、私たちはどうすればいいのでしょうか?」
一通り自己紹介が終わった頃、後ろにいた智子さんがか細い声で俺たちに対して当然の質問をする。
智子さんの顔からは不安が満ち溢れている。
そして、それは隣にいたSK調査課の人たちも同様だった。
俺もどうして連れて来たのかサッパリ分からないので、俺に聞かれても困る...
「じゃあ、涼太、いつものよろしくー!」
「オッケー、悠馬!
じゃあ、1人ずつ順番にやります。
先にSK調査課の人たちからやりますね。」
悠馬がゆったりと椅子に腰掛けたまま涼太へお願いすると、涼太はSK調査課の人の頭を両手で強く包んだ。
1秒、2秒、3秒...
15秒くらい経ってから、
「もういいですよー!
ご協力ありがとうございました!」
たったそれだけのことをしてから、涼太はSK調査課の人を帰らせた。
たったそれだけのことをして。
えっ...
今、何したの!?
何が起こったのか、全然理解できない。
さっきまでと違いフラフラと足元がおぼつかない様子以外、SK調査課の人に変化が見られないし...
戸惑う俺をよそに、その後も涼太は他の調査課の人たちと智子さんにも同様の行為を行ってから帰らせた。
智子さんにも先程のフラフラとしている点以外、特に外見上の変化は見られなかった。
「さっきは何をしたんだ、涼太?」
智子さんを送り届けてきてからSK対策課へ帰ってきた涼太に対して、俺はさっきの行動がさっぱりわからなかったので、正直に尋ねることにした。
「2人の記憶を消してたんだよ。」
隣でダラダラしながら俺の話を聞いていた悠馬が、相変わらずダラダラした態度のまま、答えようとする涼太よりも早く答えた。